さぁ撃鉄を起こせ、銃爪を弾け。
憎しみと絶望を込めた銃弾は貴様の願いを果たすだろう。
一時だけの願いを。
メグリの遺品を手に、ゲヘナ学園に戻れた頃には日を跨いでいた。
作業場の扉を潜ると、そこは無人。
作業の痕跡すら無い。
(予想が外れたか……)
そう思ったのも束の間。
作業台の上には、完全に破壊された銃器のような物が鎮座していた。
残骸とはいえ、私には見覚えしかない。
ーーXGWS-15/EMC。
私が試作していた対装甲目標用の携行型複合加速砲だ。
それが何故此処に?
(……大破しているけれど……使われた形跡もある)
この砲は長射程と重戦車の装甲を貫徹する威力を持たせる為に、“多薬室砲”、”
故に砲身寿命が極端に短く、数回の射撃で砲身の交換が必要。
そして、目の前にある残骸の砲身は黒く炭化していた。
明らかに限界出力で射撃を行なった証拠。
故に思い付く、一つの確信。
私を一度殺した得物はコレだろう。
(……なら、誰が持ち出した?)
作業場最奥の金庫に封印処理を施した上で格納していた筈であり、鍵を持つ人物も私以外には1人しかいない。
そしてその1人は風紀委員会の長。
あの人から奪えるとは到底思えない。
ならば……私の方が奪われた?
(仮に奪えた所で併用された暗証番号の解読は出来ない筈……いや、解読されたから此処に現物があるわけだし……)
誰だ?
誰が持ち出せた?
答えの出ない問い。
考えるだけ無駄な事。
ただ、事実を受け入れるしかない。
ロッカーを開放し、予備の作業着を着る。
中身全てを持ち出す。
やるべき事は決まっている。
勿論、ソレを遂行すれば私の
だが、私の生に意味などあるのか?
(おそらくだが)名を持たぬ少女を犯し抜いてた末に出来た欠陥品が私であり、故に金持ちの部品にすらなり得なかった。
只々“部品”を作る為の“装置”として生かされ、何度も死に、それでも死にきれない“呪い”を背負わされた存在。
祝福など無く、憎悪と侮蔑と劣情しか与えられない忌み子。
“輪廻 ハユハ”という“個体”に
価値無き“個体”は価値ある“個体”の
即ち、無価値な私に
……余計な事をしでかした無能な屑をブチ殺す義務が。
“XGWS-15/EMC”の残骸を予備のMPUに収め、背負う。
どうせ無価値な個体に戻るなら、証拠は残さない方がいい。
私一人が消えただけで瓦解するような組織でもね。
数十分後ーー
万魔殿のとある事務室に着く。
扉を開けーー
「やはり生きていたか」
出迎えたのは、理知的な少女。
ーー花輪 イリヤ。
現在の万魔殿内でもそれなりの地位にいる3年生でありーー私が思い付く限りの、今回の主犯。
「……」
無言で“ルニコ・フィナーレ”を向ける。
「何の真似だ?」
両手を上げつつ紡がれる言葉は当然の疑問。
だが、理解していない筈が無い。
「言わないと分かりませんか?」
怒りを抑え、努めて冷静に言葉を紡ぐ。
仮にも年長者だし、この女が私達を殺ったという確証も無い。
「……そういう事か。ならば私を殺しても意味は無いぞ?」
「分かっていますよ」
政治屋という連中は、一般人が看破できる程度のボロは出さないし、強引に揉み消す術を持っている。
花輪もそういう人種であり、私のような“雑種”など意識を向ける価値すら無いノイズだろう。
「私が知りたい情報も分かっている筈では?」
「貴様を殺し損ねた奴の事か。知ってどうする?殺すのか?」
「言う必要があるとでも?」
指が銃爪に掛かりそうになる。
無駄に時間を掛けさせるな、とはやる心。
ここで銃爪を弾いては、コイツの思う壺だ。
冷静になれ。機会を窺え。
「無いだろうな。だが、私とて万魔殿に席を置く存在。身内を気にする情くらいはある」
……尚も花輪の白々しい発言は続く。
何が身内だ。
「風紀委員会の稼働率を下げる行為に意味があるとでも?」
ただでさえ年中問題児のバーゲンセール会場のゲヘナ自治区に於いて、治安維持組織が過労死しかけるのは当然。
その稼働率を下支えする整備要員の疲労は言わずもがな。
「それも無いだろうな」
自嘲気味に花輪は言い切る。
「組織を維持する以上、暴力装置の維持は必要だ。その点に関して言えば貴様への処遇は間違いだと言える。……そこでだ、輪廻 ハユハ。一つ提案がある。まずは銃口を下ろしてくれ」
「内容次第です」
クソみたいな提案なら、今度こそ銃爪を引く。
「強情な奴だな。……とはいえ、警戒心が強いのは良い事だ。やってほしい事は単純。貴様を射殺しようとした女子生徒を排除してくれ。手段は問わん」
……少しはマトモな提案か。汚い思惑も見え隠れするが。
「身内の不始末すら他者頼みですか?」
例えば、他力本願な所とか。
「奴は万魔殿の情報をSVRWに流していた。貴様とてゲヘナとレッドウィンターの関係くらいは分かるな?本来ならば早々に処分を下して然るべきではあるが、仮にも奴は勤勉かつ一般生徒の人心を掌握していた。そのような者を処分した時、己の感情に正直なゲヘナ学園生はどうすると思う?」
「十中八九、万魔殿を標的とした暴動が起こるでしょうね。……故に万魔殿に慢性的な恨みを持つ風紀委員会の私怨という形にしたい、という事?」
そうすれば所詮は下部組織である風紀委員会を切り捨てて終わり。
清々しいまでのマッチポンプ。
「少し違うな。先程述べた通り、風紀委員会は抑止力として必要不可欠だ。とはいえ、件の裏切り者が“輪廻 ハユハ”という風紀委員会の一員を殺したのだ。……つまり、貴様が裏切り者を処理したとしてもそれは死人に生徒が殺された事になる。超常現象として処理出来るだろう?」
死人扱いとなった者が関わるなら、確かにどうとでも処理出来る。
行政の考え方としては妥当な線と言えるか。
「……意図は理解した。対価は?」
「利益か……。ならば、貴様の“転校”手続きをしよう。このご時世、最終学歴が中学校卒業ではマトモな職に就けまい」
「死人に学歴が関係あるとでも?」
鼻で嗤い、自虐を込めて言い放つ。
どうせ塵以下の命だ、屑共の肉便器に戻るだけ。
壊れた精神で“神様”を呪うだけ。
だがーー
「……どの道選択肢は無いから引き受けますがね」
堕ちるなら、最下層まで堕ちてやる。
「そうか。既に手続きは済んでいる。……では、良き狩りを」
花輪が言い切ると共に、届くスマートフォンの通知。
裏切り者の情報だろう。
「それはどうも」
投げやり気味に答え、事務室を退出する。
さて……(この学園での)最後の
送られてきたメールを頼りに、指示された自治区郊外に向かうと、目的の裏切り者がいた。
彼女はこちらに気が付き、目を見開く。
「嘘でしょ……?なんで生きーー」
既には動いていた。
「ーーあぐっ!?」
疾走の勢いを乗せた膝蹴りを腹に打ち込み、怯ませる。
唾液と血反吐が飛び散り、一瞬の硬直。
充分な隙。
ホルスターから右手が“ルニコ・フィナーレ”を抜く。
照準。
発砲。
左膝に鮮血の華が咲く。
反動で跳ねた銃口の先には右膝。
発砲。
両膝が砕かれ、倒れ伏す裏切り者。
空中で身体を捻り、無防備な首筋に向けて肘を落とす。
アスファルトにクモの巣状の亀裂を作り、体躯がワンバウンド。
着地と同時に顎を蹴り上げ、右肩に向けて照準修正。
発砲。
続けて左腕に向けて照準修正。
発砲。
MPU展開。
12ゲージ
照準は裏切り者の土手っ腹。
鉄の弾雨が四肢を潰された肉体を穿つ。
その間に、右手の“ルニコ・フィナーレ”のシリンダーを開放。
エジェクターロッドが空薬莢を吐き出す。
腰部に巻いていたベルトから6発の.454アズール弾を纏めたクリップを弾き出し、装填。
大きく銃本体を振り、フレーム内に戻しつつ、地面に倒れた裏切り者の四肢を踏み躙る。
念入りに筋繊維と骨を磨り潰し、完全に断裂させる。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ーーっ!!!?」
苦悶の絶叫が木霊し、広がるは鮮血の池。
「さてーー」
“CCWS”の弾倉を予備に交換。
MPU内に戻し、空いた手を裏切り者の首に掛けて持ち上げる。
“ルニコ・フィナーレ”の銃口はソイツの額へ。
「ーー誰の差し金?」
殺す前に聞く事がある。
どうせ答えは得られないとは思っているが、果たしてーー
「なん…で……なんで……ごふっ…!生き…てるのよ!?胴体…吹っ飛ば……したのよ!!死ぬでしょ普通!?」
吐血混じりに吐き出された答えは、命乞いですらない……ただの現実逃避。
聞く価値すら無い戯言。
まぁ、いいか。
首謀者の検討は付く。
「確かに、普通の生徒なら死んでる」
裏切り者の問いに答える必要は無い。
「普通……なら……?どーー」
発砲。
鮮血が舞い、裏切り者の額に風穴が開く。
首を掴んでいた手を離し、倒れ伏す少女に向けて再度発砲。
1発。
2発。
3発。
4発。
着弾の度に血と肉片が舞い踊り、衝撃で肢体が痙攣する。
シリンダー開放。
熱を帯びた空薬莢が落ち、反響音を響かせる。
再装填。
シリンダー閉鎖。
ホルスターに戻す。
かつてヒトであった事が判別できない程に損壊し、鉄と肉が混ざった肉塊だけが足元に転がる。
勿論、二度と動く事は無い。
殺した。
ただそれだけ。
呆気無い。
怒りに任せてバラ撒いた弾薬費分の価値すら無かった。
測ったかのように、懐に収めていたスマートフォンが鳴動する。
相手は花輪だろう。
「排除完了」
応答しつつ、周囲を見回す。
『ご苦労』
短い応答の刹那ーー
MPUを振るう。
飛来した何かが弾かれ、金属音を響かせる。
やはり私“も”消すつもりだったか。
遮蔽物に身を隠し、MPUから.45口径短機関銃“IMP-45”を抜き出す。
『流石に2度目は無かったか。流石はスラム育ち』
「やはり黒幕はお前か」
予想通りの展開。
おそらくだが、私の射程内に奴はいない。
奴の息が掛かった万魔殿一般役員だけだろう。
『いくら荒んだゲヘナとはいえ、貴様のようなスラム育ちが存在を許される場所ではない。害虫駆除は管理者の責務だ』
私の思案などいざ知らず、花輪の憎たらしいご講説が続く。
雑踏は聞こえない。
勿論、僅かな息遣いも。
(白兵戦では仕掛けてこない?)
なら狙撃手……は無いか。
先刻の銃弾がソレだ。種が割れた手段は警戒される。
つまりーー
(面制圧!)
ならば退避は間に合わない。
『ーーだが安心したまえ。転校処理そのものは履行しよう。……殉職届も添える事になるだろうがな』
私の想定を肯定するように、一帯は“耕された”ーー
ーー目を覚ます。
視界に映る星無き夜空。
(夢、か……こんな時に……)
アイツの名前、声を久々に聞いたせいか。
忌まわしい過去の記憶、忘れもしない、今の私を創り上げた記憶。
「……シャリー。対象に動きは?」
『無いわ。静かなものよ』
「そう」
短く答え、軽く身動ぎする。
眠気は飛んだ。
節々の痛みは許容範囲内。
大丈夫……これぐらいなら戦える。
MPU、最終チェック。
全兵装異常無し。
立ち上がる。
『……始めるのね、女郎』
『戦争ヵ?』
確認するように話す、2基のAI。
「……最後の仕事を始めよう」
諭すように返し、私は走り出す。
過去の遺恨は今日限り。
さぁ消し飛ばそう。脅威足り得る全てを。
ーー以上、第13話でした。
これにて過去編終了。
次回から現代に時間軸は戻ります。
……さて、ハユハを射殺した“XGWS-15/EMC”は元ネタ含めてオリジナルの重火器。
と、言うのも元ネタは“AA PB15MF-Ael”だからです。
ここでアレかと分かる方は真面目に僕の作品を読んでた方ですね。ありがとうございます。
アレの最大出力を土手っ腹にブチ込まれりゃ、キヴォトス人でも死にますよ。
……ですが、コレでもアリスの専用武器(エンジニア部のおふざけ)以下という設定もあります。
では、今回もこの辺で終わりです。
拝読ありがとうございましたーー