※この作品はR-18です。

凡人の在り方-Alternative-   作:空薬莢

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ーー絶望の果てに何があるか?

ーー希望か?

ーー違う。希望など幻想だ。

ーー絶望の果てにあるものはただ一つ。

ーー虚無だけだ。





虚無と義務背負いし忌み子

 

 

「なぁ、次の任務地は“キヴォトス”だったよな?」

「あぁ。そうだな」

目の前で馬鹿話をし始める同僚に、呆れを込めて吐き捨てる。

ーーキヴォトス。

何処だったかの神話に出てくる言葉ではなく、実在する未探査地区。

過去にそこへ出向いた一人の“教師”がいたらしいが、戻って来る事は無かったらしい。

では、何故そんな所に俺達ーー国際統合軍ーーが赴くのかと言えば、探査の為の露払い。

要するに学者様のお守りである。

アイツらは探究心にかまけて安全を無視するからな……。

「噂じゃ、男は機械しかいねぇらしいじゃねぇか」

「らしいな。それがどうした?」

事前資料として配られた前回の探査報告書にはそう記述されていた。

普通に我が目を疑ったさ。

「加えて在住の女は未成年の美少女ばっかりだって噂もあるんだ。楽園じゃねぇか!」

ついでに言えば、目の前の馬鹿が吐いた事実の方にもな。

学園都市と言えど、大人は必要不可欠な筈であり、大人(役)が機械だけでは教育に偏りが出る。

身も蓋も無い言い方をすれば、学園である必要が無い。無理やり脳味噌に情報を捩じ込んでやれば良いからだ。

そして、そこまでするならば試験管培養児でも良いし、生体機械でも良い。

……環境保護団体がブチ切れそうな結論だな。

とはいえ、それは一旦脇に置きーー

「婦女暴行は戦犯扱いになるぞ」

ーー馬鹿の愚行(未遂)を止めなくては。

「連れねぇなぁ。バレなきゃ裁かれねぇ。それに……相手はガキだ。最近のガキはそこらのデリヘルなんざ目じゃねぇような肢体なんだぜ?自然と俺のビッグマグナムがコッキングしちまうよ」

「その汚ぇコリブリをしまえ。臭い息を吐くな。そんなんだからナンパに失敗するんだ」

「ああ”っ!?誰のイチモツがコリブリだって?萎えてようとガバ(45)位はあるわ!」

「その発言がアウトだ。五芒星に消されたいのか?」

 

 

 

ーー聴くに堪えない会話の応酬に傍受を止める。

(今度の侵犯者も屑ばかりか……)

警告は必要そうに無い。

手に内に収まる狙撃砲の銃把を握り直し、スコープを覗く。

照準線に重なるのは、装輪輸送車の車列。

会話の傍受先だ。

息を吸う。

止める。

発砲。

視界が一瞬だけ青白く染まり、肩を叩く莫大な反動。

色を取り戻す頃にはーー

(弾着。効果有り)

ーー先頭の輸送車が粉々になっている。

照準修整。

発砲。

最後尾の輸送車を破壊。

「フロナ、迫撃弾を投射」

『了解。さぁ地獄を作ろうか♪』

停車した車列に数多の砲弾が降り注ぎ、爆轟と狼煙が上がる。

(……これで第一陣は潰したか……?)

後は航空戦力と機甲戦力だろう。

「シャリー、エイル。他に敵対勢力の反応はある?」

『探知範囲内ナラ……戦闘ヘリ5ト輸送ヘリ10ダナ』

「防空システムで迎撃は?」

『今やってる。今更“弓矢”と“守護者”なんて随分と私達を舐め腐っているのね。叩き落としてやるわよ!!」

……航空戦力は問題なさそうだ。

「陽花、機甲戦力は確認出来る?」

『パワーローダー1個中隊と主力戦車2個中隊が接近中。種別は“1型軍人”と”霜“ですね!』

旧式だが面倒なヤツばかりだな……。

『ATMとEMLで漸減を試みますね、先輩。ま、これで戦車くらいは消し飛ばせると思いますし♪』

『油断は禁物だよ。あの人達は時として脅威足り得るから』

楽観的な陽花を嗜めるように混じるのは、懐かしい少女の声。

「メグリ……そっちは?」

『主力が赤い大国みたい。数だけは多いから殲滅に時間が掛かりそう』

……主力は某独裁国家か。確かにアイツらなら数だけは揃えられる。

命を資源としか考えていないが故に出来る事だ。

「了解。必要なら呼んで。火力支援する」

次弾発砲。

残っていた輸送車を消し飛ばす。

『了解。……でも大丈夫そう。多連装対戦車ロケットランチャー(MATRLS)が大分効いてる』

「……そう」

無線切断。

索敵。

後詰めと思われる主力戦車群と輸送車両を確認。

(数だけは多い……)

今のキヴォトスに何の価値があるというのか?

「フロナ、重野砲の装填状況は?」

『榴弾とバンカーバスターを半々で装填済み』

なるほど……。

質量で潰せる筈だから……問題無い。

「敵対勢力の座標を送信する。砲撃開始して」

数瞬後ーー

『座標確認。砲撃開始するよ!』

フロナの声と共に、腹の底に響く重厚な砲声の多重奏が鳴る。

効果確認を待たず、手にした狙撃砲ーー“XGWS-16/MPA-EMLーーに追加砲身を装着。

スコープ換装。

照準修整。

車列を正面から捉える。

銃爪を絞る。

閃光と轟音。

激烈な反動を受け止め切れず、数歩後退。

射線上にいた敵対車両は風穴の開き、黒煙を上げる鉄塊へと変わる。

幸運にも射線上に存在していなかった車両も重砲の弾着で撃滅。

こういう状況はなんて言ったかーー

『鉄の雨(アイアンレイン)って所ですかね?』

ーー解説ありがとう、陽花。

「敵対勢力の反応は?」

『現状はシャリーさんの撃ち洩らしだけですね!……どうして対空機銃(AAガン)に拘ってるんです?』

『対空ロケットなんか甘えだべ!』

……痴話喧嘩は他所でやってくれ。

とは思いつつ、自らの担当区画の警戒に戻る事にした。

 

 

 

数時間後ーー

侵略者を殲滅し終え、根城に戻る。

『お帰り、ハユハ』

『今日もお疲れだね〜』

耳にメグリとメグリの声が届く。

しかし、彼女達の姿は見えない。

……当然だ。

数年前のあの日、死(・)ん(・)だ(・)の(・)だ(・)か(・)ら(・)。

私諸共、周囲一体を吹き飛ばした核爆発。

周囲の生命を殺し尽くし、今度こそ死ねる筈だったのに。

“神様”は変わらず“呪い”を発動させた。

結果、私は何時ものように生き返ってしまった。

数多の友人達の命を代償として。

そこまでするような価値など……私には無い筈なのに。

意味無き生命を残す意味。

(“神様”は人を救いたいと思っていた……って事か?)

椅子代わりのコンテナに腰を降ろし、思い出す。

とある昔話の一節。

原典ならば、この後に“神様”に抗う人間が現れ、互いに殺し合う。

それとて、今の私よりはマシな境遇だろう。

何故か?

この世界の“神様”は被創造物(おもちゃ)に苦痛と絶望を与えて暇潰しをするクソ野郎共だったからだ。

(……人類はクソ、なんて言う神様も存在した。けれども、お互いに“クソ”でしかないのが正解だった)

戸棚から貯蔵していた軍用糧食を取り出す。

封を切り、FLHに数個のレトルト容器を挿入して暫し待つ。

静寂。

気を回してか、誰の声も聞こえない。

故の静寂。

自然と思い出す数年前の顛末。

死に損ないの私に待っていたのはキヴォトスにとっての地獄だった。

……始まりはエデン条約調印式。

粛々と進む調印式中の会場に……M.S.S. 製に偽造された巡航核ミサイルが着弾。

ゲヘナ、トリニティ双方の権力者並びに治安維持組織が全員死亡。

未曾有の惨劇をクロノスニュース(オールドメディア)が報道しない筈が無い。

真実を伝える義務、即ち報道機関の在り方などとうの昔に失われて久しく、奴らはただセンセーショナルに、大衆の“民意”を煽るだけだった。

それが奴らの“商売”。

 

ーーM.S.S.はテロリストにも武器を売り捌く、技術開発と実践にしか興味の無いキヴォトスの敵であるーー

 

キヴォトス中の学生(大衆)は容易く扇動された。

懸念は現実へ。

残存学園のM.S.S.への憎悪と非難。

共通の敵と化したM.S.S.は徹底的にキヴォトスの地から根絶された。

お伽噺なら、ここで世界は平和になった……で終劇。

現実は……共通の敵を失った、各学園間対立の顕在化だけ。

生物が生物故に起こる必然。

調停者無き憎しみの連鎖が紡ぐ全面戦争の末ーーキヴォトスから“学園”は消えた。

重度に汚染され尽くし、草木も育たぬ大地と、役割を粛々と続ける機械だけを残して。

(それが私の生きる現実(今)……)

 

けれどもーー私は……本(・)当(・)の(・)意(・)味(・)で(・)は(・)“孤独(ひとり)”じゃない。

 

かつて友人達は私と共にいるのだ。

実体は無いけれども、確かにそこに“いる”。

所謂、守護霊とでも言うべきものだろうか?

神様が残した、最後の慈悲か。

……いや、違うね。

何処までも悪趣味な“神様”(クソ野郎)連中の事だ、現世の人間の感情がどう動くかを予想して遊(・)ん(・)で(・)い(・)る(・)に違いない。

(でも……それも含めて、私の……選択の結末だ)

頭上を見る。

そこには、砕けて破片のみとなったヘイローだ(・)っ(・)た(・)物(・)が浮かんでいる。

俗に“テラー”や“色彩”と呼ばれる事象の結果らしい。

一説には、心が壊れた末に陥る自己存在の否定や、著しい心的外傷ストレスが原因となるのだとか。

(なら……私は最初から“テラー化”していたのだろう)

 

祝福が介在せぬ、身勝手な雄共の戯れの結晶たる“輪廻 ハユハ”という個体ーー

その歪な生命すら、己の欲望と安寧の為に使い潰し、殺し、死せぬ故に玩具とした人類。

 

何より、そ(・)う(・)い(・)う(・)人世界の闇から目を背け、耳を塞ぎ、口を噤んで存在全てを否定してのうのうと生きるだけの恵まれた愚民(凡人)達。

 

全てがクソ喰らえだ。

全てに等しく価値が無い。

価値が無いからこそ、最初から壊れていると言えないか?

……どうでもいいか。

「Vanitas vanitatum, et omnia vanitas(全ては無意味で無価値で意義も無い)……か……」

誰に言うでもなく呟いた言葉。

『何、その言葉……?』

しかし、メグリの知覚には届いてしまったらしい。

「古代語の慣用句。……解釈は人によって千差万別だが……雑に言えば、“全ては無意味な物”という意味の場合が多い」

ーーそうだ。

件の災厄(エデン条約の破綻)の銃爪を弾いたアリウス派(連中)が言ったらしい言葉。

自身の矜持を否定されたが故の慟哭、だったのだろうか?

知る術はとうに失われたし、興味も無い。

「メグリなりの解釈を練る時間は幾らでもある。……多分、私の存在理由(価値)が尽きる前には、答えが出るよ」

突き放すように続けて、加熱を終えたパウチの封を切る。

吐瀉物にも似た食用可能な中身を胃に流し込む。

栄養補給。

同時に装備チェック。

『防衛設備の損害状況と弾薬備蓄情報を出すわ』

「了解」

視界の端にポップするホロスクリーンのデータを一瞥。

防衛設備は……多少の損害こそあれど、自己修復機能でカバー出来る範囲内。問題無し。

次に携行装備と弾薬はーー55㎜徹甲榴弾と120㎜HEAT、7.62㎜MB弾が多少心許無いか。

「弾薬生産指示を更新しておいて。データは……今送信した」

手早く纏めた指示書をエイルに送信。

『データ受信シタ。生産設備ニ送信シタゾ』

「なら良し。……後はいつも通り、外縁部の監視を続けて」

『了解』

『了解ダ』

シャリーとエイルの反応が消える。

監視業務に戻ったのだ。

(日常タスクはこれで終わり……)

ゴミ処理装置にゴミを投下。

後は寝るだけ。

手近な突撃銃を抱き締め、目を閉じる。

訪れない終(・)わ(・)り(・)という“願い”も抱きながらーー

 

 

 







ーー以上、エピローグ “虚無と義務背負いし忌み子”でした。
掻い摘んで説明すると、14話の後にエデン条約調印式(バッドエンド版+α)+色彩騒動が発生した結果、キヴォトスが滅亡した状況。
当然、ゲマトリアは目的を達成出来ずにキヴォトスを見限り、“神秘”の作用で死ぬ事が出来なかったハユハはテラー化した上で自分以外の生存者がいないキヴォトスを守り続けている、というのがAlt版たるハーメルン版の結末です。
尚、本作ではエデン条約編でーー

・万魔殿上層部
・風紀委員会
・救急医学部
・美食研究会
・ティーパーティー(聖園 ミカ以外)
・正義実現委員会
・補習授業部
・トリニティ自警団
・救護騎士団
・シスターフッド上層部
・先生

が死亡するので、必然的に後のエピソード全てがバッドエンド確定というわけです。
そりゃあヘイロー破壊効果付きの核弾頭搭載型巡航ミサイルの乱撃が起こったのですから当然こうもなります。
誰も救われない結末ですが、これで“TrueEnd”です。
次回以降は何時もの如く設定資料が少し続きます。

では重苦しい解説兼後書きはこの辺にしましょうか。
拝読ありがとうございましたーー



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