第1話。
キャラ崩壊も標準装備です。
翌日の放課後ーー
「さて、始めよう」
「始めましょう!」
私とコトリは、作業台に向き直る。
そこには、大量の整備待ち銃火器。
何れもが、酷く損傷している。
修理しがいがありそうだ。
工具と依頼品を手に取り、作業を始めると、
「……ところでハユハさん」
コトリが話しかけてきた。
「何?」
「……最近、整備依頼が多くありませんか?」
確かに多い……かな。今日は300挺ぐらいだけど。
「……小競り合いが多いのかな。ミレニアムは比較的平和だったと思うけど……」
一般認識に近い返答を返し、作業再開。
「その……筈なんですけどね……」
一方のコトリは溜め息。
「ミレニアムで起こるのは、主に詐欺を含むサイバー犯罪の方。……技術の進歩が犯罪を悪質化させる事もある」
「嘆かわしいですね……。あ、損傷程度ごとの選別が終わりましたよ」
会話をしつつも、お互いの手は止まっていない。
技術者の集まりたるミレニアムに於いて、“エンジニア”部を名乗るだけに、半端な技能を持っている訳ではないから。
手近な突撃銃、短機関銃、狙撃銃、軽機関銃を一瞥。
破損箇所はハンドガード、パッドストック、ダットサイト等。
何れもがプラスチック製部品。
接着剤やパテでの補修で済む程度ではない。
丸ごと交換する方が早い。
部品在庫は……一部足りない。
「コトリ、足りない部品を3Dプリンターで成形。銃身の予備は何本ある?」
「えーと……今日の種別だと、100挺分ですね。多分、足ります」
「…………そうだね。今日の作業分は足りる。在庫は切れるだろうから…………余裕があれば、銃身の鍛造成形もする。
「分かりました」
段取り終了。
本格的に作業を開始する。
破損した部品を外し、別の物に交換。
ボルトも締め直し、修理完了。
破損部品は回収箱へ。後で高炉行きだ。
プラスチックの原料とする為に。
ミレニアムの銃火器はプラスチック製が多く、金属は銃身や薬室を含む機関部ぐらいの場合が多い。
プラスチックは軽量化、コスト削減を理由に採用されているが、金属より熱に弱い、という弱点がある。
無論、耐熱性等を向上させた“工業用プラスチック”と呼ばれる種類が使われているのだが、砂漠や火山地帯等では、パーツの“遊び”が出来て、命中精度が落ちてしまうし、最悪の場合は銃火器としての形を保てなくなる。
事実、ある軍に納入された自動小銃が砂漠での運用に於いて、猛暑に起因するプラスチックの変形で不具合をきたし、メーカーとの訴訟沙汰が起きた事例だってあるぐらい。
手早く、プラスチック部品交換で済む依頼は処理完了。
次は銃身磨耗品。
どれも内部磨耗が激しく、相当使い込んだか、強装弾や硬芯徹甲弾を撃ったか。
数割は表面にも、加熱による状態変化の形跡がある。こちらは確実に酷使した物だ。
そうでなければ、機関銃以外で赤熱や白熱まで行く事は無い筈。
そのぐらい、面制圧用の火器は銃身の耐用時間が短くなりがち。
「ハユハさん!狙撃銃用、重機関銃用部品の成形が終わりましたよ」
「こっちも突撃銃と短機関銃が処理完了。次は軽機関銃部品の成形。型はーーミレニアム制式銃の……Type-B。在庫品だから急がなくてもいい」
「はい!」
打ち合わせが終わる頃には、銃身交換品も処理完了。
後は…………部品が完成待ち品。
一部は今上がった部品で処理可能。
続けて、そちらに手を付ける。
が、
(規格が混じってる……面倒だね)
部品規格がバラバラだった。
当然と言えば当然だけど、各自治体ごと、国家圏毎に、部品の規格は違う。
ミレニアム内で言うと、一部生徒の拘りにより、メートル規格とヤード・ポンド規格の二つが混在している。
一般的にはメートル規格がキヴォトス内での標準規格とされる。……外の世界も同様らしいけど。
理由としては、メートル規格の方が明瞭かつ扱いやすい基準である為。ヤード・ポンド規格は様々な独自規格を雑に纏めたようなものであり、非常に扱いづらい。
現在でも主に用いているのは、トリニティ製とミレニアム製の一部ぐらいだ。
レンチを別途用意。“トルクス”と呼ばれる特殊形状を。
そして、分解作業をしていると、作業場の扉が開かれた。
「エンジニア部の人はいるかなー!」
入ってきたのは、学校に不釣り合いなメイド服を纏った亜麻色の髪色の少女。
「何の用ですか、一之瀬先輩」
ーー明らかに存在が浮いている少女の名は、一之瀬 アスナ。
個人的には関わりたくない部活である、Clear&Clearingーー通称、C&C又はメイド部所属の3年生。
どうせ厄介事だ、と思いつつも話しかけたのだがーー
「武器が壊れちゃった。直して、今すぐ」
ーー案の定、厄介事。
差し出された銃器は、辛うじて原型を保っている、という惨状。
「ほぼ廃棄確定じゃないですかっ!?一体何が?」
状況を見たコトリも驚愕。
それ程に、酷い損傷だ。
「いやー、敵が戦車を湯水のように投入してきてさぁ……後は分かるよね?」
……戦車砲の直撃、ないし爆発による損壊……といった所か。
形が残っているだけで奇跡だ。
「……作り直した方が早いですね。製造データは残っていた筈なので……」
部品在庫リストを一瞥。
一之瀬先輩の銃……“サプライズパーティー”の原型は、ミレニアム標準型Type-D………の旧型。
在庫は数挺ある。
兵装ロッカーから取り出し、部品を取り換え。
銃身以外はほぼ標準型のままだから、製造は楽だ。…問題が有るとすれば、それは旧式のモデルがベースという事くらいか。
ブルパップ式(薬室や撃発機構を含む機関部がトリガーより後方、主にパッドストック内に内蔵するレイアウトの事)の自動小銃なら、もっと精錬された物が沢山ある。
「間に合わせに近い仕上がりですので、微調整はご自身でお願いします」
組み上げた自動小銃を一之瀬先輩に渡す。
「うん、分かった。何かあったらまた来るねー」
受け取るや否や、作業場を去る先輩。
本当に急いでいたようだ。
「……」
「……」
足音が聴こえなくなるまで、私とコトリは開きっぱなしの扉を眺め、
「……作業を再開しよう」
「そうですね」
扉を閉めて、今までの作業に戻る事にした。
数時間後ーー
「今日はここまでかな」
「何とか終わりましたね……」
作業台の上に、整然と並ぶ整備済み銃器。
現状の依頼分は完了。
「ところで、ハユハさんはいつも手作業ですよね?」
「……昔からやってるから」
そう、昔から。
「昔から?」
コトリは私の頭を見て、言う。
視線の先は額。
そこには羊のような角が生えている。犬耳や尻尾が生えているような生徒はミレニアムにもいるが、こんな角が生えているのは主に、ゲヘナ学園生や百鬼夜行連合生だけだろう。
確かに、私は元ゲヘナ学園生徒で……まぁ、
容姿を整形する気は無いから、否が応でも、そこに目が行くのは当然だ。
「そう、昔。……と、言っても数ヶ月ぐらい前まで……。要するに、ゲヘナ学園生だった頃の名残」
周知の事実だが、小競り合いの多いゲヘナ。銃器は元より、施設、設備の破損、倒壊は日常茶飯事。
機械を使った方が早く済むけど、そうもいかない。
すぐに流れ弾で大破するか、強奪されてブラックマーケット行きが普通。
「商売道具は手工具が主じゃないと、ゲヘナではやっていけない」
「あー……ゲヘナらしいですね……」
コトリの顔が引き攣る。
「加えて、のんびりと作業も出来ない。違法サークル間抗争の流れ弾を食らうだけだから」
「もういいですよっ!?ゲヘナの日常は聞かなくても分かりますからっ!」
そりゃそうだ。風評被害込みで、良い印象は無い。
工具を片付け、依頼品を整頓。
後は引き渡し待ち。
が、依頼人が来る気配は無い。
手持ち無沙汰だ。
時計を一瞥。下校時間までは後、1時間。
「後は受け取り待ちですよね。休憩しましょうか」
「そうだね」
適当な鋼材を椅子がわりに座り、各々が持参していたペットボトル入り飲料を取り出す。
喉を清涼飲料で潤し、雑談が始まる。
「……ところで、部長やヒビキさんは何処に行ってるんでしょうか?」
始まった雑談は、今はいない部長と同期生の事。
「“シャーレ”に行ったらしい」
昨晩、今日の予定と一緒に伝えられていた情報を伝える。
「またですか……」
呆れ気味に、呟くコトリ。
シャーレ。
キヴォトス連邦捜査部の事だが、現在は便利屋に近い何か扱いらしい。
数ヶ月前にアビドスで一悶着あった筈だし、最近はゲーム開発部でシャーレの顧問を見たとの情報がある。
私個人としては接点が無い為、どうでもいい存在。
だから、百科事典にでも載っている程度の情報しか知らないし、知ろうとも思わない。
「部長達は優秀だから。……あまりエンジニア部から離れるのもどうかと思うけど……」
遠くを見るような気持ちで、学生として……部員として真っ当な言葉を呟く。
「ハユハさん、随分他人行儀ですね。シャーレに行った事無いからですか?」
「私なんかを呼んでも、意味が無い」
本当の意味でのミレニアム生徒でもなく、エンジニア部の割には技術力も然程無い私が行く意味は。
「いや、わりと先生……っと、シャーレの顧問の事ですけど……はズボラですから、行く意味はあるかと!主に設備の保守整備的な意味で!」
「………大丈夫なの、連邦生徒会」
多忙だとは聞いているけれど……。
「噂をすれば何とやら、ですかね?」
「誰かが近付いてくる」
複数の足音が耳に届く。
明らかに、この作業場に近付いている。
やがて扉が開き、
「おっと、休憩中だったか」
足音の主は部長だった。
「作業は終わったのかい?」
「えぇ、なんとか」
いつもように、状況報告。
そこからは、次の打ち合わせか雑談……の筈だが、
「なら、良かった。……さて」
部長の雰囲気からして違うようだ。
「ハユハを借りてもいいかな、コトリ」
「構いませんよ。依頼品の引き渡しなら、私一人でも出来ますから」
……予定が狂う。
確かに、引き渡しに二人もいらない。
が、コトリ暴走を止める相方がいた方がいい筈。……いや、引き渡し程度で暴走するとは思えないけどさ。
「……だ、そうだ。ハユハに会わせたい人がいるんだ」
何故か、部長から言い様の無い圧力を感じる。
同時に、面倒事の予感も。
(……どうあれ、私に逃げ場は無さそう)
立ち上がり、ペットボトルをロッカーに入れる。
「で、会わせたい人は……あの人ですか?」
視線を作業場入り口へ向ける。
痩身の男性がこちらに向かって歩いている。
見るからに教師然とした風貌。
あれが噂のシャーレ顧問ーー俗に言う“先生”という存在。
「話はついたの?」
「いや、今からかな。……まぁ、その前に自己紹介が先だね」
“先生”は部長と言葉を交わした後、私を見る。
「ハユハ。この人が、キヴォトス連邦捜査部顧問の先生だ」
「初めまして。ミレニアムサイエンススクール1年、エンジニア部所属の輪廻 ハユハです」
形式的な挨拶を言い、“先生”の顔を見る。
本題は?というように。
すると、私の意図を察したらしい先生が、早速本題に入る。
「少し君の力が必要な事が出来たんだ。手伝ってくれないかな?」
「それはシャーレとしての強制ですか?」
超法規的な権力を持つ筈のシャーレが、態々お願いなんてしないだろう。
必要なら、有無を言わさず引き抜けばいい。
権力、権能を腐らせる意味は無いのだから。
「いや、飽くまで私個人からのお願いだよ。拒否権はある」
……本当かな?
胡散臭さが拭いきれない。
が、下手に歯向かうと、内申点等に響くか。
セミナーに目をつけられるのは、出来る限り避けたいし……。
「……内容次第ですね。態々、私を選ぶ理由が分かりませんから」
施設のセキュリティ問題等なら、部長やヴェリタスにお願いした方が確実。
得手不得手の判別くらいは出来るだろうに。
「一種のインフラ整備……といった所かな?場所はアビドス高等学校。同校の電気と水道の設備修繕作業をお願いしたいんだ」
「設備管理業務、という事ですか」
「そういう事。ウタハに聞いたら、君が適任だと言われてね」
「恥ずかしながら、古い形式の設備はハユハの方に分がありそうなんだ」
部長が苦笑。
廃校寸前とも言えるアビドスと、ミレニアムでは形式が違うのは当たり前。
下手をすれば、原始的とも言える物すらあるかも知れない。
先端技術に慣れ過ぎる、というのも問題だという事か?
まぁ、昔の作業を思い出すにも丁度良いけれど。
「……いいですよ。ただ、準備すべき物が分からない以上、一度視察したいですね」
引き受けよう。
「まぁ、そうなるだろうね。日取りは今週末の休日かな?」
「……順当に考えると、そうですね」
程無く、詳しい打ち合わせが始まる。
さぁ、面倒事だ。
……ゲヘナ基準では“普通”の、ね。
以上、第1話でした。
既にPixiv版を拝読済みの方はこんなんだったな、という感じですね。
まだ大人しかった頃のハユハはこんな感じです。
尚、先生の登場は次回で最後です。
要望があれば絆ストーリー(風)のヤツを書きますよ。