第6話。
休日回。…………休日?
まぁ……飽くまでキヴォトス基準の休日ですかね。
アビドスインフラ工事完遂の翌日ーー
ケッテン・クラートを運転しつつ、眠い目を擦って欠伸を一つ。
前方に見えるゲヘナ自治区の入り口。
……の筈だが、検問がある。
黒を貴重とした制服。見間違えもしない。
立っている集団はゲヘナ学園の風紀委員。
(問題を起こしたのは……どこの馬鹿共だ?)
美食研か?温泉開発か?……それとも、便利屋……いや、アイツらは基本、ゲヘナにいない筈か……。
ともかく、検問で停車。
「現在この区域は立ち入りが制限されています」
当然のように、制止される。停車したのに……いや、規定上必要か。
今はただの一般生徒であり、他校生だ。問題を起こしたくも無いし……余所行きの口調でもしようか。
「……みたいですね。元凶は?」
先輩相手でも無いのに、敬語寄りの口調。
自分で口走っておきながら鳥肌が立ちそうだ。
「お答え出来かねます。危険ですので、ここから離れて下さい」
教科書通りの対応、というべきか。
相変わらず、頭の固そうな奴しか来ないのか。……いや、固いからこそだろうか。
そういう奴ばかりが、ゲヘナのマトモな生徒だ。
自由と混沌。
ゲヘナは
元来は“風紀委員会”という存在その物が異端なのだ。
「なら……確認したい事が。ゲヘナ中央区に辿り着けるルートは残っていますか?」
「確認します。少々お時間を頂きますが、大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
愛想笑いを添えて返すと、端末を操作しだす風紀委員を眺めつつ、待つ事暫し、
「辛うじてありますね。ルートはーー」
割り出された道を聞く。
かなりの遠回りになるが、仕方無い。
踵を返して、走り出そうとすると、
「お久し振りです、先輩」
今度は別の風紀委員に呼び止められた。
見覚えはある。かつての同僚で……部下だった少女。
名前は何だったかーー
「……陽花。そう言われる程経ってはいない筈だけど?」
ーー陽花 スール。今は高等部1年生の筈。
相変わらずそうだ。まぁ、心配する必要は無いと思ってはいたが。
「……そうでしたね。失礼しました」
僅かに笑う陽花。
随分と大人しくなったものだ。
「陽花、この人は知り合い?」
彼女に問う、先程の風紀委員。
こっちに見覚えは無い。……今年からの新入りか。
「知り合いも何も……去年末まで装備管理部門と設備保守部門を纏めていた人ですよ?」
知らないの、とでも言いたげに返す陽花。
「あぁ、あの過労で病院送りになった……えっ!?」
心当たりがあったらしく、記憶と照らし合わせた新入りは私を二度見した。
「って事は、この人が輪廻 ハユハ先輩!?」
「そうなるね。顔ぐらい覚えておけば良いのに」
続く陽花の返答に、驚きに開いていた瞳が変わる。
……処刑に怯える罪人のように。
「…………私、ミンチより酷い事になりませんよね?」
「何故、そう思ったの?」
「だって輪廻先輩……規則違反者に人権を与えないって噂が……」
理由はしょうもなかった。
「それはアイツらが悪い。貴女は職務に忠実であっただけ」
帰属意識が高いのは良い事だ。
だが、考える脳の無い人材は要らない。
「……柔軟性はいるみたいだけどね」
「す、すみません……」
「別に良い。これから変わればいいから。それに、今の私はミレニアムの1年生だから」
「1年生!?……もしかして万魔殿に……」
「そういう事」
私は留年生だ。…………不当な形での。
尤も、現万魔殿会長の羽沼 マコトが原因ではない。
言動含め、気に入らない点が多々ある上級生ではあるが。
「酷いですね……。アイツら、一度徹底的に潰した方が……」
「そこまではしない方が良い。余計に治安が悪くなる」
掛け値無しのクズが多いゲヘナだが、現会長は一応違う。
アレは空崎先輩を含む風紀委員会を嫌っているだけで、ゲヘナとしては比較的マトモ寄りの感性だ。……残念ながらね。
「……手伝おうか?」
「……良いんですか?」
「行き掛けの駄賃とでも考えられる。相手は
「…………いえ、パンケーキですね」
なんだ、パンちゃんの脱走か。
「またか……」
丁度良い。欲しかったのは、パンちゃんの遺体だ。
「好都合。目的はパンちゃんだから。……案内、お願いできる?」
「はい!」
元気良く答え、ケッテン・クラートの荷台に乗る陽花。
直後、端末が操作され、手元に設置していた追加ディスプレイにゲヘナ自治区の地図と座標が表示される。
最短ルートで15分か。
一応、持っていたヘッドセットを装着。
「陽花、実働部隊の周波数は昔のまま?」
「はい。変わってません。……何をするつもりで?」
「根回し」
周波数設定。
通信先はーー
「何ですか、この忙しい時に……」
天雨 アコ……今は行政官か。
「お久し振りです、天雨先輩。……いえ、天雨行政官」
『……輪廻さんですか。切りますよ』
間はあったが、型通りの対応。所謂塩である。
「臨時で指揮下に入ります。指示を」
『貴女に頼る程、風紀委員会は落ちぶれていません。不要です』
図星か。
まぁ、図星も何も無いのだが。
私のいた頃から、ゲヘナの治安を維持できるだけの頭数は無かった。
「……本当に、そうですか?」
数秒の間。
『…………はぁ。分かった上でやってましたね。良いでしょう。認めますよ、確かに手が足りません。部外者の助力を請うのは甚だ不本意ですが、貴女は信用できます』
一拍の間の後、指示が飛ぶ。
『ポイント
嫌みのような口調。
懐かしい。貴女はそういう人でしたね。
「問題ありません。……現場に急行します。
無線終了。
「根回しってそういう……」
「……飛ばすよ」
「了解です。……まぁ、先輩ぐらい荒い運転の方が丁度良いんですけどね!」
「そう」
道を開けた風紀委員の様子を確認。退避は済んでいる。
アクセルを踏み込み、一気に加速。
早く終わらせよう。昼食はパンケーキだ。
封鎖された高速道路を駆け抜ける事数分。
「目標は100m先の下方ですよ、先輩」
「了解。雑魚は後」
加速。
分離帯を乗り越え、一般道へ降りる。
見え始める大穴。
よりにもよって、料金所を開発したか。
(……万死に値する)
まずは指揮官に逝って貰おう。
コンテナ展開。
40㎜擲弾機関砲“GLM-40”を左手に保持。
同時に、ギアをオーバードライブへ。
加速。
響く轟音に振り返った現場指揮官。
だが、もう遅い。
「ごふっ!?」
トップスピードのドリフトを受けて、天高く撥ね飛ばされる。
横目に陽花を確認すると、40㎜擲弾銃“XGWS-12GW”を構え、打ち上げられた指揮官に向けて発砲。
空中で身体をくの字に曲げ、唾と血を吐きながら呻く姿から、使用された弾薬は絞られる。
……とはいえ、陽花の性格から考えて一つしかない。
(撃ち込んでいるのは、セフティスラグか)
着弾位置に散弾をバラ撒く対生物用弾薬。
…………ミレニアムでは禁止される噂があったかな。
「花火にしておけばよかった」
一息に全弾撃ち尽くしたのだろう。
何処ぞの老後が不安な王子様の言いそうな言葉を聞きつつ、ハンドルを切り返す。
反転。
“GLW-40”を構える。
照準。
発砲開始。
着弾。
炸裂。
遮蔽物後方に弾着するように撃っているが故に、確実に開発部の頭数は減る。
その最中、車線上に現場指揮官が落下。
避けずに轢き、後部履帯に噛ませて、引き回す。
骨折の、或いは筋繊維や神経の断裂する音、少女の絶叫が響き、鮮血に彩られた轍が後に続く。
喧しい。
誰も救助などしない。いや、出来ないが正しいか。
ならば、悲痛な懇願は無意味な自己主張であり、甘ったれた軟弱者の証に過ぎない。
ハンドル切り返し。
続けて、ドリフトの要領で超信地旋回。
すると、喧しかった音が止む。
気絶したか?
軌道変更。
巻き込んでいた“物”を弾き飛ばす。
手足と首があらぬ方向に垂れ下がる、轢死体(同然)となった、現場指揮官。
全身の複雑(粉砕)骨折と神経損傷か。まぁ、死んではいない筈だ。
降車。武装コンテナを肩に担ぎ、残る開発部員達に向き直る。
「投降しろ」
首を掻き切るジェスチャーからの、サムズダウン。
「……そうすれば、現場指揮官のようにはならない」
言い切り、件の轢死体モドキを部員達の前に蹴り転がす。
全員が狼狽え、怯え、固まるが、それは数瞬の事。
怒りを露にし、私と陽花、風紀委員に武器を向けた。
「……陽花」
「はい!」
遮蔽物へ移動しつつ、左腕の“GLM-40”を速射。コンテナからは“St-240”を数本取り出す。
スライディングしつつ、投擲。
炸裂。
数人が吹き飛ぶ。
(仕留め損ねた)
攻撃型を投げたが……位置が悪かったか。
吹き飛んで来た少女の顔面を掴み、頭部を砕くつもりで指を食い込ませる。
数瞬で力無く手足が垂れた。
声にならない音が洩れ、僅かに痙攣する。
が、ヘイローは消えていない。
代わりに、鼻を刺すような刺激臭。
アンモニア特有の臭気。
コンクリートに広がる、湯気立つ水溜まり。
どうやら、尿失禁を起こしたらしい。
(随分と脆い精神だ)
少女から手を離し、即座に手足の骨を肘、膝間接で圧砕。
可動部の怪我というものは、当然ながら完治に時間がかかる。それ故に、保険として間接を砕いたわけだ。
即席の
遮蔽物から出て、最短距離で突貫。
放たれた銃弾や砲弾は肉盾で受け止め、悲痛な叫びが木霊する。
痛みで覚醒した少女が、自分の置かれた状況を察した事だろう。
首から下は動かせず自身に、
気絶すれば、死神が迎えに来る。
……そう、身構えているうちはお迎えが来ない。気を緩めた時、死が訪れる。
目に前には敵の集団。
肉薄出来ればこっちの物。
今までは盾であった少女は、それなりのリーチを持った“鈍器”に変わる。
叩き付け、薙ぎ払う。
一撃目で頭部を強打して脳震盪を誘発しーー二撃目で宙に打ち上げる。
そして、天高く打ち上がった敵対勢力は陽花に任せ、返す刀の如く、背後に“GLM-40”を速射。
弾倉分を撃つ尽くし、コンテナに格納。
代わりに、地面に転がる110㎜無反動砲“GrF-44/パイク”を蹴り上げ、掴む。
『先輩、クレー射撃の的が足りませんよ?』
「文句は敵に」
『聞こえないでしょうよ』
答えつつ、遮蔽物に向かって、110㎜多目的榴弾を射出。
転がる予備弾薬を蹴り上げ、空中で“GrF-44”に装填。
構え直す。
気絶した少女達の雨が降る。
抵抗する存在は見られない。
(殲滅完了か……)
一人一人、手足の間接を踏み砕き、意識の戻った少女は、脳天に“肉盾”を振り下ろして“眠らせる”。
全員を眠らせる頃には、手元の“鈍器”は血に塗れ、砕けた骨と抉れた肉の混じったハンバーグ種と化していた。
勿論、頭上からヘイローは消えている。
気絶したか。
大破した“鈍器”を地面に放り投げ、血糊を払う。
出来る事なら、この阿呆共を火葬してやりたいが、それはキヴォトスに於いては叶わない。
代わりに、スマートフォンを取り出す。
通話選択。
呼び出し。
数回のコールの後、
『はいはーい、君影救急サービスですよ~』
ふざけたような少女の声が返ってくる。
「今すぐ来れる?」
君影救急サービス、といったが……要するに、ゲヘナ救急医学部の知り合いである。
『急患だね?………氷室部長、車輌の空きは…………ありますか。一台借りますね。……で、場所は?』
向こうも用件は理解している。だから、すぐに“狩場”の場所を聞いてきた。
「O-2-112」
『5分』
「了解。切るよ」
通話終了。
「5分後に救急医学部」
「了解。じゃ、死体を纏めますね!」
「……一応、生きてる」
…………筈だ。
「あ、そうですね。じゃ、臨死体だ。先輩といると“死神の行列”くらい普通なので忘れそうになりますよ」
手早く、気絶した少女
車輌側面に組み付いているのは………白髪の少女。
救急医学部 部長……氷室 セナ先輩だ。
「君影さんに直接連絡が来たので、まさかとは思いましたが……やはり貴女でしたか」
心なしか、嫌そうに氷室先輩は言う。
風紀委員会時代から、氷室先輩とはそれなりに関係があったからね。主に
「臨死体は纏めてあります。そちらです」
氷室部長は積み上がった音声開発部員の山を一瞥。
小さく嘆息。
「……そのようですね。した……負傷者の回収を開始します」
「了解」
運転席から降りてきた金髪の救急医学部員と共に、急患の収容…………もとい、死体回収が始まる。
何度見ても、ゴミ収集のソレにしか見えないが、ゲヘナの治安や生徒の質を考えれば……当然か。
ゲヘナ自治区住民に人権を適応していては、キヴォトスの治安が悪くなるだけだ。
(……“信賞必罰”、“因果応報”。……この辺りが丁度良い諺かな)
「回収完了。……毎度の事ですが、負傷者の損壊が大き過ぎます。どうせならば、綺麗な死……負傷者を残して欲しいものです」
毎度、食材寸前程度までに負傷させた患者を見ていれば、そう言われるのは必然。
けれども、私にも持論はある。
「……本来、救急が必要とされる存在の何割かは、このぐらいの惨状が普通では?……綺麗な死体が罷り通る程ゲヘナの治安が良くなれば良いですけどね……」
自嘲気味に言う。
「ストップ、ハユハ。それ以上はいけない」
割って入る金髪の救急医学部員。
君影 フロナ。……私の数少ない友人だ。
「部長もです。ハユハはこういう性格で、どうしようもないんです。それよりも、負傷者の状態は最悪ですから、早く“納品”して次の現場に向かいましょうよ」
「……そうですね」
車輌側面のフックに掴まりながら、氷室部長が私を見る。
「このままでは、遠からず貴女が死体になりますよ」
「その時は因果応報。それだけです」
数瞬の睨み合い。
車輌が動き出し、それも終わる。
「……」
救急車輌が見えなくなった事を確認し、無線を起動。
「“シュレック”より“HQ”へ。ポイントO-2-112の制圧完了。これよりポイントS-2-117に向かいます」
『了解です。現在、委員長も行動中。誤射に注意してください』
「了解」
通信終了。
向き直ると、風紀委員が集合していた。
「隊長……いえ、輪廻先輩……何故、ここに?」
「一時的に加勢してる。HQから通達が無かった?」
「……通達はありましたが、出来の悪い冗談かと思いまして……」
天雨行政官が冗談を(仕事上の通達で)言うとでも?無いだろう。
「……ここの後始末、お願いできる?」
「はい。……あの、輪廻先輩は?」
「S-2-117のパンケーキを塵に変える。……陽花はお目付け役」
「そんなんじゃ無いですよ~。久し振りに上官が戻ってきたんですよ?楽しまなきゃ!」
ややふざけた陽花を引き連れ、ケッテン・クラートへと踵を返す。
荷台に陽花が乗車した事を確認し、エンジン起動。
「……陽花って、あんなに苛烈だった?」
「近くにいた人のせいだよ……」
ドン引きする風紀委員を尻目に、信地旋回。
急加速。
砂煙と騒音を撒き散らし、目的地へと急ぐ。
「……先輩、機嫌が悪いんじゃ?」
その最中、陽花が口を開いた。
「別に?」
氷室部長への態度がそう見えたのだろうか?
「氷室部長は濁した表現をしませんからね。軋轢ある生徒は多いですし……」
「それは職業病みたいなもの。私も同様」
プロ意識があるのは良い事だと思うけどね。
「……変わりませんね、先輩」
「変われないよ。……もう、ね」
十数分後、S-2-117に到着。
「アレが目標です、先輩!」
「見えてる。
「大丈夫ですよ。今も使ってますから!」
そう言って、件のコンテナを見せ付けてきた。……種別はSNか。まぁ、そうだろうと思ってはいたが。
「なら良かった」
停車。
荷台から2基のコンテナを装備。
「手早く、塵に変えよう」
「
コンテナ展開。
4ゲージ自動式散弾銃“CCWS”と40㎜口径重機関砲“MK-151/40”を取り出しーー
「援護は任せる」
「了解!」
ーー言い切って、駆け出す。
対象はパンちゃん……の通常種か。大きさが十数m程度はあるが。
走りつつ、右腕に保持した“MK151/40”を速射。
腕に伝わる激烈な反動を抑え込み、パンちゃんの表面を抉り飛ばす。
内部の毒々しい生地が見える程度まで損壊させた後、跳躍。
取り付き、同箇所に“CCWS”を突き立てる。
速射。
重々しい音を立てて、25㎜の炸裂弾が爆ぜ、ソフトボール大の生地片が乱れ飛ぶものの、撃破には至らない。
(思ったよりも固いな……)
「陽花、火力投射。目標は分かる?」
『問題ありません。先輩、退いて!』
「了解」
蹴り飛ばし、後方に飛ぶ。
直後、極超音速の砲弾がパンちゃんを貫く。
巨大な風穴が穿たれ、対象は沈黙。
数瞬後に着地。
場所はケッテン・クラートのすぐそば。
「パンケーキを撃破」
行政官に無線連絡。
『もうですか!?相変わらず滅茶苦茶ですね……っ』
「追加目標はありますか?」
『……』
暫しの沈黙。
『いえ、ありませんね。ご苦労様です、輪廻さん』
「……了解」
通信終了。
「……先輩、横領ですか?」
陽花が聞いてきた。
……無理も無い事だ。
今まで使用していた銃火器は全て、ゲヘナ風紀委員会並びに、万魔殿で制式採用されている、または“いた”ものであり、呼称にGWS……Gehena Wepon Systemと付く。
ミレニアム所属の私が使用していれば、横領も疑われる。
「手製だけど」
「違法コピーですよ」
「……陽花。私のゲヘナ時代の役割は?」
「……そうでしたね」
不服そうではあるものの、理解したようだ。
(そもそも、この二つは現役時代の試作品ではあるし……)
風紀委員会の制式採用装備になったのは、私が抜けた後の話。
と、いうより“CCWS”については、採用する事自体がおかしいよ?
「……さて」
パンちゃんの死体に近付き、必要量の組織片を採取。
集め終わり、向き直ると、見覚えのある白髪の少女。
「……お久し振りですね、空崎……委員長」
「えぇ。……と、言っても3ヶ月ぶりかしらね」
風紀委員会の長、空崎 ヒナ。
俗にキヴォトス最強と呼ばれたりもする人物だが、実態を知る私としては“真面目な先輩”、という評価。
「ミレニアムに転校したと聞いているけれど、退学になったのかしら?」
「いいえ。今日は材料調達……といった所ですね」
「なるほど。……つまり、パンケーキが必要だったから加勢した、と」
「はい」
話が早い。
何処ぞの行政官殿は頭が固いからね。
「……相変わらずね」
「……後始末は他の風紀委員に任せて構わないわ。……休める時に休む事も必要よ」
「委員長が言うと、説得力がありますね」
「そっくりそのまま返すわ」
背を向けて歩いていく空崎委員長を見送り、私もケッテン・クラートに向かう。
「……今度は何処に?」
「言う必要ある?」
「そうでしたね。…………では、また」
陽花と短い別れの挨拶をし、走り出す。
数十分後ーー
普通はおかしい事がゲヘナでは普通である。
例えばーー
「開いてる?」
他校の生徒が学生食堂を利用する事とかだ。
「まだ開いてなーーって、ハユハッ!?」
小柄な少女が目を丸くする。
それは、いる筈の無い人物がいたからだろう。
2本の角が生えた、小柄ながらもエプロンの似合う彼女は愛清 フウカ。
ゲヘナ学園の給食部を統べる存在。
「来るなら事前に連絡を……って、していたわね」
「昼食を摂りに来た。……パンケーキはある?」
「……開口一番がそれなの?」
死んだ魚のような目で呆れられる。
まぁ、パンちゃんがいつもある方がおかしいか。普通は。
「……パンちゃんはいない。けれど……」
厨房に目をやれば、そこには赤毛の少女。
ーー牛牧 ジュリ。
給食部の部員であり、大半のゲヘナ生徒から給食部が嫌われる原因の一端。
ジュリの手には6本脚の……ダニのような何かが抱えられていた。
「……パンちゃんの錬金に失敗したの?」
「何時もパンケーキを作っているみたいに言わないで下さいよぉ!?」
憤慨するジュリを尻目に、厨房の中に入る。
状況を確認。
幸いと言うべきか、今回の錬成物は抱えられた一体だけ。
「……その子、酸性の液体を吐いたりしなかった?」
後、羽を生やして飛んだり。
「……どうして分かったんですか?」
「……」
本当になんて物を錬成したんだ。
何処ぞの企業に拉致されるよ、ジュリ。
……まぁ、それはさておき。
「……食べれる……かな……」
処理しよう。
「「食べるの!?」」
驚愕する給食部。
「放置すれば厨房が吹き飛ぶだろうし……」
酸を吐くなら、多分……自爆はしない………とは言い切れない。
ジュリの手から件の生物を取り、一思いに齧り付く。
食感は蝗のソレに近い。まぁ、見た目通りだが…………味はいかんともし難い。
強いて近い物を上げれば、“ホンオフェ”と“キビヤック”を合わせたような味か。
(一般生徒は食べられないね……)
もはやパンちゃんが可愛く思える。
とは思いつつも、全て食す。
「……ど、どうだったの?」
恐る恐る、聞いてくるフウカ。
「ホンオフェとキビヤックを混ぜたような風味」
「……要するに不味いのね」
呆れ顔。
各々、単品としては珍味程度で済むが、合わさると劇物である。片方は構成物質にアンモニアがあるし。
「栄養があるかどうかが問題かな。……元々、何を作ろうとしたの?」
「えっと……アヒージョだったかな……」
「…………」
どうしてこうなった。
まるで違う物が出来ているじゃないか。
因みに、ジュリの料理は見た目、味こそアレではあるが、摂取できる栄養素は元の料理、材料のままではある。
つまりはーー
「脂肪分多め。カロリーも高い、か……」
脂ぎった料理を食した事にはなる。
バランスを取るのは難しそうだ。
「必要なのは生野菜……よね?あるにはあるんだけど……」
フウカが言葉を濁した直後、
「私をお探しかな?」
やけに渋い男性の声が聴こえた。
声の聴こえた先を見ると……人型の人参。
大きさにして、小学校高学年の女児程度はある。
いや、それ以前に話しているし……。
「私を食すつもりなのだろう?だが、そう簡単に出来るとは思わんこーーごふっ!?」
長くなりそうだったので、腹部と思われる部分に膝蹴りを叩き込む。
それだけで、件の人参は真っ二つになった。
(なんだ、耐久力はそのままか)
ヘシ折れた上半身?を掴み、齧っていく。
味も普通の人参だ。強いて言えば、新鮮さが足りない事か。自立行動している時点で、ある意味当然だが。
テーブルに置かれた塩胡椒で味変しつつ、フウカに問う。
「……で、この人参もジュリが?」
「いや、貴女の親友産よ……」
もはや見飽きた呆れ顔。
私の親友……つまりはーー
「またやらかしたの……」
ーーフロナが作り出した、ということだ。
フロナは薬物製造や品種改良(双方共に合法、違法問わない)が趣味だった筈。
ならば絶対、数種類は試している筈だろう。
後日、氷室部長と共に締め上げるとして、今は対処が先。
「……開店は何分後?」
フウカと共に、壁掛け時計を一瞥。
「「…………1時間後」」
声がハモり、互いにアイコンタクト。
「了解。掃除の準備をお願い」
「何で何時もこうなるの!?」
そして、自立行動する野菜の収穫が始まった。
無論、食堂は荒廃した。
精々、派手に砂煙が舞ったくらいか。
ゲヘナはいつもこうだよね……。
以上、第6話でした。
グロとおふさげのミックスですね。
書き散らしてるネタの何割が分かるのやら……。
尚、Pixiv版では5話毎に答え合わせが可能です。
概ね内容が同じな為、ハーメルン版にも適応できますが、一部意図的に変えているので適応できない所もあります。主に兵装の名称ですが。
では、今回はこの辺で。
拝読ありがとうございました。