次回から普通に死人やら露骨な性的描写が出ます。
駄目な方はブラウザバック。
代表作を知っている人的には普通の表現ですがね。
久し振りのゲヘナ行きを終え、今日から再び平日。
学生の本分は勉学、とはよく言うが……それはキヴォトスでも当然である。
……軽視している生徒は数え切れない程にいるが。
(ま、教科書通りの授業は教師の怠慢だけどね)
先程までの授業に毒吐きつつも、実習棟に移動。
部活の時間だ。
作業着に着替え、活動内容のリストアップ。
(整備依頼品は……あまり無いか)
珍しい。
ここ最近、異様に多かったが故に感覚が麻痺しただけかもしれないが。
(まぁ、そもそも分解整備や改造程度は出来て当然だけど……)
お嬢様や不良ならまだしも、ミレニアム生徒なのだから。
「こんにちは、ハユハさん」
と、考え事に耽り過ぎたようだ。
コトリの声で現実に復帰。
「今日の予定は?」
「今日ですか…………試作品のテストぐらいですかね?」
「試作品……また、お遊び?」
「酷い言い草ですね…。今回はマトモですよ?」
「だと良いけれど……」
溜息一つ。
作業場に戻る。
依頼品を一瞥。
(突撃銃……標準型Type-A型のみか)
症状は全て作動不良。
おそらく清掃していないか、弱装弾を撃ったか。
(まぁ、見れば解る事か)
1挺手に取り、分解。
……ガスチューブが詰まっている。
まずは清掃不足か。
標準型Type-Aの作動機構は
作動原理的に、汚れやすく掃除も難しい。
反面、ピストン式よりも振動が少なく、射撃精度は良いのだが……。
(所謂、“面倒臭い女”みたいな機構)
ーー銃器は“女”と同じ。
よくそんな事が言われる。
手を掛けた分、確かに応えてくれるーーという点で言えば、私達哺乳類の雌よりもマシではあるが。
つまり、この機構は銃器に……武器に求められる状況には向かない。
そもそも、このガス直接噴射式を含む“ガス圧力駆動式”は大口径弾を楽に扱う為に生まれた機構だった筈で、5.56㎜弾が台頭した理由も反動制御を楽にする為……だったか。
要するに、目的は概ね同じなのだ。違いがあるとすれば……付加価値。
なら、態々面倒臭い構造を採用しなくてもーー
(ーーなんて、後の世を生きているから言える事か)
余計な事を考える余裕がある程度には、一般的な整備不良。
それは、コトリも同じようだ。
「
「量産効果のおかげでType.Aは安価。……安物を長く使おうなんて誰も……特に学生は思わない」
飽くまで、一般人な大衆を想定した場合だ。
だからと言って、百鬼夜行標準型突撃銃を使えとは言わない。特に弎型と肆型は高過ぎるし。
「同年代を何だと思っているんですか……」
もはや見飽きた程の呆れ顔をしながら、コトリは整備済みの標準型Type.A突撃銃をラックに掛ける。
「思春期の子供」
続けて私も清掃、組付を終えた突撃銃をラックへ。
「貴女もですよ!?」
「知ってる」
それはそう。
でも、環境次第で人はイカれるもの。……私みたいにね。
「…………何かあったんですか、ハユハさん?」
とはいえ、コトリにとっては今の私に違和感があるようだ。
些細なものに限らずとも、変化というものは自分では気付きにくい。
「別に。平常運転」
「本当ですか?そのわりには辛辣さが増してますよ」
それもいつも通りだとは思うが……そうなるであろう理由は説明出来る。
「…………久し振りの現場に当てられたのかも」
「現場?」
「昨日、ゲヘナ自治区で風紀委員と関わりがあったから」
「古巣の人達に会った、と。…………ん?当てられた……?」
「
「何してるんですか……」
「相変わらずの委員長一極状態だったから。見ていられなかった」
本当の理由は違う。が、理解しやすい理由もあった方が良い。
……詐欺師の考え方だろうか?
ここは紳士達の国じゃないのに。
「いや、
「普通、“組織”はそうあるべきだけどね」
ワンマン経営(方式)は迅速に動ける反面、独裁体制を生み、転じて組織の腐敗に繋がる。
それで破滅した会社や組織が数知れない。
ゲヘナ自治区の治安維持という点で言えば、空崎先輩以外は
仮にも治安維持組織の上層部。それが犬猫同然ならば、意味が無い。
などと、軽口(と、評するには世知辛いが……)を言い合いつつ、数分後には互い分解整備が完了した。
整備依頼品を纏め、出来た自由時間。
試作品運用は部長達が来てから、との事だ。
故に、読書に興じる。
「……“ファウスト・フィーベル”?また変な本ですね……」
が、コトリ的にはお気に召さない本らしい。
「暇潰しにはなる」
ブラックマーケットで叩き売りされていた教本だが執筆者がビールをキメてるようで、
「そもそも、
まぁ、そうだろう。だけど、何処にでも例外はいる。
例えばーー
「
そして、
「特殊なケースを出さないで下さい……」
特殊かな?遥か昔の百鬼夜行連合生なら、やりかねないのだが…………これは不謹慎か。
「ハユハさんが思い浮かべる普通はゲヘナ基準ですからね?」
「否定はしない」
普通の基準は人各々。当たり前だ。
読み終えた“ファウスト・フィーベル”を閉じ、鞄の中へ。
「……暇なら他の本を貸す?」
「それも良いですが……どんな本がありますか?」
さっと中身を一瞥。
「“レキシントン歌集”と“あの人を見よ”辺り?」
「どっちも難解な物じゃないですか!?」
ミレニアム生にとっては児童書みたいな物だと思うけど?
そもそも、キヴォトスでは“ヴォイニッチ手稿”も普通に解読されているし。
「ーーでは、これはどうでしょうか?」
何処からか差し出された本を受け取り、一瞥。
そのまま背後にいるであろう“誰か”に向かって口を開く。
「“神はこう語る”か。また面倒な物を」
予想した通り、そこにはM.S.Sに似つかわしくない少女の姿。
ーー平たく言えば、トリニティのお嬢様がいた。
「何時からそこに!?」
どうやら、コトリは気付いていなかったらしい。
警戒心が足りないね。
「輪廻さんが教本を取り出した時から、でしょうか?」
で、少女の方は悪びれるでもなく、普通に続ける。
「明らかに隠れる気だったから、泳がせた」
「意地が悪いですね、輪廻さん?…………さて、そちらの方には……自己紹介がまだでしたね」
少女はコトリに向き直り、会釈と共にカーテシー。
「トリニティ総合学園二年、
「ご、ご丁寧にどうも…。ミレニアム・サイエンススクール一年、豊実 コトリです」
「……で、要件は?」
冷やかしだけで、少女ーーもとい、ウルカは来ない筈だ。
「少々、入用の品を仕入れに」
「種別は?」
「13.7x95㎜対戦車ガス弾と5.56x45㎜インジェクション弾を各々3ボックス程」
どちらも
ハーグ辺りに抵触しないか?
「……用途は?」
「自らの偽善に殉ずる、人外の淑女達への教育用です」
「…………準備する」
おそらく相手は
「料金は後程貴女の口座に振り込みます」
「今回は不要。……どうしようもない愚物の為に浪費する物じゃないから」
現代の
無論、極僅かに
ロッカーから指定の弾薬を3ケースずつ取り出し、ウルカに渡す。
「ありがとうございます。……もう一つ話があるのですが……」
弾薬を受け取った直後、雰囲気が変わる。
所謂、仕事人の雰囲気。
(厄介事、か)
エンジニア部を巻き込む気は無いし、別所で話すべきだね。
「……場所を変えよう。コトリ、後は任せた」
「また厄介事ですか?」
「多分」
短く答え、実習室を出る。
「……畏縮させてしまったのでしょうか?」
廊下を歩きつつ、ウルカは申し訳なさそうに言う。
「多分大丈夫。……本物のお嬢様に慣れていないだけ。実際、ウルカよりは
キヴォトスの学生が馬鹿騒ぎするのは日常だが、それにも当然金はかかる。
予算カットは死刑宣告みたいなものとなる。当然だが。
「恐怖の質が違いますよ?」
「それはそう」
話を打ち切り、空き教室へ。
扉を閉じると共に、再び気持ちを切り替えたらしいウルカが話し出す。
「……2週間程前からトリニティ、ミレニアム双方の自治区外縁での生徒失踪事件が発生しているのは知ってる?」
先程までの雰囲気とは打って変わった、かなり砕けた口調。
こっちが
「一応。……二校共に失踪した生徒の法則性は無く、ヴァルキューレは身代金目的で捜査の筈。当然、捜査は難航している」
ヴァルキューレが無能なのは今に始まった事ではないが、世間体を鑑みれば、今回の事件はそれなりのイメージダウンにはなるだろう。……飽くまで、キヴォトス内に限った場合だが。
「……何処が一応?」
充分知ってるじゃん、とでも言いたげだ。
「一応、情報源があるからね」
そう。欲しくもない情報屋モドキがいる。
「情報源?もしかして後輩?」
ピンと来るか……。
「そういう事。……続けるよ。ミレニアム、トリニティ共にセミナー、ティーパーティーの要請を受けた、C&Cと正義実現委員会が捜査中…………トリニティは合ってる?」
「……合ってる。自警団も動いてはいるね」
「被害が増えそう」
「……そこまで雑魚じゃないと思うけど?あぁ、それとハユハ、多分セミナーに引っ張られるよ」
「だろうね。……気には留めてる」
どうせ悪い方に現実は傾くし。
「で、ハユハはどう見る?」
「犯人の件?位置から察するに土着の屑……か、それを金と生娘の処女で雇った屑かな?」
「どっちにしろ屑、と」
「寧ろ屑以外の選択肢があるとでも?」
「あるにはあるんじゃない?もうすぐトリニティはうるさくなるし」
五月蝿くなる?
…………あぁ、
「なら、ウルカも気を付けないと」
「分かってるよ。お茶会に呼ばれるのは嫌だし」
ウルカは小さく笑い、
「……要件は以上です。失礼しますね、輪廻さん」
お嬢様らしい調子に戻る。
去っていく後ろ姿を見送り、私も踵を返す。
実習室に戻ると、エンジニア部主要メンバーは勢揃い。
「漸く来たか。“接待”は終わったかい?」
……接待、か。
コトリはどう説明したのか。
友人との話を曲解し過ぎている。
「はい。……中々興味深い経験でしたね。……それで、今から試作品のテストですか?」
が、今は本題に入ろう。……そして、出来る限り早く処理しよう。
数分前の懸念の為に。
「あぁ。とはいえ、そこまで難しいモノではないさ」
「と、言うと?」
「戦術支援AIの運用テストを頼みたい」
戦術支援AI。
利用者の思考、行動傾向から最適な行動を提示し、また生存確率の向上を補助する人工知能。
外の世界でも珍しくはない技術だ。
それ故に、確かに難しい物ではない。
「戦術支援Alですか。……嫌な予感がしますね」
とはいえ、開発元が
そう思える前科は……数えるのを止めたね。
「そう警戒するのは止めてくれないか。…流石に傷付く」
白々しい言葉だが、拒否する理由も無い。おそらく、拒否権も無いが。
私物にインストールされていないなら、無視も出来る。
「一応聞きますが、ネットの海からサルベージ……なんて事はしていませんか?」
「……勘の良い技士は嫌いだよ?」
図星か。わざとらしく、何処ぞの畜生の言葉を引用するとは。
溜息一つ。
「……サルベージしたみたいですね。それで、抽出したのはメスゴリラ辺りですか?」
もし、そうなら大分扱い易い。……哲学的な事を言いそうだが。
「いや、もっと私達らしい子さ」
子、か。少なくとも女性型AIなのだろう。
「……エンジニア部らしい?」
「すぐ分かる」
「……」
起動。
『やっと来たわね、キヴォトス女郎!今日も!お前が頑張るんだべさ♪』
ホログラム投影されたのは、ピンク髪の少女。
「……確かに、相応しいですね」
……このキャラは…………遥か昔のアーケードゲームのキャラクターだったかな?
厳密に言えば違うだろうが、強引に当て嵌めれば職業はパイロット兼整備士なので、然程ずれてはいない。
「……おばさんの方はサルベージしなかったんですね」
「なんで今アイツを……ぐぎぎぎ……っ!」
あ、キレてる。疑似人格でも禁句は健在なのか。良く調べていますね。
「おばさん……誰の事だろうか?……まぁ、いい。AIのメインデータは既にハユハのスマホに転送済みだ。暫くの間、テスト運用を頼みたい」
「拒否権を与えるつもりも無かったんですね」
ある意味予想通り、退路は潰されていた。
詐欺師の手段か。
「それと…………サブAIも実装している。こちらはヴェリタス側からの依頼だ」
起動。
「オマエガワタシノ御主人ヵ?マァ仕事ハヤルカラ安心シテクレ」
……こちらも何処かで見たような白髮の少女。
「……白百合猫の方は?」
「あぁ、あの娘か。サブAIの効率が低下らしく、未実装との事だ」
…………理性が中学生男子並みだからね、あの狐。
「教本廚の実装はーー」
「今回はしていない」
「実装はいつ頃になります?早々にシャリーとチェンジしたいので」
お子様のお守りは疲れるからね。
『お前、まさかシャリーを削除する気?ま~さ~か~ねぇ~?』
ほら、こんな風に。
「……問い合わせておこう」
数瞬後、部長は了承を表す。形だけかも知れないが。
「お願いします。……では、軽くテストを始めますね」
「ちょっと待ってくれ。こっちのテストも頼む」
指し示された先にはMPUが鎮座している。
「“デッドボーダー”の改良品ですか?」
アレ、原作再現が行き過ぎて扱い難い代物だったんですけどね……。
「違う。アレよりはもっと現実的」
「だと良いですけど」
猫塚さんの補足を聞き流して、置かれたMPUを背負い、何時もの射撃場へ。
『へぇ……射撃のトレーニング?』
「そういう事。まぁ、シャリーの実力を図る意図の方が大きいけど」
『シャリーの実力を疑ってるわけ?』
「想像に任せる」
言いつつ、射撃場のモニターを確認。
(オールレンジトライアルか。レベルはVeryHard)
まずはショートレンジらしい。
MPU連動型のHUDを装着し、内蔵武装から自動式拳銃を選択。
(視線選択は便利と言えば便利か)
精度に問題があるが。
展開し、突き出る二挺の.44口径大型自動式拳銃“Auto Veg”。
マグナムオートである。
部長達の選択に頭が痛くなる。実戦向きの銃器を搭載してほしいものだ。
『また随分と酔狂な物を使うのね。まぁ、シャリーも嫌いじゃないけど』
「品評は不要。座標と弾着観測、索敵が出来れば良い」
『了解。始めるわよ女郎!』
同時に立ち上がるターゲット。
即座に腕を傾け、“Auto Veg”の銃爪を絞る。
発砲。
反動で腕が曲がりーー
次の標的に合った所で再度発砲。
数が多いなら、“馬賊撃ち”は便利だ。
『ターゲットダウン!』
「リロード中。次のターゲットは?」
言いつつマグキャッチを開放。
空弾倉が落下。
MPU上部に突き出た予備弾倉に
スライドロック解除。
同時に、次のターゲットが立ち上がり、各々に赤いマーカーが重なる。
『HUDに表示済みよ!』
「了解」
再び馬賊撃ち。
数秒でターゲットを撃ち抜き、リロード。
モニターの表示が変化。
『次の目標は中距離。最適解の武装を出すわ!』
背負うMPUが展開。
突き出るのは“MR-15A4”……ミレニアム制式突撃銃 標準型Type-A-Mod.1Ver.4。
あまり好きではないが、これもトレーニングだ。
ハンガーユニットに”Auto Veg“を装着、格納。
代わりに“MR-15”を掴み、機関部後方のハンドルを引いて初弾装填。
照準。
一瞬だけ銃爪を弾き、発砲。
ターゲットの頭部に風穴が開く。
本来、この銃器には3点式の“バーストリミッター”機構が施されており、フルオート射撃は不可能である。
まぁ、別のミレニアム制式突撃銃の中にはそもそも速射出来ないセミオートオンリーの物もあるが。
そっちを積んで欲しかったものだが、文句を言う暇は無い。
強引な単発射撃でターゲットを射貫いていく……が、
一ラウンドが終わると共に、装弾不良。
(わざとか、部長?)
エンジニア部の用意した物が整備不良を起こすとは考えられない。
と、なれば不測の事態をわざと起こさせたのだろう。
(試験の有用性チェックですね)
無意識的に関部右側面にあるノブをタップ。
ボルトを強引に押し込み、発砲。
原理だけ見れば、意図的に起こす暴発現象ーーつまり、“ファニング”である。
撃ち切り、弾倉交換。
次はバーストリミッターを利用。
ターゲットに三発ずつ撃ち込んでいく。
動作不良は起こらない。
(やっぱり、故意的か)
仕込んだのは猫塚さんか部長だ。
後で問い詰めよう。
『最後、ロングレンジ!武器は……何だべさこれ!?』
驚愕するシャリーを無視し、武装交換。
手にするのは、7.62㎜小銃“HS-700”……だが、何故か取り付けられた照準器が等倍のドットサイト。
(ついにふざけ始めたか!?)
確かにスペシャリスト(笑)は道具を選ばないけども。
(ともかく、お望み通り……やるだけやりますか)
備え付けの簡易照準器を使用し、発砲。
『あの距離で当てるとか…女郎、イケるべ!』
「紛れ当たり。HUDに望遠機能はある?」
『……あるみたいね。起動するわよ』
照準修正。
発砲。
今度も命中。
けれども狙って、の命中である。
やはり道具は選ぶべきだ。選べる中で、という前置きが付けども。
残る残弾分も命中させ、モニターには今回の成績が写される。
『75点。まぁ、女郎にしては調子が悪いんじゃない?』
「使い慣れない装備だから。……でも、必要なのは完璧じゃない」
『最適、って事?』
「そう。“完璧”なんて存在しないから」
装備を格納したMPUを背負い直し、射撃場を出ーーようとしたが、
『ーー未確認対象が接近中。警戒して』
シャリーが制止する。
このMPU、人感センサー等を搭載してーー無いか。
なら、私のスマートフォンの集音マイクを流用したのだろう。大したAIだ。
「……一人か。SMGは無いみたいだから、HG」
『分かったわ』
左手で“Auto Veg”の銃把を握る。
ハンマー、コック。
安全装置は外れている。
今度こそ射撃場出て、
「取り込み中に済まない。輪廻さんはーー」
実習室の扉が開くと共に、銃口を向ける。
「ーー随分な歓迎だな」
相手も殺気を感じたのだろう。
隠し持っていたであろう、リボルバーをこちらに向けて言う。
(“エングリーヴN2”……随分と古風な物だ)
装備の確認は一瞬。次いで、相手の姿を一瞥。
長身褐色肌の少女。そこだけ見れば、ある程度はありふれた存在。
しかし、フレンチスタイルのメイド服を纏うような連中はミレニアムに於いては少数……いや、一つの部活動だけ。
「……角楯さん、用件は?」
角楯 カリン。C&C所属の2年生。
あまり関わりたくない組織ではあるが、現状敵ではないか。
「まずは銃口を除けてくれないか?私に警戒される謂れは無い」
「まぁ、そうだね」
“Auto Veg”の安全装置を掛け、MPUに格納。
同時に、角楯さんも“エングリーヴN2”をしまう。
「それで、用件は?」
「セミナーから貴女を連れてくるように言われてね……。来てくれるだろうか?」
「理由はある程度は察してる。生徒会室に行くと良い?」
情勢的には十中八九、失踪事件の事だろうけど。
数分後、角楯さんと共に生徒会室に入室。
中には案の定と言うべきか、
「リーダー、輪廻さんを連れてきたよ」
「……テメェが輪廻か」
リーダー、と呼ばれた目付きと態度の悪い赤毛の幼女が私を値踏みするように見る。
ーー確かこの人は…………美甘 ネル。C&C所属の三年だったか。
わりと実年齢と身体の成長が反比例している存在がキヴォトスに多い故、別に不思議とは思わない。
が、美甘先輩の視線が不快である事は確か。
「柄が悪いですね。カタギに手を出すようでは、ヤクザ失格ですよ?」
少し、仕掛けよう。
「……テメェも大概失礼だな?カタギとヤクザの違いも解らねぇか?」
結果は概ね予想通り。つまらない人だ。
「解りますよ。……解った上で、わざとやっています」
初めから喧嘩腰で迫ってきたのはそちらですしね。
「まぁまぁ、リーダー。そのくらいにしてあげて下さい」
仲裁に入ったのは、優しげな女性。……いや、年齢的には少女か。
「お気遣いは結構ですよ、室笠さん」
室笠 アカネ。C&C所属、2年生。
「あら、そうでしたか。あのままではウチのリーダーが暴れだすかと思いまして」
「……確かに。仕事に関係しない形での損害賠償計上は問題になりますからね」
「よくお分かりで」
「貴女もその一要素では?……硝酸の匂いが取り切れてませんよ?」
「……そうでしょうか?随分と鼻が効くようですね……」
本質はそっちか。
「…………まぁ、今は敵対する気は無い。それよりもーー」
改めて、視線を変える。
会議室の奥ーーそこにいる、黒と銀の少女達へ。
「……今回はどのような要件ですか、生塩先輩?」
銀髪の少女ーー生塩 ノアが苦笑し、視線を横へ。
早瀬先輩の方だったか。
「また、
「いいえ、違います。今回は“元”ゲヘナ風紀委員としての輪廻さんに要件があります」
……予感的中。
まぁ、フロナに言われるまでも無く、予想はしていたが。
「コイツがゲヘナの風紀委員?」
一方で、美甘先輩は半信半疑らしい。
無理も無いか。人相やらはとても治安維持側のソレでない事は理解している。
手元のタブレットを一瞥し、生塩先輩は言う。
「事実ですよ。…………輪廻 ハユハ。元ゲヘナ風紀委員会保守整備部門管理責任者。何らかの理由により脱退。現風紀委員会行政官に確認を取りますか?」
私の経歴の一部を。
「いや、いい。話を戻してくれよ」
それだけ知れれば充分、とでも言いたげだ。
実際、その通りである。今は必要無い。
「分かりました。…………輪廻さん。ここ数週間前からミレニアム生の失踪事件が起きている事は知っていますね?」
「人並み程度には」
つい数十分前にもやったやり取りだ。
「手間が省けるのは良い事だわ。C&Cの方で目下調査中ですが、輪廻さんの見解は?」
見解、か。
聡明な生徒会の事だ、結論は出ていると思うが……敢えて、第三者の意見が欲しいのだろう。
異物の定期検査みたいなものかも知れないが。
なら、期待には出来る限り応えよう。……安寧の為に。
「身代金目的ならば、トリニティ学園生だけを狙う方が実入りは良いでしょうね。けれども、今回の事件はミレニアムも被害を受けている。……と、なれば技術力を宛にした線が高い。まぁ、セミナーなら既に辿り着いている結論でしょうけど」
視線を生塩先輩に向けると、苦笑が返された。
想定内の回答らしい。
見識を続ける。
「ブラックマーケットといっても区域は広い。情報から察するにミレニアム、トリニティ双方の自治区に近い所となると、対象はある程度絞れます」
一息吐き、C&Cの方々を一瞥。
約1名、退屈そうにしているメイドがいるが無視。
アレは感覚で生きている。
「まずはヘルメット団…………は、あり得ませんね。ミレニアム生を使うならば、主にオートマタ等の整備となりますが……配備できる連中は既に風紀委員会や正義実現委員会が潰しているでしょう」
基本的に杜撰な学生の組織故に、デカい組織は容易に炙り出され、蹂躙される。
「次に、カイザー系列の下部組織を筆頭とする裏組織の線は……まぁ、こちらも他校の生徒を狙う方が良いでしょう。臓器売買目的なら、栄養剤で生きているようなミレニアム生徒は不適切です」
臓器売買を考えるならば、最適解はこちらも百鬼夜行生辺りだろう。
慢性的な栄養不足が懸念されるアビドス対策委員会、レッドウィンター生の臓器はキヴォトス基準では虚弱過ぎるし、化学物質で体内を汚染されている可能性が高いゲヘナ、山海経、ミレニアムも拒否反応等が起こるだろう。
消去法的に、残るのはトリニティと百鬼夜行。後はリスクの高いヴァルキューレ。
危機管理能力と自治組織の機動力を考えるなら、百鬼夜行生が一番無難な選択となるか。残り二校は曲がりなりにも、金持ちと治安維持組織だから。
「ーーと、なれば残るのは最悪の選択肢だけ。
一区切りを付け、早瀬先輩へと視線を向ける。
「アリウス?何でアイツらが?」
真っ先に疑問を発するのは美甘先輩。
「…………“エデン条約”、ですね」
ーーエデン条約。
連邦生徒会会長が橋渡しとなり、締結直前まで来ているゲヘナ、トリニティ間の不可侵条約……だったか。
長らく対立関係にある二校が友好関係を築く歴史的快挙……となるだろうが、これを良しとしない派閥は存在する。
その一つがアリウス分校、というわけだ。
「そう言えば調印式は今月末でしたね」
合点が行ったのはセミナーの方々と、室笠さん。
「おいおい、トリニティの奴らが嫌ってんのはゲヘナだろ?」
一方で、美甘先輩は一般の認識、といった所。
「いいえ。元アリウス分校生に限って言えばゲヘナ、トリニティ双方に嫌悪感がある筈ですよ、リーダー?」
「と、すれば調印式襲撃の準備、というのが可能性ですか。両者の関係に決定的な亀裂を入れる……それが無理でも、ティーパーティーか万魔殿を壊滅させる事が出来れば良いーーと、言った所ですね」
「十中八九、全面戦争になる。しかも、火種はミレニアム製の兵器、と」
全員の顔が歪む。
手を打たなければ、キヴォトスそのものの破滅が起こる事を理解したが故に。
「三大校の三つ巴を狙ってる……って事かよ。悪趣味だな」
「裏に誰かしらの影ーーまぁ、所謂“大人”でしょうけどーーを考えれば妥当でしょう」
キヴォトス全体を紛争地帯とする事で利がある連中は、大人くらい。……それも、軍需企業が主だろうか。
……やっぱり黒幕はカイザーコーポレーションか?
「随分と厄介な事象ですね。事はセミナーの手に負えなそうですが?」
「……いえ、まだ間に合います。ですので、輪廻さんを召集したのですから」
「……分かっていて呼びましたね?」
やはりと言うべきか……この書記、結論ありきで動いている。
厄介な相手だ。
と、思っているとスマートフォンが鳴動。
このパターンは…………秘匿回線か。
と、なると相手はフロナか陽花。
「……先輩方。暫しお時間戴けますか?」
私の目から、意図を察したのだろう。
「構いませんよ。ですが、手短にお願いします」
セミナーの二人は了承する。
「了解」
スマートフォンを起動。
通話に応じる。
「用件は?」
『先輩の元カノさんから依頼があった件の調査結果が出ましたよー』
相手は陽花。業務はどうした?
そして元カノ…フロナ……じゃない。多分、ウルカの事か?
なら、丁度良いタイミングだ。
「簡潔にお願い」
『特に出入りが激しいのはブラックマーケットのBS-66-76地域。そこが怪しいと思いますよ?』
BS-66-76……。
嫌な名前だが…………事態が悪化した確信も得た。
「了解。元カノには後でお礼参りに行くから」
『ついでに私も御礼が欲しいです!』
「考えとく」
通信終了。
スマートフォンをしまい、先輩方に向き直る。
「随分と愛されていたみたいですね。恋愛相談所を紹介しましょうか?」
「結構です。……それよりも、凡その場所が分かりました」
「ソイツぁ上々。で、情報元は?」
「他校のツテです」
明かす必要無いは無いだろう。それ以上の情報網をセミナーは保持しているから。
それよりも、伝えるべき事がある。
「この案件、私一人で行きます。後…………行方不明者のご家族にはお悔みを入れてください」
結末は不幸中の幸い、というには手遅れである可能性しかない。
が、これ以上の被害を止める方法はある。
「そう言い切れる根拠は?」
しかし、人の内心を読む事は難しい。
今回は、生塩先輩も私の思考を読めなかったようだ。
「“BM-S-66-76”」
「……一理ありますね」
理解したらしい生塩先輩は苦々しく言う。
「……詳しく説明しろ」
あぁ、C&Cの方々には説明が必要か。
面倒ではあるし、時間の無駄でもあるが……しょうがない。
「貴女方の安全を考慮した結果ですね。S-66-76はブラックマーケットでも特に治安が悪い地区です。並みの生徒では立ち入る事そのものが自殺行為ですし、分隊規模程度の頭数しか確保できないC&Cでも、結果は同じでしょう」
ある意味驚愕すべき事ではあるが、彼処の連中は妙に戦闘能力が高い上に物量で押してくる。
馴れた奴以外は贄にしかなり得ない。
それ故にーー
「私は一応……同地区の出身ですから、最悪は犬の餌で済みます。使い古しの
C&Cの方々を一瞥。
室笠さんを除き、残り全員がフレンチか、ジャパニーズ。つまり、トリニティ基準では
「ましてや、C&Cの
どちらにせよ、性欲を満たせればそれでいい連中だし、飽きれば殺して野犬の餌にするだけだろう。
とはいえ、言い方が悪いのは事実。
「テメェ…ッ!」
「ちょっと聞き捨てならないかなー?」
「えぇ。一ノ瀬先輩の通りです。………私達を低く見積もり過ぎですね。ーー先程の発言を撤回しなさい、牝豚」
「流石に言葉を選んでほしいな」
C&C全員が怒りをぶつけてくるのも当然だ。
「それは失礼。……別にC&Cの実力を疑っているわけではありませんよ?ですが、何事にも例外がある。……なら、切り捨てられる存在を優先的に使うべきではありませんか?」
視線を生塩先輩へ。
「……人聞きの悪い事を言いますね。他校の生徒は異物故に使い潰せ、と?」
返ってきたのは苦笑と、的確な表現。
「はい。それが賢いやり方かと」
理解が早くて助かるね。
割り切れない奴から死んでいく。
「賢い……ね。輪廻さんには血も涙も無いの?」
今度の質問は早瀬先輩から。
冷血な女、という事だが否定する気は無い。
「そんなもの、既に渇れてます」
あの環境で純粋さを保てる程、私は出来た存在じゃない。
「……死体輸送の準備をお願いしますね」
踵を返し、退出しようとするが、
「待てよ」
それを制止したのは、美甘先輩。
「……何ですか。C&Cにはもっと優先すべき事があると思いますよ」
「部外者が指図するんじゃねぇ。……テメェ一人で行く気か?」
「えぇ。“死んでもいい”存在が行きべき状況ですから」
この世界のドス黒く、穢れた裏側に関わるのは私一人で充分。
尚も言葉を紡ごうとする美甘先輩を無視し、今度こそ会議室を退出する。
(最大限の健闘をーーって、ね)
さぁ、向き合おうか。
分かりきった最悪の現実に。ーー今は懐かしき、原初の景色に。
以上、第7話。
ここからオルタ版。
その為、Pixiv版と同じ時系列に属する外伝作品“借り物の義務”と矛盾が生じてます。
では、再度警告を。
次回から死人が出るようになります。
ついでに言えば、キヴォトスで存在が確認されていない“
どういう大人かは…………まぁ、僕の作品恒例の“アレ”です。
今回はこの辺で。
拝読ありがとうございました。