現実を見ろ。
世界は己の認知した総体に過ぎない。
故に直視しろ。
それが生きる者の義務であり、死者が示す理の価値である。
会議室を出て、一度エンジニア部に戻る。
自分のロッカーから2基のMPUを持ち出して駐機場へと走る。
(啖呵は切ったものの……燃料が足りない)
あの地区へはそこそこ距離がある。
ケッテン・クラートが古過ぎる車種、と言う点を加味せずとも燃費は“クソ”の一言で片が付く。いや、軍用車輌は大概クソみたいな燃費だが。
今回の作戦内容が(一応は)人命救出である以上、悠長にスタンドに寄る時間は無い。
(……最善策は盗品リレーか?)
ブラックマーケットでも、シンディとキャディは乗り捨てられる程度に転がっている。
(うまく行けば、ジョリ缶ぐらいは積んでいる車両も…………無いか)
やってる事は
しかし、件の作戦は解決方法が三位面なだけで、必要に駆られて行われたもの。
即ち、(当時比)最善策だった。
(さて、何台乗り捨てる必要がーーーー無いみたいだね)
視線の先、駐機場の愛車に寄り掛かる見慣れた……本来はいない筈の少女。
プラン変更を考えるべきか。……上方修正で。
「遅いよ、ハユハ」
愛車に寄り掛かる少女ーー君影 フロナは呆れ混じりに言い放ち、姿勢を正す。
「……ウルカの差し金か」
「ウルカ?あぁ……あのお嬢様の名前?」
「“足”の用意で呼ばれたんでしょ」
後に来るであろう質問を潰す為、先に本題へ。
「それもあるかな?」
それもある、か……。
フロナの考えそうな事と言えば、答えは絞られる。
例えばーー
「検体収集?」
「バレた?」
気まずそうな雰囲気は無い。端から看破されると思っていたらしい。
こういうやり取りはゲヘナ時代と変わらないか。
「……検体になる?」
呆れを込め、一言。
スラム街の連中は被検体足り得ないだろう。かつての私達がそうであったように。
劣悪な環境は内臓含め、全てを不良品足らしめる。
仮に使用できたとして、試験段階の生物兵器用素体程度か。
「ならないね。でも……ま、良いじゃん。アイツらは死んで良い奴らだし」
が、フロナ的には生体兵器として作り替える気すら無いようだ。
当然と言えば当然。
流石にフロナとて、何処ぞの製薬会社や幼女を売り捌くグラサン程狂っていない筈。
……何にせよ、時間が惜しい。
「足は何処?」
「別の駐機場。案内するから、その間にブリーフィングをお願い」
足はこっち、とフロナが歩き出す。
彼女を追うように私も歩き出し、促されたブリーフィングを始める。
「……作戦地域はBM-S-66-76。目標はミレニアム一般生徒の遺体回収。……ならびに、クズ共の排除と尋問」
セミナーからの要請としては“救出”だが……それは不可能と言える。
ならば、今後の対策として
「救出……は当然無理かぁ。全員犯して、
「……売れる?」
溜息一つ。
スラム街よりはマシとはいえ、大概のキヴォトス学生の健康状態は悪い。
飽くまで、若さ故のゴリ押しが効いているだけ。……それを“若さ故の過ち”と流せるかは人による。
「性奴隷としては売れる。部品面は無理。溝鼠の睾丸とか
特定災害以下の価値か。酷い比較だが理解は出来る。
「それは同感。遺体の回収そのものは
「邪魔者?」
惚けているね、フロナ?
「C&C。美甘先輩を除けば、おそらく肉壁にしかならない」
前衛を張れる人物が実質的には美甘先輩だけ。他は病人と爆弾魔と狙撃手。分隊としても終わっているとしか言えない。
まぁ、現状でも支援火力が足りない以上、終わっているが。
「あー……ハユハの言わんとする事が分かったよ。役割の配分が終わってるんだね、あの似非メイド部。……と、なると襲撃は私達二人で?ウルカさんとか呼ばなくて大丈夫?」
土地勘があるメンバーの方は良いと思ったのだろう。
「……呼ぶなら陽花。ウルカは体裁的に無理」
が、その選択肢は酷。
ウルカは現在、上流階級の養子となっている。
中世以前の貴族ならともかく、現代の
『品位が下がる』だの『下々の連中がすべき事』だとか宣って。あてにしてはいけないのだ。
…………尤も、ウルカ自体は信用できるし、戦力足り得るが……そのような所に赴く事を彼女の継親達が許す筈が無いだろう。
(ようやく得たであろう“普通”を私が穢すべきじゃない)
もう、住む世界が違うのだ。
あの世界風に言うならば、“人は幸福に生きる権利がある”……だろうか?
戯言としか思えないが。
「体裁的に……?あ、もしかして相当良い所の御令嬢だったの?」
「迦具土家の養子」
「嘘でしょ大分良い所じゃん。……なら、なんで陽花が代替に…………って、わりとあの娘見た目が良いから?」
「唆して、着飾れば馬鹿相手には何処ぞの令嬢に偽装出来る。後は“商品”として利用して正面突入」
良い身分の……見た目の良い少女は、高く売れる。
人身売買では基本的な事だろう?
「倫理的にアウトだよ?」
「分かってる」
ゲヘナ育ちが“倫理観”を語るな、とか言われそうだが。
ともかく、フロナの移動先はヘリ用の駐機場だった。
(ヘリか……)
航続距離的にはギリギリ。
乗り捨て前提になりそうだが、果たして機種は何なのやら……。
「足はヘリ。型落ちも甚だしいジャンクだけどね」
……ジャンク、か。
オートジャイロ辺りか、それともーー
「チップジェット?」
「嫌味かな?」
流石に古過ぎたらしい。
まぁ最初期所か過渡期の機体群では当然。
博物館所蔵クラスだし、ミレニアム以外でも教材扱いだろう。
少なくとも、私が教師なら“ヴァリアント”と同じ扱いはする。
ならば何かと駐機場を見回し、見慣れない機体を探すとーーソレは見つかった。
いかにも……というべき、
「……UH-01Aか。確かに古い」
チップジェットよりは遥かにマシだが、軍用の輸送ヘリとしては最初期の機体。
せめてC型辺りが良かったが、あるだけマシと思うべきだろう。
「片道切符ぐらいにはなるからね」
フロナも理解しているようで、端から乗り捨て前提と見ている。
「確かに。武装は?」
「TNT充填済みの信管付バスタブ」
面白い冗談だ。指摘するのは最後にしてあげよう。
故にまずは最低限の自衛武装があるかどうかだ。
「Mk.60は?」
軍用としての記録通りなら、搭載している筈だがーー
「積んで無いよ?ドアガンは
やはりボケていたか。仕方無い。
「重量オーバーになる。積む筈が無い」
第一、あの悪ふざけは固定翼機で行われた珍事だ。そもそもの積載量で大きく劣るヘリで出来る筈が無い。
出来て、その前段階位だろうか?
「お見通しかぁ。……で、操縦はハユハがする?」
「その方が良い。場所の見当は付いてるし……」
自動操縦は(基本的に)悪手となる。
運転席に乗り込み、起動準備開始。
同時に、視界端にAR投影されたシャリーが出現する。
『機体データ確認……完了。随分と古い機体ね。博物館にでも寄贈すべきよ』
そして、誰もが思うであろう意見を言い放つ。
「残念ながら乗り潰す前提」
返答をしつつも、起動準備の手は緩めない。
『勿体無いべ……』
「感傷に浸る暇は無い」
“勿体無い”精神も度が過ぎれば問題となる。
『分かっているわよ。人命が掛かっているんでしょう?なら、急がないとね!』
計器点灯。
ステータスチェック。
オールグリーン。
グラスコクピット化すらしていない、古き良き……ではないか。普通に不便だ。
(今時は計器他は網膜投影式。……発狂する子もいるだろうね)
便利になったものだ。その分、金掛かるけど。
(外付けの制御ユニットはあるのか。然程金のかからない所は近代化改修しているし……)
スマートフォンを外部接続。
『接続完了。……リンク確立。女郎、ワイヤレスよ?』
「了解」
有線接続解除。
『HUDは?』
「不要。各種安全装置の解除をお願い」
『……サーカスでもするのかしら?まぁ、いいけど……』
怪訝そうなシャリーの声を聞きつつ、作業を進める。
メインローター、テイルローター起動。
定格回転数到達。
離陸。
「お客さんだよ、ハユハ」
フロナの言葉がそれを遮る。
この場合の“客人”は二つしか考えられない。
C&Cかセミナー。
「“荷物”の間違いじゃないの?」
どちらも今回の活動には不適合だ。……より正確には、“キヴォトス”の一般学生には適応できない、が正しいが。
ともかく、運転席から横目で一瞥。
近付いてくるのは、極端な身長差がある赤毛と黒毛のメイド達。C&Cか。
(一応はマシな人選……)
美甘 ネル先輩と角楯 カリン先輩。
離陸後である事を悟った二人は走り出している。
飛び乗る気だ。
「フロナ!」
「分かってる!」
既にフロナはBBAのトリガーを引いている。
威嚇射撃。
数瞬、二人の足が止まる。
そして、その牽制は距離を開けるには充分だった。
喧しい駆動音と風切り音を撒き散らし、UH-1Aが舞い上がる。
キヴォトス基準でも届かない高度まで。
内装系と主機も弄ったか。
片道用にしては随分と豪勢だね。
そして、悠々と私達は目的地へと飛び立つ。
「改めて確認するけれど……今回の相手ーー“
Mk.918の弾倉を交換し、コッキングレバーを弾きつつ、フロナが質問を投げつける。
「構わない。……フロナも慣れてるでしょ?」
「まぁね。躊躇無く吹き飛ばせるし」
今回の敵対勢力は
表に出てくる事が少ないだけで、キヴォトスのスラムでは珍しくもない“非実在住民”。
つまり、何人殺めても罪に問われる事は無い。
“害獣駆除“という名の“大義名分”。空虚な免罪符。
何時までも変わらない、人々の業。
誰に聞かせるでもない思案を振り払い、私は計器を一瞥する。
目標地点まではまだ距離があるのだから。
数十分後ーー
「そろそろ目標地点」
「了解。降下準備は終わっているよ」
なら良し。
計器確認。
燃料計は“L“付近。ほぼ空だ。
予想通りの片道切符。
後は足りるかどうかーー
「シャリー、距離は?」
『7000よ』
「了解ーーーー120秒後に目標地点到達」
到着予定時刻をアナウンス。
『残り500!自動操縦に切り換え完了!後は派手に暴れてあげようじゃない、キヴォトス女郎!!』
「元気の良いAIだね~」
「サブの方にするべきだった」
喧し過ぎる。
「複数あるんだーーって、時間!」
離脱体勢に移行。
直後、廃倉庫外壁に衝突。
朽ちかけの外壁をブチ抜き、メインローターがひしゃげる中、
「交戦開始」
「エントリィッ♪」
私達はヘリから飛び出す。
首にかけていたゴーグル状のHUDを装着。
MPUを前へ。
左脚のホルスターから.45口径自動式拳銃“ISAP-45”を抜き様に速射。
本来、拳銃の交戦距離は数m程度。
現在の敵との距離はそれ以上。
何発かは直撃弾が入るが、殆どが末端部。
致命傷足り得ない。
反面、襲い来る小銃弾は私の胴体を捉えている。
尤も、間に挟まれたMPUの外装に阻まれて届かないが。
注意が私に向いている。狙い通りだ。
「贈り物だよ♪」
本命、と言わんばかりにフロナが何かを投擲。
一瞬だけ視えた“それ”は柄付手榴弾“StG-240“。
数瞬後に炸裂。
爆炎が吹き荒れ、鋳鉄と挽肉のハンバーグ種が宙を舞う。
「弾着。4名排除」
淡々と観測結果を言いつつ、着地。
骨の砕ける軽い音と共に、鮮血と肉骨片が飛び散る。
1人
“ISAP-45”を速射。
着弾。
2人が苦悶に顔を歪め、心臓や肺から血を流し、暫し後に倒れ伏す。
(やはり頭を撃たないと駄目か……)
致命傷では死ぬまでに時間が掛かる。その分、被弾リスクが上がる。
「がっ!?」
鉄山靠の要領で背後にMPUを振るう。
骨の砕ける音が響き、苦悶に歪んだ頭部が吹き飛んだ。
更に1人減。
(折角だから……使おうか)
背後に手を向け、頭の無い死体の胸部から心臓を抜き出し、次の獲物へ投擲。
頭部に直撃。
破裂。
心室内に残存していた血液が飛散し、標的の視界を紅に染める。
驚愕と焦り。一瞬の硬直。
明らかに低下する射撃精度。
それは充分な隙。
彼我の距離は一息ほども無い。
額に掌打。
「がはっ!?」
続けて、地面にやや角度を付けてタッチダウン。
摩擦力など無いように滑る標的に乗りつつ、MPUから手榴弾を展開。
投擲。
爆発。
焼け爛れた複数の肢体が宙を舞う。
これで5人減。
同時に、
蹴り飛ばして跳躍。
骨と肉片が飛散する。
墜落したヘリは1人のクズを引き潰して停止していた。
無論、地面には鮮血の線が延びており、量からして失血死は免れ無いだろう。既に圧死しているが。
無駄な確認を挟みつつも、別の標的の頭上に着地。
両脚で首を挟み、一息に脛椎を捩じ切る。
適当な所に巴投げの要領で投げ棄て、倒立回転。
立ち上がり、周囲警戒。
目視圏内に生きたクズはいない。
(想定より少ないし……弱過ぎる)
私達は正面玄関を蹴破り来訪をした。
普通は蜂の巣を突いたが如く、クズが沸く筈だがーー
(多分“試射中”か……)
ある意味、無防備なタイミングを突けたのは好都合。
残弾僅かの弾倉を交換し、ホルスターに収納。
代わりに、MPUから.45口径短機関銃“IMP-45”を取り出す。
「溜まってるの、ハユハ?」
「多少は。……相変わらず古巣はクソだからね」
「シャリー、複合センサー起動」
『了解よ』
返答と共に、人影が
(50m先の部屋に生体反応複数。……数的に行方不明者とは考え難い……か)
弾倉交換。
思考を戦闘態勢へ再移行。
「背後は任せる」
言い切り、腰から閃光弾を抜く。
安全ピン、レバー解放。
2秒数え、ドア解放。
投入。
閉鎖。
一瞬間を置きーー閃光と爆音。
突入。
頭を押さえ、呻くならず者達の頭部へ“IMP45”をセミオートで2発発砲。
装填弾薬は.45AshChip。
大した防弾具を備えない頭に易々と食い込みーー血飛沫と肉片が舞う。
その様は確認せず、銃口は次の標的へと向いている。
同じように2度発砲。
2人目。
呻き声が止む。
立て直し始めたか。
MPU前方へ。
突貫。
襲い来る7.62㎜の小銃弾が跳弾し、私達には届かない。
彼我の距離は僅か。
勢いそのまま、膝蹴りをクズの股間へ。
生暖かい“ナニか”が潰れる感触。
体勢変更。
“玉”と“棒”が潰れ、脂汗を垂らして悶絶するクズの胸部を蹴り飛ばし、横っ飛び。
肋骨が砕け散り、肉と混じり合って飛散。
心臓と両肺も圧潰。
遠からず死ぬだろう。
3人目。
身体を捻り、薙ぎ払うように“IMP45”を速射。
射線上のクズ2名の胸部と頸部を抉り取る。
だが、まだ致命傷足り得ない。
マグキャッチ、開放。
マガジンリリースと共にしゃがみ込む。
背後にいるフロナの射線が開く。
即座に
売値は付かないだろう。
弾倉が落下し……予備を装着。
コッキングハンドルを叩き、ロック解放。
姿勢を正しつつ、周囲確認。
目視、HUD共に敵影無し。
「「クリア」」
重なるフロナの声。
「……これで全部かな?」
「確認できる範囲では」
答えつつ、奥の扉を開放。
「……やっぱり霊柩車は不要か」
室内を一瞥し、吐き捨てる。
そこには行方不明のミレニアム生徒……だった“モノ”が散乱していた。
衣服を全て剥かれ、結束バンドで後ろ手に拘束された彼女達は皆、動かない。
既に死んでいると、一目で分かる。
何故ならーー頭頂部から股関節まで真っ二つに切開され、筋繊維が露になっているのだから。
……表現が正確じゃないか。
かつて人であったと思われる“表皮”と“骨格”の集合体と、黒ずんだ酸化血液溜まりがあるだけ。
「ありゃりゃ……脳味噌、眼球含む視神経は全部摘出済みだね~」
「……その他、高値で売れる部分もね。外皮が残っているのは気紛れかな」
人類種では基本的、雌の方が高く売れる。
性奴隷としては勿論の事、臓器売買や呪術的理由でも。
「だろうね。女子高生の頭髪も良いウィックになるのに。外皮は……変態がいなかっただけ御の字と思うべきかな?」
そういった業の深い奴の中には、女性の皮膚で革細工に興じたーーなんて事例もあるぐらい。……まぁ、これは極めて特殊な変人の例だが。
精神が崩壊するか、
見慣れた“現実”。
感情の揺らがない“世界”。
「ま、詮索はいっか。一応、“遺体”はあるし。ご家族、ご友人の
おどけるように言い切り、フロナが此方を見る。
『
「まずは残敵掃討。回収は後でも出来る」
地域が地域だ。最悪、回収不も考慮に入れておこう。
「了解♪腐敗具合の差異だけだしね!」
死体に踵を返し、フロナと共に、部屋の出口へ歩き出す。
「……言い忘れてた。ボスは殺さないで。尋問する」
「
そうだ。
予想通りなら、そっちも死体しか無いだろうけれど。
失われた物は何であれ、戻らない。
ならば、少しでも学園の為になる事をすべきだ。
暫し移動し、次の部屋が近付く。
『動体反応有りよ。でも、人間にしてはおかしい奴が混じっているわね……。女郎、多分サイボーグがいるわ』
「好都合。シャリー、抽出器は使える?」
『抽出器?………使用権限が無いみたいね。記憶データを抜き取る気なの?』
「了解。別系統を使う」
答えつつ、ドアを蹴破る。
突貫。
ざっと目に映ったクズは3人。
うち1人は見るからに装備が良い。ソイツがリーダーか。
“IMP45”を速射。
手近な“雑魚”に2発ずつ着弾。
1発目は胸部。
怯んだ直後、次弾が額を貫き、殺害。
弾着確認をする頃には、リーダー格との距離は1mを切っている。
足払いを仕掛け、相手は転倒。
上体を捻るようにして、突撃銃を握る右腕にMPUを振り下ろす。
軽い音を立て、右肘間接を破壊。
千切れ、弾け飛んだ前腕からは断線したであろう配線とロッドの折れたシリンダーが見えている。
やはりコイツが指揮官か。
再度身体を捻り、MPUを振り上げーー首筋を殴打。
亀裂を広げ、千切れ飛ぶ頭部ユニットを掴み、MPUを展開。
対サイボーグ用のデータ抽出ユニットを取り出し、頭部ユニットの接続端子にプラグ接続。
『接続確認。……対象の意識伝送をロックします……ロック完了。記憶抽出作業開始』
装置に搭載したAIが無機質な合成音声で告げ、クズの頭が激しく痙攣し出す。
当然だ。
現在進行形で脳の記憶領域から強引に記憶を切り取られているのだから。
「……作業完了まではざっと数分」
ディスプレイに表示された進捗率を一瞥し、フロナに伝える。
「長いね~」
「古いヤツを入れっぱなしだったからね」
意識伝送を封じた上で抜き出す方が確実。
誰も彼もがそんな器機を常時携帯しているわけが無い。普通に職質対象だ。
「ま、それはさておき。……こっちの死体はどうしよっか?」
部屋内を再確認。
半裸の少女達がいる。
五体満足ではある。死体だが。
(ミレニアムの制服ではない……)
白基調ではあれど、無機質とも言えるミレニアムとは違う、伝統的なーー或いは気品あるデザイン。
おそらく……トリニティ学園の制服。
つまりは、所謂“ご令嬢”というべき少女達。
今し方殺したクズ共にとっては、このお嬢様方はさぞや美味しい“獲物”だったらしい。
手首か親指同士を結束されていたに過ぎないミレニアム生徒とは違い、この
要所に“閂”が施され、胸や股にも通した……緊縛と言って差し支え無い拘束。
(……アラミド、ステンレス、アラクードのドライコイルか)
余程の膂力が無ければ千切る事は出来ない代物。
私の知る限り、これを引き千切れる生徒は片手で足りる程しかいない筈であり、生徒に縄抜けの心得があるとは思えない。……無論、風紀委員会やC&Cもそうだろう。
(こんな物まで使うか……無駄な労力)
奴らの目的は
それならば四肢を千切るか、腱を切断すればいい。
後者に関してはすぐに回復はするだろうが……その前にバラせば無問題。
少女の
つまり、無駄に厳重な拘束はクズ共の趣味。
その証拠というべきか、何人かに施されていた“猿轡”は引き裂いたリボン、或いはスカートを用いており、口腔に詰められた布は被害者が穿いていたであろう下着。
一般的に……というか、
事前に
(……口でもヤったか)
ならば理解できる。大抵の野郎なら、肛門にナニをブチ込む気など無いだろう。……つまり、そういう事だ。
では、何故口を塞いでいるのか?
簡単だ。反抗的な相手に初手から
故に、先に心を壊しておく場合が多い。
さもなくば、男性器を食い千切られて物理的な
だが、尿と便で汚染した猿轡を使用する場合は感染症ーー特に大腸菌由来のものーーの罹患リスクも飛躍的に高まる。
(……そこまで行ったかは分からないが)
涙と鼻水、分解が進み色褪せた精液。
それら体液で化粧の崩れた醜悪な顔。
どの程度反抗したかは推測の域を出ない。
が、“経験上”反抗する程にクズ共の劣情は増す。
上級市民としてはおろか、女性としての尊厳すら削ぎ落とされた少女達は“肉便器”と化したのは確実。
剥き出しの女性器と肛門から溢れる精液、歯形の付いた乳房が凄惨さを物語る。……まぁ、これも見慣れた光景だが。
『抽出完了。プラグを対象から引き抜いて下さい』
合成音声が作業完了を告げる。
プラグを引き抜き、
「シャリー」
シャリーに指示を出すがーー
『既に送信済みよ……』
ーー意を汲んでいたらしく、事は済んでいた。
が、シャリーの声は重い。
今までの情景はAIにもキツかったのか。
「一報、入れたんだね?……直接?」
何をしたかは、フロナも状況から察したようだが……部分点である。
「まさか。……どうせ来る似非メイド達の飼い主にだけ」
「回りくどいなぁ……って、ねぇハユハ」
ぼやくように呟いていたフロナは何か見つけたらしい。
「何?」
「妙に高尚な文章があったよ」
「高尚?」
「そう、屑らしからぬ高尚なやつ」
見る?、と突き出された紙を受け取る。
一瞥。
ーー偽善者に正義の裁きを。
“蛮神の槍”では裁き足り得ない。
槍に注ごう。堕天使の願いを。
されば必然の破滅が生まれるであろうーー
「……」
握り潰す。
「戻るよ、フロナ」
意味は理解できた。
事態は予想よりも深刻化していたらしい。
ーー以上、第8話”知り得ない現実”でした。
オリジナルとは大分変わっていますね。
気になる方はPixiv版をどうぞ。そもそもサブタイトルすら違いますがね。
では、今回は登場した弾薬の解説でもやりましょうか。Pixiv版では出てませんし。
まずは45AMBーー元ネタは”45ACP”ですね。
本作の名称はAutomatic Military Ballの略です。別に軍用弾限定というわけではありませんが。
次に、AshChipの方はシルバーチップが元ネタ。定義は色々とありますが、本作の場合は厚めのメッキを施した物です。本質的にはソフトポイント弾ですね。
では、今回はこの辺で。
拝読ありがとうございました。