まあまあ適当に書いているので、物理の教科書とか作品の設定資料集とかは読み込めておりません。
物理についてはお目溢しを。設定の矛盾についてはコメントでお知らせ願います。
それでも良ければ、どうぞ。
目覚めの1
目を覚ますと、薄暗い部屋だった。
床に石畳が敷かれ、四方を石壁に囲まれたその部屋には、ぼろぼろの木の扉以外に、家具はおろか窓さえ存在せず、ここは牢屋だと説明されれば納得してしまうような、恐ろしく殺風景で息の詰まるような部屋であった。
こんな所に閉じ込められる道理があったのだろうか、と記憶をさらってみても、そんな物は無かった。
道理どころか、それを確かめる前後の記憶そのものが無かったのだ。
驚いて自分が何者なのか、
それはそうだ。虚空に話しかけても返事が来るはずが無いのだから。
過去も未来も、己さえも見失った哀れな旅人の足元をこの部屋唯一の光源が照らす。
そうだ、今の自分自身はどうか。ささやかな光を頼りに己自身を確かめる。
白いシャツと肌着、黒いズボンとパンツ。動きやすい靴。そしてペニスが生えていた。俺は男らしい。
ようやく自分を一つ取り戻したような心地で一つ息を吐けた。
服はありふれた物だと何となしに思う。⋯⋯冷静に考えて、仮に連れて来られたのだとしたら、元の服は捨てられ、この服に着替えさせられたという考えもできる。⋯⋯この服から己が過去を探ろうとするのは不毛そうだ、身体に合っているので、これは貰っていこう。
⋯⋯さて、長々と自分自身を確認してみたが、ここにいても、水や食べ物が出てくる保証は無し。生きる為にはここを出ていくべきだろう。
であれば必然、この木の扉から出ていくべきだが、開くのだろうか?扉に力を入れて押すとあっさりと開いた。体当たりで壊すことも考えていたが、肩透かしに終わった。部屋から出れずに餓死、とはならなくて良かったと思い、灯りを持って外に出る。
光源で照らして見たところ、外は長い一本道となっており、取り敢えず迷う事は無さそうだ。
⋯⋯灯りが無くなることと、道の向こう側から敵意ある者が来ないか怯えながらしばらく進むと、小部屋のような、少し開けた空間に出た。そこにはテーブルがありその上にご自由にどうぞ、と書かれた紙にいくらかのパンと干し肉、コップ1杯のミルクがあった。
(文字が読める、モノの名前がわかるぞ⋯⋯!)
どうやら俺は文字の読み書きを修めており、さらに目の前にあるモノの大体の使い方や原材料、作り方がわかるようだ。⋯⋯できるかどうかは別として。
(まあ、服の名前が分かって、ちんちんついているから自分は男、って気づけるのは、俺に知識があるってことの証明だともっと早くに気づくべきだったな。しかし⋯⋯)
(文字が分かるって事は、書いた奴と俺は同じ国、或いは近い言語を扱うってことだ。或いは博学だった俺が遠くの国の言語を学んだ可能性もあるが、意思疎通できるならこの際同じだ。会って平和的におしゃべりできりゃ、この世界のことを知れる。あわよくば、俺自身を知ることができるかもしれない。)
(平和的におしゃべりできりゃ、の話だがな。敵対的かも知らんし、騙してくる可能性はぜんぜんある。警戒は怠らないこととしよう。だが⋯⋯)
(取り敢えず、この食い物は食べて良さそうだ。毒を盛って殺すくらいなら、扉を開けないようにして餓死させればよかったんだ。)
(万が一俺用じゃなかったら⋯⋯)
(通じる言語で謝ろう。)
そう決めた俺は、もそもそしたパンと干し肉をミルクで流し込む。見てくれ通り、あんまりおいしくはない。
(口の中の水分持ってかれた⋯⋯これを美味しくない、と思うのは俺はもっと良いものを口にしていた、という事だ。⋯⋯もっとおいしいパンと肉を、食べられたらいいな。)
そんな事を考えていると、食事は終わっていた。自然に手を合わせ、食べ物に感謝を伝えていた。身体に染み付いた宗教の礼儀作法というヤツだろうか。⋯⋯悪く無いと思う。
腹を満たし、再び長い道を進んでいると、また開けた空間に出た。先程より大きいテーブルの上には、金属と
(これは⋯⋯鎧、という物だろうか?)
俺にとっては完全に知識の中にしかなかったモノだと理解する。⋯⋯⋯付け方が分からない。
そんな人の為にか、壁に灯りを向けると着用の手順が絵でわかりやすく図解されていた。親切!
最低限の急所と手脚を守る鎧は、これまた俺の身体にぴったりとサイズが合った。ここに来て今までのすべてが、俺の為に用意されていたと悟った。
慣れない重さで足取りがやや鈍くなりながら道を進む内にやはりと言うべきか、武器を見つけた。
それは鞘に収まった剣であった。持ち手が掴みやすいよう赤い布で覆われたそれは、手に取ると命を奪う重さと冷たさを持ち、今までの服や鎧のようにこちらに合わせる優しさというものをまるで持ち合わせていなかった。おっかなびっくり鞘から刀身を抜き出すと、鈍く輝く殺意が刃の形を取りこちらを睨んでいた。試しに指を置けば血が流れるどころか、骨ごと切り落とすだろう。慎重に鞘に納めロックを掛けてから、少し悩んで鞘に付いていたベルトを肩から斜めに掛けて背負うようにして剣を持っていくことにした。
(鎧があった時点で武器があるだろうな、とは思っちゃいたが本当にあるとは⋯⋯。俺は何と戦わせられる?何故俺が?何故⋯⋯?)
止まぬ疑問に何度も足が止まりそうになりながら、前にすすんでいく。前方から光が差し始めた所で役割を終えた様に灯がふっ、と消えた。
無用の長物となった光源だったモノを捨て進んでいると、人の声の様な音を耳が拾う。
ようやく一人の時間が終わる、自分が思っていたより人寂しかったのだな、と苦笑しながらも足取りが早くなる。そうして長い通路を抜けた先にあった光景は―――
円形の、大きな広場の様な空間だった。縁を高い壁が囲み、その上にたくさんの人影が見える。さっきから聞こえた声はここから聞こえていたのだ。
その声の中身はやれあいつは弱そう、だのカオはまあまあ、だのつまらん見世物にすんなよ!だの好き勝手言ってくれている。聞こえてくる言葉の9割6分は人を不愉快にさせるものだった。
(こんな形の空間で、武装させた人間がやる見世物なんて――)
そう半ば確信するのと同時にやってきた通路の出口が閉まり、対面の壁の一部が開き武装した人型が現れた!
(やっぱり、ここは、闘技場か!)
現れた
対抗するため背の剣を引き抜くや否や人形は見た目以上の素早さで斬り込んできた。
無様に転けそうになりながら後ろに下がりながら回避するも、それは計算の内だと言わんばかりに即座に姿勢を整え再び斬りつけてくる。
何とか防御が間に合い、剣で防ぎ鍔迫り合いの様な形に持ち込む。
(こいつ、早いし、多分俺より剣の腕がある!けど初心者の俺すら押し切るパワーがない!カテゴライズするならテクニック型といったところか。それなら!)
鍔迫り合いから足を踏ん張り、全身で一気に体当たりするように押し飛ばす!たまらず体勢が崩れた人形を先程のお返しと言わんばかりに剣を振り上げ追撃せんとする刹那、違和感に気付く。
(何故体勢を立て直さない?防御すらしようともしない?あれじゃ、上から脳天を叩き斬ってみろ、と言っているようなも―まずい!)
攻撃を中断し、全力の後退をした瞬間にカウンターの横薙ぎがついさっきまで
(力の無さはカウンターを決める伏線の為の
仕切り直して再び攻勢に出る人形。大きく弧を描く剣筋は美しいだけでなく、振るう度に速さと威力を増していく。速さが乗り切らない内に強引な受け太刀で妨害し、斬撃のパワーアップをさせないようにしてなければ、いずれ防御ごと斬られていただろう。
隙のまるで無い連撃に俺は防戦一方となる。相手の力に関しては予想通りだったらしく、ギリギリのところで躱し、防ぐ防戦が成立していた。
それに業を煮やしたのか、強引な一撃でこちらの体勢を崩し、全力の唐竹割りでこちらの防御ごと頭蓋を砕き、回避が間に合わない速度で斬り付けんとしてきた。
(⋯⋯ここだ!)
待っていた相手の一撃を前に俺は、人形から学び自分なりの形にした体捌きで姿勢を整えて、渾身の
俺は背中を見せるほど大胆な体捌きで相手の攻撃を誘い、剣を振り回す遠心力の力を借りてまんまと釣られた相手の唐竹割りを紙一重で回避し、更に踏み込んでほとんど相手と背中合わせのような体勢で相手の背後に回り込み、長い軌跡を描いた剣の運動エネルギーを叩き込み相手の無防備な胴体を一刀両断した!
(こちらが勝る力で戦えば、相手の想定通りだから、対応した型にハメられて負け。テクニックの土俵で真っ向勝負なぞしようものなら、お話にもならん。だから、長く打たせて剣筋を学習しながら、相手が力押しするように誘導し、相手の想定外のカウンターを叩き込む!⋯⋯相手が焦らず打ち続けていたら負けていたし、最後の最後の唐竹割りまで全力を隠されていたら、負けていた。⋯⋯
想定外の戦いに、一瞬静まりかえった後に盛大な拍手が沸き起こった。⋯⋯⋯会場の3分の1位の観客から。
拍手は嬉しいが、
それでも3分の1の観客の拍手の鳴りやまぬなか、俺は唐突にえげつない悪寒を感じ、即座にその場を離れた。直後倒れ伏す木の人形を踏み潰しながら、 俺のいた場所に大槍を叩き付ける新手の
それは全身が石で出来た
それの姿を確認した3分の2の観客は大歓声を上げ、手を叩き応援し始めた。
先程戦った人形の、10倍程のパワーを最低でも持つ人形はこちらに向かって大槍を振り回して来た。⋯⋯正解だ。こいつのテクニックが先程の人形の1000分の1だろうと、関係無い。もしも木の人形と石の人形が戦えば、技も何も関係なく、1合で木の人形は木っ端微塵だ。剛よく柔を断つ。振り回す大槍がほんのちょっとでも掠れば、即ミンチ。剣で受けるという選択肢など論外だ。
どうにか近づいて剣を振ろうと、石の身体を真っ向から斬れる気がしない。実はこの剣は、木の枝どころか石灯籠も勢い余って斬っちゃった名剣なんです、という背景を期待する方が間違っているだろう。仮にそうだとしても、先程の戦いで受け太刀を多用し、刃は万全ではない。そんなご都合に頼るのは、最期の最期でいいだろう。
そもそも、デカくて、強くて、硬い相手が大槍を持っているのが大問題だ。どこかで聞きかじった知識では、剣の遣い手は槍の遣い手より3倍強くなければ勝てないとされている。それだけリーチの差は覆すのが難しいのだろう。そもそもの俺と人形の腕の長さの差はざっと2倍程度だ。負けに負けて俺と人形のそれぞれの武器練度が同じと考えても、俺が勝つ為に要求される強さは武器不利を覆す3倍、リーチの差が2倍、掛けて6倍だ!⋯⋯ここに更に防御力を計算に入れると、なんか2ケタを超えたので、ネガティブ思考は辞めにしよう。
⋯⋯ではどう勝つか?まず狙うべきは関節部だろう。動きを見るに、なかなか柔軟に大槍を振り回している。⋯⋯関節部まで石で出来ているなら、あんな柔軟な動きは出来ないだろう。関節部は別の柔らかい何かであると、仮定する。また、石の腕に槍型のパーツが付いている訳ではなく、石で出来た掌と指で大槍を捌く都合上、繊細な動きは不可能と断じていい。今日剣を齧ったに過ぎない槍の門外漢だが、あの手では木の人形ほど優れた技は出せないだろう。
石の掌と指のパーツ自体、関節の塊に違いないので、チャンスがあれば積極的に破壊を狙ってもいいかもしれない。それに成功すれば、圧倒的リーチの問題も少しは楽になるのは確実だ。⋯⋯そう、少し楽になるだけだ。
虎は、武器が無くとも、強い。仮に大槍を手放したとて、リーチの差は2倍近くある。最後まで油断出来ないな、クソが。
⋯⋯冷静に、考えれば考えるほどクソゲーだが、それなりに突破口や弱点はいくつかあった、とプラスに考えるうちに、暴れ狂う大槍の射程圏内が近づく。
(力は凄まじいが、思ったよりあらゆる動作が緩慢だ!これなら、思いついた大槍封じが上手く行きそうだ!)
そう確信し、薙ぎ払いを後ろに下がり回避していくと、高い壁際に追い込まれた。壁際に追い込んでからは、逃げ場を無くすように、コンパクトに大槍を振り回し追い詰めてくる。
(そりゃ、ここまで追い込めば相手の回避ミス待ちで勝てるし、敵が思い切って前に活路を見出そうとすれば蹴りか何かでカウンター!俺の後ろの壁に槍を刺して動けなくなり逆転負け、なんて絶対にしないように安全マージンマシマシで動くようにしてるよな!誰でもそうする、俺でもそうする!)
だからこそ。
(
(だから、あの攻撃を凌ぎ切った人間として、こんな雑な攻撃、何時間やっても避けられる!そして、あの時と同じように、相手のやらかしを待てばいい!)
そして、程なくしてその時が、やって来た。
(来た!いい角度の突き!両手でしっかり保持した4連続突きの3段目!いざというときの
「⋯⋯
木の人形と戦った時に会得した剣の振りを合わせた体捌きで相手の攻撃を避けながら、無防備な相手に運動エネルギーを溜め込んだ剣を叩き込む、俺の
それを、俺は敵ではなく敵の突き出す大槍を避けながら
俺を突こうとする突進力に、俺の
その隙に脇をすり抜けようとする俺に左脚の蹴りが襲いくる、が。
「それ、見えていたから。」
大槍を加速させた
「隙ありだ!」
左脚を失い、前のめりに崩れ落ちる人形のがら空きの頸を左脚を斬り落とした勢いのまま、後ろから斬り落とす!
まだ活動停止せずに、槍から手を離して片足で迫る人形。だが。
「そう来るかも、とは思っていたよ。」
身を躱し、足を引っ掛けて転ばせる。
倒れた人形の右脚を斬り落とし、その勢いのまま両腕も斬り落とした。
(こいつら人形は、人間が死ぬやり方で攻撃したとて、
(じゃあ、どう機能停止させるのか?)
(⋯⋯まあ、シンプルに全身木っ端微塵にしてみるか。)
(特別な武器なんて要らない。お誂え向きの良さげな物がそこにあるではないか。)
そうして、石の人形の右脚を掴み――
(激突!!石バトル!!)
石の人形の胴体に叩きつけた。
(大体同じ硬度の石をぶつけて、文字通りの相殺を狙う。我ながら単純だけど、いい策だと思う。)
そうして石の人形の身体で身体を相殺する作業を体感3分程続けていると⋯⋯
(あっ、全部砂になって消えた。ある程度⋯⋯8割破壊すればこうなるのか。覚えておこ。)
(木の人形にもこういう残心、というやつをやるべきだったな。)
(正直、石の人形のスペックにびびっていたけれど⋯⋯)
(木の人形の方が、怖かったな。)
(それはそれとして、
石の人形の首が落とされても、そのあと油断しきった所を石の身体に捕まり殺されるだろう、 と考え観戦していた3分の2の観衆は石の人形を木っ端微塵にした生贄を見て、その内の半分が諦めたように、戦士に拍手を送る。その直後、3分の2の観衆が熱烈な拍手と喝采を勝者に浴びせた。
(う〜ん、気分がいいぜ!)
最初の頃より大分反応の良くなった観衆に手を振っていると、次なる挑戦者が行儀良くゲートから現れた。
今までとは打ってかわり物憂げな美少女の顔と身体をしたそれは、人間の様に見せているだけの被造物であると確信した。白い貌に生気はなく、白い衣と鉄の鎧を纏う
未だ生贄の血を欲する3分の1の観衆は、女の人形の勝利を信じ切っていた。女の人形に勝利した
(大分雰囲気が違うな⋯⋯。)
(この順番で出たってことは⋯⋯)
(この
(
(石の人形と違って
(いつも通りひと当てすれば大体の特長は割れる。)
(そうしたら、いつも通り隙を見つけ交差撃《カウンター》で仕留める。)
(場合によっては石の人形との戦いで会得した連続
(名前は⋯⋯⋯一先ず
(一度成功した
(
(⋯⋯あれこれ考えても、仕方ない!このいい流れのまま、勝つぞ!)
二人の戦いが始まろうとする瞬間―――
「ごめんなさい、そのコは私に譲って頂戴?」
そんな声が聞こえると同時に、灼熱の焔が女の人形の周りに振り注ぐ。そして、彼女がここにいた証など塵一つ遺さず消え去ってしまった。
「いきなり乱暴な挨拶を、失礼したわね。」
声と焔が降ってきた上方を見上げる。
そこには、絶望が昏い色の竜の形を取って顕現していた。
(空飛んで強そうな女の人形を一撃で消し飛ばすブレス吐く竜なんて剣1本でどう倒せって言うんだ!?空!飛んでいる!奴を!)
それでも弱点をどうにか見つけようと観察していると、直ぐに己の勘違いに気付く。
(
(竜は強いけど、真の絶望じゃない。)
(
何者をも蹂躙し、支配出来るであろう昏い色の竜の上には、女が座っていた。如何にも気位が高そうなあの竜が自身に座す事を許すあの女は、
真の絶望はとても美しい女の形で竜と共に舞い降りた。
紫色の髪を優雅に靡かせる彼女は艶やかな唇から玉音を奏でる。
「とっても面白い戦いをする新人が居るって聞いて、やって来たのだけれども⋯⋯」
「貴方よね?そこの剣を持っている貴方。」
「本当に面白い戦いをするのね。2人抜きなんていつぶりのことかしら?」
「貴方の事が気になるわ。顔を近くで見せて頂戴。」
そう、一方的に告げて竜から降り近づいてくる妖艶な美女。豊満極まる肉体を更に引き立てるセクシーな戦装束に身を包むそのスタイルは完璧だ。あらゆる芸術家は彼女をモデルに作品を作り、時の権力者はどんな手を使っても彼女を自分の
だが、今の俺に眼の前に立つ美女を眺めて愉しむ余裕など存在していなかった。この
(強えぇ⋯⋯⋯!!怖えぇ⋯⋯⋯!!)
彼女の秘める力が、向かい合っているだけで伝わってくる。今まで戦ってきた敵たちは彼女と比べればまるで赤子だ。
あの人形達が1000体集まって抗おうとも、彼女に傷ひとつつけられずに鏖殺される。それだけの事を為せる莫大な力の奔流が、彼女の中で完全に制御されている。
彼女が俺の顔に手を伸ばす。
まるで怪物が口の中の獲物の味を確かめる為に舌を伸ばしているようなものだ。無論、その獲物とは俺の事。まるで生きた心地がしない。
「そんなに怖がらないで。痛い事はなぁんにもしないから。」
そう言って、少し困ったような表情を浮かべた彼女は俺の頬にそっと触れた。
「⋯⋯まだ警戒しているのね。私、そんなに怖い顔をしていたかしら?」
「め、滅相も御座いません。とても綺麗なお顔をしております。」
「あら、ありがとう。⋯⋯でも、口を開くなり私を口説くなんて貴方、普段からそんな感じなのかしら?」
「それは⋯⋯その⋯⋯」
⋯⋯答えられない。
「⋯⋯言い淀むという事は、そうなのね。酷いひと。貴方に泣かされた女の子達に代わって私がここでお仕置きするべきかしら。」
なんか、唐突に俺の死刑が決まった。罪状、女泣かせ罪。冤罪だ!弁護士を呼ばせて下さい!告訴!
「ちょっ!待って下さい!俺には女の子を口説くなんてそんな難しそうな事、とても出来ません!」
「貴方さっき私に綺麗って言ってくれたじゃない。⋯あの言葉は嘘だったのかしら?」
「嘘なんか、貴女に言えません!ホントに貴女が綺麗だから、口から言葉が零れたんです!」
「今の台詞、全部口説き文句よ。女たらしさん。」
二審、死刑。じょ、上告します⋯⋯。
「べっ、別に貴女を口説くつもりなんて「天然なら、もっと罪深いわね。貴方に泣かされた女の子の顔が目に浮かぶようだわ⋯⋯!」違うんですぅ⋯」
最高裁判決、死刑。
「⋯⋯⋯」 「⋯⋯⋯」
死刑執行を絶望しながら待っていると、彼女はぷっ、と笑いだした。
「ふふっ、ごめんなさい。冗談よ。」
「
「あたふたする貴方が、あんまり可愛いものだから、からかい過ぎてしまったわ。」
「⋯⋯ドキドキさせられました⋯⋯⋯。」
「あら、そう?⋯⋯本当に面白い人。私、貴方の事をもっと、知りたくなったわ。」
「だから、貴方――」
「私と戦いましょう?お互いの事を知るために。」
悪寒を感じ跳び退がった刹那、俺がいた場所を焔が舐め取る。そして彼女は竜に騎乗し宙に浮かび上がった。
「⋯⋯頭のどこかで、こうなる事は分かっていましたよ。私に譲って、と貴女は言ってましたから。」
「でも、観衆の皆様が許すか―」
「いいわよね、皆?久しぶりに私の戦いを魅せてあげるわ!」
唐突な女の人形の爆散と竜の美女の乱入に言葉を失い、背景と化していた観衆達は、美女の言葉で再起動し今までで一番の大歓声をあげた。
俺の敗北を望む者達も、健闘を認めた者達も、勝利を讃えてくれた人達すらも美女の参戦を歓迎し、彼女の
「うふふ、喜んでいるわね。⋯⋯もう、逃げられないわよ。」
「元より逃がす気など皆無でしょう、貴女は。⋯⋯観衆まで味方に付けて、退路を断つとはえげつない。」
「無駄だと分かりきっていながら、観衆の意思を淑女の誘いを袖にする言い訳に使おうとした貴方はどうなのかしら?」
「⋯⋯取り敢えずやってみる性分らしいので、俺は。」
「⋯⋯そうなの。では、始め「待った」今度は何?命乞い?そういうのは、もっと早くにするものよ。⋯聞くだけは聞いてあげる。」
「貴女の名前を聞かせて下さい。」
「⋯え?」
「貴女が俺の事を知りたい様に、俺も貴女の事が知りたくなりました。」
「なので、自己紹介です。⋯俺は名無しの剣士!ここに来るまでの暗くて長い道で、マヌケにも己が名を無くした道化で、口説きでも命乞いでも何でも、やってみなきゃ気の済まない愚か者!」
「そんな俺と踊ってくださる奇特な貴女の名は!?」
「口の利けぬ人形でもあるまいに、応えられない道理は無いでしょう!」
「⋯⋯確かに自己紹介は話しかけた側が最初にするのがマナーというもの⋯⋯。面白い殿方に夢中で忘れてしまうなんて、我ながら淑女失格ね。」
「いいわ、名乗ってあげる!」
「私はカミラ!かつての暗夜王国第一王女!そして今はここ、白黒領域序列第四位の
「生意気な口を利く、傲慢な勇士さん。」
「貴方を、可愛がってあげる!」
カミラと名乗った彼女は、
主人公
Lv1→2→3
平民
HP28 力9 魔力1 技11 速さ12 幸運4 守備6 魔防2 移動4
戦技 奥義 スキル
交差撃(カウンター) 技%で相手の攻撃を無効にしてから次の自分の攻撃が相手の攻撃力の半分と自分の技の半分を威力に追加した必中攻撃になる。(必殺判定あり)
交差撃・連槌(アドヒット・カウンター) 技の半分%で相手の攻撃を無効にしてから次の自分の攻撃が相手の攻撃力の半分と自分の技の半分を威力に追加した必中攻撃を2回する。(必殺判定あり)