「やあっ!」
これまでと同じ奇襲。当然、俺はその一撃をいなすが、反撃の前にフェリシアの次の攻撃が来る。
「⋯ぐっ!」
何とか避けるも、またすぐに斧の切り返しが奔り、俺の頭を掠めた。
息を継ぐ間も与えぬ連続攻撃。俺は回避に精一杯で反撃の隙も無い。
「調子に、乗るなっ!」
フェリシアの横薙ぎを下がって回避しながら、通り過ぎた斧を後ろから加速させるように剣で殴りつける。
(⋯よし、これでフェリシアの斧は制御を失うはず――)
フェリシアは、天才だった。
男の攻撃で加速した斧を下手に止めずに逆に自分の力を更に込めて制御を取り戻す。
(⋯⋯逸りましたね、お客様。この私に、既に使った技を出すなんて。)
フェリシアは男に槍を弾かれた経験から、既に武器弾きに対応する技を五分にも満たぬ時間で編み出していた。
無理に戻そうとせず、逆に勢いに乗りながら方向だけを制御して放つ逆転にして奇襲の一撃。
奇しくも男の
(⋯⋯これが、私なりのカウンターです!)
ステップで距離を詰めて男に背中を晒しながら横に一回転して放たれた豪快極まる一撃が反撃を想定していない男の横っ面を殴りつける――!
(大回転背面斬り!?)
⋯⋯その攻撃には、直ぐに気づけはした。
俺の力でフェリシアの一撃を撃ち落とすのは困難だと考えて、逆にフェリシアの意図せぬ方向へ加速させる事でフェリシアの体勢を崩そうとした。
回避と加速は上手く行ったが、反撃しようと前進する直前に違和感に気付く。
その即断を持ってしてもフェリシアの一撃を防げたのは奇跡としか言い様が無かった。
斧の姿を視認出来たのは直撃0.5秒前の事で、その間に剣を滑り込ませる事が出来たのはただの偶然だ。
二人分の力の乗った斧の一撃は剣を粉々に打ち砕き、俺を円の外まで吹き飛ばした。
「ぐううっ⋯⋯!」
床に叩きつけられた俺は、痛みに呻きながら今の自分の状態を確かめる。
砕けた木剣の欠片が顔中を傷付けていたが、幸いにして目に異常は無い。
すぐにフローラさんから杖の治療を受けて傷は治ったが、手元に残った剣の残骸を確認して軽く絶望する。
(⋯やべぇ、斧に対して有利な武器が砕かれた!)
「⋯⋯あの、フローラさん。」
「はい。」
「予備の剣とかは⋯⋯」
「始めに申し上げましたように、お客様に与えられた武器は二つだけです。予備などございません。」
(⋯⋯じゃあ、俺の使える武器、アレだけ?)
視線の先には自分で捨てた
基本近接武器三種⋯剣、槍、斧には三竦みの関係があると今日の授業で習った。
槍は剣に強く、剣は斧に強く、斧は槍に強い。
俺はこの教えの正しさを前二つの試合で実感した。
槍のリーチは剣を圧倒し、重い斧の一撃は槍を容易く弾き飛ばす。
しかし剣より速いフェリシアの斧の一撃に俺の剣は負けた。
力の差や技の巧みさで三竦みを逆転する事はある、有利不利程度のお話だから不利な相手に当たっても怯んではならない、とも教えられたがまさか学んだその日の内に体験する事になるとは。
(⋯⋯
フローラさんは俺に2種類の武器を使う事を許したが、三竦みを体感させるなら、フェリシアに有利な武器1種類でいい筈だ。2種類は必要無い。
なのに2種類許可したのは、最初から俺にフェリシアに対して不利な武器を使わせる為だとしたら。
ただ三竦みをなぞって倒すだけではない、三竦みをひっくり返される体験と、三竦みをひっくり返す経験を積む。⋯⋯それが、この試験の意図か!
(⋯⋯だとしても、槍かぁ。)
槍はこの中で一番苦手な武器だ。
この試験で、有利な剣相手にも二度も負けそうになったくらいには。
たが、俺に残された道はこれしかない⋯⋯!
(⋯⋯さて、どう勝つ?フェリシアの力強く、素早い斧の前では槍のリーチは役に立たなそうだ。)
(最速の突きで不意打ちを狙うか?⋯⋯いや、あっさり防がれるな。俺の突きは軽い剣の守りも突破出来なかったんだ、重い斧の守り相手じゃどれだけやっても同じか。)
(薙ぎ払いは論外。即、叩き落とされるのがオチだ。)
(そもそも俺はカウンターが得意なのに、守りに入った瞬間に脆くなる槍で不利武器に勝たせようとするとか、フローラさんは鬼か!?)
目の前の対戦相手と一緒に受けた授業を思い出す。
(⋯⋯フローラ先生は鬼指導だったわ。うん。つーか鬼も逃げ出すくらい。)
(⋯武器とフローラ先生の事は様に置いて、フェリシアの弱点から勝ち方を逆算する方向で考えてみるか。)
(フェリシアは俺より腕力が強く、戦闘技術も上だ。)
(それに加えて凄まじい戦闘センス。⋯⋯俺だったら斧を加速させられたあの状況からの即反撃は出来ない。)
(自由で、奔放な戦闘の天才。フローラさんの言葉の正しさをこうして戦ってみて実感できた。)
(⋯⋯でも、そんな天才にも弱点はある。)
(俺が前の2戦でフェリシアに攻撃を当てられたのは、彼女の不意を打てたからだ。)
(あの時、不意を打たれたフェリシアはかなり動揺して反撃どころか防御もしてこなかった。)
(攻めている間は強いが、不意を打たれたらかなり脆いタイプと見た。)
(どうにか不意を打てれば、勝てる!)
(⋯⋯⋯で、苦手な槍でどう不意を打つかに戻って来るんですが。)
(素人の俺には斧以上に小回りが効かないんだよこの武器!)
(リーチを活かそうとするとどうしても重心が前に行って、扱いずら――)
(⋯⋯あ、そうか。今の俺には槍のリーチを活かせないからこそ、それを活かした構えで戦う必要は無いのか。)
そして、男は自分なりに考えた槍の構えをとる。
(⋯⋯右手が、前に出た構え?それは、薙ぎに向いた構えのはず。武器の形状からしても、突き重視の構えが運用上正しいはずですが⋯⋯。)
意味の分からない構えに困難しながらも油断はしないフェリシア。
(合格を諦めた、訳は無いですよね。カミラ様と戦っていたこの人は、最後まで諦めないカッコいい男の子でした。)
(⋯⋯試験官として容赦はしてあげられませんけどね。)
フェリシアは短い戦いの中で出した対策を今一度心の中で復唱する。
(私の対策は、カウンターする隙も与えず攻め続けること。⋯⋯姉さんと違って頭の悪い私には、これくらいしか思いつきませんでした。)
(でも、今の所上手く行ってますね。思いつきのカウンターも上手くいきました。)
(⋯⋯最低でも一本はお客様の有利武器を壊せ、と姉さんに指示を受けた時にはお客様の心が折れたりしないか心配でしたが、ちゃんと立ち向かってくれていますね。偉い!)
(さあ、私のお客様対策をどう乗り越えますか?お客様!)
円に再び足を踏み入れた男はお返しとばかりにフェリシアの喉元目がけて突きを繰り返した。
(薙ぎに向いた構えで突きの選択肢を意識から外したところを、裏を掻いて突きで奇襲ですか?)
(⋯⋯そんな事で攻略出来ると思われているなら、がっかりですね。)
意趣返しのような先制攻撃の軌道から身体をずらしながら攻撃に移るフェリシア。
しかしその眼が不自然なところで止まる棒の先端を視界の端に映したところで彼女は一瞬の逡巡を始めた。
(突きの行動はフェイントで、逃げた先を追う薙ぎ払いが本命の一撃ですか。)
(確かにそれならあの構えにも納得は出来ます。)
(問題は、これから来るであろう薙ぎをどうするか、ですね。)
(防御するか、来る前に先んじて叩き落とすか。)
結論には0.01秒も掛からなかった。
(叩き落とします。慣れない武器の、慣れない構え。力の勝る私の迎撃が順当に勝ちます!)
(勝つにはお客様の武器を弾き飛ばしてから攻撃しても遅くない!)
武器の向かう向きを前方から横に変えるフェリシア。
しかし。
(武器が、来ない!?むしろ、槍が引いていく⋯⋯まさか、
急ぎ男の方を向くと、棒の後方から中心に持ち手を変えた男が槍の優位な間合いを
(不利な槍のままでは勝てないから、剣の様に持ち直して接近戦!?そして、右半身の構えでの先制攻撃は、それを私に悟らせない為の完全なるはったり!)
「〜〜〜ッ!調子に、乗らないでください!」
「ここは、私の距離です!」
(してやられましたが、この距離まで詰めてくれたのは、私にとっても好都合!思いつきの構えなんて私の斧で粉砕します!)
だが2度
フェリシアはそのまま男を力尽くで押し込んで体勢を崩そうとするが、あっさりと引かれて力を透かされてしまう。
「⋯このっ!」
引いた所を攻めようとするフェリシア。
しかしそんな彼女の腰を鋭い衝撃が襲い、気勢を削がれてしまう。
「きゃあっ!」
全くの意識外からの不意打ち。
反撃を警戒して穂先から目を逸らさなかったフェリシアを打ち据えたのは、男の身体の陰に隠されていた柄の部分だった。
(⋯またこれですか!しつこい方ですね!)
内心は怒りに燃えていても、身体は痛みに怯んでしまったフェリシア。
「⋯⋯
それを男は見逃さない。
足が止まったフェリシアに逆に猛攻を仕掛ける。
「⋯⋯っ!」
一撃一撃の威力こそ低いものの、穂先と柄の2カ所から繰り出される変幻自在の連続攻撃に翻弄されるばかりだ。
(⋯むううっ!お客様の行動の選択肢が多過ぎます!)
(攻撃一つとっても突きか薙ぎか、穂先か柄かの選択肢を迫られますし、そこにフェイントまで混ぜ込んで来るから行動パターンが無数に増えて訳が分かりません!)
(それに加えて攻撃自体の回転率も普通の槍のラッシュ以上です⋯!)
(短く槍を持つ事で射程を捨てる代わりに小回りと柄での奇襲の択、即応力まで獲得するなんて⋯⋯カムイ様が見込むだけの才能なんですねぇ、この方は。)
考えている間にも押されていくフェリシア。
肩や腕に受けた攻撃の痛みと不利な状況が彼女の端正な顔を歪ませる。
(幸い姉さんが有効だと判定するような致命打はまだ受けていませんが、肩や腕には幾つも槍の打撃を貰ってしまったので、傷で動きが鈍くなりつつあります。⋯⋯このままでは負け一直線です!)
(何か、逆転の方法は⋯⋯!)
(⋯⋯2戦目で私がやられたみたいに、ワザと隙をみせるのは⋯⋯ダメですよね。)
(今のお客様には通じないでしょうし、私が弾いて攻撃するよりも速く持ち直して攻撃出来る槍の持ち方です。⋯⋯やったところで私の攻撃よりお客様の反撃が先に入ります。)
(防御し続けて機を伺うのも、負けの選択肢です。傷を負いましたし、私の技術じゃ防ぎ切る自信がありません。)
そして、フェリシアが出した結論は。
(⋯⋯色々考えましたが、私には攻めるしか勝ち目はありませんね。)
(受けても大丈夫な攻撃を見極めて受けながら、同時に私の攻撃でお客様を倒します!)
(お客様の攻撃パターンも見えて来ました。次の攻撃で決着です!)
フェリシアの決意は対戦する男にも伝わって来た。
(⋯⋯何か、仕掛けてくる目だな。)
(戦況は大分こっち有利。⋯⋯だからこそ油断せずにここで詰め切るだけだ⋯⋯!)
男の選択した攻撃は首を刈り取らんと奔る薙ぎ。
すかさず斧で防ぐフェリシアだが、男は反動を利用してすぐに柄の方で腹を打撃する。
「はうぅ⋯⋯っ!」
苦悶の声をあげながらも体勢は崩さないフェリシア。
しかし追撃は容赦無く彼女の守りを打ちのめす。
(⋯⋯まだです⋯!⋯⋯まだ⋯⋯!)
守りを崩す、最後の
(⋯やっと来てくれましたね、その一撃が!)
その瞬間、フェリシアは両手で持っていた斧を左手一本での保持に移行する。
「⋯⋯!」
(⋯気付かれましたか。でも、遅いです!)
右手を
(痛っ⋯⋯!けど、上手く行きました!)
その前に
「タダで、右手はあげませんよ⋯!」
打たれたはずの右手で男の
(⋯⋯武器は捕まえました!後は、トドメを刺すだけです!)
十分に力を溜めた斧が、男の胴へ迫る。
左手一本とはいえ男を倒すには充分な威力。
逃げようにも、至近距離な上に武器は掴まれ、逃げられない。
(⋯⋯詰めが、甘かったな。)
(⋯⋯
男は
(避けられた!?⋯⋯でも、武器はどっちもこの手にっ!!?)
ドカッ!バシッ!
「きゃぁっ!くふぅ!」
呆然と慢心を突く素早い男のパンチがフェリシアの頬を打ちのめし、脳を揺らす。
その衝撃で元々保持に無理のあった左手から斧が溢れ落ちた。
男はすぐさまその斧を拾い、フェリシアの脳天に叩きつける!
「まだです⋯⋯!」
右手で
しかし傷付いた右手と相性不利の武器では相手にならず、男の斧は立ち塞がる
「〜〜〜っ!」
「⋯⋯一本。それまでです。両者、戦闘を止めるように。」
フローラの宣言。
うずくまり、声にならない悲鳴を上げるフェリシアを尻目に男は円を去る。
「⋯⋯残り時間はどれくらいでした?」
すっかり制限時間を忘れていた男は、今頃思い出して冷や汗を流しながらフローラに質問を投げた。
(やっべ〜!制限時間のこと、忘れてた〜!⋯⋯時間過ぎていたらどうなるんだ?再試験って最後の3戦目から?それとも、また1戦目から?)
(⋯⋯イヤだ〜〜!!!宿題含めてイヤだ〜〜!!)
勝手に悲観して脳内で泣いて喚く男。
祈るような姿勢の男に、フローラは結果を告げた。
「⋯⋯⋯残り48分でした。試験は合格ですよ、お客様。よく頑張りましたね。」
絶対中立の審判としてではなく、頑張った教え子を労う先生の顔で微笑むフローラ。
「⋯⋯いやったあ〜!やりましたよフローラせんせ〜!」
「あん!⋯⋯もう、いきなり抱きつかれると、困ってしまいます。」
「⋯ご、ごめんなさい。」
男は慌ててフローラから離れようとするが、抱きとめて離さないフローラ。
「でも、頑張った人にはご褒美が必要ですからね。」
そのまま男の頬に口づけを落とすフローラ。
触れた唇の感触に一瞬完全に静止してから、顔が赤くなる男。
「⋯ふふっ。可愛いひと。嫌そうじゃなくて良かったです。」
「⋯⋯いっ、イヤなんかじゃ絶対にないです!嬉しいです!光栄です!」
「まあ。嬉しい。⋯⋯もっとしてあげましょうか?」
そう言って顔を近づけるフローラ。
男は先刻のキスの感触と彼女の艷やかな唇にドギマギしてまともに彼女の顔を見れない。
「⋯これ以上⋯⋯」
「はい?」
「⋯⋯これ以上、キス、したら心臓、破裂しちゃうから、また明日に⋯⋯」
「〜〜〜っ!」
「⋯⋯フローラさん?」
「⋯⋯⋯⋯そんな可愛い事を他の
すんでのところで理性が働いたフローラ。
内なるケダモノを必死に抑え込む。
「⋯
「ええ、大マジです。この世界では、
「素敵なお顔のお客様はあっという間に食べられてしまいます。」
「⋯こ、怖⋯⋯」
「そうならない為に私達がお客様を鍛えているんですからね。⋯⋯お返事は?」
「⋯わ、分かりましたフローラさん。」
「さん?」
「分かりましたフローラ先生!」
「はい、よく出来ました。」
そう言って俺の頭を撫で始めたフローラ先生。
細い指でくすぐるように撫でてくるから、なんだかむずむずしてくる。
偉い偉いと言ってくれるが、今の俺の何が偉いの分からない。
「ふふふ⋯⋯。」
⋯まあ、フローラさんが幸せならそれで良いか。
撫でられるのも気持ちいいし。
⋯⋯なんだか、極めて物理的な寒気がする。
この感じ、どこかで⋯⋯?
「⋯⋯⋯すっかり私の事を忘れていますね。姉さんにお客様。」
「「!?!?!?」」
いつの間にかフェリシアが俺の後ろに立っていた。
すっごいむくれた表情をしている。
「怪我した私を放って2人でいちゃいちゃするなんて酷いです!」
「⋯⋯ご、ごめんなさいフェリシア。今から治療を⋯」
「もう自分に杖振って治しました!全快してます!⋯⋯放っとかれた心の傷以外は。」
「放っといてごめんな、フェリシア。後で構ってあげるから⋯⋯」
「人を寂しんぼのワンちゃんみたいに扱わないでください!扱いが雑過ぎます!」
「⋯⋯後の言い訳は、お夕飯の席で聞きます!こんな場所で立ち話も何ですしね!」
「⋯そうね、じゃあ先に片付けを⋯⋯」
「姉さん達がいちゃいちゃしている間に私が掃除含めて全部終わらせました!」
「⋯⋯はっはっは。いくら何でもそんな短時間で終わるはずが⋯⋯」
フェリシアの出したスマホの画面には、試験開始から4時間経過した時刻が表示されている。⋯⋯もう夜じゃん!
「私達、2時間弱もいちゃいちゃしてたんですね⋯⋯」
今日の仕事の予定が狂ってしまいました、と赤面して恥ずかしがるフローラさん。
とても可愛いが、俺は時間の過ぎ去る速さに唖然としていた。
(体感、20分くらいだったんだけど⋯⋯)
時間の流れを正確に認識すると同時に猛烈な空腹も認識する。
「さあ、早くお夕飯にしますよ!お客様もお腹が空いているでしょうから!」
俺の手を取り食堂に急ぐフェリシア。
灯りを消して鍵を掛けたフローラさんを残して俺は半ば引きずられながら食堂に向かうのであった。
主人公
Lv4→5
平民
HP29 力9 魔力2 技12 速さ13 幸運5 守備7 魔防3 移動4
戦技 奥義 スキル
槍取・剣持 槍装備時のみ、武器相性逆転コマンド発生。発動中、武器相性が逆転する。この状態は次の自分のターンの始めまで続く。