アインズ視点から。
関係を公表することで大混乱起きそう
俺は、泣いていた。
腕の中で涙を浮かべるザナックよりも、酷く。みっともなく、声を上げて。
「ごめんっ……ザナック……本当にっ……すまなかった…………っ」
嗚咽が止まらない。感情を抑制するはずのアンデッドが泣いている。
その時。聞き慣れた小さな声が聞こえた。冷えた朝の空気の中で、その声だけが妙にあたたかかった。
「大丈夫ですよ。……大丈夫です。俺が、そばにいるから……」
寝言のまま、あやすように撫でられて。俺はさらに鼻をすすり、その小さな温もりを胸に引き寄せた。思い切り抱き締めてしまってから、ようやく我に返った。
「っ……ザナック、すまないっ……怪我は、」
俺の腕に彼の体が力無く預けられていた。先程とは違う、赤ん坊のような安らかな顔。
「寝て、るのか……さっきのは、寝言……?」
泣けないはずの目を、乱暴に拭った。不意に、額を寄せる。彼の体温は相変わらず俺には熱すぎた。親指で柔らかな頬を撫でる。……生きている。ちゃんと、ここに。
「また、君と話したいよ……ザナック」
「……俺もです」
まつ毛が揺れたかと思えば、エメラルドグリーンの目が開けられた。夢で見たように口の片端がつり上がった。
「……え」
次の瞬間。歯列に彼の息が触れた。
「──ッ!!」
「キ……ス……っ!?」
声が震えた。後ろに退くと、ザナックが肩を揺らして悪役みたいに笑う。
「ふふふ……きっ、キスごときで今更照れるなんて……うぶですね、アインズ様も」
「いや君!! 顔真っ赤で、んな事言っても説得力無いからな!? あと可愛いな!」
俺が指さす間にも、どんどん赤くなっていくザナック。枕で顔をガードされる。
「うるさいですっ!ああもう、アインズ様大好きですっ」
枕越しに声がくぐもる。
「は? はぁぁ……!? 君、この状況でそれを言うか!? 覚悟はしてるんだろうな!!」
「してます!! まだ腰は痛いけど、あります!覚悟! 全部思い出したら、ますますアインズ様の事好きになりました!」
「ああ! それは本当にごめん!! 昨日は乱暴してしまって! でも、ありがとう!」
枕に隠れるザナックの手首を取って、ベッドへ押し戻す。彼は驚くほど素直に沈んだ。
「……何もしない……けど、触らせてくれ」
「それ、何もしないって言うんですか?」
首を傾げるザナックを無視した。まずは頬を。慎重に指で摘んだ。
「どうです」
「柔らかいな。あと、揉まれてる顔がかわいい」
次はお腹。ネグリジェ越しでも、もちもちした感触が伝わる。
「はーー……」
大きくため息を吐く。ザナックが猫みたいに目を見開いて、ビクッと反応した。首元に鼻を埋めた。鼻先で鎖骨をなぞり、ゆっくりと匂いを確かめる。彼の存在を確認するように。
「……好きだ。ずっと……俺がそばにいるから」
「なら永遠に、ですよ……?」
「無論だ」
─────『ザナック視点』
目の前で、魔導王が床に額を擦りつけている。……何故こうなった。
「アインズ様……! 頭を上げてください……!」
「いいや。俺がしたことは許されることではない。勝手な嫉妬で君に乱暴をした。」
「誰か来たら俺が殺されかねませんから! アルベド様とかに」
「……君はいつもナザリックでそんな環境に置かれてたのか?」
「い、いえ! 違います! もしもの話です! それに、俺のような一介の事務官に王が頭を下げている姿など見られては……」
何故そこまで俺に拘るのか、理解できない。
「は?」
低い声が、空気を重くした。無意識に背筋が伸びる。
「はい?」
思わず、聞き返してしまう。次の瞬間、怒声が飛んだ。
「君は……! 自分の立場を分かっていない!」
「いえ、弁えていますよ……?」
微笑み返した瞬間、鋭く指を突きつけられた。
「君は、俺の友人だぞ!! しかも特別な!」
「ええ、存じております」
空気が凍った。
「至高の四十人より上だと言っているんだぞ!?」
その名を、軽々しく口にしていいはずがない。それは、この国の理を揺るがす言葉だ。
「え?」
それは、彼の世界を壊しかねない宣言だ。そして、俺の居場所も。
「それは、本気ですか……?」
「本気だ。俺は、友人よりも恋人が優先だ! 俺のお嫁さんである君が一番だ! 俺の全てなんだよ!」
アインズ様は気まずそうに頭を搔く。
「あー、そもそも……! 君は、王の正妻なんだぞ!!」
「せ────せせ、正妻」
顔が一気に熱を帯びる。
……聞いていない。そんな話は、ひとつも。
(そんなことを、アルベド様が聞いたら)
正妻。王の。俺が。そんな単語を、こんな軽い勢いで言っていいはずがない。
「聞いていません……! そんな話……!」
声が裏返る。情けない。アインズ様は、はぁ、と長い溜息を吐いた。腕を組み、天井を仰ぐ。
「……あー、もう」
嫌な予感がした。その声音は、重大な決断を下す直前のそれだ。
「いい」
低く、断言する。
「公表しよう」
「は?」
思考が止まる。
「君と俺が、正式に付き合っていることも、婚約していることも。全部だ」
一瞬、音が消えた気がした。
「ちょ、ちょっと待ってください」
慌てて距離を詰める。
「公表って……誰にですか」
「世界に」
即答だった。頭が痛い。
「い、いや、世界はやめましょう!? せめて段階というものが……!」
「段階?」
首を傾げる魔導王。いや、その仕草はずるい。可愛い。だが今はそれどころではない。
「ナザリック内部、外部諸国、貴族社会……順序があります! 手順があります! 根回しがあります!」
「根回しならアルベドに任せる」
それは爆発物を油田に投げ込む行為だ。
「それは最も危険な選択です!」
思わず声が裏返る。アインズ様は、こちらをじっと見た。赤い光が、真っ直ぐに。
「……隠す理由が分からない」
その一言が、妙に静かだった。
「俺は君を愛している。君は俺を愛している。ならば、公にする。それだけだ」
理屈としては、正しい。恐ろしく単純で、恐ろしく強い。
「ですが……」
言葉が詰まる。俺は一介の事務官だ。今は魔導国で働く立場に過ぎない。彼は王だ。魔導王だ。
「俺の立場がどうこう、という話か」
先に読まれる。ぐ、と喉が鳴る。
「……ええ。正直に言えば」
「関係ない」
ぴしゃりと切られた。
「立場は俺が決める。君の価値も俺が決める」
一歩、距離を詰められる。
「君は俺の婚約者だ。それ以上でも、それ以下でもない」
心臓がうるさい。いや、俺の頭は、今は平静のはずなのに。
「……そんな事を、軽々しく……」
「軽くない」
即答だった。その声に、冗談の色は一切ない。
「俺は、失いたくないものを隠さない」
その言葉に、胸が詰まる。一瞬、あの夢のような荒廃した光景が脳裏をよぎる。瓦礫。灰。誰もいない世界。
「……公表したら」
かすれた声で問いかける。
「面倒なことになりますよ。反発もある。嫉妬もある。陰口もある」
「構わない」
迷いがない。
「俺が全部潰す」
物騒だ。物騒だが、頼もしい。
「君は俺の隣に立っていればいい」
その言葉は、甘いのに、重い。
王の隣。
「……俺は、飾りではありませんよ」
気付けば、そんな言葉が出ていた。
アインズ様の目が、僅かに細まる。
「知っている。だから隣に立たせる」
喉が熱い。どうしてこの人は、こうも一直線なのか。
「……後悔、しませんね?」
最後の確認。俺なりの逃げ道。アインズ様は、わずかに口角を上げた気がした。
「ああ」
そして、はっきりと。
「俺の婚約者だと、世界に宣言する」
世界が、少し揺れた気がした。逃げ場は、もうない。
「……」
小さく息を吐く。覚悟を決める音が、自分の中でした。
「……なら」
顔の熱を無視して、真っ直ぐに見返す。
「最後まで、責任を取ってくださいね。陛下」
一瞬、アインズ様の肩が震えた。
「無論だ」
その声は、王のそれだった。
そして同時に、ただの男の声だった。
俺は、とんでもない人を好きになったらしい。
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「アインズ様……お願いがあるのですが……」
「君の頼みなら何でも引き受けよう」
「……ひとつ、いえ、ふたつほど……よろしいですか?」
関係ないんですけど
NAMInoYUKUSAKIをアイザナのイメソンとして聴いてしまってます
和訳見るともっと良い
いい曲です