アインズ視点。
交際発表の後、溜まった疲れが出たのかザナックは倒れた。俺の部屋に入った途端に崩れ落ちた。反射的に腕が伸びた。呼吸が浅い。相当我慢していたのだろう。意識はある。腕の中で「大丈夫ですから」と言っていた。ザナックの"大丈夫"は大丈夫じゃない時にしか出ないのでこれは無視だ。ローブをぎゅっと握ってくる。その仕草に俺は胸を押さえたくなった。腕に預けられた体をゆっくりとベッドへ横たえる。
「お気になさらずに……お仕事に戻ってください」
ザナックは弱々しく言った。唇の色が薄い。
「今の君を置いて行けるほど、俺は冷たくない」
離さないと誓うように、頬を撫でた。
「申し訳ございません…………」
ぴくりと彼の眉が歪んだ。
「仕事なんかどうでもいい。君と居る時間の方が有意義だ」
彼は口を引き結んだ。目が潤む。
「俺は……貴方の足手まといになりたくない……」
「ザナック。俺が少しくらい居なくたってデミウルゴスやアルベドが何とかしてくれる。俺は、こういう時間が大事なんだ。君が好きだから」
「……お、俺も、好きです」
「うん。」
彼の涙に口付けた。金の髪を梳き、頬を撫でる。彼の瞳が揺れる。逃げない。そして、吸い寄せられるように唇を重ねた。そっと引き寄せる。
「ん……ん……!」
ぽんぽんと叩かれてから離れた。
「……ごめん」
頭を撫でると、ザナックは目を細める。猫みたいだ。甘えるような仕草に、心が緩む。
「今夜は、一緒に寝ようか」
ビクッと小さな肩が震えた。
「嫌、かな?」
「嫌ではない、です…………」
しどろもどろに答えられて、俺は思わず苦笑した。
「じゃあ、横に寝てもいいか?」
「はい……」
こくりと頷く。俺はザナックの横に体を滑り込ませ、布団をかけ直した。彼の体温が、やけに鮮やかだ。
「……少し、緊張するな」
「俺も、です」
身ひとつ分空いた距離で、彼が呟いた。
「でも、寒いな」
「もう一枚布団を取って来ましょうか?」
「いいや。こうすれば……あったかいぞ」
片手で彼の体を引き寄せた。胸骨に、柔らかい頬が当たる。
「あ、あ、あ……アインズ様!?」
ああ。腕の中の体温が上がっていく。
「暖かくてもちもちで……最高の抱き枕だ」
手放す気はない。
「だ、抱き枕じゃ、」
「ふふ、そうだよな……すまん。俺のお嫁さんだよな…………」
シャツを掻き分けて、白い首筋にキスをした。
「ひ、」
「いい匂い」
「や、やめてください……そんなことされたら、眠れなくなります……っ」
「いや、ついな。可愛くて」
「俺を可愛いと言うのは、世界で貴方だけですよ」
自嘲気味に笑うので、左耳朶を舐めた。
「ふぉあう!?」
目を見開く。鳴き声を出した。
「クフフ……どうした?」
「な、なんですか! 怒ってるんですか!?」
涙目になりながら耳を押さえている。
「君がいけない。いつも自分を卑下するから。」
「……っ、」
「俺が選んだ人を傷付けないであげて欲しいな」
俺の唯一を。今度は右耳を襲った。甘噛み。
「ひおあっ!? ちょっ、待っ……もう、耳は……」
この腕の中から逃がさない。
「君が好きだと、何回言っても足りない……今晩中はずっと好きだと囁き続けてもいいくらいだ」
「そ、それは色んな意味で寝れないので却下します!!」
ザナックが叫んだ。
「でも、少しだけなら……」
ぽつりと言われて、俺は今すぐに彼の唇を奪いそうになった。
「……それは反則だ、ザナック。やはり、好きだ、好きだよ」
「はい……」
嬉しそうに目を細めたザナックがはにかんだ。何という破壊力だ。
「好きだよ、ザナック」
耳元で囁く。
「ふふふ、俺も貴方が好きです」
彼はくすぐったそうに、口に手を当てて笑った。
「俺の大事なお嫁さん……」
俺がそう言うと、小さくて柔らかい体がぎゅっと抱きついて来た。深刻そうに俯く。
「…………アインズ様、俺……貴方をずっと待っていたんです」
「そうなのか」
俺が馬鹿正直に頷くと、ザナックは笑った。眉を下げ、静かに。
「……俺を見つけてくれて、ありがとうございます」
その瞬間、彼を抱き締めた。何かが決壊した。体が勝手に動いた。
「俺の方こそ、ありがとう……ザナック。……俺に見つかってくれて」
遅すぎたかもしれない。それでも。