※この作品はR-18です。

ザナック蘇生if/アイザナ   作:アイザナ大使

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アルベドとザナックがデートします




デートしましょ

 

 

ナザリック九階層の静かな廊下。

書類を抱えて歩くザナックの前に、アルベドが立ちはだかる。

「ザナック」

穏やかな笑み。黒い翼が僅かに広がった。

「はい?」

「デートしましょ」

「は?」

目を見開いたまま固まる。

「な、ん……と?」

「さ、行くわよ」

それを無視して、アルベドは有無を言わさずザナックの手首を取った。

「ちょ、ちょ、ちょっ」

ザナックが止めてもお構いなしだ。

「もう許可はいただいているの。街を視察する名目で。……アインズ様から、ね」

「お待ちください……っ! アルベド様っ」

「何、ザナック? アインズ様も快く承諾してくださったのよ? アインズ様のご意向に背くと言うの?」

「いえ、そうじゃなく、デ──」

 

─────────

 

魔導国市街は、今日も賑わっていた。

石畳の通りに並ぶ店。焼き立てのパンの匂い。果実を積んだ露店の呼び声。人間も亜人もアンデッドも、肩を触れ合わせながら行き交う。かつての王都とは違う匂いが、この街にはあった。その通りの中央を、二人の影が進んでいた。

「宰相様だ」 「補佐官のザナック様も……」

人々の声が小声で聞こえる。

アルベドは前を歩く。背筋を伸ばして、白いドレスは一切乱さない。

「ザナック様、おはようございます!」

人間の魔導国民だ。少し離れたところから手を振られる。柔らかい笑顔でザナックは会釈をした。

「人気なのね」

「ええ、そうなんですかね……」

 

────────

 

魔導国の一角にある食事処。二人は並んで席に着いていた。注文を終え、僅かな沈黙が落ちる。カップが二つ出された。

「なぜ、貴方だったの?」

視線は逸らさない。冷静に、淡々と。

「理由なんて、俺にも分からないんです」

苦笑半分に答えた。

沈黙。

「……アインズ様、時々やたら素直になるのよ。感情抑制が働いても隠しきれない時があるの」

「分かります。あの時の照れ方……反則ですよね」

即反応した。

「焦ると声が高くなるでしょう? あれ、隠せてませんよね」

「くふふ、そうなのよ! その後の誤魔化しも好きなの」

「ええ、困ると指で頭を掻く仕草も良いですよね」

「何より、あの低い声で命令されるのが……くふふふ」

「……あれは、ずるいですよね」

気づけば、互いに前のめりになっていた。

「でも、貴方はその"低い声"を間近で聞いているのよね?」

空気が一瞬変わる。

「ええ、昨夜も」

アルベドの笑みがぴたりと固まる。店内の空気が、わずかに冷える。

「……貴方そういうところよ」

ザナックの眉間が人差し指に押される。

「え?」

「その無自覚さを、あの方も困っていらっしゃるのかしらね」

肘をついて、顎に手を当てて顔を背けた。艶やかな黒髪が揺れた。

「気分を害されたならすみません……」

「その逆だから、困ってるのよ」

アルベドの指が、容赦なく頬を摘んだ。

「うぐっ」

アルベドは摘んでいた頬をぱっと離した。

「……まあいいわ」

すっと背筋を伸ばす。仕切り直しだ。

「では、正々堂々といきましょう」

「何がですか」

「アインズ様の"どこが一番好きか"聞かせて? それくらいいいでしょ。正妻様。」

ザナックは目を見開く。そして俯いた。

「……その、慎重さ、ですかね」

「慎重さ?」

アルベドが片眉を上げる。

ザナックは指先でカップの縁をなぞった。少し照れたように、けれど誤魔化さない声で続ける。

「ええ。あの方は、派手な決断をなさるように見えて、実は誰よりも情報を集めている。最悪の事態を想定して、何重にも保険をかけている。……俺は、そこが好きです」

アルベドは黙って聞いている。

「それから、責任感。全部自分で背負おうとするでしょう? 本当は誰かに任せてもいいのに」

「……ええ」

「部下を信頼しているくせに、最後の最後は自分が矢面に立つ。あれは、ずるいです」

「ずるい?」

「格好良すぎますから」

アルベドの口元が、僅かに緩む。

ザナックは、少しだけ勢いづいた。

「あと、意外と律儀なところも」

「律儀?」

「小さな約束でも、覚えている。俺が何気なく言ったことを、後日ちゃんと拾ってくださる。……ああいうのに、弱いです」

アルベドは無言。視線が鋭い。

「それから」

指を一本立てる。

「思慮深さ。感情に任せて動かない。けれど、本当に大事なものに対しては、理屈を超えて動くところ」

二本目。

「部下思い。ナザリックの皆を、本気で家族だと思っている」

三本目。

「視野の広さ。人間も亜人もアンデッドも、全部ひっくるめて考える」

四本目。

「話を聞いてくださるところ。俺の意見を、ちゃんと最後まで」

五本目。

「意外と不器用なところ」

アルベドが吹き出しかける。

「不器用?」

「ええ。格好つけようとして、空回りする時があります」

「くふふっ……あるわね」

六本目。

「努力家。誰よりも勉強している」

七本目。

「孤独を隠すのが下手なところ」

空気が、ほんの少しだけ柔らかくなる。

八本目。

「優しさ。表には出さないけれど」

九本目。

「俺のことを、対等に扱ってくださるところ」

十本目。

「そして……」

一瞬、言葉を探す。アルベドは黙って待つ。

「俺を選んでくれたこと」

視線を上げた。

「それが一番、好きです」

沈黙。店の奥で皿が触れ合う音がする。アルベドは、ゆっくりとカップを持ち上げた。

「……負けたわ」

「はい?」

「そこまで具体的に言われると、ぐうの音も出ない」

ふっと、肩の力が抜ける。

「けれど、誤解しないでちょうだい」

アルベドは目を細める。

「私は諦めたわけではないわよ?」

「え?」

「貴方が選ばれたのは事実。でも、私はあの方の守護者。立場は揺らがない」

ザナックは苦笑する。

「ええ。分かっています」

視線が交わる。

「でも、ザナック」

アルベドは、少しだけ悪戯めいた笑みを浮かべた。

「今のは正妻の余裕ってやつ?」

「ち、違います!」

頬が赤くなる。

「本音を言っただけです!」

「そう。それなら」

アルベドは立ち上がった。

「帰りましょう。きっと、落ち着きなく待っているわ」

「え?」

「婚約者が他の女と"デート"しているのよ?」

ザナックの顔が、見る見る赤くなる。

「ち、違います! これは視察でしょう……!?」

「くふふ」

黒い翼が僅かに揺れた。

石畳の道を、再び並んで歩き出す。

夕暮れが、二人の影を長く伸ばす。

その影は、決して重ならない。けれど。どこか同じ方向を向いている。

 

 

────────

 

帰り道。店を出ると、夕暮れの光が石畳を照らしていた。

「ねえザナック、あのコート、アインズ様に似合うと思わない?」

アルベドがショーケースを指さした。

「……ああいうの、着せたら格好いいでしょうね。アルベド様、買って行きますか?」

「いえ。貴方が贈りなさい。恋人でしょう?」

アルベドは言った。

「いや、そういうのは……そのっ……」

「じゃあ、私が贈ろうかしら」

「あっえっ、買ってきます……!!」

ザナックは背中を押されて駆けて行った。

 

 

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