アイザナはおじショタです。(重要)
うちのアイザナではアインズ様は37歳、ザナックは18歳という設定です。今更ですが
静寂に包まれた私室。己が手で蘇生した青年の様子を遠巻きに見守りながら、ひとつ息を吐いた。ザナックは思いのほか早く回復し始めている。だが──その瞳に宿る無理な冷静さに、気づかぬふりができなかった。
「アインズ様」
ザナックは立ち上がると床に膝をつき、そしてゆっくりと顔を上げる。
「恐縮ですが、お願いがあります」
「……なんだ?」
「ナザリックの皆様に、きちんとご挨拶をしたく存じます……あの、できればすぐにでも」
その一言に、俺の脳裏を稲妻のように危険信号が走った。
「ダメだ」
「……え?」
ザナックの目がわずかに揺れた。だが、それでも彼は──表情を整え、きっぱりと口を開く。
「無礼は承知しています。しかし、俺は魔導王陛下に救われた身です。ならばこそ、ここにいる全ての方へ礼を尽くすのが──人として当然の礼儀だと……俺は、そう思うのです」
その言葉に込められた律儀な魂の揺らめきが、俺の胸を突いた。だが同時に、分かってしまう。
それが単なる"礼儀"だけではないことも───。
「ザナック」
静かな声で名を呼ぶ。彼の視線がこちらに真っ直ぐに向けられた。その目は決して逸らされない。
「君は……きっと、自分の居場所を早く見つけたいんだな」
「……!」
「でも、焦るな。ナザリックにいる者たちの多くは──人間に対して好意どころか、敵意や蔑視を持っている。挨拶のつもりが、逆に君を傷つけてしまう可能性もある」
ザナックの唇が、きゅっと引き結ばれる。
「私は、君にそんな目に遭ってほしくない。君がどれほど立派でも、どれほど頭を下げても……ナザリックの者たちにとって、人間であるということは決定的な"違い"なんだ。私は、それを知っている」
小さな手、指先が白くなるまで固く拳を握られる。
「君は賢い。だからこそ、理解してくれると思う」
俺は椅子から立ち上がった。
彼に歩み寄って肩に手を添えた。
「今は、君自身の回復と、状況の把握を優先してほしい。それに──」
ふと目線を外し、頷いて、軽く咳払いをひとつ。
「……そろそろ風呂に入った方がいい」
「え?」
ザナックがぽかんと口を開け、目を瞬かせる。
「長く眠っていたし、少し歩いて汗もかいただろう。体を清めて、少しは気分も変わるはずだ。」
「……えっと……わかりました」
「ちなみに、君が倒れでもしたらいけないから、私も付き添う」
「──えっ」
ザナックが目を見開いて言葉を詰まらせた。
「気にするな。私にとって君の安全は、最優先事項だ。君がふらついたり、湯当たりでもしたら目も当てられないからな」
俺が堂々と言い切ると、ザナックは恥ずかしそうに目を逸らしつつも、こくりと頷いた。
内心で密かに胸をなで下ろした。
───ザナックを守りたい。
それが己の義務であり、……いつしか、願いに変わっていた。
───私室から、専用の浴場へ向かう途中。
付き従うザナックは沈黙していたが、その歩調は確かで、心の整理をしているようにも見えた。よしよし、体調は大丈夫そうだな。だが、浴場の脱衣所に着いた瞬間、俺の思考はある一点に収束した。
「……ん?」「………………」
(あれ? 俺ってこれから…………
ザナックと……風呂に………一緒に……?)
頭蓋の中に、鐘のような警告音が鳴り響いた。
魔導王アインズ・ウール・ゴウン、その外見は堂々たる骸骨の支配者。だが、その魔導王、俺の内心は今、地響きを立てて崩壊しかけていた。
ま、まて、なにをやってんだ俺───!?
(いくら心配だからって、なぁ!?
いや、いやいやいや、俺は別にショタコンとかじゃないけど! 男の子を風呂に連れてって自分も入るとか、これ、なんか、変な意味に取られない!? 大丈夫!? ショタコンとかじゃないけどな!?)
そもそも俺が化け物過ぎる……!
絵面的に、
ちょっとだけアウトじゃないか──!?
彼も内心恐怖してるのでは!?
内心でぐるぐると思考が巡る。
だが、振り返ると────
「……失礼します」
ザナックが、すっと脱衣場の扉を開けた。
さらりと流れる金色の前髪。凛々しい眉。引き結んだ唇。
その横顔は、まるで何も感じていないかのように落ち着いていた──ように、見えた。
だが。
(………………顔、真っ赤だぞ!?)
頬は火がついたように染まり、耳まで真っ赤。明らかに平常心ではない。
それでも彼は平然を装っている。肩を張って、静かに自分の上着に手をかけた。
(うつった!!)
俺の心がどばっと波打つ。アンデッドであるはずの自分に、何故か抑制しきれない羞恥の感情が押し寄せてくる。
(やばいやばいやばい、なんで俺まで気まずい空気になってるんだ……!?)
必死で落ち着けと己に言い聞かせる。
(おちつけ俺。お前は王だ。王で、アンデッドで、いい歳したおっさん、そう、感情に流されない、流されてはいけない存在──なのに! なぜ! なぜこんなにも動揺してるんだ俺は!!)
「だ、大丈夫です。こ、これくらい……何ともありません……」
明らかに"何ともある顔"で言い張るザナック。その肩が微かに震えているのを見て、俺は不覚にも──
(……か、かわ……)
思考が、言葉にならない。
────カワ? 川? 可愛……?!
なぜだか、骸骨であるはずの自分の頬が熱を持つような気がして──いや、気のせいだ。そうに違いない。表情筋も血流もないのだ、絶対に気のせいなのだ。
(お、落ち着け。これは一時的な錯覚……たぶん……)
だがその錯覚が、目の前の青年のうつむき加減の仕草と、時折チラリとこちらを見る揺れる瞳の輝きによって、どんどん現実味を帯びていく。
「……ザナック、やはり別の者を呼ぼうか? あー、清掃場に立たせるメイドでも──」
「い、いえっ! アインズ様が、付き添ってくださるとおっしゃったので……俺は、その……光栄、ですから……」
そう言われて、俺は完全に沈黙した。
彼は本気で、俺を信頼している。自分を見上げる目には、打算も嘘もない。
───ならば。
「……そうか。なら、安心して任せておけ。私がそばにいる」
大人として、或いは魔導王として堂々とした声でそう言い切った。
だがその心の中は───
(俺の精神力がもつかは、情けないが正直、自信がない……!)
そしてふたりは、ゆっくりと湯の扉へと歩を進めた。静かに満ちる湯気の向こうには、まだ知らぬ新しい関係の一歩が──ほのかに、香っていた。かもしれない。