ザナックは弟
ナザリック地下大墳墓。第六階層、大森林。広大な森。青い空。澄んだ空気を肺いっぱいに吸い込んだ。目に優しい緑が広がっている。だが。
「迷いそうだな」
俺は巨大樹を訪ねた。木の下に空洞があり、中はどうなってるのか見えないが洞穴みたいに見える。
「………」
息を呑む。一呼吸してから。
「アウラ様、マーレ様。ザナックです。アインズ様より預かった書類をお届けに参りました。」
奥まで響くように大きな声を出した。
「はいはーい」という快活な声と共に階段を下りる音がする。
「あ、ザナックじゃーん! 会えて嬉しいよ!」
双子のダークエルフの片割れ、アウラ様だ。
「こちらこそ、光栄です。アウラ様。」
遅れてマーレ様が到着。俺の方を覗き込んでいる。
「ほら、マーレもおいでよ!」
「……ザナックさん、こんにちは」
「はい、ザナックです。こんにちは。書類はこちらです。」
バッグから取り出し、渡した。アウラ様とマーレ様が確認する。
「ふむふむ……これは、階層守護者全員に配ってるの?」
「ええ。」
一体何が書いてあるのだろう。今までの守護者様達の反応を見るに、同じ内容が書いてある様だ。
「分かったよ。ありがとう、ザナック! お使い出来てえらいー」
頭をわしわしと撫で付けられる。
「あ、あの……俺、お使いで褒めていただくような年齢じゃ……」
「ええ? じゃあ、何歳なの?」
「十八です。」
胸を張って言うと、アウラ様とマーレ様が目を見開いてぽかんとする。
すると、
「ザナック、来る途中で転んだりしなかった?」
「ザナックさん、帰りも危ないですから送りますよ」
頭を撫でながら言われる。
「あ、あの」
「帰りの道分かる? 出口はあそこだからね」
「お菓子食べましょうね」
「子供じゃないですっ! ……お菓子は、いただきます……せっかくなので」
堪えきれず叫ぶと、二人は笑う。
「だって私達の方が年上だし……七十六歳のお姉さんだもん! あ、ザナック、今日から私のこと"お姉ちゃん"って読んでね!」
二人は俺より身長も低いし、どう見ても二人の方が子供にしか見えないのだが。何故か姉と呼ぶように指示された。
「じゃ、じゃあ、僕も、お兄ちゃんって」
「……」
お姉ちゃん、お兄ちゃん、なんてこの歳になって羞恥プレイ過ぎる。だが、言うしかないのだ。二人のキラキラした瞳を裏切る訳にいかない。
「お、おねえ、ちゃ…………ん」
「きゃああ! 可愛い!」
体当たりのように抱きつかれる。
「あの、姉上と兄上でご勘弁を………」
顔を隠して涙声で言うと、
「仕方ないなぁ、たまには呼んでね!」
「は、はい……姉上」
「むふふ!」
満足そうな声。
「……僕も!」
「あ……兄上」
「ふふっ」
ほどけるような微笑み。
「じゃあ、丁度おやつタイムだったからお菓子を一緒に食べて行かない?」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」
アウラ様に引っ張られるまま巨大樹の中へ入っていく。螺旋階段がある。俺は中へ通され、ソファに座らされた。
「じゃーん、ホットケーキだよ!」
机に置かれたケーキがふわりと跳ねた。湯気が立つ。甘い香りが部屋に充満した。二人は席に着き、「いただきます」と言って食べ始める。ホットケーキにナイフを入れる。しっとりした切り口だ。
「……いただきます」
口に入れると、柔らかすぎてとろけた。
「んん……美味しいです」
「ナザリックの料理だからね」
アウラ様は誇らしげに、歯を見せて笑った。
───────
アインズ様との婚約発表から一週間後。廊下を歩いているとろくな事がない。俺は早々に自室に帰った。ベッドに潜り込み、アインズ様抱き枕を抱き、アインズ様ぬいぐるみと見つめ合っていたその時。コンコン。軽くて可愛らしいノックの音。俺は急いでアインズ様たちを隠して、出た。
「はい、どちら様で……」
そこには、アウラ様が立っていた。
「ザナック、キャンプしよ!」
「え?」
「よし行こ」
手を引かれ、連れられた先は大森林。の中。手作りらしきあたたかみのある木のテーブル。半分に切られた木を倒したような長イス。その少しズレたところに、マーレ様がいる。
「あ、お姉ちゃん、……とザナックさん……火を付けたいので細い枝を集めて来てくれますか?」
「ええ……分かりました」
何が何だか分からぬまま、俺は細枝探しに出た。パキ、パキ、と小枝が鳴る。ねじれた木に囲まれ、枝を拾っていると、毛のような重い何かが頭に乗る。
「っ……!?」
見上げれば、漆黒の毛並みを持つ巨大な狼が鼻を鳴らしていた。
「フェンー!」
遠くからアウラ様の声。狼が反応した。
「……?」
もしかして、アウラ様のペットか? 主人が強いとペットも巨大になるのか。
「フェン、ここに居たの!」
アウラ様が駆け寄って──フェン、巨狼に抱きつく。黒い毛並みの中に顔を埋め、満足そうに頬を擦り寄せた。巨大な狼は鼻を鳴らし、低く喉を震わせる。
「また勝手に森の奥行ってたでしょ!」
「……フェン」
名前を呼ぶと、巨狼はゆっくりとこちらを見た。赤い瞳。俺の頭の上に乗せていた鼻先が、くい、と動く。
「……あの、アウラ様」
「ん?」
「この狼は……」
「フェンだよ」
当然のように言われた。
「見て分かる通り、私の相棒!」
アウラ様が誇らしげに言う。フェンは俺をじっと見て、それから鼻先を近づけた。
「……」
ふん、と鼻を鳴らす。そのまま頬をぐい、と押された。
「うわっ」
体が少しよろける。
「お、フェン気に入ったみたい」
アウラ様が笑った。
「え?」
「フェン、気に入った奴にしか近寄らないんだよ」
そう言いながらアウラ様は、俺の腕に抱えていた細枝を見た。
「お、ちゃんと集めてるじゃん。えらいえらい」
「ありがとうございます……」
なんだかまた褒められてしまった。すると、フェンがゆっくりと腰を落とした。巨大な体が地面に沈む。
「ん?」
「乗れって言ってる」
アウラ様が当然のように言った。
「乗れって……」
「フェンに」
「え?」
「早く」
「え?」
混乱していると、アウラ様はひょい、と軽くフェンの背中に飛び乗った。まるで慣れきった動作だ。
「ほらザナック、後ろ!」
「ええっ!?」
「落ちないから大丈夫!」
「いやそういう問題じゃ……!」
フェンが振り返る。赤い瞳と目が合う。
「……」
「……」
ふん、と鼻を鳴らされた。どうやら本気らしい。
「……失礼します」
俺は恐る恐る、フェンの背に手をかけた。毛並みが信じられないほど柔らかい。沈み込む。
「うわ……」
思わず声が漏れた。
「すごい……」
背中は広く、温かかった。俺は細枝を抱えたまま、アウラ様の後ろに跨る。
「乗れた?」
「はい……」
「じゃ、行くよ!」
アウラ様がフェンの首を軽く叩いた。
「フェン!」
次の瞬間。ドンッ。地面を蹴る音。景色が跳ねた。
「うわああ!?」
森が一瞬で流れ始める。風が顔に当たる。枝の匂い。土の匂い。緑が横に飛ぶ。
「速い……!」
「でしょー!」
アウラ様は楽しそうに笑っている。俺はフェンの毛を必死に掴んだ。柔らかいが、しっかりしている。
「落ちませんよね!?」
「落ちない落ちない!」
軽い返事。数十秒ほど駆けた頃、森の中に焚き火の煙が見えた。
「マーレー!」
フェンが勢いを緩め、焚き火の近くで止まる。
マーレ様がこちらを振り向いた。
「……あ」
ぱちぱちと焚き火が弾ける。
「フェンに乗って帰ってきたんですね」
小さく微笑んだ。
俺はフェンの背から降りる。
脚が少し震えた。
「……すごい乗り物ですね」
「でしょ!」
アウラ様は誇らしげだ。フェンは満足そうに尻尾を振り、俺の肩に鼻を押し付けた。
「うわっ」
ぐい、と押される。
「……懐かれたみたいですね」
マーレ様が優しく言った。
「……そう、みたいです」
俺はフェンの頭を撫でた。毛並みはやっぱり柔らかい。
「よし!」
アウラ様が手を叩いた。
「じゃあザナック、次は薪割り!」
「え?」
「キャンプだからね!」
俺は空を見上げた。ナザリック第六階層。大森林。どうやら今日は、簡単には帰れそうにない。
────焚き火の準備が一段落すると、アウラ様がぱっと立ち上がった。
「よし! 次は魚!」
「魚……?」
俺が首を傾げると、アウラ様は親指で森の奥を指す。
「川あるんだよ。すっごい浅いけど魚いっぱいいるんだ!」
「……取りに行くんですか?」
「うん!」
即答だった。
「ザナックも行こ!」
「え、ええ!?」
断る隙がない。
マーレ様も静かに立ち上がる。
「……靴、脱いだ方がいいですよ」
そう言って、マーレ様はブーツを脱ぎ始めた。
「え?」
「川に入るから」
「……入るんですか?」
アウラ様は当然のように靴を脱ぎ、靴下もぽいっと丸めて置く。
「当たり前じゃん」
「魚捕るんだよ?」
俺はしばらく固まっていたが、観念して靴を脱いだ。冷たい草が足の裏に触れる。
「……なんだか不思議な感覚です」
王城では絶対にやらなかった行為だ。
「ほら、こっち!」
アウラ様が手招きする。少し進むと、小さな川が見えた。水は透き通っていて、石の上をさらさらと流れている。
「うわ……」
思わず声が漏れる。
小魚が群れで泳いでいた。
「でしょー!」
アウラ様は勢いよく川へ入った。
ぱしゃっ。水が跳ねる。
「冷たっ!」
「気持ちいいよ!」
俺も恐る恐る足を入れた。
「……!」
冷たい。だが、嫌な冷たさではない。
森の空気と水の匂いが混ざって、妙に心地いい。マーレ様は静かに川へ入り、下流を見ていた。
「……ザナックさん」
「はい?」
「石の影に魚います」
指差された先を見る。本当だ。
「……どうすれば?」
「こう」
マーレ様が静かに手を伸ばした。
ぱしゃっ。一瞬。小魚が一匹、手の中にいた。
「すごい」
「慣れです」
マーレ様は優しく笑った。
その横で。
「捕まえたー!」
アウラ様が両手で魚を掲げていた。
「見てザナック!」
「大きいですね……!」
「でしょ!」
アウラ様は得意げに笑う。フェンは川岸に寝そべり、こちらを眺めていた。時々、水を舐めている。俺も石の影に手を伸ばしてみた。
「……」
魚が逃げる。
「……」
もう一度。
「……!」
ばしゃっ。
「捕まえました!」
思わず声が弾む。小さな魚だが、ちゃんと掴めていた。
「やったじゃん!」
アウラ様が笑う。
「ザナック、才能あるかも!」
「そんな……」
だが、少し嬉しい。しばらくして、数匹の魚が籠に入った。
「よし、これで十分!」
アウラ様が川から上がる。
「戻ろ!」
俺たちは足を拭き、靴を履いた。
焚き火の場所へ戻ると、長イスに座ってあたたまる。焚き火の炎が、ぱちりと音を立てた。赤い火の粉が、ふわりと夜の空気に舞い上がる。森の匂い。木の匂い。そして──魚の匂い。
「よし、焼くよ!」
アウラ様が枝を数本拾い、ナイフで先を削る。器用な手つきで魚を串に刺した。
「ザナック、これ持ってて」
「あ、はい」
渡された串を両手で受け取る。まだ少しぬめりの残る魚の体が、枝の先で揺れた。
「こうやって火の近くに出すんだよ。近すぎると焦げるからね」
アウラ様が自分の串を焚き火の上にかざす。ぱちぱちと薪が弾ける。俺も真似して串を差し出した。
「……こうですか?」
「うん、いい感じ!」
炎の熱が頬に当たる。魚の皮がじわりと色を変え始めた。じゅう、と音がする。
「おお……」
思わず声が漏れた。
「焼けてるね」
マーレ様が隣で静かに言う。彼も同じように魚を持っていた。
「……王城では、こういうのは経験ありませんでした」
俺は正直に言った。
「だよね」
アウラ様が笑う。
「王子様が川で魚捕って焼いて食べるなんて、普通ないよね!」
「ええ……」
苦笑する。魚の皮がぷくりと膨らむ。脂が火に落ち、ぱち、と弾けた。香ばしい匂いが広がる。
「いい匂い……」
思わず呟くと、アウラ様がにやりと笑った。
「ナザリックの料理、すごいでしょ」
「本当に」
俺は頷いた。やがて。
「よし、できた!」
アウラ様が魚を引き上げた。
皮はこんがりと焼け、少しだけ裂け目から白い身が見える。
「ザナックのもいい感じだよ」
「……本当だ」
俺も串を持ち上げた。焼き魚を手に持つなんて、初めてだ。
「じゃ、いただきます!」
「いただきます」
「……いただきます」
三人の声が重なる。俺は少し冷ましてから、魚の身をかじった。
「……!」
外は香ばしい。
中はふわっと柔らかい。川魚特有の淡い味が、口の中に広がる。
「美味しい……」
思わず笑ってしまった。アウラ様が得意げに胸を張る。
「でしょー!」
マーレ様も静かに頷いた。
フェンは焚き火の横に寝そべり、尻尾をゆっくり振っている。時々こちらを見て、鼻を鳴らした。
「フェンにもあとであげるからね」
アウラ様が言うと、巨狼の耳がぴくりと動いた。俺はもう一口魚を食べる。焚き火の暖かさ。森の匂い。静かな夜。
「……なんだか」
思わず呟く。
「楽しいですね」
アウラ様は笑い、マーレ様は小さく頷いた。焚き火が、ぱちりと弾けた。
大森林の夜は、思ったよりもずっと温かかった。魚を食べ終え、串を脇に避けると、焚き火の炎が少しだけ小さくなっていた。ぱち、ぱち……と穏やかな音が鳴る。アウラ様は長イスの上で足をぶらぶらさせながら、焼き魚の串をくるくる回していた。マーレ様は隣で静かに湯気の立つ飲み物を飲んでいる。フェンはその足元で丸くなって、時々こちらを見ていた。
「……ねえ、ザナック」
アウラ様が、ふいに口を開いた。
「はい?」
「アインズ様のどこが好きなの?」
「ぶっ──」
あまりにも直球だった。
俺は危うく口の中の魚を吹き出しかけて、慌てて飲み込んだ。
「な、なななっ……な、何を急に……!」
「えー、だって気になるじゃん」
アウラ様は悪びれもせず言う。
「婚約したんでしょ? だったら恋バナくらいしてよ」
「こ、恋バナって……」
耳が熱い。焚き火のせいではない。絶対に。
「ほらマーレも気になるでしょ?」
「……うん。ちょっと」
マーレ様が静かに頷いた。
「ど、どこが好きって言われてもですね……」
しどろもどろになりながら、俺は視線を泳がせた。焚き火。木。フェン。空。どこにも逃げ道がない。アウラ様はにやにやしている。
「じゃあ、最初はどっちから好きになったの?」
「そ、それも……その……」
「アインズ様?」
「…………たぶん」
「たぶん?」
「俺は……っ、気付いたら、というか……いや、でも、どう考えても、あの方の方が先に……」
顔を覆いたい。だが今それをやると余計に面白がられるのが分かる。
「へえー!」
アウラ様が身を乗り出した。
「アインズ様の告白、どういう感じだったの?」
「どういう感じって……」
「優しかった? 甘かった? それともぐいぐい来た?」
「ぐっ……」
全部だ。全部なのだが、そんなこと言えるか。マーレ様が、こてんと首を傾げた。
「……アインズ様、ザナックさんにだけ、ちょっと違う感じしますよね」
「そうそう!」
アウラ様が勢いよく頷く。
「なんか、すっごい過保護!」
「うっ」
否定できない。
「寒いって言えば上着を着せるし、疲れてそうならすぐ座らせるし、ちょっと姿見えないと探すし」
「……それは」
「しかもザナックがいると、ちょっと機嫌いいよね」
「え」
「うん、いい」
マーレ様まで同意した。
「……いつもより、ちょっと声が柔らかいです」
胸がどくんと鳴る。
「そ、そうなんですか……?」
「そうだよ」
アウラ様は即答した。
「ザナックには分かんないんだ?」
「いや……その……俺は、あの方のことになると、あんまり冷静では……」
「ふーん?」
完全に面白がっている声だ。
「じゃあザナックは? アインズ様のどこで好きになったの?」
またそこに戻るのか。だが、今度は少しだけ息を吐いて、考えた。焚き火の向こう、赤い火が揺れている。あの人の顔が、自然に思い浮かぶ。
「……優しいところ、ですかね」
「ふふ、やっぱり」
アウラ様が笑う。
「でも、ただ優しいだけじゃなくて……ちゃんと見てくださるところが、好きです」
口に出すと、恥ずかしい。だが、もう止まらなかった。
「あの方は、俺が誤魔化そうとしても、割と見抜くんです。……俺の体調とか、無理してる時とか、思ってることとか」
マーレ様が静かに聞いている。アウラ様も、今は茶化さない。
「それに……すごく不器用なくせに、真っ直ぐで」
「うんうん」
「格好つけようとして空回りする時もありますし、変なところで照れますし、急にものすごく甘いことを言ったり……」
「えっ、甘いこと言うの!?」
「い、言いますよ……」
思い出してしまって、また顔が熱くなる。
「へぇぇ……」
アウラ様の目がきらきらした。
「例えば?」
「例えばって……」
「聞きたい!」
「……俺のことを、お嫁さんって」
「うわーーーーっ!!」
アウラ様が長イスの上でばたばたした。フェンが何事かと顔を上げる。
「なにそれ、めちゃくちゃいいじゃん!」
「……仲良しですね」
マーレ様がぽつりと言う。
「な、仲良しというか……」
「好きなんだね」
静かな声でそう言われて、俺は言葉に詰まった。好き。もちろん好きだ。好きどころではないくらい、大事だ。
「……はい」
小さく頷く。
「好きです。すごく」
焚き火の音だけが少しのあいだ続いた。するとアウラ様が、にっ、と笑った。
「じゃあさ、キスとかするの?」
「ぶっ」
二度目だ。今度こそ咽せた。
「ゲホッ……な、なんで話がそこに」
「恋バナだから!」
「……するんですか?」
マーレ様が、純粋な顔で追撃してきた。逃げ場がない。
「……します」
「どっちから?」
「え」
「どっちから?」
「え、ええと……時と場合によります……」
「ふーん!」
アウラ様は完全に楽しんでいた。
「アインズ様、ザナックにキスする時、優しい?」
「…………優しいです」
「へえ」
「でも、たまに……ちょっと意地悪です」
言ってから、しまったと思った。アウラ様の目がさらに輝いたからだ。
「意地悪!」
「な、なんでもありません」
「気になるー!」
「言いません!」
「えー」
アウラ様は頬を膨らませたが、すぐに笑った。
「でもさ、ザナックがそんな顔するくらいなら、本当に大事にされてるんだね」
「……そんな顔、ですか」
「してるよ」
マーレ様がこくりと頷く。
「……すごく、嬉しそうな顔」
その言葉に、胸の奥がじんわり温かくなった。自分では分からなかった。そんな顔をしているのか、俺は。アウラ様は足を組み替えて、少しだけ真面目な顔になる。
「アインズ様、ザナックのこと本当に好きなんだと思う」
「……はい」
「だからザナックも、もっと甘えていいんじゃない?」
その一言に、俺は少しだけ黙った。
甘える。それは、まだ俺には少し難しいことだ。けれど。
「……そう、ですね」
ぽつりと答える。
「頑張ってみます」
「うん!」
アウラ様は満足そうに笑った。
「じゃあ次はどれだけ進展したか、今度報告してね!」
「それは嫌です!!」
「えー!」
「絶対に嫌です!!」
アウラ様の笑い声と、マーレ様の小さな笑い声が森に溶けた。焚き火はまだ暖かく、フェンは再び丸くなって眠り始めている。恋バナなんて柄じゃないと思っていたのに。
「……でも」
「ん?」
「こういうのも……悪くない、ですね」
俺がそう言うと、アウラ様とマーレ様は顔を見合わせて笑った。