※この作品はR-18です。

ザナック蘇生if/アイザナ   作:アイザナ大使

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ザナックは弟




大森林でキャンプしよう

 

 

ナザリック地下大墳墓。第六階層、大森林。広大な森。青い空。澄んだ空気を肺いっぱいに吸い込んだ。目に優しい緑が広がっている。だが。

「迷いそうだな」

俺は巨大樹を訪ねた。木の下に空洞があり、中はどうなってるのか見えないが洞穴みたいに見える。

「………」

息を呑む。一呼吸してから。

「アウラ様、マーレ様。ザナックです。アインズ様より預かった書類をお届けに参りました。」

奥まで響くように大きな声を出した。

「はいはーい」という快活な声と共に階段を下りる音がする。

「あ、ザナックじゃーん! 会えて嬉しいよ!」

双子のダークエルフの片割れ、アウラ様だ。

「こちらこそ、光栄です。アウラ様。」

遅れてマーレ様が到着。俺の方を覗き込んでいる。

「ほら、マーレもおいでよ!」

「……ザナックさん、こんにちは」

「はい、ザナックです。こんにちは。書類はこちらです。」

バッグから取り出し、渡した。アウラ様とマーレ様が確認する。

「ふむふむ……これは、階層守護者全員に配ってるの?」

「ええ。」

一体何が書いてあるのだろう。今までの守護者様達の反応を見るに、同じ内容が書いてある様だ。

「分かったよ。ありがとう、ザナック! お使い出来てえらいー」

頭をわしわしと撫で付けられる。

「あ、あの……俺、お使いで褒めていただくような年齢じゃ……」

「ええ? じゃあ、何歳なの?」

「十八です。」

胸を張って言うと、アウラ様とマーレ様が目を見開いてぽかんとする。

すると、

「ザナック、来る途中で転んだりしなかった?」

「ザナックさん、帰りも危ないですから送りますよ」

頭を撫でながら言われる。

「あ、あの」

「帰りの道分かる? 出口はあそこだからね」

「お菓子食べましょうね」

「子供じゃないですっ! ……お菓子は、いただきます……せっかくなので」

堪えきれず叫ぶと、二人は笑う。

「だって私達の方が年上だし……七十六歳のお姉さんだもん! あ、ザナック、今日から私のこと"お姉ちゃん"って読んでね!」

二人は俺より身長も低いし、どう見ても二人の方が子供にしか見えないのだが。何故か姉と呼ぶように指示された。

「じゃ、じゃあ、僕も、お兄ちゃんって」

「……」

お姉ちゃん、お兄ちゃん、なんてこの歳になって羞恥プレイ過ぎる。だが、言うしかないのだ。二人のキラキラした瞳を裏切る訳にいかない。

「お、おねえ、ちゃ…………ん」

「きゃああ! 可愛い!」

体当たりのように抱きつかれる。

「あの、姉上と兄上でご勘弁を………」

顔を隠して涙声で言うと、

「仕方ないなぁ、たまには呼んでね!」

「は、はい……姉上」

「むふふ!」

満足そうな声。

「……僕も!」

「あ……兄上」

「ふふっ」

ほどけるような微笑み。

「じゃあ、丁度おやつタイムだったからお菓子を一緒に食べて行かない?」

「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」

アウラ様に引っ張られるまま巨大樹の中へ入っていく。螺旋階段がある。俺は中へ通され、ソファに座らされた。

「じゃーん、ホットケーキだよ!」

机に置かれたケーキがふわりと跳ねた。湯気が立つ。甘い香りが部屋に充満した。二人は席に着き、「いただきます」と言って食べ始める。ホットケーキにナイフを入れる。しっとりした切り口だ。

「……いただきます」

口に入れると、柔らかすぎてとろけた。

「んん……美味しいです」

「ナザリックの料理だからね」

アウラ様は誇らしげに、歯を見せて笑った。

 

───────

 

アインズ様との婚約発表から一週間後。廊下を歩いているとろくな事がない。俺は早々に自室に帰った。ベッドに潜り込み、アインズ様抱き枕を抱き、アインズ様ぬいぐるみと見つめ合っていたその時。コンコン。軽くて可愛らしいノックの音。俺は急いでアインズ様たちを隠して、出た。

「はい、どちら様で……」

そこには、アウラ様が立っていた。

「ザナック、キャンプしよ!」

「え?」

「よし行こ」

 

手を引かれ、連れられた先は大森林。の中。手作りらしきあたたかみのある木のテーブル。半分に切られた木を倒したような長イス。その少しズレたところに、マーレ様がいる。

「あ、お姉ちゃん、……とザナックさん……火を付けたいので細い枝を集めて来てくれますか?」

「ええ……分かりました」

何が何だか分からぬまま、俺は細枝探しに出た。パキ、パキ、と小枝が鳴る。ねじれた木に囲まれ、枝を拾っていると、毛のような重い何かが頭に乗る。

「っ……!?」

見上げれば、漆黒の毛並みを持つ巨大な狼が鼻を鳴らしていた。

「フェンー!」

遠くからアウラ様の声。狼が反応した。

「……?」

もしかして、アウラ様のペットか? 主人が強いとペットも巨大になるのか。

「フェン、ここに居たの!」

アウラ様が駆け寄って──フェン、巨狼に抱きつく。黒い毛並みの中に顔を埋め、満足そうに頬を擦り寄せた。巨大な狼は鼻を鳴らし、低く喉を震わせる。

「また勝手に森の奥行ってたでしょ!」

「……フェン」

名前を呼ぶと、巨狼はゆっくりとこちらを見た。赤い瞳。俺の頭の上に乗せていた鼻先が、くい、と動く。

「……あの、アウラ様」

「ん?」

「この狼は……」

「フェンだよ」

当然のように言われた。

「見て分かる通り、私の相棒!」

アウラ様が誇らしげに言う。フェンは俺をじっと見て、それから鼻先を近づけた。

「……」

ふん、と鼻を鳴らす。そのまま頬をぐい、と押された。

「うわっ」

体が少しよろける。

「お、フェン気に入ったみたい」

アウラ様が笑った。

「え?」

「フェン、気に入った奴にしか近寄らないんだよ」

そう言いながらアウラ様は、俺の腕に抱えていた細枝を見た。

「お、ちゃんと集めてるじゃん。えらいえらい」

「ありがとうございます……」

なんだかまた褒められてしまった。すると、フェンがゆっくりと腰を落とした。巨大な体が地面に沈む。

「ん?」

「乗れって言ってる」

アウラ様が当然のように言った。

「乗れって……」

「フェンに」

「え?」

「早く」

「え?」

混乱していると、アウラ様はひょい、と軽くフェンの背中に飛び乗った。まるで慣れきった動作だ。

「ほらザナック、後ろ!」

「ええっ!?」

「落ちないから大丈夫!」

「いやそういう問題じゃ……!」

フェンが振り返る。赤い瞳と目が合う。

「……」

「……」

ふん、と鼻を鳴らされた。どうやら本気らしい。

「……失礼します」

俺は恐る恐る、フェンの背に手をかけた。毛並みが信じられないほど柔らかい。沈み込む。

「うわ……」

思わず声が漏れた。

「すごい……」

背中は広く、温かかった。俺は細枝を抱えたまま、アウラ様の後ろに跨る。

「乗れた?」

「はい……」

「じゃ、行くよ!」

アウラ様がフェンの首を軽く叩いた。

「フェン!」

次の瞬間。ドンッ。地面を蹴る音。景色が跳ねた。

「うわああ!?」

森が一瞬で流れ始める。風が顔に当たる。枝の匂い。土の匂い。緑が横に飛ぶ。

「速い……!」

「でしょー!」

アウラ様は楽しそうに笑っている。俺はフェンの毛を必死に掴んだ。柔らかいが、しっかりしている。

「落ちませんよね!?」

「落ちない落ちない!」

軽い返事。数十秒ほど駆けた頃、森の中に焚き火の煙が見えた。

「マーレー!」

フェンが勢いを緩め、焚き火の近くで止まる。

マーレ様がこちらを振り向いた。

「……あ」

ぱちぱちと焚き火が弾ける。

「フェンに乗って帰ってきたんですね」

小さく微笑んだ。

俺はフェンの背から降りる。

脚が少し震えた。

「……すごい乗り物ですね」

「でしょ!」

アウラ様は誇らしげだ。フェンは満足そうに尻尾を振り、俺の肩に鼻を押し付けた。

「うわっ」

ぐい、と押される。

「……懐かれたみたいですね」

マーレ様が優しく言った。

「……そう、みたいです」

俺はフェンの頭を撫でた。毛並みはやっぱり柔らかい。

「よし!」

アウラ様が手を叩いた。

「じゃあザナック、次は薪割り!」

「え?」

「キャンプだからね!」

俺は空を見上げた。ナザリック第六階層。大森林。どうやら今日は、簡単には帰れそうにない。

────焚き火の準備が一段落すると、アウラ様がぱっと立ち上がった。

「よし! 次は魚!」

「魚……?」

俺が首を傾げると、アウラ様は親指で森の奥を指す。

「川あるんだよ。すっごい浅いけど魚いっぱいいるんだ!」

「……取りに行くんですか?」

「うん!」

即答だった。

「ザナックも行こ!」

「え、ええ!?」

断る隙がない。

マーレ様も静かに立ち上がる。

「……靴、脱いだ方がいいですよ」

そう言って、マーレ様はブーツを脱ぎ始めた。

「え?」

「川に入るから」

「……入るんですか?」

アウラ様は当然のように靴を脱ぎ、靴下もぽいっと丸めて置く。

「当たり前じゃん」

「魚捕るんだよ?」

俺はしばらく固まっていたが、観念して靴を脱いだ。冷たい草が足の裏に触れる。

「……なんだか不思議な感覚です」

王城では絶対にやらなかった行為だ。

「ほら、こっち!」

アウラ様が手招きする。少し進むと、小さな川が見えた。水は透き通っていて、石の上をさらさらと流れている。

「うわ……」

思わず声が漏れる。

小魚が群れで泳いでいた。

「でしょー!」

アウラ様は勢いよく川へ入った。

ぱしゃっ。水が跳ねる。

「冷たっ!」

「気持ちいいよ!」

俺も恐る恐る足を入れた。

「……!」

冷たい。だが、嫌な冷たさではない。

森の空気と水の匂いが混ざって、妙に心地いい。マーレ様は静かに川へ入り、下流を見ていた。

「……ザナックさん」

「はい?」

「石の影に魚います」

指差された先を見る。本当だ。

「……どうすれば?」

「こう」

マーレ様が静かに手を伸ばした。

ぱしゃっ。一瞬。小魚が一匹、手の中にいた。

「すごい」

「慣れです」

マーレ様は優しく笑った。

その横で。

「捕まえたー!」

アウラ様が両手で魚を掲げていた。

「見てザナック!」

「大きいですね……!」

「でしょ!」

アウラ様は得意げに笑う。フェンは川岸に寝そべり、こちらを眺めていた。時々、水を舐めている。俺も石の影に手を伸ばしてみた。

「……」

魚が逃げる。

「……」

もう一度。

「……!」

ばしゃっ。

「捕まえました!」

思わず声が弾む。小さな魚だが、ちゃんと掴めていた。

「やったじゃん!」

アウラ様が笑う。

「ザナック、才能あるかも!」

「そんな……」

だが、少し嬉しい。しばらくして、数匹の魚が籠に入った。

「よし、これで十分!」

アウラ様が川から上がる。

「戻ろ!」

俺たちは足を拭き、靴を履いた。

焚き火の場所へ戻ると、長イスに座ってあたたまる。焚き火の炎が、ぱちりと音を立てた。赤い火の粉が、ふわりと夜の空気に舞い上がる。森の匂い。木の匂い。そして──魚の匂い。

「よし、焼くよ!」

アウラ様が枝を数本拾い、ナイフで先を削る。器用な手つきで魚を串に刺した。

「ザナック、これ持ってて」

「あ、はい」

渡された串を両手で受け取る。まだ少しぬめりの残る魚の体が、枝の先で揺れた。

「こうやって火の近くに出すんだよ。近すぎると焦げるからね」

アウラ様が自分の串を焚き火の上にかざす。ぱちぱちと薪が弾ける。俺も真似して串を差し出した。

「……こうですか?」

「うん、いい感じ!」

炎の熱が頬に当たる。魚の皮がじわりと色を変え始めた。じゅう、と音がする。

「おお……」

思わず声が漏れた。

「焼けてるね」

マーレ様が隣で静かに言う。彼も同じように魚を持っていた。

「……王城では、こういうのは経験ありませんでした」

俺は正直に言った。

「だよね」

アウラ様が笑う。

「王子様が川で魚捕って焼いて食べるなんて、普通ないよね!」

「ええ……」

苦笑する。魚の皮がぷくりと膨らむ。脂が火に落ち、ぱち、と弾けた。香ばしい匂いが広がる。

「いい匂い……」

思わず呟くと、アウラ様がにやりと笑った。

「ナザリックの料理、すごいでしょ」

「本当に」

俺は頷いた。やがて。

「よし、できた!」

アウラ様が魚を引き上げた。

皮はこんがりと焼け、少しだけ裂け目から白い身が見える。

「ザナックのもいい感じだよ」

「……本当だ」

俺も串を持ち上げた。焼き魚を手に持つなんて、初めてだ。

「じゃ、いただきます!」

「いただきます」

「……いただきます」

三人の声が重なる。俺は少し冷ましてから、魚の身をかじった。

「……!」

外は香ばしい。

中はふわっと柔らかい。川魚特有の淡い味が、口の中に広がる。

「美味しい……」

思わず笑ってしまった。アウラ様が得意げに胸を張る。

「でしょー!」

マーレ様も静かに頷いた。

フェンは焚き火の横に寝そべり、尻尾をゆっくり振っている。時々こちらを見て、鼻を鳴らした。

「フェンにもあとであげるからね」

アウラ様が言うと、巨狼の耳がぴくりと動いた。俺はもう一口魚を食べる。焚き火の暖かさ。森の匂い。静かな夜。

「……なんだか」

思わず呟く。

「楽しいですね」

アウラ様は笑い、マーレ様は小さく頷いた。焚き火が、ぱちりと弾けた。

大森林の夜は、思ったよりもずっと温かかった。魚を食べ終え、串を脇に避けると、焚き火の炎が少しだけ小さくなっていた。ぱち、ぱち……と穏やかな音が鳴る。アウラ様は長イスの上で足をぶらぶらさせながら、焼き魚の串をくるくる回していた。マーレ様は隣で静かに湯気の立つ飲み物を飲んでいる。フェンはその足元で丸くなって、時々こちらを見ていた。

「……ねえ、ザナック」

アウラ様が、ふいに口を開いた。

「はい?」

「アインズ様のどこが好きなの?」

「ぶっ──」

あまりにも直球だった。

俺は危うく口の中の魚を吹き出しかけて、慌てて飲み込んだ。

「な、なななっ……な、何を急に……!」

「えー、だって気になるじゃん」

アウラ様は悪びれもせず言う。

「婚約したんでしょ? だったら恋バナくらいしてよ」

「こ、恋バナって……」

耳が熱い。焚き火のせいではない。絶対に。

「ほらマーレも気になるでしょ?」

「……うん。ちょっと」

マーレ様が静かに頷いた。

「ど、どこが好きって言われてもですね……」

しどろもどろになりながら、俺は視線を泳がせた。焚き火。木。フェン。空。どこにも逃げ道がない。アウラ様はにやにやしている。

「じゃあ、最初はどっちから好きになったの?」

「そ、それも……その……」

「アインズ様?」

「…………たぶん」

「たぶん?」

「俺は……っ、気付いたら、というか……いや、でも、どう考えても、あの方の方が先に……」

顔を覆いたい。だが今それをやると余計に面白がられるのが分かる。

「へえー!」

アウラ様が身を乗り出した。

「アインズ様の告白、どういう感じだったの?」

「どういう感じって……」

「優しかった? 甘かった? それともぐいぐい来た?」

「ぐっ……」

全部だ。全部なのだが、そんなこと言えるか。マーレ様が、こてんと首を傾げた。

「……アインズ様、ザナックさんにだけ、ちょっと違う感じしますよね」

「そうそう!」

アウラ様が勢いよく頷く。

「なんか、すっごい過保護!」

「うっ」

否定できない。

「寒いって言えば上着を着せるし、疲れてそうならすぐ座らせるし、ちょっと姿見えないと探すし」

「……それは」

「しかもザナックがいると、ちょっと機嫌いいよね」

「え」

「うん、いい」

マーレ様まで同意した。

「……いつもより、ちょっと声が柔らかいです」

胸がどくんと鳴る。

「そ、そうなんですか……?」

「そうだよ」

アウラ様は即答した。

「ザナックには分かんないんだ?」

「いや……その……俺は、あの方のことになると、あんまり冷静では……」

「ふーん?」

完全に面白がっている声だ。

「じゃあザナックは? アインズ様のどこで好きになったの?」

またそこに戻るのか。だが、今度は少しだけ息を吐いて、考えた。焚き火の向こう、赤い火が揺れている。あの人の顔が、自然に思い浮かぶ。

「……優しいところ、ですかね」

「ふふ、やっぱり」

アウラ様が笑う。

「でも、ただ優しいだけじゃなくて……ちゃんと見てくださるところが、好きです」

口に出すと、恥ずかしい。だが、もう止まらなかった。

「あの方は、俺が誤魔化そうとしても、割と見抜くんです。……俺の体調とか、無理してる時とか、思ってることとか」

マーレ様が静かに聞いている。アウラ様も、今は茶化さない。

「それに……すごく不器用なくせに、真っ直ぐで」

「うんうん」

「格好つけようとして空回りする時もありますし、変なところで照れますし、急にものすごく甘いことを言ったり……」

「えっ、甘いこと言うの!?」

「い、言いますよ……」

思い出してしまって、また顔が熱くなる。

「へぇぇ……」

アウラ様の目がきらきらした。

「例えば?」

「例えばって……」

「聞きたい!」

「……俺のことを、お嫁さんって」

「うわーーーーっ!!」

アウラ様が長イスの上でばたばたした。フェンが何事かと顔を上げる。

「なにそれ、めちゃくちゃいいじゃん!」

「……仲良しですね」

マーレ様がぽつりと言う。

「な、仲良しというか……」

「好きなんだね」

静かな声でそう言われて、俺は言葉に詰まった。好き。もちろん好きだ。好きどころではないくらい、大事だ。

「……はい」

小さく頷く。

「好きです。すごく」

焚き火の音だけが少しのあいだ続いた。するとアウラ様が、にっ、と笑った。

「じゃあさ、キスとかするの?」

「ぶっ」

二度目だ。今度こそ咽せた。

「ゲホッ……な、なんで話がそこに」

「恋バナだから!」

「……するんですか?」

マーレ様が、純粋な顔で追撃してきた。逃げ場がない。

「……します」

「どっちから?」

「え」

「どっちから?」

「え、ええと……時と場合によります……」

「ふーん!」

アウラ様は完全に楽しんでいた。

「アインズ様、ザナックにキスする時、優しい?」

「…………優しいです」

「へえ」

「でも、たまに……ちょっと意地悪です」

言ってから、しまったと思った。アウラ様の目がさらに輝いたからだ。

「意地悪!」

「な、なんでもありません」

「気になるー!」

「言いません!」

「えー」

アウラ様は頬を膨らませたが、すぐに笑った。

「でもさ、ザナックがそんな顔するくらいなら、本当に大事にされてるんだね」

「……そんな顔、ですか」

「してるよ」

マーレ様がこくりと頷く。

「……すごく、嬉しそうな顔」

その言葉に、胸の奥がじんわり温かくなった。自分では分からなかった。そんな顔をしているのか、俺は。アウラ様は足を組み替えて、少しだけ真面目な顔になる。

「アインズ様、ザナックのこと本当に好きなんだと思う」

「……はい」

「だからザナックも、もっと甘えていいんじゃない?」

その一言に、俺は少しだけ黙った。

甘える。それは、まだ俺には少し難しいことだ。けれど。

「……そう、ですね」

ぽつりと答える。

「頑張ってみます」

「うん!」

アウラ様は満足そうに笑った。

「じゃあ次はどれだけ進展したか、今度報告してね!」

「それは嫌です!!」

「えー!」

「絶対に嫌です!!」

アウラ様の笑い声と、マーレ様の小さな笑い声が森に溶けた。焚き火はまだ暖かく、フェンは再び丸くなって眠り始めている。恋バナなんて柄じゃないと思っていたのに。

「……でも」

「ん?」

「こういうのも……悪くない、ですね」

俺がそう言うと、アウラ様とマーレ様は顔を見合わせて笑った。

 

 

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