※この作品はR-18です。

ザナック蘇生if/アイザナ   作:アイザナ大使

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注意※バルブロ×オリキャラです




スコーン

 

 

『兄上!! 不摂生が過ぎます!! たまには太陽光を浴びて散歩でもしてください!! ほら、光合成!』

そんなふうに小太りの弟に送り出された。自分だって痩せないくせして。というか俺は植物じゃない。仕方なく庭園を歩く。淡い色の花々。瑞々しい葉。鬱陶しい程に快晴。眩しい。空っぽになってしまった俺には。

「…………はぁ」

庭園はやたら広かった。歩いても歩いても、花と木ばかりだ。細い小道。両脇に並ぶ花壇。名前も知らない花が、好き勝手に咲いている。香りがする。甘い匂いだ。

「……くどい」

誰に言うでもなく呟く。何も感動が無い、何者でもなくなった──俺は、ゴミになってしまったから。ふと、風がを揺らし、擦れる音。さらさら、と。空を見上げる。青い。やはり……眩しい。目を細めると、視界の端で何かが動いた。小さな影。白い鳥だった。庭園の低い柵に止まり、こちらを見ている。丸い体に小さな嘴。

「……」

鳥は逃げない。俺が数歩近づいても、ただ首を傾げるだけだった。

「……お前も暇なのか」

いつの間に鳥に話しかけている自分に気付き、少しだけ眉をしかめた。昔なら、こんなことはしなかった。王子が鳥に話しかけるなど、笑い話にもならない。だが今は。もう、何者でも無い。……別に、誰も見ていない。鳥は、ぱち、と瞬きをした。小首を傾げる。その瞬間。ふと、何かが浮かぶ。広い庭。笑い声。花を持っている手。

「……」

胸の奥が、少しだけ軋んだ。痛い。あの拷問の痛みとは違う。鈍い。重い。

「……ちっ」

舌打ちして、目を逸らす。鳥はまだ視界の端に居た。

「……」

少し考えて、近くのベンチに腰を下ろした。木のベンチ。太い幹を半分に割っただけのような作りだ。背もたれもない。

「……粗雑だな」

誰に言うでもなく呟く。だが、座ってみると意外に悪くない。背中に日差しが当たる。暖かい。暖かすぎる。目を閉じる。花の匂い。遠くで、水の音がした。噴水か何かだろう。

「…………」

何も考えない。ただ、座っている。しばらくして。小さな音がした。こつ。目を開ける。さっきの鳥が、隣のベンチに止まっていた。

「……」

近い。手を伸ばせば触れそうだ。鳥は逃げない。じっとこちらを見ている。

「……なんだ」

俺は小さく息を吐いた。

「そんなに面白いか」

鳥は答えない。ただ、もう一度首を傾げた。その仕草が、妙に──懐かしく

「……」

思考が止まる。胸の奥で、何かがまた動く。だが。

「……くだらんな」

立ち上がる。鳥は飛ばない。ただ見送っている。俺は空を一度だけ見上げた。相変わらず、鬱陶しいほど晴れていた。

「……ザナックの奴」

ぼそりと呟く。

「余計なことを」

だが。足取りは、来た時よりほんの少しだけ軽かった。少し奥へ進むと、先程のベンチより休めそうなテーブルとイスのセットがあった。ストン、と座った。息をついて、とりあえず空を眺めた。──その時、後ろから声がかかる。

「お菓子、食べませんか?」

ヒールの音。甘い香り。これは──彼女の。体が金縛りにあったように動かない。甘い香りがすぐそばまで来て、細い手がテーブルに皿を置き、焼きたてのスコーンを配る。とぽとぽ。紅茶が入れられる。

「ご一緒しても?」

俺の向かいに、茶髪をひとつに括り、頬にそばかすを散らした女が座った。目を見開く。喉が潰されたかのように声が出ない。甘い香りがする。菓子ではなく、この、目の前の──

「バルブロ様、一緒に食べませんか?」

俺は返事をした。「ああ」と。押し出されたような返事だった。スコーンを手に取る。ジャムを塗った。一口。控えめな甘さ。素朴な味だ。沈黙に耐えきれず、もうひとつ手に取る。口に放り込む。咀嚼する。女を見た。女は、微笑んだ。それに俺は、胸がきゅうと潰された。この感覚はなんだ。苛立ち? 違う。不快感? 違う。──喜びだ。冗談ではない。俺の人生の最大の、至上の。嬉しい出来事だった。何故、このスコーンはこんなに甘い。何故、この女に微笑まれると、嬉しい。何故、俺は泣く。俺は、空っぽなはずなのに。

「あら、」

女──ジェーンはハンカチを出した。彼女らしい真っ白な地に緑の刺繍が入ったものだ。頬に。触れた。俺の涙を拭う。触れられた頬が熱い。熱くて、じんじんと疼く。ドクドクと鼓動が聞こえる。

「ほら、笑って。バルブロ様には笑顔が似合いますよ。」

俺は笑った。理由は分からない。言われたからか。笑いたい気分だったからか。

「フッ……」

涙も引っ込んだ頃、紅茶を啜る。丁度よく甘い。温かいものが、胸の内に広がっていく。それは、紅茶のせいか、それとも。俺は彼女を執拗に眺めていた。観察と言おうか。息をつく仕草。目を伏せた回数。カップを持つしなやかで細い指。

「ふふ、あの、あまり見られると恥ずかしいです」

ジェーンは首を傾げる。照れたように笑った。目の下のシワひとつさえ愛おしい。ふと、気付いた。俺は、蘇生されたから何も感じなくなったんじゃない。最初から空っぽだったんだ。結局、俺が欲しかったものは何だ?

「……失礼した」

目を逸らした。だが、すぐに彼女を見てしまう。視界から外に出すのが惜しい。俺の瞳の中だけでもいいから、そばに居て欲しい。空っぽのままの俺は思い出した。いつだって、俺を俺として見てくれていたのは誰だ。──俺は、特別じゃなくていい。だから思わず、溢れた。

「…………好きだ」

……カチャ。紅茶のカップを置く音。

「そうですか」

ジェーンは深緑の瞳をゆるりと細めた。

 

 

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