ゼルンの王子様可愛い。シズとの出会いと救出&敵幹部を倒そう。です
「それで、どなたが同行してくださるのですか?」
「ふむ、それなんだが……」
カスポンドが言ったのはザナック、それと
「先の戦いのあと、一人のメイドが司令部に訪れた。魔導王陛下のメイドだそうだ」
そのメイドが待っているという傷ついた館にネイアとザナックは訪問していた。
蝋燭を持ち、長い廊下にて歩みを進める。
(どんな人なんだろう……)
ネイアはお淑やかな長身の女性を想像した。言葉遣いなどに自信がない。マナーを指摘されたりすれば真っ赤になって逃げ出してしまいたい。
暗闇の中、ネイアは声を出した。
「ネイア・バラハです、どこにいるんですか?」
「ばあ」
メイドらしき声。振り向くと一人の少女。
「ひゃあ!」
ネイアはまた可愛らしい声を上げて驚いた。
「うお」
肩を揺らしただけのザナックはそれだけだった。
「いい感じに驚いた」
迷彩のメイドの少女は満足そうに言った。
「あ、あなたが魔導王陛下のメイドさん……ですか?」
「そう。私はアインズ様に忠誠を尽くす者。それで、何しに来た?」
「あなたに……話を聞きたくて来ました」
ネイアは蝋燭を少し近付けた。
ひょこ、とネイアの後ろからザナックが顔を出した。
机の上には先程の蝋燭が置かれ、三人は仲良く団子のようにソファに座っていた。
「飲み物」
メイドの少女は茶色の液体が入った小瓶を机に置いた。
「これは……」
ネイアが首を傾げる。
「チョコ味」
そう言いながらメイドの少女はもうひとつ小瓶を出す。
「ちょっとカロリーが高い。二千ぐらい」
「おお……」
出されたそれを見つめるネイア。
「けど気にしない。美味しいものを食べて太るのは女の本望って偉大な御方のお一人が言っていた」
一口飲むと、ザナックにもそれを押し付ける。
「ザナック様も、飲む」
「え、えぇ、ありがとうございます」
三人でチョコレートドリンクを飲み。一服。
「甘いですね、ザナックさん」
「美味しいです」
「それはよかった」
「あ、違うそうじゃない! 私は話を聞きに来たんです!」
二本目のチョコレートドリンクを机に置き、ネイアが向き直った。
「えっと、まずはあなたの名前を教えてくださいませんか? 私の名前はネイア・バラハ。魔導王陛下の従者を務めさせていただいておりました」
メイドの少女に向かってネイアは自己紹介をする。
「聞いてる。目つきの悪い人物だと。CZ2128・Δ。シズ・デルタと呼んでいい。ネイアと呼ぶ」
「あ、はい。ひとつ聞いても? シズさんはどうして聖王国に?」
「ん、ザナック様のお世話と護衛役。アインズ様から、ザナック様が食事を抜いてないか監視するように言われた」
「お世話と、護衛……」
(ザナックさんってもしかして私が思うより偉い人……?)
「作戦は理解した。三人でこっそり城に潜入して王子を助ける」
三人は机に広げた地図に釘付けだった。
「そのあと、解放軍とゼルンでカリンシャを攻め落とす」
「はい、それでゼルンの話では……王子の部屋を守る番人の他に大悪魔がいる可能性があるそうです」
「知っている。三人いて、そのうちのどれかが各都市を巡回してるはず」
「どの程度の強さでしょうか」
二人の間にいるザナックが地図を指先でなぞりながら呟いた。
「うーん……アインズ様よりは弱い」
「それじゃ基準になりませんよシズ様」
(様付けでシズさんを呼んだ。ということはシズさんも偉い人……? いや、ザナックさんが勝手に敬称を付けてるだけ??)
「後続の者を導くのは、先達としての役目。私がリーダーになる」
「ありがとう……ございます?」
ネイアはまた首を傾げた。
「気にする事はない。アインズ様が偉大なお方だと知る者には慈悲を与えるべき」
「アインズ様が偉大なるお方であるのは事実であり、同意だわ」
「お二人の熱についていけませんね」
三人は何故か握手をした。
「何故俺まで」
「ネイアは人間としては見どころがある。それに、ザナック様に似てる。可愛い。……本当はネイアがどうなろうと知ったことではないと思っていたけど……無事にこの国に戻す」
「え……」
「アインズ様より最後に受けた命令は、ザナック様の護衛とお世話、そしてあなたに協力しろというもの。だから、私が死んでもザナック様は守る。……ネイアは……死なない範囲で頑張る」
「ありがとうございます……??」
それは、喜んでいいのか。
ネイアには答えが分からないが、先程よりは喜ぶべきなのだろう。たぶん。
「よし」
小さく呟くと、シズはネイアの露出したおでこにぺたりと一円シールを貼った。
「うっ……ぇ、な……何これ!? 何なの? これ」
「ネイアはかわいくないけど、かわいい。特別にあげる」
「な、なんでこんなところに貼るの〜!」
「む、妹っぽい」
その謎の判断にザナックはくすくすと笑う。
「仕方ない」
「おお……っ」
謎の瓶を出して液体をかけられ、シールは剥がされた。
「シール、目立つところに貼ること」
「あ、はい」
シールは手渡された。
「実は俺も持っているんですよそれ」
「本当ですか!?」
「ええ、肌身離さず持ってます」
「話は終わり?」
「あ……いえ、あとは……この作戦が終わったら魔導王陛下を捜し……いえ、迎えに行くという話をしようと」
ネイアは少し表情に影を落とした。
「問題ない、私も行く」
シズは即答だった。
「本当ですか? ……実は、魔導王陛下は東の地に落ちて、それから連絡が取れてないの。何か不測の事態が発生した可能性が……」
「何を言っている?」
「え?」
「無事、死んでない」
「……陛下…………生きていらっしゃる……」
ネイアは涙を決壊させた。ほろほろとこぼし、シズはそれをハンカチで拭った。
「ううっ……ひっく……」
「ん……」
ハンカチを離す。
「鼻水がついた」
たしかに鼻水が伸びた。
「かなりショック」
「わ、私が洗濯します!」
「うん」
ぽん、とザナックの頭に手が置かれる。
「ザナック様も、泣かない」
当然、ザナックは泣いてなかった。けれど
「よしよし」
だんだんと表情が崩れる。
「……アインズ様…………ご無事ですかね」
泣きそうな顔で呟いた。
「絶対! 絶対に大丈夫です! 陛下がザナックさんを置いて行く訳がないですから!!」
「ザナック様、寂しがり屋。だから慰めてって言われてる」
「よしよし」
ネイアも撫でる。
「よしよし」
シズが撫でる。
「泣かないでください」
「泣かない」
「……ふぁい」
目元を擦り、ザナックは頷いた。
──────
ストン、ストン。どんどんと樽が置かれていく。食料倉庫に潜入した三人は肉に紛れて樽の中に入っていた。ゼルン達が去った後。
「っと……」
ネイアが抜け出す。
そして、ザナック。
続いてシズ。
「シズさん、生肉が髪についてる」
そっとそれらを取り除いた。
「礼を言う。二度とこんな潜入方法はしない」
「もう一回、脱出する時があるけどね」
最悪だ、とでも言いたげな顔をしたシズは、空中から魔道銃とネイアの弓、ザナックの刀を取り出す。
「んっ」
「ありがとうございます」
「ネイアさん、シズ様、それでは行きましょう」
刀を腰に差したザナックが言った。
ゼルンの王子はこの城の離れに閉じ込められている。
そこに行くには塔と城を繋ぐ天空通路と、さらにそこに向かう、身を隠す場所のない長い通路を攻略しなければならない。
ネイアが説明する。
作戦は、一度その上の階にある部屋に侵入。
最初の難所である長い通路。その通路の上の階に来ていた。この下にロープを下ろし外壁に伝って降りる。
シズはまた謎の空間からロープを取り出した。
それを部屋の扉を開け、大きな棚に括りつけた。
蜘蛛の巣のようなものがべっとり付いていて引っ張っても微動だにしない。
先に行ったシズが下の階の窓を開けた。そして入り込む。続いてザナックとネイア。
ロープを伝い、慎重に侵入した。
長い通路の見張り番が二人。射線が取れる。
「二人居ます」
ザナックが報告した。
シズは魔銃を構え、ネイアは矢をつがえた。
あっという間にシズは亜人の頭半分を消し飛ばし、ネイアも頭蓋に命中させていた。
「すみませんお役に立てず……」
ザナックが頭を深々と下げた。
「違う。そもそも、ザナック様、護衛対象」
ぽんぽんとまたシズがザナックの頭を撫でた。
「でも……」
「では、ゼルンの王子の部屋を守る番人の時はお願いします」
ネイアが言うと、ザナックの表情が明るくなる。
「じゃあ、私もザナック様の護衛、気合いを入れる」
シズも意気込んだ。
その後向かいの亜人の見張りは透明化を使ったシズが倒し、二人は急いで移動した。
「もう今日は姿を消すことができない。注意して行く」
シズに続き、二人は階段を駆け登って行く。
一階上がると、ドスンという鈍い足音が聞こえてくる。
「たぶん、番人。一気にとどめを刺す」
「了解」
ネイアが弓に手をかける。
「分かりました」
ザナックは抜刀の構え。
「何だ? お前達は」
巨体。金属鎧を着ている。その皮膚は青白く、不健康というより魔的な印象。額からは太い角。手には大きなメイス。
二人は即座に銃弾と矢を打ち込んだ。けれど血の匂いもせず、効いている素振りはない。
後退されてしまったので刀も届かない。
「どうしますか? シズさん」
「ここで手をこまねいていても仕方がない。警備兵が来る前に、距離を詰めて攻撃」
「こんなところに人間が……だと?」
シズが魔銃を打つ。けれど効かない。矢が顔面に直撃しても無傷で笑っている
「フハハハハ、俺には効かんぞ」
「あらゆる飛び道具に対する完全耐性? あの程度の強さで? 何かタネがある」
「ううっ……ふっ」
ザナックは迫り来る腕に刀を振り下ろす。けれどそれも効かない。すり抜ける。
「え? 飛び道具の耐性じゃ……っ」
目を見開いたザナック。このままでは叩きつけられる。
「ザナック様、危ない」
ぐっ、とありえない怪力で引っ張られ、ザナックは後ろに飛ぶ。それをシズが横抱きでキャッチした。
「へ?」
「ふう、危なかった」
「もっと他になかったんですか」
顔を赤くしてザナックは両手で覆った。
「ハッ、無駄だ、無駄だ、通じないと言っているだろう」
それでもザナックは向かう。シズの腕から降り、身を低くして足元を切りつけた。二回、三回、四回。
攻撃を避け、時折下がりつつ、斬り続ける。その間もネイアの弓矢が
「はぁっ、はぁ…………シズ様、これ、どういうことでしょう」
下がり、膝に手を置いて息を荒くするザナックはシズの方を向く。
「回数制限?」
ぽつり。
シズが標的になり、腕が振り上げられる。
「ネイア」
「分かってます!」
潜り抜けたシズがネイアに指示を出す。
一本の矢が
「ぐおっ……! くうっ」
呻き声。
「十回。理解した。攻撃を防げる回数は十回まで。それは、一日で? それとも一時間で?」
「くっ……っ、ううっ……」
悔しげに顔を歪める
「何にせよ関係ない。あなたは……ここで死ぬ」
「ぐっ……おのれ!
霧が発生する。濃すぎる霧に、ネイアは自分がどこに立っているかさえ分からなくなる。
暗闇と霧の中でシズの魔銃の音。ネイアも一緒になって矢を打った。
「今、後ろに回られた」
「え?」
「ふんっ……!」
ザナックが大きく斜めに刀を振ると霧が一瞬晴れた。
「はぁっ……!」
ザナックは油断の隙をついて
「ぐっ、はぁ……! う、ぐう……」
大きく苦しげな声。
「モードチェンジ、フルバースト」
シズの声。
キュウウウと甲高い音。ドガガガガと耳を痛めそうな騒がしいくらいの音が通路に響き渡る。
「ぐ、おおっ……」
再びの霧の中、
最上階。あとは王子を救出するだけ。
「…………ここ」
「はい」
シズが扉を蹴り開けた。
もちろん警戒はして脇に身を寄せていた。
けれど攻撃は来ない。三人は同時に飛び込み、各々武器を構える。
「いない」
「あ……」
辺りを見回す。
そしてベッドの上。毛布の下、小さな膨らみ。
バッとネイアがそれを剥がした。
シズが魔銃を向ける。
「待って! これが救出しに来たゼルンの王子様よ!」
「これ?」
不思議そうにシズとザナックが同時に首を傾げる。
「えっと……話せますか? ゼルンの王子様」
「うむ、話せるぞ」
五十センチ程の大きさ。見た目は青紫の蛆のような姿。だが、
年端もいかないような少年の声だった。
「お主らは我の食事ではないようだな」
「はい、食事ではなくて、あなた様を助けるように依頼を受けて私達は来ました」
ザナックは身を低くして王子に話しかけた。
「同卵からか?」
「べーベーべというゼルンからです」
ネイアが言った。
「べーべーべだと? しかし我がここを離れればヤルダバオト……様の怒りを買うだろう。それは多くのゼルンの民と何より王を危険に晒すことになる」
「……詳しい事情は分かりませんが、王様が亡くなったのであなただけでも助けたいというのが依頼の理由だそうです」
ネイアは続けた。
「何と……父上様が!」
「王子の配下の方々、それに我々、人間の軍が協力してこの都市を落とします。大丈夫だと思ってください」
「なるほど。ここまで我を助けに来た人間の英雄に対し非常に厚かましいお願いであるが、抵抗した我をお主らが無理矢理連れ出したということにしてはくれないだろうか?」
ゼルンの王子の声は冷静だった。
「いざという時の保険ですね、かしこまりました。ではそのような形にさせていただきます」
ネイアもそれに答えた。
ネイアは王子をシーツで包み、赤ん坊を背負うようにした。
「感謝する」
穏やかな声。実際には蛆虫が頭を上げただけのように見えた。
「苦しくはないでしょうか?」
「苦しくはないが……お主いい匂いがするな、腹が減る」
「ゼルンって何を食べる?」
シズがふと聞いた。
「生き物の体液。生死を問わずに、な」
王子が答える。
「後輩に変なことしたら怒る」
「英雄殿にそのようなことをするほど飢えてはおらんよ。しかし……こっちの英雄殿も中々甘い匂いがするな」
「ひゃ」
耳と首元にぷにぷにの物体に擦り寄られ、ザナックは声を上げた。
「う……」
口元を手で塞いだ。
「おっと、すまない」
「ザナック様に変なことしないで。これ以上は手段を問わない」
シズが先程より低い声で言った。
「む、慎むとするよ」
王子は反省し、ネイアの背中にぴたりとくっついた。
──────
そして、最初に潜入した食料庫まで三人は戻って来た。
「部屋の中に何人かいる」
シズが言った。
「お願いします」
ネイアとザナックが頷く。
ドン!と蹴り開けた。
「誰か分からないけど、ゼルンたくさん」
シズは魔銃を下ろした。
「おお、王子……!」
「べーベーべか」
と言い合うがどうやって沢山居るゼルンの中からべーベーべを見分けているのかネイアには分からなかった。青い魚人のような上半身、蛇か幼虫のような下半身。ゼルンの王子は相当若いのだろう。そしてこの姿が成長しきったゼルンなのだ。
ネイアはゆっくりと扉を閉める。
「父が死んだことは聞いた。だがどうするつもりだ? ここより逃げ出すというのは滅びの道ではないのか」
王子はネイアの肩から顔を出す。
「王子の懸念、もっともです。ですが、ヤツはゼルンを奴隷か家畜のようにしか思っていません。全てが終わった時、我々がヤルダバオトの元に居場所を見つけることができるでしょうか」
べーベーべは言った。
「それにまずいことに、頭が二つあるヤルダバオトの側近悪魔が来ているようなのです」
「それは、
シズは魔銃を抱え直した。
「えっ」
「ネイアさん、不安でしたら私が守りますので」
ザナックも刀の柄に指を滑らせた。
「ええっ」
ネイアが二人を交互に見る。
「確かに、ここまで来てしまったのだ。お主らの力に賭けるしかあるまい」
王子は少し頭を上げて言った。
側近悪魔の執務室前。
「一人。警護なし」
部屋から出てきたべーベーべが言った。
「ならば、ヤツを殺すには好都合。行くぞ」
ネイアは不安だった。王子を助けにここまで来たのに本人?が戦闘に参加する危険を冒すのだから。それに、どう見たってこのただの巨大な蛆虫に何か出来るとは思えなかった。
「む? 心配するな英雄殿」
「しますよ……だって王子様を助けに来たのに」
「我は第四位階の精神系魔法を行使出来る力を持っている」
本当かなあ、とは声に出さなかった。
扉を開けると、奥に
「……人間?」
「陰・五行・豪火球!」
ネイアの耳元でゼルンの王子が詠唱した。若々しい少年の声だった。
(早っ!?)
炎の球が
「陽・五行・豪火球」
それが陽の五行によって打ち消される。二つの力はそれぞれ双極であり、互いを打ち消す力を持っている。
「人間の背中にいるのは、ゼルンの王子だな? 人間達を捉えて連行してきた様子ではない」
「クハハハ……裏切りか、面白い」
ゆらりとこちらへ向かって来る
「なるほどなるほど……ゼルンたちよ、お前達の王がどうなってもよいと言うのか?」
「今更何を言っている! 王を殺したのはお前らではないか!」
王子は声を上げた。その声にはほんの少しの悲しみも滲んでいた。
「王? そうなのか? そうか、あれは殺されたのか。であればお前達の王が愚かだったのだろうよ」
枯れ木のような身体。腕を広げて
「やれやれ、裏切り者よ。切り札はその人間共か?」
「言うと思うか!」
「言わなくてもいい。さあ、
鋭い指先でさして
「人間、ゼルンなどについても勝ち目はないぞ。裏切るならば、収容所にいるお前の大切な仲間を助けてやる」
「本当に……?」
ネイアは呟いた。
「何を言う! 裏切るのか!」
王子はネイアに叫んだ。
「黙れ! 私は彼女と話しているのだ」
「君の守りたい。助けたい人間の数を言ってくれ」
「私の……助けたい人は……この国の民、全員です」
「では……交渉を……」
「その為に、お前を倒して全員救う!」
ネイアは叫んだ。
ざん。ザナックの刀が
後ろからシズの射撃。バシュバシュと重めの音。
下がった
シズはナイフを取り出し、跳んで、
ゼルン達も
「陰・木行・雷爪!」
王子が唱えると
「チッ……陽・五行・雷爪」
鬱陶しそうに
ネイアは弓をつがえて矢を放つ。
片腕で防ぎ、
「邪魔を!
一瞬、全員の身体が痺れて硬直する。
シズはそれでも向かう。ナイフを
「陰・木行・雷爪!」
「陽・五行・雷爪」
バチバチと光が弾け合う下、片手と足で捌かれながらシズとザナックは攻撃を続ける。
刀を脚に滑らせた。
けれど斬った直後に蹴り飛ばされる。
「ぐっ……はぁ……っ!」
勢いよく、ドン、と一度床に叩きつけられ、跳ねて壁にもう一度頭を打ち付けた。
「……」
そのままザナックは意識を薄れさせる。
「傷開き《オープン・ウーンズ》」
シズやゼルン、ザナックの傷に響いた。
「シズさん……っ」
ザナックも居なくなり、一人で
「
ネイアはマジックアイテムを起動させた。
後ろからゆっくりと立つ音が聞こえる。ザナックだ。
「ネイアさん……ありがとうございます」
シズの動きも先程より早くなる。
「遅れてすみません」
ザナックは身を低くして
「っ……
頭冠の
「み、見えないっ」
ネイアは目を凝らす。
「大丈夫です、前へ向かって打ってください」
ザナックがネイアの肩を叩く。
「ネイア、ザナック様、行く」
カチャリと魔銃を構える音。
「陰・五行・豪火球!」
「陽・五行・豪火球!」
相殺。
「陰・木行・雷爪!」
「陽・五行・雷爪!」
「……小癪な」
「くっ……」
ネイアは弓をつがえる。
手が震える。
皆、この何も見えない状況でも臆することなく戦っている。
ゼルン達が
ザナックが刀で斬りかかる鋭い音。シズの魔銃のけたたましい射撃音。
前に打てばいい。けれど、もし誰かに当たってしまったら。
「大丈夫、ネイアさん。信じてください」
「大丈夫、ネイア。私は頑丈だから」
「……はい」
感覚が研ぎ澄まされる。あのロイツでの戦いが思い出される。
ネイアは矢を放った。
手を止めない。三つ矢を放つ。
「ぐっ……ふっ……げぼッ……」
血を吐くような声。
ドサリ。乾いた音が聞こえて。
目を開けた。
「……この、私が……何故…………ヤルダ、バオト……様……」
「
「ぐらんど?」
ネイアは首を傾げる。
「パンデックスという亜人種族の女王でな。我の初恋の雌だったのだ。さあ皆、
王子がゼルン達に指示をした。食べる、というのが彼らなりの葬り方なのだろう。ネイアは少しぞわっとした。
「しかし、見事だったぞ! 英雄殿!」
ネイアの背中でびちびちと跳ねた王子。
「あぁ……えっと、シズさんとザナックさんのおかげです」
「いえいえ、ネイアさんの射撃がなければ場は崩れていました」
刀を鞘に収め、ザナックが目を伏せた。
「うん。ネイア、頑張った。えらい」
シズがネイアを撫でた。
「皆さん……ありがとうございました……」
ネイアが頭を下げたその時────
外から兵士達の雄叫びが聞こえて来る。
聖王国の騎士達が駆け付けたのだ。
「行きましょう!」
ネイアに皆は続いて歩いた。