最終聖戦の魔法捏造です。
「これは……マジックアイテムです」
「マジックアイテム……?」
アインズが振り向く。
「王家に伝わる冠……
「その魔法はどのようなものだ?」
「それが私にも分からないのです……。発動に時間がかかるものとしか。すみません」
「……なるほど、ならそその間君を守ればいいのだな」
カルカが頷く。
「ならば私が守ります」
レメディオスは即答した。
「私もです」
ケラルト。
それを聞いていたヤルダバオトが笑う。
「なるほど、切り札というわけか。だが、その前にこちらも少々立て直させてもらおう」
「──魂と引き換えの奇跡」
次の瞬間。
ヤルダバオトの裂けていた皮膚が塞がる。雷撃で焦げていた跡が元へ戻る。焼け跡も聖剣で斬られた跡も。
「くっ、ふふふ……人間達よ! よく私をここまで傷付けてくれた。称賛しよう!」
ヤルダバオトの拍手が空に響く。
三人は絶句した。
「……は?」
レメディオスの声が落ちた。
先程まで必死に四人で積み上げて来たダメージが、一瞬で全部なかったことにされたように見えた。
カルカの顔から血の気が引く。
ケラルトががくりと膝に手をつく。
「そんな……」
回復したのは外見上の傷だけ。多少回復されてもHPは確実に削れているはずだ。とアインズは考える。
だが、しばらく呆然としていたレメディオスが。
「……じゃあ、もう一度斬ればいい」
「え?」
カルカとケラルトの声が重なる。
「傷が治ったならもう一度つければいいだけでしょう!」
アインズは一拍空けて、
「……その通りだ」
いや、そうだけど……そういう問題?という空気が流れる。
けれどレメディオスの単純さが絶望しかけた空気を救う。
「クハハッ! お手柔らかに頼むぞ」
ヤルダバオトが構えた。
「……断る!」
レメディオスがヤルダバオトの間合いに入り、真正面から斬ろうとする。飛び上がった瞬間、ドンと拳を食らう。
建物を貫く勢いで吹き飛んだ。
頭部を切ったのか、血がレメディオスの顔の半分を濡らしていた。
「姉様ぁっ!!」
ケラルトが流石に叫んだ。
だが、瓦礫の中から聞こえたのは
「大丈夫だ!」
異様に元気な声だった。
立ち上がり、頭からダラダラ血を流している。
片腕が震えていた。
「まだ動ける!」
「全然大丈夫じゃないわよ!?」
カルカも思わずツッコんだ。
「どこをどう見たら大丈夫なんですか!」
「行ける!」
レメディオスは聞かずにまたヤルダバオトの懐に飛び込んだ。
腕と聖剣が拮抗する。
アインズはチラチラと地上の方を見ていた。
「……なるほど」
ヤルダバオトが口角を上げた。
「何だ」
アインズが興味無さそうに言った。
ヤルダバオトが地上を見る。
「魔導王殿……? 私は、悪魔です。そして、本気で戦うと言いました」
「だから何だと言う」
焦れたように面倒そうにアインズは眼窩の光を細めた。
アインズはヤルダバオトの視線の先を辿る。
そして、
「あの人間は貴方のご寵愛品ですかな?」
「彼に指一本でも触れてみろ。お前を塵ひとつ残さず消してやる」
間髪入れずにアインズは言い放つ。
その言い方にも腹が立ったし、彼を標的にしようとしていること自体に感情抑制が何度も働くほど怒りが沸騰していた。
「これは戦術です。どうかご容赦ください」
ヤルダバオトはそう言って頭を軽く下げた。
「
その声がアインズには重く低く響いた。
地上に居たザナックの前に炎の大悪魔が現れる。
「……あ、っ……」
ザナックは後ずさろうとし、ネイアは彼の前に出ようとしたがヤルダバオトの手で簡単に後ろに吹き飛ばされた。
眼窩の赤光が激しく揺れる。
ヤルダバオトは拳を振り上げる。
「
ザナックとヤルダバオトの間にアインズが転移して挟まる。
ガンッ!
拳が肋骨に直撃した。
ドガッ、バキッ。と次々に殴打する音。その攻撃は止むことなくアインズを襲う。
一発、二発、三発。肩、胸、腹。
衝撃で肩やローブが揺れる。
「あ、アインズ様ッ……!!」
ザナックが目の前の黒いローブを掴んだ。
「離れるな。ザナック」
それだけ言って、アインズは攻撃を受け続ける。もちろん腕で防いでいるが弱点を突かれてアインズはボロボロだった。
「は、はいっ……!」
ザナックが答えた刹那、アインズの身体が横に飛ばされる。
「ぐっ……!」
苦しげな声と共に。
「え……」
ザナックとの間が開く。
一瞬。ザナックの前に誰もいなくなる。
ヤルダバオトは拳を引く。
ザナックも脚がすくんで逃げられない。
カルカも遠い。ケラルトも届かない。
アインズは空中で体勢を立て直しながら、叫んだ。
「──ザナック!!」
その時。横から、
「うおおおおおおおおおおッ!」
レメディオス。
鎧も壊れ、息も上がり、頭からは血を流している。
ザナックとヤルダバオトの間に飛び込んだ。
そして、聖剣サファルリシアを両手で握る。
「聖撃ッ……!!」
ヤルダバオトの拳の軌道をずらした。風圧でレメディオスとザナックの髪が後ろに揺れた。
「要塞!!」
攻撃を受け、レメディオスは大きく脚を開いて剣を振り上げた。
「うるぁああああああああッ……!!!」
髪を振り乱し、頭から血を垂らして、レメディオスは雄叫びを再び上げた。
聖剣がヤルダバオトの肩に叩き込まれる。
「ぐおおっ……! っ……!」
今までで一番深い傷をヤルダバオトに負わせた。
肩からどくどくと溶岩のような血が流れる。
一気にヤルダバオトは後ろに飛び退いた。
「……ちっ」
アインズはすぐにザナックのそばに寄り、障壁を作った。
「これで安全だ。……レメディオス殿、感謝する。これは回復のポーションだ」
懐から瓶を渡す。
「こちらこそありがとう」
レメディオスは素直にそれを受け取り、頭から被った。
「……」
アインズは飲めと言ったつもりだが、外傷にはその方が効きやすいのでいいか、と思った。
二人は上空に飛ぶ。
「皆さん……」
カルカが目を伏せた。
三人が振り返る。
「時間をください」
アインズはすぐに意味を理解した。
「どれくらいだ」
「分かりません」
「なら、発動まで絶対に稼ぎます」
血まみれのレメディオスが笑った。
「カルカ様のところへは一歩も通しません」
ケラルト。
「分かった。君の魔法が発動するまで、私達が繋ごう」
アインズが頷く。
カルカが冠へ手を添える。
微量に漏れていた魔力が増幅していく。
白銀の光が少しづつ強くなる。
ヤルダバオトも危険を察知してカルカへ一直線で突っ込んだ。
レメディオスが前に出る。
顔面を殴られた。レメディオスも負けじとヤルダバオトの腹を蹴り上げた。
ヤルダバオトが軽く後ろに飛ぶ。
「
その直後にケラルトの魔法の光の柱が直撃する。
「ぐ、っ……!」
逃げながらカルカに近付こうとヤルダバオトは動く。
「
その方向へアインズの雷が追う。
「うおおおッ……!」
レメディオスが反対から挟み、斬り上げた。
「ぐああっ……!」
カルカの冠の亀裂が広がった。
光が溢れる。
都市の地面、上空にひとつづつ白い魔法陣。さらに上空に三つ魔法陣。
空が白銀色に染まり、雲の隙間からは光が射していた。
上位の天使達がどんどんと召喚されている。
鐘の音。
一回。二回。
三回鳴ったところでヤルダバオトの表情が初めて変わった。
アインズも見上げ、レメディオスとケラルトがカルカを見る。
カルカが目を開く。
「大儀式魔法──
白銀の光が世界を塗りつぶした。