最終聖戦の魔法捏造です。
音がなくなる。
赤と炎に染まっていた都市が、完全な白銀に変わっている。
地面と空には巨大な魔法陣、さらに高空には三つの陣。
召喚された上位天使達がその周囲に静かに浮かんでいる。
カルカは冠へ手を添えたまま浮遊している。
その時、本人にも分からなかった情報が、発動したことにより頭に流れ込んでくる。
最終聖戦は術者が"共に戦う者"と認識した者へ強大な加護を与え、"討つべき敵"と認識した者だけへ強烈な弱体化を与える大儀式魔法。味方側は身体能力・攻撃力・魔法威力・防御力・抵抗力などが底上げされ、疲労と痛みも軽減。
対してヤルダバオトには、防御力・魔法抵抗の低下。そして再生・回復能力の阻害。さらに儀式領域から簡単には離脱できない。
だが、アインズの身体からおかしな音がした。
シュウウゥ。と焼けるような音。
アインズの骨から白い煙が上がる。
カルカは確かにアインズを"味方"として指定している。最終聖戦もちゃんとアインズへバフを与えている。
だが神聖な力に満ちた領域そのものがアンデッドであるアインズには有害だった。
カルカが青ざめた。
「ま、魔導王陛下……!? 私、貴方を敵には……!」
「分かっている」
アインズ自身はステータスが上昇するのを感じている。
「君の魔法は、確かに私を味方として扱っている」
聖なる大儀式魔法ですらアンデッドであるアインズを"仲間"として認めた。
「か、解除しなくては!」
カルカは慌てるがアインズが手で制する。
「やめろ。続けろ」
「ですが、このままでは──」
「奴に効いている。それだけで十分だ」
地上では、白い煙を上げるアインズをザナックが不安そうに見上げていた。
ヤルダバオトは体を動かした瞬間分かった。重い。
各天使から白い光が伸び、ヤルダバオトに纏わりつく。
レメディオスが突進した。
「うおおおおッ!」
空中を駆ける。
「聖撃!」
深く入る。
「は?」
と、ヤルダバオト自身が驚くくらいに。聖剣が肉を裂く。
「
ケラルトの魔法も今まで以上に大きな傷を残す。
「ぐっ……」
呻き声。
ヤルダバオトは、大儀式の術者であるカルカを狙う。
一気にカルカへ距離を詰めようとする。
だが目の前には自然に三人が立ち塞がる。
レメディオス。ケラルト。アインズ。
「ふん……!」
レメディオスがヤルダバオトの胸に一撃。突いた。
「ぐ、ううっ……!」
引き抜いたところへ、
「魔法二重化・善なる極撃《ツインマジック・ホーリー・スマイト》」
青白い光の柱が二本。ヤルダバオトの身体を貫く。
「ぐあああああっ!」
それでもヤルダバオトは止まらない。カルカの前へ急ぐ。
「
ドン。とアインズがヤルダバオトの前に転移して蹴り飛ばした。
そこまで後ろに飛びはしないが、今のヤルダバオトには苦しい攻撃だ。
そして再び鐘の音が鳴る。
四回目、五回目、六回目。
ヤルダバオトへ伸びていた光が増える。
そして、七回。
ゴオォォォン──。
上空の天使達が一斉に翼を広げる。
光が鎖のような形を作り、ヤルダバオトに絡みつく。
最終聖戦の最終効果。
敵として指定された存在を一時的に拘束し、その防御・耐性を最低まで落とす。
「くっ……。これで勝ったつもりか? 強くなった気分はどうだ?」
ヤルダバオトは冷静に引きちぎり始める。
「強くなってなんかない」
レメディオスが答えた。
「誰も強くなんてない。見てみろ。お前にやられてボロボロだ」
「……今の気分はさぞ楽しいだろうな」
「楽しくなんかないわ。怖くて怖くてたまらない」
ケラルトが言った。
「……」
「魔導王陛下! お願いします!」
カルカが叫ぶ。
「任された」
アインズが片手を向ける。震えそうになる。
ヤルダバオトは光の鎖を物凄い勢いで引きちぎっている。
白銀に染まった世界。
アインズの指先が広がった。
「
白銀の空間を切り裂いた。
空間断絶がヤルダバオトを貫いた。
「……」
静寂。
ヤルダバオト自身が傷口を見る。今度は塞がらない。
「…………」
最後に、ヤルダバオトは何を言うのか。三人は聞き入る。
「……つまらない、な」
それだけ言い残し、ヤルダバオトの体は落下して行った。
レメディオスは追おうとする。
「レメディオス。もういいわ」
カルカが止めた。
「死んだな」
アインズは言い放つ。
最終聖戦は解除された。
世界が元に戻る。天使達が光になって消えていく。
上空の魔法陣が一枚づつ消える。
白銀だった空から、元の夜空へ戻ってくる。
そこで初めて全員が終わったと実感した。
と、そこでカルカは完全に力が抜けて落ちそうになる。
レメディオスが慌てて受け止めた。
「カルカ様!」
「……大丈夫……ではないけど、生きてるわ」
「もう! 全然大丈夫じゃありませんよ!」
ケラルトも反対側から支えて治癒をした。
「……」
ふらり、と黒い影が揺れた。
アインズだった。
最終聖戦のバフで誤魔化されていたが、回復できず蓄積していたダメージが一気に目立つ。
ローブはボロボロで神聖魔法で焼けた部分の骨が黒ずんでいる。ヤルダバオトから受けた打撃も残っている。
そして、そのまま四人は地上に降りた。
「アインズ様!」
ザナックが全力で駆け寄る。もう周りの目を気にしている場合ではなかった。
「勝ったぞ、ザナック」
安心させようと、アインズは笑った──ようにザナックには見えた。
「はい、見てました!」
ザナックは一瞬だけ嬉しそうにする。だがすぐに身体を見て驚愕した。
「……それより、何ですかそのお身体は!」
「問題ない」
アインズはかっこつけた。
「どこがですか!?」
満遍なく骨の身体は焦げていた。
「治癒しますよ」
ケラルトが言った。
「いや、生者向けの正のエネルギーだと私には毒だ」
「そ、そうでした……すみません、お力になれず」
アインズ自身も魔力を大量に消耗しており、今は十分に自分を回復させられない。
一瞬、全員が困った。
そこでザナックは自分の手を見た。左手と右手に一つづつ銀色の指輪。相当の魔力を込めれば任意の位階の魔法を使えるマジックアイテム。出発前にアインズの魔力を込めてもらったことを思い出す。
ザナックは迷いなくアインズに手を伸ばす。
「?」
アインズは首を傾げた。
その骨の手を取った。重い。
「俺が癒します」
ザナックの瞳にはアインズしか映っていなかった。
そっと手を離したかと思えば、右手の銀の指輪を抜いた。
「待て、ザナック。それは君のために持たせたものだ」
それを遮り、ザナックはアインズの肋骨に手を当てた。
「っ、ザナッ……!」
黒紫色の光を纏い、ザナックの手から負のエネルギーがアインズの身体中へと巡る。まるで血の流れのように。
パキン。指輪が割れて粉々になり、空中に消えていった。
ザナックは左手の小指にはめてあった銀の指輪を抜いた。
「も、もう十分だ。それは残せ」
アインズは焦る、が動けない。
「なら、力づくで止めてみてください」
左手をアインズの肋骨に置き、右手をアインズの左手と絡め合い繋いだ。
「……ッ」
パキッ。また割れた。
残ったのは、左手の薬指に、金の太い輪に赤い宝石が乗った指輪だけだった。
そして、四人が地上に降りて来ていたのを見ていた聖王国の人々は少しずつ、"勝った"と理解して歓声を上げ始める。
それはぽつりぽつりと増えていった。
歓声が増えていくその中、ザナックはまだアインズのすぐ側。アインズの手にも触れているし、近い。
そこを横から眺めていたレメディオスが何気なく片手を挙げる。
「あの! お二人は大変仲がよろしいのですね!」
しんとした時間が流れる。
ザナックが硬直した。
カルカは一瞬瞬く。
アインズはむしろ嬉しそうにレメディオスを見る。
その瞬間、ケラルトが無言でレメディオスの脇腹を肘でつつく。
ゴスッ。
「痛っ。何だケラルト」
「何でもありません、姉様」
ケラルトは笑顔だ。
余計なことを言わないで、とケラルト、カルカ様と私達のように強い信頼で結ばれた王と臣下なのだな!と、レメディオスは考えていた。
「魔導王陛下がザナック殿を庇っている姿を見て、我々とカルカ様に似ているなと思いました!」
無邪気に言い放つレメディオスにもう一度肘を入れたケラルト。
「だから何なんだケラルト」
ザナックは一瞬だけ顔が熱くなった。けれど周囲には聖王国民もいる。即座にアインズから半歩離れる。
服を整え、咳払い。完璧な外交官フェイス。
「私は魔導王陛下の外交補佐官ですから。陛下から厚い信頼を賜っていることはありがたく思っております」
そしてアインズをこそりと見た。
「うむ。私とザナックは非常に仲が良い」
空気は読まなかった。嬉しそうだ。
「……陛下」
小声。
「事実だろう?」
上機嫌。
ケラルトは何かに気付く。カルカは微笑ましそうに見ていた。
「やはり!」
レメディオスは満足そうに笑った。
そこでカルカは微笑みを少し固くした。そしてレメディオス達の支えから抜け、疲弊した体で民の前に進む。
広場の周りには負傷者、兵士、避難していた民。
歓声もまだ、「本当に終わったのか?」と半信半疑のものだった。
カルカが声を張る。
「ヤルダバオトは討たれました。戦いはもう終わりました」
手を胸に当てる。
「私達は、勝ちました」
どっと歓声が大きくなった。
「カルカ聖王女様!」
「聖王女陛下!」
いろんな声が重なる。
その中から一人。
「聖女王様」
カルカが振り返る。
「聖女王様だ!」
「聖女王様万歳!!」
「カルカ聖女王陛下万歳!!」
呼び名が、声が広がっていく。
カルカは一瞬、意味が理解できなかった。
聖王+女という女ということを付加しただけの呼称ではない。
聖なる女王。聖女王。
自ら戦場に立ち、ヤルダバオトから国を守り、最後には最終聖戦という神聖な大儀式魔法を発動した王への敬称。
カルカの目が潤む。
レメディオスは隣でボロ泣きしていた。
ケラルトも少し微笑む。
人々が万歳する中。
少し離れたところに、あの白髪混じりの髭を整えた南部の貴族の男が、居た。
以前のような硬い顔。声を張り上げることもしない。
ただ。静かに拍手をしている。
そして、カルカと目が合った。
男は少し目を開き、それからゆっくりと拍手を続けた。
両者、何も言わなかった。
人混みの中から、
「魔導王陛下も……」
「魔導王陛下が助けてくださった……」
「ありがとうございました! 魔導王陛下!」
という声がぽつぽつ上がる。
アインズは少し驚く。
王国を滅ぼし、跡地を統治しているアンデッド。
それでも今日この瞬間は、聖王国と共に悪魔と戦ってくれた英雄の王だった。
歓声が激しくなりつつあり、民衆が押し寄せて来そうになる。聖騎士達が安全のために人波を止める。
「負傷者の救護を最優先に。火災が残っている区画の確認もお願いします」
カルカが命令を出す。
「陛下方は、一度お下がりください」
側の聖騎士が促す。
五人は広場から少し離れた崩れかけた建物の陰へ。
歓声も微かに聞こえ、民の姿も遠くに見える。
「…………終わったんですね」
剣の柄を撫でたレメディオスが言った。
「ええ」
カルカ。
「勝ったんですね、私達」
ようやく三人が笑った。
レメディオスはカルカを抱き締めた。
「きゃっ……レメディオスっ。こんなところで……もう」
「いいじゃないですか、生きてるんですから」
カルカの胸でレメディオスは呟いた。
「そうですよ。二人とも、生きててくれてありがとうございます」
目尻に涙を溜めたケラルトもくっついた。
だが、それだけでは終われない。
運ばれる担架。壊れた街。布を掛けられた遺体。
カルカの笑顔が静まる。
「……けれど」
と呟く。
レメディオスも分かっていた。ケラルトも俯く。
民も兵も、大勢死んだ。
「もっと、もっと早く……」
カルカが歯を食いしばる。
「カルカ様は悪くありません……」
レメディオスが否定する。
「違うのよ。自分を責めたい訳じゃないの。そんなことで……民が戻るなら……。ただ、悔しくて、悲しいのよ」
カルカは目を伏せる。
「…………そのことなんだが」
それまで黙っていたアインズが口を開く。
全員の視線が集まる。
「死者を蘇生しよう」
「……え?」
カルカの間の抜けた声。
「今回の戦争で命を落とした聖王国の民を、可能な限り全員だ」
沈黙。
レメディオスは固まり、ケラルトは言葉を失っている。
「……全員?」
カルカが聞いた。
「私の魔力が戻れば、日数は必要だが可能だ」
「人数で現場が逼迫しないよう、復興作業が落ち着いてからにしよう」と、アインズは付け加えた。
「……何故……?」
カルカは分からなかった。
他国だ。しかも、何千、何百かもしれない。
「……何故、そこまで……?」
アインズはレメディオスを見る。そして、ザナックを見た。
「レメディオス殿が、私の宝を守ってくれた」
「?」
レメディオスは首を傾げる。ピンと来ていないようだ。
「それだけで……? たったそれだけで、他国の大量の戦死者を蘇生してくださると……?」
「……たったそれだけ、だと?」
低い。
眼窩の赤い光が細く鋭くなる。
カルカの背筋を冷たいものが這い上がった。
「?」
レメディオスはまだ分かっていない。
「ザナックは優秀な外交補佐官だ。人間国家との交渉で、私自身には無い価値観、視点を持って補ってくれる。外交において、人間の感情面の機微について理解してくれる。王族として培った知識と経験がある。危険な場面でも役割を果たそうとする」
至って真面目に早口でアインズは語り出した。
「──彼の代わりなど、どこにもいない。私にとってザナックは、失っていい人間ではない」
「アインズ様、そのくらいで……」
ザナックが止めようとする。
「彼は誰かの代わりでもないし、誰にも代わりは務まらん。彼は唯一だ」
アインズは聞いてなかった。
カルカは、────怖かった。
怖い。意味が理解出来ない。
でも同時に、この人は本当にザナック補佐官をを大事にしているんだ、と思った。
けれど怖い。特に目が。尋常ではない。正気ではない。
控えめに言って狂っている。
カルカは一旦息を吐いた。心の中で。
そして現実で頭を下げる。
「では……ありがとうございます、魔導王陛下」
「礼ならレメディオス殿に言え」
「えっ、私ですか?」
レメディオスは理解していない。
「……ケラルトは神官達を集めて。レメディオスは聖騎士団を動かして、戦死者の遺体の回収と身元確認をお願い。遺体損傷の程度も記録して」
カルカが落ち着いた声で指示をした。
「なら私は魔力が回復次第順次蘇生しよう」
アインズが頷く。
「……魔導王陛下」
カルカは王として声を出した。
アインズもカルカを見る。
カルカは手を差し出した。
聖王国の王と魔導国の王が向き合った。
「この恩は、聖王国の王として忘れません」
「ならば今後、良き隣国であってくれればいい」
握手。大きな骸骨の手と、細い人間の生身の手が繋がった。
そして。
その握手を。
ザナックが凝視している。
じーーーーーっと。
表情は崩さない。でも、アインズの手とカルカの手をやけに長く見ていた。
ケラルトが気付く。
アインズも気付いた。
カルカとレメディオスは気付かない。
数秒。
ザナックは視線を外す。そして完璧な補佐官スマイル。
「両国にとって、大変喜ばしいことかと存じます」
握手を離したあと、アインズが突然、
「ザナック」
「はい、陛下?」
ザナックは微笑んでいる。
アインズが近付く。
そして。ザナックの両脇へ骨の手を入れる。
「え?」
そのままひょいと持ち上げた。ザナックの足が地面から離れる。
身長差や体格差が大きいので、アインズからすると本当に自然に持ち上がる。
「あ、アインズ様っ!?」
脚がぶらん、と下がる。つま先が所在なく揺れた。
カルカ、レメディオス、ケラルトの三人の頭に疑問符が浮かぶ。
いくつかの魔法を無詠唱で連続発動させたアインズ。
「……?」
カルカが困惑する。
ケラルトは何かを察知した。
レメディオスは眉間に皺を寄せて凝視しながら首を傾げる。
「ちょ、待っ──」
ザナックが最後の抵抗として叫ぼうとする。
次の瞬間。
アインズはそのままザナックの口を塞いだ。
骸骨の、歯で。
ぴしりとザナックが石のように固まる。
アインズはザナックを持ち上げたまま離さない。
ザナックの両手が咄嗟にアインズのローブを掴んだ。
脚は宙ぶらりん。
黒のローファーを履いたつま先が交互に揺れる。
身体を捻って離れようとするも、脇に手を入れられほぼ身体全体を支えられているので逃げられない。
そして口付けが深くなる。舌が、入った。
「あ、ふっ」
口を開けさせられたザナックの口内を我が物顔で蹂躙する漆黒の舌が覗いた。
抵抗としてローブを強く握る手。だけどアインズは嬉しそうに続けた。
一度僅かに口が離れる。
ザナックは息を吸おうとした。
また、塞ぐ。
「んグ、んん!」
ザナックのつま先がまた揺れた。
ケラルトは口元へ手を当て、ニヤァと表情を歪めていた。
カルカは、
「……っ、!」
両手で顔を覆う。でも指がひらいている。
ガッツリ見ていた。その手の奥の顔はいちごのように真っ赤だった。
レメディオスは情報が処理しきれず、完全に石化していた。
口が少し間抜けに開いている。
人間。アンデッド。補佐官。魔導王。濃厚なキッス。舌。
「ケ、ケラルト……魔導王陛下は……アンデッド……だよな?」
「今そこですか?」
ケラルトが振り返る。
だがレメディオスにはそこなのだ。
アンデッドがキスをする。キスとは愛する人とするもの。
アンデッドが愛情を持っている? そんな訳はない。
なら何故口付ける。捕食? それとも魔導国式の挨拶か何か?
「ケラルト……スケルトンは食事が出来ない……よな?」
震えて聞いた。
「そうですけど、何なんですか姉様」
捕食はされてないようだ。だが何だ。この水音は。舌を入れる必要はあるのか。というか何をしている。やはり魔導国式のコミュニケーションか。
レメディオスの頭脳はパンク寸前だった。
だが──レメディオスはひとつ、思った。
仲が、良いのだな。と。
そして、レメディオスは考えるのをやめた。
ようやくアインズが離した頃、ザナックはへたりとアインズの懐へ倒れた。
「はぁ……はぁ…………」
顔が真っ赤に染まり、涙目にヨダレが垂れている。
まだ持ち上げられている。
ザナックは呼吸を整える。数秒間言葉が出ない。
その後、
「……下ろしてください」
低い声。
「ああ」
満足気にアインズは降ろした。
ザナックは服と髪を整える。そして三人を見た。
完璧な営業スマイルで誤魔化した。
「……お見苦しいところを、失礼いたしました」
「いえ、とても興味深──」
と言いかけたケラルトをカルカが小突いた。
「あたっ」
ケラルト。
レメディオスはまだフリーズしていた。
アインズだけ上機嫌だった。