アインズ視点。
前半、カルカ様と会談。
蘇生完了から翌日。
王城の小さな応接室。カルカ女王とザナックと俺がいた。
「……魔導王陛下、補佐官様」
カルカ女王が頭を下げる。
「頭を上げてくれ」
「いいえ」
強く断られた。
「国を共に救ってくださったこと。民を守ってくださったこと。そして……死んだ人々まで、帰してくださったこと」
顔を上げる。
「言葉では足りません……ですが」
そしてまた頭を下げる。
「本当に、本当に……感謝しています……! 国家元首ではなく、一人の聖王国の人間としても……最大限の感謝を申し上げます……っ!」
「……私は、対等だと思っている。そちらの団長殿には私も感謝している。私の大切な宝を守り抜いてくれたこと、深く感謝している」
俺も頭を下げた。
ザナックはあたふた。
「あ、あのッ……お二方、まずは頭をお上げください!」
「そうですね、座って改めてお話したいことがあります」
カルカ女王が言った。
三人が席に着くと、カルカ女王は口を開く。
「魔導王陛下」
「何だろう」
両者姿勢を正す。
「ローブル聖王国は、アインズ・ウール・ゴウン魔導国との正式な同盟締結を希望します」
(来たああああああああ!!)
「……ほう」
俺は平静を装う。
横のザナックは完璧な外交補佐官としての表情を保っていた。
「ザナック」
「はい、陛下」
「お前はどう思う」
少し考える素振りを見せ。
「双方に利益のある提案かと存じます」
「そうか」
重く呟いた。
「では……」
カルカ女王が眉を顰めて。
「こちらとしても、喜んで受け入れよう」
「ありがとうございます……」
ほっとしたようにカルカ女王は笑った。
だが気持ち的にはこちらも同じだった。
再び手を差し出した。カルカ女王はもう一度穏やかな笑みを浮かべ、その手を取った。
ザナックは今度は嫉妬していない。むしろ満足そうににんまりとしていた。
「では、書類は後日」
「分かりました、魔導王陛下」
部屋を出て、滞在室へ。
「ザナック」
小声を出した。
「はい」
「成功したな」
ザナックの外交補佐官顔が崩れる。
「……はい!」
満面の笑み。
「成功しました、アインズ様」
そう言ったザナックの顔は、聖王国へ来てから何度か見たどの笑顔よりも晴れやかだった。
「……そんなに嬉しいか」
「嬉しいですよ!」
即答だった。
「従属でも属国でもなく、対等な国としての同盟です。最初に計画を立てた時は、ここまで上手くいくなんて俺自身思ってませんでしたから」
興奮しているのか、ザナックは滞在室の中を行ったり来たりしている。とても可愛い。
「聖王国側から正式に提案してくださったんですよ。こちらから迫った訳でもない。カルカ女王自身が魔導国を信頼に値する国だと判断してくださった。その上、民からも少しずつですが受け入れられている」
指を一本ずつ立てながら話す。
「すごいことですよ、これは」
「うむ」
俺は腕を組み、できるだけ魔導王らしく重々しく頷いた。
──が。
(やったああああああ!!)
内心は先程からこれだった。
当初の目的達成。
それもザナックの言う通り、こちらが軍事力で迫った結果ではない。
カルカ女王達と共に戦い、助け、助けられ、その結果として向こうから手を差し出された。
俺一人なら絶対にこんな形にはならなかっただろう。
「ザナック」
「はい?」
「ありがとう」
ぴたり、と足が止まった。
「……何がです?」
「この計画を考えたのは君だ。聖王国と友好関係を築きたいと言い出したのも、君だった」
「ですが、実際に戦ったのは──」
「それでもだ」
遮った。
「君がここへ来なければ、俺は聖王国の者達とこういう関係にはならなかったと思う」
ザナックは目を瞬かせた。
「君がいたから、俺は彼らを知った。彼らも俺を知った。……少なくとも俺は、そう思っている」
「……」
「だから、ありがとう。ザナック」
しばらく俯いていたザナックの耳が少しずつ赤くなっていく。
「……そういうの、ずるいですよ」
「ずるい?」
「急に真面目な顔で褒められると」
「俺はいつも真面目だが?」
「はいはい」
雑に流された。
(はいはい!?)
だが直後、ザナックは照れくさそうに笑った。
「俺からも、ありがとうございます。アインズ様」
「俺に?」
「俺一人なら、計画書を書いて終わりです。実現させてくださったのは貴方ですから」
そして、少しだけ胸を張る。
「なので──二人で成功させた、ということにしましょう」
「……ああ」
それが妙に嬉しかった。
「二人で成功させた」
声に出して繰り返す。
ザナックも嬉しそうに頷いた。
「はい」
俺は思わずその頭へ手を伸ばした。
金色の髪をゆっくり撫でる。
「わっ……」
「よく頑張ったな、ザナック」
「……アインズ様も」
「俺はいい」
「またそういうことを言う」
頬を膨らませたザナックが、今度は俺の手を両手で掴んだ。
「貴方も、よく頑張りました」
「…………」
「俺が言いたいので言わせてください」
感情抑制。
「……そうか」
「はい」
窓の外では、復興中の聖王国の街が見えていた。
まだ足場の組まれた建物もある。
白い天幕も残っている。
元通りには程遠い。
けれど、そこには人がいた。
死んだはずだった者も。
生き残った者も。
皆が同じ街を歩いている。
そして今日、魔導国と聖王国は未来を共に歩くことを決めた。
「帰ったら、皆にも報告しないとな」
「アルベド様達、喜んでくださいますかね」
「ああ、絶対喜んでくれる」
俺は繋がれたままのザナックの手を握り返した。
「ザナック」
「はい」
「本当に、来てよかったな」
ザナックは窓の向こうの街を見て、それから俺を見上げた。
「はい。俺もそう思います」
そうして二人で、もう一度だけ笑った。