口調とか間違ってたらすみません
矛盾があってもオリジナル設定としておいてください……
実はなんですが八話の冒頭の何話かすっ飛ばしてエルフ国休暇編(原作15、16巻の内容をこの世界線なりに改変して名前を私が勝手につけたもの)書き始めちゃってます……なのでこの話の前にいつか何話か追加されるのでそれも見に来てくれると嬉しいです。
〜エルフ国休暇編開幕です〜
部屋は明るかった。
高い天井からは魔法の光が使われた照明が吊り下げられ、白を基調とした壁には細かな彫刻が刻まれている。磨き上げられた長机に、そこへ並べられた椅子も法国という一国を動かす者達が集う場所に相応しいものだった。
しかし、そこに座る十二名の顔には、今はその華やかさを楽しむ余裕はない。
リ・エスティーゼ王国は滅びた。
多くの人間を抱え、長きにわたって周辺国家の一角を占めていた大国が、あまりにも短期間で地図から消えた。
そして、それだけではない。
ローブル聖王国を恐怖と混乱に陥れ、苦しめた大悪魔ヤルダバオトは討たれた。
討伐に大きく関わったのは、よりにもよってアンデッドや多種多様な種族をまとめあげる国のトップ、アインズ・ウール・ゴウン魔導王。
しかも聖王国の人間達は、その魔導王と共に戦った。
そして現在、ローブル聖王国と魔導国は、敵対国どころか正式に友好関係を結び、同盟国となっている。
一年もしないうちに、周辺国家の勢力図は恐ろしい速度で塗り替えられていた。
長机の上に広げられた地図を前に、土神官長レイモン・ザーグ・ローランサンが資料へ視線を落とす。
「旧、リ・エスティーゼ王国領について、新たな報告があります」
その言葉だけで、室内の雑談は消えた。
「魔導国による統治ですが、少なくとも現在までに、大規模な混乱は確認されておりません。旧王国領内で反魔導国を掲げる小規模な動きは存在するものと思われますが、国家的な抵抗運動に発展している様子もない」
大元帥が腕を組んだ。
「散発的な抵抗すら、ほとんど表面化していないということか?」
「そのようです」
「……随分と早いな」
王国が滅びたのは決して昔の話ではない。
国王が死に、貴族社会が崩壊し、国の仕組みそのものが変わったのだ。本来ならば混乱しない方がおかしい。
それを魔導国は、短期間で押さえ込んでいる。
恐怖によってなのか。
統治能力によってなのか。
あるいはその両方か。
まだ判断材料は不足していた。
そこで研究館長が身体を僅かに乗り出した。
「王国が所有していた装備については?」
数人がそちらへ視線を向ける。
王国には、伝承されてきた複数の宝が存在した。
不滅の護符。守護の鎧。活力の籠手。剃刀の刃。
かつて、戦士長ガゼフ・ストロノーフが身につけた国宝の装備。
彼らにとって重要なのは単なる収集品としてではない。
魔法技術。製造方法。使用された素材。
そこから得られるかもしれない知識だった。
「確認できません」
レイモンの即答に、研究館長の眉がぴくりと動いた。
「一つも?」
「はい。王都陥落後、我々が追えている範囲では、いずれも所在不明です」
しばしの沈黙が落ちる。
やがて研究館長が深く息を吐く。
「……魔導国へ渡ったと見るべきでしょうな」
「妥当だろう」
大元帥が肯定した。
王国が保有していた財宝を押収するのは、征服者として何ら不思議な行為ではない。
研究館長は心底惜しそうに眉間に皺を寄せた。
「惜しいですな。装備そのものを我々が欲しいというだけではありません。どういう原理で作られ、どのような技術が使われていたのか。それだけでも調べられれば価値はあった」
水神官長ジネディーヌ・デラン・グェルフィが喉の奥で笑う。
「お前という男は、国が一つ消えたという話をしていても、最初に研究材料の心配をするのか」
「研究成果は国家を救いますので」
悪びれる様子もない。目を伏せて微笑んでみせた。
ほんの一瞬、張り詰めていた場に小さな弛緩が生まれた。
だが、それもすぐに消える。
ベレニス・ナグア・サンティニが頬杖をつくことなく、ただ指先を机の上で組む。
「アングラウスも、結局は王都で死んだのでしたね」
ブレイン・アングラウス。
かつて、ガゼフ・ストロノーフに敗れ、それでも剣を捨てず、王国でその腕を磨き続けた戦士。
レイモンは頷く。
「その認識で間違いありません」
「惜しい男でしたな」
研究館長が言った。
「法国へ来るよう説得できていれば、少なくとも死ぬことはなかったでしょうに」
立法機関長も同意するように頷く。
「生きていれば再起する機会はある。それを拒み、滅びる国と共に死ぬという判断は、私には理解しづらい」
風神官長ドミニク・イーレ・パルトゥーシュが穏やかな目を向けた。
「それを選ばなかったからこそ、あの男だったのではないかな」
立法機関長の眉が僅かに寄る。
「しかし、命があればこそでしょう。どれほど優れた信念を持っていたとしても、死ねばそこで終わりです。命を捨ててまで守るべきものがあるという思想は──」
「我々にもあるだろう?」
ドミニクの声は静かだった。
だが、それだけで相手の言葉を止めた。
「信仰もそうだ。国もそうだ。家族である者もいるだろう。誰かにとって取るに足らぬものでも、当人にとっては命と比べること自体が無意味なほど大切なものもある」
立法機関長は反論しない。
「ならばアングラウスにとって、あの時、あの場所に立つことがそれだった。それだけのことではないかな」
数秒の沈黙。
最高神官長が視線だけで先を促した。
レイモンが次の資料を取り出す。
「もう一件。旧王国王族についてです」
卓上を滑った一枚の紙。
記載されていたのは、長い名前だった。
──ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフ。
ベレニスが目を細める。
「……例の第二王子ね」
司法機関長が配られた資料を手に取った。
「死んだと報告されていた人物でしょう?」
「はい」
レイモンが答えるより早く、最高神官長が続けた。
「しかし、現在は魔導国にいる」
「魔導国特別外交補佐官として」
レイモンの言葉に、何人かが僅かに顔を顰めた。
そこに嫌悪がある訳ではない。
意味が分からないのだ。
滅ぼした国の王族を、なぜ登用する。
行政機関長が資料へ顔を近付けた。
「……同姓同名の別人という線は?」
「限りなく低いでしょう。外見、年齢、旧王国王族を知る者の証言、その全てが一致しています」
研究館長が口を開く。
「蘇生……ですかな」
「恐らくは」
蘇生魔法そのものは、法国にとって荒唐無稽な伝説ではない。問題は魔法が可能か否かではなかった。
なぜ。何のために。自ら滅ぼした国家の王子を蘇らせた?
立法機関長が簡潔に言った。
「人質」
司法機関長が即座に首を振る。
「人質に外交権限を与える理由がありません」
「では、精神支配」
「否定はできません」
司法機関長はそこで言葉を切り、資料を机に戻した。
「しかし、それを裏付ける証拠もありません。可能性と事実を混同するべきではないでしょう」
「分かっている」
少々不満そうではあったが、立法機関長もそれ以上は押さない。
レイモンが報告を続ける。
「我々が確認できた活動のみを申し上げます。魔導国が他国と接触する際の会談への同席。外交文書への関与。それから──ローブル聖王国への同行」
空気が変わる。
大元帥が顔を上げる。
「聖王国か」
「はい」
ベレニスが小さく息を吐く。
「ヤルダバオトの一件ね」
あの事件について、法国が把握していることには限界があった。だが結果だけならば明白だ。
ローブル聖王国へ侵攻した大悪魔ヤルダバオトは敗れた。
その戦いにはアインズ・ウール・ゴウンが参加した。
聖王国の軍勢も戦った。
魔導国の外交補佐官ザナックも現地へ入っていた。
そして戦後。両国は敵対するどころか関係を急速に深め、現在では正式な同盟国となっている。
「聖王国兵と魔導王が、同一の戦場に立ったことも確認されています」
大元帥が問う。
「アンデッドと人間がか?」
「正確な兵力構成には不明点があります。しかし少なくとも……」
レイモンは言葉を選んだ。
「魔導王とあの聖王国の人間達が一つの敵を相手に共闘した。それ自体は間違いありません」
行政機関長が呟く。
「その結果が同盟か」
「はい」
帝国は魔導国の属国となった。
王国は滅んだ。
聖王国とは同盟を結んだ。
結果だけを見れば一貫性がない。
いや、一貫してないように見えるだけなのかもしれない。
立法機関長が指先で資料を叩いた。
「では、"アンデッドであるがゆえに生者を憎悪している"という説明だけでは、もはや不足している」
ベレニスが呆れて彼を見る。
「今更でしょう?」
「何?」
「生者を無条件に殺したいだけなら、エ・ランテルに住む人間はとうに皆殺しになっているわ。帝国だって残す必要はない」
そしてザナックの資料へと視線を落とした。
「それに、自分が滅ぼした国の王子をわざわざ蘇らせて、仕事まで与える必要もないでしょう?」
反論はない。
最高神官長がゆっくりと指を組んだ。
「では、諸君」
全員の視線が集まる。
「魔導王は何を基準に滅ぼし、何を基準に残す?」
誰も答えなかった。答えられなかった。
大元帥が最初に口を開く。
「……敵対の程度でしょうかな」
「それならば聖王国との関係にはある程度の説明がつきます」
司法機関長が言う。
立法機関長が腕を組む。
「王国は徹底抗戦を選び、聖王国は協力を選んだ。その差だと?」
大元帥は即答しなかった。
「仮説だ」
それだけだった。
単純に暴れる怪物ならば、まだ読みやすい。
腹が減れば人を食う。
怒れば殺す。
そういう存在ならば怒らせないようにすればいい。
だが魔導王には理性がある。
交渉をする。
国家を経営する。
人間までも登用する。
そして必要と判断すれば、一国すら消滅させる。
何をすれば許されるのか。何をすれば滅ぼされるのか。
その境界が分からない。
理性ある圧倒的強者。
それは狂った怪物以上に恐ろしい。
そんな中、研究館長が腕を組み直した。
「……ある意味では、その第二王子の方が厄介なのでは?」
全員が彼を見る。
「魔導王自身が、"私は人間と共存できます"と訴えたところで、それを素直に信用する人間がどれほどおりますかな」
ベレニスが眉を上げる。
「ザナック王子なら信用される、と?」
「滅ぼされた側の王子ですぞ」
研究館長は資料を指す。
「その人物が魔導王の隣に立っている。それも捕虜としてではなく、外交官として」
「……宣伝になる、と?」
「最高の」
だが、司法機関長が首を振る。
「逆でしょう」
研究館長がそちらを見る。
「逆?」
「本当に本人の自由意志でその立場にいるのなら、我々にとってはむしろ数少ない希望です」
「希望……?」
「魔導王と対話できる"人間"が存在する」
その一言が何人かの表情を変えた。
司法機関長は続ける。
「もしあの王子が強制されているのではなく、自分で選択して魔導国へ仕えているのなら、魔導王は人間からの諌言や交渉を一切受け入れない存在ではないことになります」
最高神官長が目を細める。
「なるほど」
危険──そして、希望。
同じ男が、その二つになり得る。
魔導国が人間世界へ伸ばす橋であると同時に、人間世界から魔導王へ伸ばせる橋でもある。
大元帥は地図の一角へ指を置いた。
「だが、今もっとも問題なのは、ローブル聖王国が一時的な協力相手ではなく、同盟国になったことだ」
行政機関長が頷く。
「交易が本格化すれば、食料、武器、資材、人材が動きます」
「情報もだ」
レイモンが加える。
最高神官長はしばらく黙っていたが、やがて地図から顔を上げた。
「それ以上の問題がある」
「と、言いますと?」
「前例だ」
何人かが眉を寄せた。
「人間国家でも、魔導国と共存できる。ローブル聖王国はそれを証明してしまった」
それは法国にとって、軍事的な問題だけではない。
この国は長い年月、人類という種を守ることを使命としてきた。
人間を害する亜人。生者を憎むアンデッド。人類を蹂躙する異種族。
そうした脅威の中で、人間同士が団結しなければならない。
その思想は法国を支える柱の一つだ。
ところが。
アンデッドの王と、人間の聖騎士や兵達──さらには王が同じ敵と戦った。
そしてその国は滅びるどころか魔導国と正式に手を結んだ。
イヴォン・ジャスナ・ドラクロワが言った。
「一般へ広まりすぎれば、少々厄介でしょうな」
立法機関長が不思議そうに問う。
「なぜ?」
「"アンデッドと人間は絶対に相容れない"。そう教えられてきた者が、では聖王国は何なのだと疑問を持つ」
「……なるほど」
立法機関長がしばらく考えた末、顔を上げる。
「ならば極端な話をしましょう」
皆の顔を見渡す。
「魔導国への臣従は?」
──長い、長い沈黙。
誰も即座に激怒しなかったことが、かつてなら有り得なかった。
司法機関長が慎重に口を開く。
「国家の存続ではなく、国民の生存だけを目的とするならば……検討をする価値そのものはあります」
ベレニスが眉を寄せる。
「でも、民が受け入れないでしょう」
「でしょうな」
イヴォンも同意する。
「数百年積み重ねてきた価値観を、明日から逆にせよと命じても不可能です」
マクシミリアン・オレイオ・ラギエが低い声で付け加えた。
「最悪の場合、降伏を宣言した政府を裏切り者として民衆が襲う。魔導国軍が法国へ入る前に、国内が割れる可能性もあります」
最高神官長が静かに呟いた。
「つまり魔導国に殺されるより前に、自分達で自分達を殺すことになる」
誰も笑わなかった。
大元帥が次の可能性へ話を移した。
「アーグランド評議国との共同戦線は?」
「恒久的な同盟は困難でしょう」
立法機関長が即答する。
「互いの思想が違いすぎる」
「恒久である必要はない」
大元帥は地図上を指でなぞった。
「魔導国を共通の脅威と認識する間だけでいい。同じ敵を前にしている間だけなら、最低限の協力は可能だ」
信頼ではない。ただの利害一致。
皮肉にも、魔導国と聖王国の方が遥かに異なる価値観や種族同士でありながら、彼らより強いむすびつきを作り始めている。
議論は続いた。
もし法国が滅びるとしたら。
もし抵抗が意味をなさなかったら。
最後に残せるものは何か。
行政機関長が口を開く。
「国外避難拠点の整備は継続されています」
最高神官長が問う。
「どの程度の人数を受け入れられる?」
具体的な数字が告げられる。
決して少なくはない。
しかし──法国という国家の民を収容するには、あまりにも少ない。
「全国民は到底不可能です」
それが結論だった。
研究館長が躊躇なく言う。
「ならば才能ある者を優先するべきです。優れた魔法適性、希少な異能、高い身体能力──将来、人類という種を再建するために有用な者を」
司法機関長がすぐに返す。
「誰がそれを決めるのです?」
「審査すれば良い」
「では、審査へ落ちた者へ"あなたには生きる価値がありません"と言いますか?」
研究館長が黙った。
立法機関長が言う。
「無作為抽選なら、公平性は保てる」
「人類存続という目的だけを見るなら非効率です」
「だからと言って──」
そこでドミニクが割って入った。
「効率だけで"生きるに値する者"を決めるのかね?」
その言葉は重かった。
強者だけを残す。才能ある者だけを残す。価値ある者だけを残す。
言葉だけなら極めて合理的で簡単だ。
だが、それを突き詰めた先で、人間は何になる。
大元帥が一度だけ深く息を吐く。
「この議論は後ほど詰めよう。どの案を採るにしても、先に解決しなければならない問題がある」
人差し指がエルフ国の方へ。
「二正面戦争は避ける」
最高神官長が即座に頷いた。
「同意する」
魔導国とは、まだ戦争状態にない。
だが、それがいつまで続くかは誰にも分からない。まだ、なのだ。
もし、魔導国との衝突が始まった時、エルフ国との長い戦争まで継続していたなら。
結果は考えるまでもない。
「現在の攻勢をさらに強めます」
大元帥が告げる。
「短期間で終わらせるべきだ」
最高神官長の顔から、先程までの冷静さが僅かに消える。
「……エルフ王は?」
エルフ王。その名だけで、この場にいる者の多くが不快感を覚える。
だが最高神官長の表情に浮かんだものはそれ以上だった。
憎悪。抑え込んでなお滲み出る、個人的な感情。
レイモンが答える。
「確実性を求めるのであれば、番外席次を、投入するべきでしょう」
ベレニスが険しい顔をする。
「国外へ?」
「それがもっとも確実です」
大元帥も眉間に皺を寄せる。
「白金の竜王に察知される危険はある」
神人。六大神の血を継ぎ、その力を濃く発現させた者。
法国における最重要戦力。
漆黒聖典、番外席次。
絶死絶命。
最高神官長は長く何も言わなかった。
やがて、
「……本人に選ばせる」
何人かが顔を上げた。
「エルフ王を殺す機会を、あの子に与える」
最高神官長の口元が微かに歪んだ。
もし自分に許されるなら。
あの男には、簡単に死ねない苦痛を与えてやりたい。
何年でも、何十年でも。
あの男がしたことを悔い、己の生を呪うほどに。
だが。
「命令にはしない」
司法機関長が問うた。
「……よろしいのですか?」
最高神官長は返事をするまでほんの少し時間を置いた。
「ああ、あの子の幸せが優先だ」
先ほどエルフ王へ向けていたものとはまるで違う眼差しで、卓上の一点を見つめた。
「復讐したいと思うなら、その機会を渡してやりたい。あの子自身の手で終わらせたいというなら、私たちはそのために力を貸そう」
言葉を切る。
「だが、もう関わりたくないと言うのなら、それでもいい」
誰も口を挟まない。
「あの子は我々の憎しみを晴らすために生まれた訳ではない」
最高神官長は目を伏せた。
その声から怒りが消え失せ、代わりに、ほんの小さな痛みが滲んだ。
「……あの子はもう、十分すぎるほど他人の都合で傷つけられてきた」
ただ一人の少女を案じる老人の言葉が、豪奢な部屋に残る。
「だからせめて、これだけは本人に決めさせてやろう。あの男を憎むのも、殺すのも、忘れるのも──これから、何を望むのかも」
最高神官長はどこか遠くを見るように目を細めた。
そして、目を閉じ、瞼の裏にある笑顔を思い浮かべた。
「……私達があの子にしてやれることが、もうそれくらいしか残っていないのだとしてもな」