双子可愛い。
エルフ国休暇編3です
アインズ、ザナック、リュミエールの三人は第六階層へ転移する。
ザナックはアインズのすぐ横を歩いている。
転移した直後、薄暗い通路へ出る。
その先には巨大な格子戸。
少し歩くと、格子戸が勢いよく引き上げられる。
大きな音が鳴った瞬間、バッとアインズの左手が動き、ザナックの体の前に出る。
目を丸くしたザナックはその手の意味とはめられた薬指の指輪を見て頬を少し赤くした。
「……すまん、びっくりしてな」
アインズが言う。まだ手は退けない。
新しく入らせたモンスターがいるのを知っていたため、咄嗟に手が出た。その区域から遠く離れていて守護者達が完璧に管理してるとはいえ、だ。
リュミエールはそれを見て頬を緩めていた。
「アインズ様! ようこそおいでくださいました!」
元気な声が響く。
アウラ・ベラ・フィオーラ──第六階層の守護者だ。
肩につかないくらいの金髪ショートヘア、青と緑のオッドアイ。上向きの長く尖った耳がぴくぴくと動いている。
「ザナック様も!」
アウラはアインズの腕に遮られていたにも関わらずザナックを見つける。
アインズはようやく腕を下ろした。
「お邪魔します、アウラ様」
ザナックは軽く会釈をする。
「全然邪魔じゃないですよ!」
ニカッと笑ったアウラはピースサインをした。
「うむ。アウラ、少し用事があってな」
「はい! それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」
何と言うべきか、アインズは考えを巡らせる。
どう説明すれば、『友達を作らせたいから、その下調べに来た』ということを変に思われないか、支配者らしく言えるか。
数秒が重々しい沈黙になる。
「──うむ」
緊張で声まで重くなる。
すると、アウラの笑顔がすっと引き締まる。
「はい」
しまった、とアインズは内心で思う。
横を見る。
ザナックはアインズを見ていた。
ほんの少しだけ目が細い。
余計に重々しくしましたね、という視線。
アインズは気まずさから視線を逸らした。
「まず──」
まずいな、と小さく言いかけた。
その声を拾ったアウラはさらに真剣な表情になる。
深い意味はない、けれどもう言ってしまったことだ。どうにか誤魔化さなければ。
「……まず、以前ここに預けたエルフ達に会いたい」
「あの三人のエルフ達、ですか?」
「そうだ」
「捕虜だったエルフ達のことですね」
ザナックが眉を少し動かした。
「その者達だ」
「畏まりました! すぐに連れてきます!」
やはり、そう来た。
アインズはアウラの手にとんと触れて止めた。
「いや、待て」
アウラはピタリと止まり、アインズを見上げる。
「はい?」
「こちらから行こう」
「アインズ様が……ですか?」
「ああ」
ザナックは横で黙っている。
「……理由は二つある」
「二つも……」
格好つけたアインズの発言に、アウラが目を輝かせる。
ザナックの視線が刺さる。
「一つは、私自身が赴くことだ」
「はい」
「彼女達は以前、奴隷として扱われていた。私が呼びつけるより、私が足を運んだ方が……その、話しやすいだろう」
アインズは続ける。
「私が直接現れることで、ある程度の圧力にもなる」
「そこは別に狙わなくても良いのでは」
ザナックが小さく言う。
アインズ、アウラ、リュミエールは無言。
「……まあ、必要以上に圧力を与えるつもりはない。私は平和的な話し合いがしたい」
アインズは訂正した。
ザナックは頷く。
「そして二つ目だ」
アインズの声にアウラは再び真剣に。
「トブの大森林から移り住んだ者も増え、この第六階層は以前とはかなり変わったと聞いている」
「はい!」
「私は基本的に管理をお前達に任せている。だから、実際に今どうなっているのか、自分の目で見ておきたい」
アウラの表情が変わる。
視察、そう受け取って表情が固くなる。
「……畏まりました」
さっきまでの元気なアウラではない、階層守護者の顔になっている。
ザナックが呆れたように目を細める。
アインズは咳払いし、できるだけ柔らかく、
「アウラ。もし良ければ、この階層で最も変わった場所を案内してくれないか?」
アウラが目を見開く。
「『もし良ければ』なんて!」
「む?」
「アインズ様はナザリックの絶対なる支配者です! 第六階層だろうと、世界のどこだろうと、誰かの許可なんて必要ありません!」
「いや、そういう意味ではないし……私が行ってはいけない場所だって……」
「アウラ様」
そこでザナックが助け舟を出す。
「はい?」
アウラが瞬き。
「アインズ様は許可を求めてるわけではなく、アウラ様が管理している場所だからこそ、案内をお願いしているのだと思いますよ」
「……あ」
「俺も王宮にいた頃、自分の担当している仕事へ何も言わず手を入れられたら、良い気分はしませんでしたから。……そういう、同じ仕事をしている仲間としての気遣いだと思いますよ」
「うむ、そういうことだ」
アインズはそれに乗っかった。
ザナックがちらっと見る。
何も言わない。
「そういうことだったんですね! 流石はザナック様! アインズ様のことをよく見ていらっしゃるんですね!」
アウラの表情は少し柔らかくなる。
「…………そうなのか?」
小さくアインズが言ってザナックに顔を向ける。
「……」
ザナックは顔を赤くして逸らす。
アウラの堅い空気が弛緩した。
そしてアウラは少し考えて、
「アインズ様、花畑が一番変わっていると思います!」
「花畑か」
アインズは記憶を探る。
「……植物系モンスター達を移住させたんだったか?」
「はい!」
アウラが歩きながら説明する。
知性を持たない植物系モンスターを移した隔離区域。
知性を持つ植物系モンスターが生活する区域。
以前作った村を使って暮らしている者達。
「村まであるのですか?」
ザナックが興味を持つ。
「ありますよ!」
「元々はな……いや」
アウラが元気よく答え、アインズは顎に手を当てて何か説明しかける。
元々は他プレイヤーと遭遇した時のための、「ナザリックは人間とも共存できます」アピール用だった。
ザナックに言っても構わないが今言う必要はない。
そもそもそのアピール自体が不要になっていることには、アインズは気付いていなかった。
「以前から用意していた場所だ」
「なるほど」
アウラが顔を上げると、アインズに何気なく聞いた。
「アインズ様、ドライアードのピニスンを覚えていますか?」
「もちろんだ」
即答したが、どんな顔だったかと内心焦っている。
ザナックから視線が飛ぶ。
「今は村で、長みたいなことをしてるんですよ!」
「ほう」
「正式に決めたわけじゃないんですけど。本人がそういう感じでまとめてます」
そのドライアードは気まぐれで、より強い個体もいる。
後ろ盾にアウラとマーレがいるし大きな問題に発展することもない。
「なるほど。正式な統治者ではなく、住民の取りまとめ役なのですね」
ザナックが言うと、アウラはグーサイン。
「はい! そんな感じです!」
「なんだか微笑ましいですね」
「はい、可愛いですよね! だからいつも歓迎してるんですよ」
「歓迎?」
外から来た植物系モンスターには、まず、アウラとマーレの実力を分からせる。そして、二人に従っている魔獣などを見せる。
結果、大抵の者は逆らわなくなる。
「……それは、歓迎なのですか?」
「歓迎ですよ?」
「そうですか」
深くは聞かなかった。
「それと、マーレを神様みたいに思ってる子もいるんですよ」
「マーレ様を?」
「ほう」
「森林竜を従えてるのを見たり、雨を降らせたり、土をすごくよくしたりしたからみたいです」
「本人はそれを……?」
ザナックが聞く。
「知ってます」
「喜んでいますか?」
「困ってます」
「でしょうね」
「でも、本当に神様と思ってるというより、すごい存在として讃えてる感じだと思います」
マーレは植物系モンスター達のアイドルか象徴的存在になっていた。
アインズが口を開く。
「とりあえず、二人が問題なく統率できているなら──」
言葉を探す。
「どのような方法であれ……」
ザナックが僅かに顔を上げる。
慌てて訂正。
「……いや。アウラもマーレも。二人ともよくやっている」
アウラの目が輝く。
「ありがとうございます!」
アウラは嬉しそうに唸ったあと、パッと顔を上げる。
「村も案内しますか? 隔離区域も、知性のある植物系モンスターのところも──」
アインズは少し迷う。
全て見ると時間がかかる。今日の第一目的はエルフ達に会うこと。
「いや、今回は花畑だけにしておこう」
「はい!」
「せっかく色々提案してくれたのに悪いな」
「謝らないでください! アインズ様が行きたいところへ行かれるのが当然です!」
それに!とアウラは勢いづく。
「アインズ様が行ってはいけない場所なんてナザリックにはありません!」
この世界にもありません!と付け加えた。
「いや、だから」
「ですが、その……アインズ様はナザリックでは偉そうにしてていいんです! 偉いんですから!」
「うん、まあ……そうか……。だが、私はお前達をしもべだと思うと同時に大切な家族だと思っている。少し謝るくらいは許してくれ。そう、少人数の中でだけな。私ももちろん、支配者として振る舞いには気を付けよう」
「……。いえ! アインズ様が楽な振る舞いでいいんです! 大事な会議とか、大勢の前以外──こうやってザナック様とあたしの前とかだけなら、いつもの優しいアインズ様でいいんです!」
「…………そうか、なら、そういう時だけは折を見て力を抜かせてもらうとしよう」
アインズは笑った。アウラもそれを感じ取り、微笑んだ。
「では、案内を頼もうか」
「はい! お任せください!」
とんと胸を叩くアウラ。
「移動はどうしますか? 何か呼びましょうか?」
「そうだな、頼めるか」
「はい!」
アウラが少し集中する。
「もっと近くにいる魔獣もいるんですが、フェンとクアドラシルを呼びました。よろしかったでしょうか?」
「アウラがいいと思ったのであれば、それでいい」
「ありがとうございます!」
フェン達が来るまでの時間、アインズは円形闘技場を見渡す。昔から好きな景色。
第五階層の氷や雪原とは違う。
第六階層には緑が多く、生き物がいて、空がある。
アインズは最近ずっと仕事続きだった。
そのせいもあってか、ただ立って景色を眺めているだけで心が軽くなる。
斜め前にアウラ、後ろにはリュミエール。
そして、少し視線を落とした。
左手側、微笑を携えて静かに待つ横顔。
金色の前髪、案外通っている鼻筋、丸い頬、
それと、ぷっくりした唇。健康的に色付いていて、触れたくなる。
「?」
こちらを見てさらに笑みを深くした。
撫でて、抱き寄せたい。だが流石にリュミエールとアウラの前でそんなことをするのは彼が可哀想だと思い、アインズは自重する。
「あ、アインズ様、ちょっと失礼します」
「ああ」
アウラはアインズとザナック、リュミエールから少し離れる。
どんぐりのネックレスを取り出して握る。
「マーレ。アインズ様がお見えになったよ」
少し間が空く。
『えっ? ア、アインズ様が直接?』
「うん。ザナックとリュミエールも一緒」
『ど、どうされたの?』
「視察……だと思う」
『思う?』
「第六階層がどう変わったか、自分の目で見たいって」
『じゃ、じゃあ視察じゃない?』
「だよね」
アウラは少し考える。
「アインズ様は二つ目的があるって言ってた」
『二つ?』
「一つはエルフ達に直接会うこと。もう一つは第六階層を見ること」
『……それだけ?』
アウラは少し黙った。
「……本当にそれだけかもしれないけど」
つぶやく。
「でも、アインズ様だよ?」
『……うん』
「最近、あたしたちも外で仕事すること増えたじゃない?」
『うん』
「だから……外の仕事ばっかりに気を取られて、階層守護者としての仕事を疎かにしてないか、見てるのかも」
『あっ……』
マーレはだんだん不安になる。
『ぼ、ぼく達、ちゃんとやってるよね?』
「やってる!」
即答した。
「でも、アインズ様から見たら足りないところがあるかもしれない」
『で、でも……』
「ん?」
『アインズ様、前に、何でも深く考えてるわけじゃないって……』
「……言ってたね」
『じゃあ、本当に普通の視察かも』
「……」
アウラはもう一度考える。
「でも、それを理由に気を抜くのも違うと思うよ」
『う、うん』
マーレもそれに同意する。
アインズは元は人間だった。支配者になったのも初めてで、沢山アウラやマーレ達のために練習もした。お前達が思うほど頭も良くないし勉強自体できる状況じゃなかったと。
だから、アウラとマーレは気を抜いて過ごしていていいか?
否、こういう時こそ主人に安心してもらうために全力を尽くすべき──いや、二人がそうしたいのだ。
『ねえ、お姉ちゃん……ザナックさんも一緒なんだよね?』
「うん」
『だったら、エルフの人達から何か聞くのが本当の目的なのかな。ザナックさん、外交のお仕事してるし……』
「ああ、それはありそう……」
うんうんと頷くアウラ。
「あ、それでね。エルフの三人に会いたいんだって」
『……あの人達?』
明らかにマーレの声のトーンが落ちる。
「嫌そうだね」
『だ、だって……』
エルフ三人はマーレを放っておけない。
布団を干す、服を着せる。何かと世話を焼く。
場合によっては風呂まで手伝おうとする。
マーレ本人にはかなり迷惑。
『ぼくが自分でやるって言っても、やってくるんだよぉ……』
泣きそうな声。
「まあ、マーレが布団でずっとゴロゴロしてるからでしょ」
『お姉ちゃぁん……』
「あ、」
アウラは気配を察知する。
「フェン達、もう近くまで来てる」
『じゃ、じゃあぼくも何かする?』
「うん。準備しておいて」
『分かった』
アウラはネックレスから手を離す。
主人達の所へ戻る。
アインズ、その横にザナック。後ろにリュミエール。
アインズは第六階層の景色を見ているようで、ザナックをちらちらと見ていた。
「お待たせしました、アインズ様!」
アウラは手を振りながら近付く。
アインズが振り返る。
「うむ」