生まれてきてくれてありがとうザナック!!
ザナックと過ごす時間が日常の一部になってきたある日。俺はふと思い立って、彼の誕生日について尋ねてみた。
「ザナック。君の誕生日は、いつなんだ?」
その問いに、彼は少し驚いたように瞬きをしてから、苦笑交じりに答える。
「……三月十四日です。ちょうど二ヶ月ほど前ですね」
「三月……? それは……随分、最近じゃないか」
思わず眉を上げそうになった……いや、俺に眉はないが。それほど近い時期だというのに、何の話題にも上らなかったとは。
「その時は……祝われたのか?」
しばらく沈黙があった。
ザナックはほんの少し視線を落としながら、静かに呟く。
「筆記具をひとつ、臣下からもらいました。それだけです。……別に、寂しくはなかったですよ」
その声は穏やかで、嘘ではないのだろう。
けれど、その事実に対する俺の感情は──どうしようもなく、胸の中で収まらない。こんなにも気配りができて、他者のために尽くせる者が、自分の誕生日を静かに通り過ぎていた?いや、許せない。
そうだ、これはいい機会だ。ザナックの歓迎も兼ねて──
「……ザナック。今から言うことは、あまり大げさに捉えずに聞いてほしい」
「はい?」
「君の……誕生日を祝いたい。ナザリックにおける歓迎パーティの一環として。これは……魔導王としての決定だ」
「…………え?」
ザナックの顔が一瞬で真っ赤になった。
「い、いえ、あの、そ、そんな……俺のために、そこまでは──」
「必要だと判断した。君は今、我が国にとって重要な存在となりつつある。ゆえに、誕生日を祝うことは、今後の精神的な安定と忠誠心の向上にもつながる……と考えられる」
めちゃくちゃな理屈だと自分でも思う。
だが、言い切った。彼の目の奥に宿る驚きと、ほんの少しの嬉しさを見逃さなかったから。
「アインズ様……」
その声には、信じられないとでも言いたげな揺らぎがあった。でも、それがすぐに静かな笑みに変わる。
「……ありがとうございます。本当に、嬉しいです」
俺は思った。あの時、君が「お慕いしています」と言ってくれたように。今度は俺が、その気持ちに応える番なのだと。
「では準備に取り掛かる。アルベドやセバスに指示を出そう。……ああ、それから、ピッキーにも飲み物の用意を頼まねばな」
「ピッキー……?」
「……副料理長のピッキーだ。バーのマスターをしている。きっと君の好みに合った飲み物を用意してくれるだろう」
ザナックはぽかんと口を開けていたが、次第に目を細めて、微笑んだ。
「……想像以上に、楽しそうですね」
「当然だ。君は今、ナザリックの客人であり──」
言いかけて、ふと、言葉を変える。
「……いや。"仲間"だ。君は、我々の仲間になったのだから」
その言葉に、ザナックの目が潤むように揺れた。
彼はただ一言、「はい」とだけ答えた。その声が震えていたのは、気のせいではないだろう。
このパーティは、ただの歓迎ではない。君がここで笑っていていいと、堂々と受け入れられる場所を示すためのものだ。
ナザリックに、君の居場所があるのだと──。
─────────『ザナック視点』
────ナザリック九階層、ゲスト控え室にて。
「さ、ザナック様。今日は特別な日ですから、"映える衣装"に着替えましょう?」
にこやかに笑うアルベド様の背後で、シャルティア様とアウラ様が「わーい!」「やったー!」と手を叩いている。
(……やばい! これは逃げた方がいいやつだ!!)
そう察した時にはもう遅い。アウラ様の魔法で動きを止められ、シャルティア様にずるずる引きずられる。
「ちょっ、待っ──アインズ様に断ってきます!
俺、こういうのは──!」
「アインズ様ご自身の命令ですわ。"せっかくだから可愛くしてあげてくれ"とのこと」
「アインズ様の命令でありんす。観念なさい」
「はいまずー! 純白タキシードー!」
「いやいやいや、タキシードなんて俺には──!」
「似合うよ〜! お腹周りゆったりめで、ザナック向きだし!」
アウラ様はお腹をぽんと叩いてみせた。
シャルティア様が深紅のベルベットスーツを持ってきた。目が輝いている。というか俺、着せ替え人形にされているではないか。
「妾のセレクトでありんす! テーマは"高貴な吸血鬼の弟"!!」
「いつの間に姉弟に?」
「ふふふ、では次はこれですわ。漆黒の軍服風ロングジャケット。肩章には魔導国の紋章を──」
「威厳ありすぎて服に着られてしまいます……!」
「じゃあこっち! アウラ特製、"森の王子様スタイル"。リス耳カチューシャ付き!」
「いや、リス耳はちょっと……」
「うわ〜似合ってる〜! 困り顔がもう、カワイイ……!」
──最終的に選ばれたのは、純白のロングジャケット燕尾服。上質な光沢のある布地に、翼と月桂樹をモチーフにした金の刺繍。左胸には青緑の宝石の小さなブローチ。ウエストには金の細身ベルトが巻かれる。
「左耳に髪を流してかけて……輪郭を引き立たせて、はい、可愛い!」
アウラ様に髪を弄られ、背中をバンと叩かれて扉から出た。
─────────『アインズ視点』
広間の重厚な扉が開くと、ペストーニャが手を引いてザナックを中へ導く。
「ようこそ、ザナック様。」
豪奢なバンケットホール。天井のシャンデリア、壁に飾られているのはアルベドの指示で急遽描かれたザナックの肖像画───
「……なんです、これは…公開処刑?」
「いやいや〜ザナックくんの歓迎パーティ兼お誕生日会っすよ〜〜!」
ルプスレギナが風船束を抱えて走り寄ってくる。
「主役登場ー!!」
なぜか司会席にいるパンドラズ・アクターが、芝居がかった変な動きをしながら絶叫。客席では、シャルティアがドレスで拍手、ソリュシャンが微笑み、エントマがクラッカーを引いたが音は出ず、なにか黒いものが一緒に飛び出した気がしたが……気のせいだと願おう。
「席はこちらですワン」
ペストーニャが丁寧に席へと案内する。
料理はすべて"食べやすいもの"と希望したはずだったが、出てきたのは具が豪華すぎるパスタ、特大ハンバーグステーキ、卵が黒いオムライス。
妙に美味しいが、ハンバーグはもっと小分けに出来なかったのか? 遊び心か? とにかくデカ過ぎて、皆、デカいハンバーグにナイフを通して自分の皿に切り分けている。あと、オムライスは何故黒い。そのふたつに比べればエビとカニとイカとパプリカとトマトが入ってるパスタはだいぶまともだ。食べやすさとは少し違うが。
やがてプレゼントタイムが始まる。
「私たちからのプレゼントっす!」
プレアデスたちがザナックを囲む。
ユリは金属製の筆箱、ルプスレギナは短剣、ナーベラルは魔法書の写本、シズはザナックに似たぬいぐるみ"ざなっくん"、ソリュシャンは高級香水、エントマはキャンディ。包みを開けた瞬間、虫が現れて──ザナックはこの日、ナザリックで初めての絶叫を上げた。笑い声、拍手、軽口、戯れ。お腹や頬をむにむにされながら、ザナックは少しずつ、心を許していく。その顔に浮かぶのは、かつての戦場で見たような、あたたかな笑みだった。
──ようこそ、ナザリックへ。
ここが、君の居場所だ。