ラナザナも好きなんですよね
※ザナックが妹に胸責めされてます
ナザリック、談話室。
「───懐かしいですね」
漆黒のドレスを纏った
こんな光景が懐かしいはずがあるか。
コイツにもっと言いたいことだってあったのに、どうにも出てこない。
「……あの、お兄様?」
と探るような声色にハッとして顔を上げると、心配そうに眉を下げた妹と目が合った。コイツは昔から、心配している風な演技が上手いな。
「あ、あぁ……。なんだ?」
「お兄様、大丈夫ですか? 果実水を用意しておりますので、お飲みください」
「……遠慮する」
俺は、差し出されたカップをそっと押し返した。
「え? 何故ですか?」
一瞬目を見開き、肩を揺らしたラナー。そして、めげずに皿に盛られた薄茶のクッキーを勧めてくる。
「うーん。では、クッキーはどうです? 私がお兄様の為に焼いてきたんです。お兄様好みの柔らかめで甘いですよ」
ラナーは、妹として完璧な笑顔を見せて小首を傾げた。
「甘味は最近控えてるんだ。ダイエット。」
「ええ?! 私はお兄様の"ぽよぽよ"が好きなのに…! お兄様はもっと食べるべきですよ? 最近随分とお痩せになられましたし……心配です」
ふふっと、可愛いらしい笑みをこぼすラナー。何か含みがあるようにしか見えないのだが。
「お前、俺をこれ以上太らせて嘲笑うつもりだろ……楽しんでるんだろう」
「違いますよ!! 私は本気です! むしろお兄様はもっと太るべきです! それがいいんですから……! ほら、むにゅむにゅって!」
と、突然ラナーが机を回り込み俺に覆いかぶさった。細い指が無遠慮に腹を這う。
「ん、はっ……! こら、やめろっ!」
「いいえ、お兄様が認めるまで退きません。……それに、お兄様に聞きたい事があるんです。素直に答えてくださいね」
シャツの上から横腹を揉まれ、へそをすりすりとなぞられる。
「あっ、あ……ラナー! や、んぅーっ」
俺は震えながら、ラナーの顔に手を伸ばす。
「んふふ、どうしたんです? お兄様、降参ですか?」
ぺしっ───!
ラナーの"弾いてください"と言わんばかりに出された額に、デコピンをお見舞いした。
「はうっ!」
両手で額を押さえ、後ろに退いたラナーを見届けてから、俺は即座に出口の扉に駆け寄る。
が、左腕を物凄い力で引っ張られた。
「逃がしませんよ。まだ重要なことを聞き出せてないんですから…」
怪力で俺の腕を掴むラナー。
「痛っ、おま、力強いな……!」
「これでも悪魔ですから。それに、今の弱体化したお兄様に負けるなんてありえません」
「弱体化ってなんだ?! お前のくすぐりごときで俺が屈するとでも思ったか! この変態妹めが!!」
ギリギリと腕の引っ張り合い。だが、そろそろ俺の腕がちぎれそうだ。俺が怒鳴ると、ラナーはぴくんと瞬きをして、
「うふ……変態って言われちゃいました」
と、頬を染めて言いやがった。
……もうだめだ。意味が分からない。
「なにを、嬉しそうに……ッ!」
「だって、お兄様が私を見てそう言ったんですよ? 昔はもっと無関心だったのに、今の貴方は私を"妹"として扱ってくれる。それだけで、もう……」
妹じゃなくて変態、とはっきり言ったはずだが。うっとりと俺の腕に頬をすり寄せてくる。そのくせ、腕の締め付けはどんどん強まる。
「ちょ……いててててて、ほんとに折れるって!!!」
「ふふ、じゃあ教えてくださいね。──どうやったら、アインズ様に気に入られるんですか?」
その一言に、背筋が凍った。
「は……なに?」
「ほら。お兄様、アインズ様ととても仲が良いでしょう? 一般メイドさん達まで"特別扱いされている"って噂をしているんですから」
ラナーはじりじりと距離を詰めてきて、俺はドンッと壁に背を押し付けられた。
「うぐっ……ちょっ、待て。俺は何もっ……! 何か特別なことをした覚えはない!」
「それが問題なんです。してないのに、可愛がられてる。」
ラナーが、にこりと笑った。だけど、その目は凍るような蒼だった。
「私は、知りたいんです。どうすれば、私も──ナザリックで生きていけるのか。どうすれば、あのお方に愛される"貴方のように"なれるのか」
「……………。」
返す言葉が出てこなかった。
愛されている──? 俺が? 誰に?
(………………。)
馬鹿な。
俺はただ、生き返らせてもらっただけの敗残者で、
ナザリックの皆様が善意で見逃してくれているだけの存在で。
(なのに──なぜ、胸が、また、苦しい)
「私ね、お兄様」
ラナーが、ふっと吐息を洩らす。
その手が、腹から胸元へと滑り上がる。
「お兄様が、この"ふにふに"の体で、泣いたり、笑ったり、困ったりするたびに……アインズ様が目で追っているのを、知っているんですよ」
グリ、と。
ラナーの手が俺の胸元を掴んで、柔らかい肉を揉む。
「んぐっ…お前…やめっ、ラナー、ほんとに……っ」
「あぁ、でも分かります。私も、お兄様を見ていると……たまらなくなるんですもの」
もぞり、とシャツの中に指が入り込んでくる。
冷たい指先が胸筋を押して、ぬるっと撫でる
「だめだって……っ、そこ……!」
なのに、ラナーは優しい声でささやいた。
「私、王族として生まれたことに、一度も不満はなかった。でも……ナザリックで生きていくには、"選ばれ"なければならない。──お兄様は、それが出来た」
「俺はっ……っ、なにも……! んっ」
ぐりぐりぐりぐり…と胸の先端を押し込まれる。
(こんなのが人にものを頼む態度かよ!!)
「ねぇ、お兄様。どうすれば、あの方に拾ってもらえるの……? どうすれば、私も"必要"とされるの……?」
ぐい、と身体を近づけてくる。目の前にあるのは、理性が溶けたような笑顔。
「ねぇ、教えて……私、お兄様みたいになりたいの……」
ぞくり、と背中が凍る。どんな脅しよりもずっと、怖い言葉だった。
「私、お兄様になりたい」
「や……やめろ……っ!」
俺は、やっとのことで彼女の手を振り払った。
のしかかってくる体重を全力で押し返し、ラナーは後方に倒れこむ。
「ふぎゃっ!!」
丁度よくクッションの山に突っ込んでいくラナーを見届けて、俺はよろよろと立ち上がった。
「………………はぁ……はぁ……っ……」
呼吸が乱れている。心臓が痛い。頭が回らない。
「お兄様は……やっぱり、アインズ様の"特別"です……」
クッションに顔を半分埋めたまま、ラナーがぽつりと呟いた。
「……ラナー、お前、本気でそれを……?」
聞き返すと、彼女は漆黒のドレスをふわりと揺らして立ち上がり、裾を払って微笑んだ。
「はい、私は─"選ばれる人間になりたい"んです。ナザリックで、価値を持って、生きていきたい。だから」
「そのためなら、どんなことだってしますよ」
狂気に満ちた笑顔。だが、どこか、泣いているようにも見えた。
「……変わってないな。お前、昔からそうだった」
「ふふ、ありがとう。お兄様だけが、私のことを"昔と同じ"だと言ってくれます」
「人間はそう簡単に変わることは出来ない。…俺だって昔のままだ」
どちらからともなく、距離が離れた。
ラナーは笑っていたし、俺は胸の痛みを抱えてその場を後にした。けれど、心にひとつだけ、重い石が残った。
(俺は──本当に、"選ばれた"のか?)