※この作品はR-18です。

ザナック蘇生if/アイザナ   作:アイザナ大使

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ジルクニフ視点。
※皇帝陛下がザナックのストーカーになってます。




ふにふに

 

 

──知っている。ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフのことなら、全てを。

生誕、年齢、身長、趣味、嫌いな食べ物、笑い方、苦手な舞踏のステップの種類まで。全て、完璧に把握している。…………把握してしまった。

いや、最初は仕方なかったのだ。

外交相手として、魔導国の対話役としての彼を分析するのは当然だろう?そう、これはただの政務、職務、必要な……調査……の、はずだったのだが。

「……よし、今日は干し葡萄入りのクッキーだ。これならザナックは三枚食べる」

皇帝自らが用意した茶器と、銀の菓子皿を見て、思わず拳を握る。よし。完璧。今日も勝てる。

なにに? ザナックの反応に、だ。

「甘党め……可愛いなまったく……」

気色悪く独りごちながら、書斎のソファのクッションを整え、机の角度を調節し、窓のカーテンを"ちょっとだけ緩めて逆光にしない"程度に開く。

完璧。完璧すぎる。これで入室時のザナックのシルエットも見逃さずに済む。

そして、思い出す。先ほど、部下に「ザナック殿を、お招きしろ」と伝えた時の己の声が、思いのほか弾んでいたことを。……まずい、取り繕えていただろうか。変な顔していなかっただろうか。

いや、良い。むしろ本人にもバレてくれれば──

「駄目だ私は何を言っているッ……!!」

ドン、と書斎の机に額をつけたその瞬間、扉の向こうから控えめなノック音が響いた。

「……ッ」

来た……!!!!

今日もザナックは新たな表情を見せてくれるのか!? 俺は、今日こそ何かひとつ、"新しい"ザナックを知ることができるのか──!!

「どうぞ、入ってくれ」

声を出すまでに五秒を費やしてしまった。

落ち着けジルクニフ。お前は皇帝。知性の化身。冷静沈着な帝王なのだ。だが、扉が静かに開き、光の中から現れたザナックのあの「気を遣いながら入室する時の申し訳なさそうな顔」を見た瞬間、

俺の中で、勝利の鐘が盛大に鳴り響いた。

──よっしゃあッ!!!

ザナックは、いつも通り。小柄な体をさらに縮めるように、控えめに一礼して、しかし背筋はちゃんと伸ばしている。手には何も持っていない。きちんと身なりを整えていた。

「……あ。ええと、失礼いたします」

「気にせず座ってくれ。クッキーがある。今日は干し葡萄入りだ」

「……っ、ありがとうございます。好きなんです、これ」

やったッ!!!!!

だが顔には出さない。皇帝たるもの、喜びは心の中で静かに爆ぜさせるもの。ザナックは遠慮がちにソファの端に腰掛ける。俺は正面の椅子に座りながら、彼の表情と仕草を観察する。…今日の一口目の咀嚼回数は、七回だな。いつもより噛んでいる……緊張しているのか? それとも、何か悩みがあるのか?

いや、落ち着け。まだ早い。

──質問からだ。

「なあ、ザナック」

「はい?」

「……どうして君は、あの魔導王に気に入られているんだ?」

「……っ」

ザナックの手が止まった。肩が微かに跳ねる。──この反応は珍しい。ふむ、図星か。

「い、いえ、気に入られているだなんて……」

「いや、気に入られているだろう。明らかに。あのアインズ・ウール・ゴウン殿が、他者に対してあれほど穏やかに接するなど……他に例がない」

「そ、そうでしょうか……?」

「そうだとも。君の前では、彼は表情こそ見えないが、声が違う。語尾が優しい。あれは好意がなければ出せない声音だ」

「え、ええと……」

困ったようにザナックの視線が宙を泳ぐ。どうやら"本人の認識が薄い"らしい。

「──まさか。君は、あれを気づいていない?」

「な、なにがですか……?」

ザナックは困惑しながらも身を乗り出して聞く。

「アインズ・ウール・ゴウン殿は、君に恋をしている」

「───ぶへっ!?!?!?」

ザナックはクッキーを吹きかけた。ぎこちない咳と共に、俺を見る目がまるで大型の肉食動物を前にした小動物のようだ。脅かすつもりではなかったが、この反応は……面白すぎる。

「こ、こ、恋とか、そんな、あり得ないですよ……!? 俺なんて……その……」

ああ。まあ、"恋"は言い過ぎたが、アインズがザナックに明らかに、特別な感情を抱いているのは確かだ。

「この体で?」

「はいっ……?」

俺の言葉に、ザナックの目がさらに見開かれる。

これは──いける。完全に動揺している。理性が警告を出しているが、"皇帝ではない俺"が、それをねじ伏せていた。

「君、柔らかそうだな……ちょっと失礼するぞ」

「へっ……えっ、ちょっ、え!?!?」

ズイと身を乗り出し、ザナックの身体をソファの背に追い込むと、ザナックは逃げながら立ち上がり、俺はそれを追いかける。

「な、なんでしょう!?」

「この体で、惹かれたというのか。アインズは、この"ふにふに"を知ってしまったというのか……」

彼の小柄な身体を壁に押し付けて、ぐにぐにと腹肉を摘む。

「ふああっ!!?」

これは柔らかい。まるで……羽毛だ。

「ちょっ、やっ、やめ……! だ、誰か来たらっ、陛下……!」

「来ないとも。扉には誰も近づけるなと命じてある」

完璧な布陣。俺の理性はとっくに死んでいた。というか、これだけは確認しなければならないのだ。

むにむにむにとお腹を揉み続けると、ザナックの目尻にじんわりと涙が滲む。

「ふあ、ぁ……や、じるくにふ、陛下ぁ……!」

「なるほど……"ふああ"と鳴くのか、君は……」

「言わないでくださいッ!!!!!」

ザナックの耳まで真っ赤だった。俺の手を掴もうとするその動作すら、子猫のパンチのように弱々しい。

この男が、魔導王を惑わしたというのか?

──理解した。

「なるほどな……確かにこれは、魅了される」

「なにがッ!?!?」

「ハハッ……すまない、すまない」

ようやく振り払われ、俺は笑いながら身を引いた。ザナックは荒い息を吐きながら、ぐしゃぐしゃに赤くなった顔を隠すようにソファに倒れ込んでいる。

「や、やめてくださいよ……っ、俺、ほんとに……意味わかんないです……っ」

その時だった。

バンッ!!!!!!

扉が音を立てて開かれる。

「ザナック!!!」

その声は────

「ア、アインズ様……!?」

「……何をしている?」

アインズ・ウール・ゴウンがそこにいた。漆黒のローブを纏い、怒りと不穏の気配を身にまといながら。その視線は、床に崩れそうになっているザナックから、そして俺の顔へ。

「……ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス」

うっ。フルネーム呼び。これは、本気でキレてる奴だ。

「貴様、何をしていた? "我が国のザナック"に、何をした?」

「いや……その……──」

「アインズ様、ご心配には及びません。少しお話をしていたんです。貴方のことを。」

ザナックはパタパタと服を払ってから、立ち上がり、アインズにふんわりと笑いかけた。

「そうか、話し中に失礼した。ジルクニフ殿。…だが。」

次の瞬間には、アインズの腕の中にザナックがひょいと抱え上げられていた。

「アインズ様!? あの、ジルクニフ殿の前ですよっ……」

「静かに、暴れない。今は君の安否確認が先だ」

「だ、だから……大丈夫ですって!」

ザナックはおろおろと手をバタつかせるが、アインズの腕の中から逃れることは叶わない。アインズはそのまま、まるで"宝物"を持つようにザナックを抱えて──。

「…ザナック。君は危機感が欠如している」

「危機感って、ジルクニフ殿は危なくな…」

「そういう考えが駄目だ。そもそも君の悲鳴が聞こえたから俺は……」

そんな話し声を最後に、バタン、と扉が閉まる。

──俺は、残された。

冷たい茶器。クッキーの香り。

ふわふわのソファに、ザナックの温もりが微かに残る。

「……はは、なるほど。たしかに。あれは惚れているな。」

呆然と笑った俺の手には、まだ微かに──あの"ふにふに"の余韻が残っていた。

 

 

 

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