両片思いてえてえ
俺は、しばらくザナックと離れたくなくて、毛布にくるまって俺を見上げる彼に覆い被さるような形で、背を撫でていた。
「アインズ様……? あの、先程から何をしてるんですか?」
「強いて言うなら……充電だ。」
「じゅーでん?」
「あー、足りないものを補っている。栄養補給と同じだ。」
「……足りないんですか? アインズ様……。
お、俺は、貴方のために……何ができますか?」
「私はただ、笑って君が元気でいてくれれば……」
嘘。
本当は君の全てが欲しい。もっと、ずっとこうしていたい。触れ合っていたい。
「アインズ様、して欲しいことはありませんか? 俺、何でもしますよ、」
「……そんなことを簡単に言うな。」
その小さな体をぎゅっと抱きすくめた。
「わっ。……簡単では、ないですよ? アインズ様は特別です。」
「君のそういう所が……本当に」
ぐりぐりと彼の胸に頭を押し付ける。
「ん……フフ。アインズ様、甘えてるんですか? かわいい……」
自然と、ザナックの手が俺の頭に。
そして、彼はぽつりと呟いた。
「……可愛い? 私が?」
「え、あっ! すみません! そんなつもりじゃ、いや、そういうつもりでしたケド、とにかく……侮辱した訳じゃ!」
俺が聞き返すと、彼は慌てて両手を上げて弁明する。
「君の方が可愛いと思うが?」
「え?! 俺が、いやいや……こんな目付きの悪い太った男が…可愛いわけないじゃないですか……フフッ」
ザナックは、本気にしてないようで"冗談"として受けとって、くすくすと笑っていた。
「冗談ではない。まあ、君のそういう謙虚過ぎるところも魅力と言える」
少し、そう……ほんの少しだけ彼の鈍感さにイラッときて、意地悪がしたかった。
でも傷つけることはしたくない。
だから。ザナックの左耳に、骸骨の歯で触れて、囁いた。
「…君は可愛い。」
「ん!? ふあ……!」
ザナックはか細い喘ぎ声を上げた。
俺の中に衝撃が走る。彼は咄嗟に口に手を当てようとしていたが、それは俺の追撃のせいで叶わない。
歯をぐい、と押し当てるようにした。
すると、また、震えた声が上がる。
「ぁ、ああ……っ! だめ……」
(だめ、だと……? 良いな……)
ザナックは胸の前で両手をぎゅっと握り込み、腰を反らせる。そして、俺の腕の中へと──まるで吸い寄せられるようにぽんっと倒れ込んで来た。
ザナックの、ザナックの…頬。
胸、腹、太もも、尻の感触。近い、どころではない。俺に、密着して、骨に、食い込んで。
どくん。どくん、どくん、どくん。
存在しないはずの心臓が、爆ぜる。
やわらかい。
あったかい。
いい匂い。
湿った汗と、彼自身の、"生"の。
やわらかい。
可愛い。
やわらかい。やわらかい。やわらかい。
脳内にノイズのように繰り返される単語。
これはもう思考じゃない。俺の中の何かが破裂して、ザナックという概念に埋め尽くされている。
「……ザナック」
「は、はい……」
俺のローブにしがみつくその手が小さい。
体温が伝わる。鼓動がわかる。
こんなにちいさい。やわらかい。ふわふわ。あまいにおい。しあわせ。かわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいい
やめろ。しっかりしろ。
俺は支配者だ。
魔導国の王で、ナザリックの主人で。
「……君の方が、可愛いらしいじゃないか」
「え……?」
ザナックがきょとんとして俺を見上げた。
その瞳に、何も混じり気のない驚きと戸惑いと、わずかな照れがある。理性が持たない。
「きゅ、急に何を言ってる、んですか…! お、俺なんて、そんな……」
「事実を述べただけだ。……まあ、あまりにも可愛いから、そう言ってしまったんだが」
ごまかしたつもりで、まったくごまかせていない。
俺の脳内はすでに「ザナック可愛い」しか残っていない。が、ここでふと、ある"閃き"が脳裏を走った。
「ザナック。君の仕事の件だが」
「はい?」
俺は、少しだけ体を離し、ザナックの顔をまっすぐ見つめる。
「今後、書類整理や清掃などの仕事は廃止する。代わりに……新しく重要な任務を任せる」
「え? それは……どのような……?」
彼は真剣に聞き入っている。
「俺の執務中、膝の上に座っていろ。以上だ」
「──は?」
ザナックが絶句する。
「いや、それはその……業務……なんですか?」
「当然だ。精神安定と集中力向上、緊急時の迅速対応、外交時における対外アピール……必要性は十分にある」
「た、たいがいアピールぅ……!?」
「見せつけるためだ。君が、我が魔導国にとってどれほど重要な存在か、他国の目に焼きつけさせる」
「え、いや、俺、膝に座るんですか? 毎回?」
「そうだ」
「外交の時も?」
「特に外交の時は。拒否は許されない」
ザナックが何かを口にしようとしたが、その前に、俺は立ち上がった。軽々とザナックを横抱きし、即座に執務室に転移する。執務机の前に来ると、ザナックが状況を理解したようでかああっと顔を赤くした。俺は気にせず、椅子に座り、ザナックをゆっくり膝に下ろした。
「う、俺……お、重くないですか……?」
「まったく。むしろ丁度いい」
そう言って、俺はそっとザナックの背を撫でる。
可愛い。いや、あまりにも。この質感、この体重、この距離、この鼓動が。
「……あ、アインズ様っ?」
「なんでもない。少し、撫でただけだ」
「びっくりしますよ……っ」
「そうか。なら、今度からもっと優しくしよう」
そっと、頬に触れた。骨の指先と、彼の体温のコントラスト。
骸骨の歯で、
「……ん。」
静かに、頬へ口づける。
ザナックは瞬きを数度繰り返し、顔を真っ赤にして俺にしがみついて見上げてきた。
「な、なな、なんで頬に……!?」
「友情の印だ」
「……じ、じゅ、ゆう、じょ……?」
「友情だ」
俺は平然と告げる。
が、心の中では──
(ザナック可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い)
この世の言語から意味を剥奪した"可愛い"という単語だけが、俺の精神世界にこだましている。
「……仕事、始めようか」
「は、はい……」
ザナックは、俺の膝の上で小さく座り直し、正面を向く。その姿を見ながら、俺は書類に目を通し始めた。数秒ごとに、ザナックの髪を撫で、時折お腹をむに、と押し、片手で頬をつまんで、もう片方で印鑑を押す。
「はう……。ほんとにこんなことで……」
とザナックは少し疑問が残るようだ。
だが、この新しい業務体系、完璧だ。これが、俺が求め、俺の望んだ関係であり、俺の愛なのかもしれない。ああ違う、これはまだ友情だ。
今は、まだ。
可愛い。
その言葉を胸に、俺は今日も執務を続ける。
膝の上の、小さな温もりを守るために。