※この作品はR-18です。

ザナック蘇生if/アイザナ   作:アイザナ大使

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ザナック視点。
猫ちゃん扱いで良いのです。どっちかと言うとハムスターだけど




俺の役目

 

 

朝の光が、薄いカーテン越しに差し込んでいる。

アインズ様の私室と同じ棟に設えられたこの一室は、常に快適な温度と静けさが保たれていて、ぐっすり眠れるには充分すぎるほどだ。

……けれど。

「……なんだ、これ……」

俺は、両手で顔を覆って、ベッドの上で正座していた。掛け布団の感触すらも、なんだか落ち着かない。仕事の話だ。昨日、正式に命じられた。

──『君の仕事は、俺の膝の上に座っていること。それから、たまの外交補佐』──

おかしい。いや、おかしくは……いや、やっぱりおかしい。

「俺は、怠惰だ……怠け者の極みだ……」

国王の膝に座っているだけが自分の役割って、どこの貴族の飼い猫だよ。

しかもそれを"任務"として与えられて、はい分かりましたと膝に座った自分は──

「くっ……阿呆か……っ」

昨日のことを、思い出す。

不意に耳を責められたあの瞬間。

鼓膜すれすれで囁かれた「可愛い」の声。

ゾクッと背筋を駆け上がった感覚と、気づけば口をついて出た、あの、あまりにも"間抜け"な、

「ふあ……っ」とかいう……

「馬鹿か俺はあああああっ!!!」

ベッドの上で、バフッと枕に顔を突っ伏した。

思い出すたびに全身が熱くなる。心臓が、どくどくする。それなのに、なぜか、頬がゆるんでしまうのは──本当に、どうかしてる。……俺は、どうすればいいんだろう。骸骨の支配者の膝の上で、心まで甘やかされて、こんなに幸せを感じてる自分が、ちょっと……怖い。でも、アインズ様の声も、手も、

あのぬくもりも──もう、忘れられそうにない。

……そもそも。俺は、どうしてこんなに悩んでるんだ? アインズ様には……アルベド様という、あんなに美しくて立派で、完璧な女性がいるじゃないか。

ナザリックの頂点に立つ、正妻のような存在だ。

そう、夫婦だ。うん、夫婦なんだ。多分、きっと、そうだろう。だって、私室で二人きりで一緒にいたし、肩とか触ってたし、アインズ様のベッドからアルベド様の匂いが異様に香るし。なんか……二人の雰囲気がそれっぽい……!

「……やっぱり、俺なんかじゃ、ダメだ……」

諦めろ。諦めろ。それでも、何度も昨日のことを、思い出してしまう。耳に触れた骸骨の歯の、ひやりとした感触。

(だ、だめだあぁ…)

それとは真逆の、低くて、柔らかくて、あたたかくて──甘い声。

「可愛い」なんて、言われること、

そもそも俺の人生で一度もなかった。……もしかして。これも、その……友情の証、ってやつなんだろうか? 男同士の友情って……そういうスキンシップが、ある、ものなのか……?

「……ぐぬぬ……」

わからない。俺、友人なんて──初めてできたんだ。兄や妹ともあまり話さなかったし、父ともほとんど……そう……。だから、今アインズ様にしてもらってることが、友情なのか、それ以上なのか、それ未満なのか、まったく分からない。だけど。

「あー、もう……昨日、なんで……あんな声……」

自然とまた思い出す。あの囁き。耳への息づかい。

胸の奥がぞわぞわして、足が力入らなくなって……

腰が、勝手に……

「…………」

「……こ、興奮してるじゃないか俺……っ!!!」

ベッドの上で、ぴしっと固まる。

そのまま枕に突っ伏して、自分の頭をぐいぐい押し付けて、呻く。

「違うだろ!? 何考えてんだ馬鹿野郎!!! 俺は……アインズ様に仕える身だぞ!? 敬意と忠義があって……それ以上を……期待するなんて……っ」

このままではいけない。

頭を冷やさなければ。

理性を取り戻さなければ。

だが身体は逆に熱くなっていく。

──────『ザナック……』

アインズ様の囁く声。

「ふ、ふおおおお……!!! や、やめ」

脳裏では何度も、アインズ様の声が、仕草が、表情のないはずの骸骨の顔が、優しくて、甘くて、胸が苦しくて、──その瞬間、バランスを崩して、ベッドから転がり落ちた。

「ぐへっ!!?」

床にぶつけた腹を抱えながら、しばらく蹲る。

が、気持ちはもう落ち着いていられない。

もがき苦しむように立ち上がって、

ふらふらと壁へ歩いていく。

「……俺は、どうか、してる……っ」

額を壁にコツン、と当てる。

「可愛いって言われたぐらいで……」

コツン。

「膝に座らせてもらったぐらいで……」

コツン。

「耳に触れられただけで、むらむらして……」

ごん。

「……馬鹿か俺はあ!!!」

ごんごんごんごん!!!!

もう、耐えられなかった。

自分自身に、嫌気が差して。

自分の欲に。妄想に。勘違いに。

情けなくて、苦しくて、でも

「……あの声、もう一回、聞きたいとか……思ってる自分が……っ」

壁に額を押し付けたまま、震える。

顔は熱くて、目の奥がじんわりして、

息は、少しだけ、上ずっていた。好きになっちゃ……だめだ。こんな俺じゃ、ふさわしくない。分かってる。分かってるのに。また、アインズ様の手に、そっと撫でられたいって、思ってしまう。

「……って、"思う"なあああ!!!」

もう一度、ごんっと壁に頭を打ちつけた、その瞬間だった。

「はぇあ……?」

部屋の空間がびり、と揺れた気がした。

「───グレーターテレポーテーション」

低く、けれど慌ただしく切迫した声。

耳に届いた瞬間、俺は、反射的に振り返る。

「ア、アインズ様……!?」

現れた主の姿に、息が止まった。

あの方の目が、俺をまっすぐ見ている。

焦りと、驚きと、何より……俺への強い"心配"がその視線にこめられていた。

「ザナック、今の音はなんだ!? 大丈夫か!」

「い、いや、その、ちょっと、足を滑らせて!!」

言い訳にもならない苦しい弁明。

だがアインズ様は、すぐに俺の元に歩み寄って、そっと俺の額を覗き込んだ。

「……赤いじゃないか。ぶつけたのか……?」

「い、いえ! 大したことは……っ」

言い終える前に、アインズ様の指先が俺の頬に、額に、そっと触れた。──ひんやりした骨の感触。

だけど、それ以上に、優しかった。

「……痛みは? 腫れてはいないか……」

「……本当に、だいじょうぶ、です……」

弱々しく笑う俺の言葉に、アインズ様はほんの一瞬だけ黙り込む。

それから──指が、首筋に移動した。

「……体温が高い。どこか、具合が悪いのか?」

「へ……? い、いや、そんな……っ」

骨の指が、俺の首をぺた、ぺたと触れるたび、

どく、どく、どくん……!

「っ……」

耳の奥に、自分の心臓の音が響いてくる。

早鐘を打つような、いや、

まるで俺の動揺そのものが、脈打ってるみたいで。

(し、心臓うるさい……っ!!)

首筋をなぞるように触れるアインズ様の指が、やさしくて、そのやさしさが、たまらなくて、苦しい。

「……熱があるんじゃないか? 顔も赤いし、反応も鈍い。今、ナザリックの医師を──」

「ふ、普通ですよ……」

なんとかそう言ったけれど、次の瞬間だった。

視界が、大きく、ふっと揺れて、

「あ、れ……」

足元が抜け落ちたように、力が抜けていく。

ドサッ、と音がして、意識が闇に沈む寸前、

聞こえたのは、

「ザナック!!」

その声だった。

いつもの威厳ある、完璧な支配者のそれではなく。

どこまでも、必死で、苦しげで、取り乱した、……あの人"自身"の声だった。

「ザナック……っ! 頼むから……っ!!!」

その声音が、胸に染み込むように届いて、

俺は、意識を手放した。

──温かい。

この腕の中なら、きっと……。

(……俺、馬鹿だな……)

そう思いながら、俺はそっと、

夢の中へと落ちていった。

 

 

 

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