ザナック視点から。
めちゃくちゃイチャついてます
熱が下がりきらないせいか、頭がぼんやりしている。だけどそれ以上に、胸の奥が熱い。
目を覚ました時からずっと、アインズ様が隣にいた。離れない。ずっと、俺を撫でている。
顔、額、髪の毛、耳、喉、肩──ぺたぺた、ぺたぺた。幼い子供をあやす様に、愛でる様に。骨の手がこんなにも心地よいなんて、知らなかった。
(……これ以上優しくされたら、俺……)
喉の奥に、熱い塊が詰まる。
幸せだった。心が満ちて、どうにかなりそうだ。
だけど、駄目なんだ。こんな、浮かれてたら──
「アインズ、様……」
喉が震えて、まともに口がきけない。
だけど、言わなきゃ。これ以上、期待したらいけない。
「その……、ア、アルベド様が……その……」
言葉がうまく出てこない。熱と、怖さと、そして……どこかで期待してしまっている自分が、恥ずかしい。
「ご婦人が……、いらっしゃるでしょう……?」
アインズ様の動きが、一瞬止まった。
(……ああ、やっぱり……)
俺はまた、地雷を踏んだのだと思った。
けれど、返ってきた言葉は──
「……アルベドとは夫婦ではない」
静かで、はっきりとした声。
迷いも照れもない。
「誰とも、そんな誓約は交わしていない」
……目の奥が、ぐらりと揺れた。
「っ……」
(じゃあ、俺にも……可能性が──?)
そんな考えが浮かんだ瞬間、猛烈な嫌悪感が込み上げる。
(男同士なのに……!)
(俺は、なにを……っ)
「い、いえ、でも……! その、俺は……っ、そういうのじゃなくて……!」
震える手を握られて、口を塞がれる。
「ザナック」
アインズ様の声が低く、耳の奥に響く。
驚いて顔を上げた瞬間──
「ぁ……!」
冷たい歯が、首筋に押し当てられた。
「ん、んん……ッ!」
骨なのに、どうしてこんなに甘いのか。
首筋に押し付けられたその感触が、じわりと肌を這うように熱を伝えてきた。
(なんで……? アインズ様、どうして……)
歯が、ほんの少しだけ押し込まれた。
噛まれたわけではない。触れただけだ。
けれど、それだけで──体がびくんと震えた。
「っ……ア、あ……あっ……!」
情けない泣き声が、勝手に口から漏れる。
「……嫌だったか?」
耳元で囁く声が優しすぎて、逃げ場がない。
ダメだ、と思っているのに、体がどんどん熱くなっていく。
「嫌じゃ……ないです……」
唇が勝手に答える。
言葉にならない音が、また漏れてしまった。
「ザナック、顔が真っ赤だ。熱か…?」
骨の指が頬を撫でて、額を撫でて、喉元をなぞって、また首筋に唇──いや、歯を寄せてくる。
呼吸が浅くなる。胸が苦しい。でもそれ以上に、心がどうにかなりそうだ。
(これが……アインズ様の、"気持ち"……?)
もしかしたら、たった一度の奇跡かもしれない。
けれど、俺はそれを──抗えないほど、求めていた。突然、骨の腕に抱きしめられて、冷たい感触が全身を包む。
(ああ、また……泣きそうだ)
でも、今度は泣いてもいいかもしれない。
この幸せを、少しだけ信じてもいいのなら。
(……アインズ様)
──この気持ちは、慕情か、愛情か。
それすら、分からないほど俺はもう、あなたに夢中だ。
─────────『アインズ視点』
この手が、もっと温かければと、何度思ったことだろう。すり、とザナックの頬を撫でるたびに、申し訳なさが胸を占める。それでも彼は「気持ちいいです」と笑うから──つい、何度も触れてしまう。
骨の手が、彼の髪を梳く。額を撫でる。喉元をなぞる。手が止まらない。止められない。
「まだ熱があるな……」
それは嘘だった。もう、下がっている。
けれど、そう言えばずっと傍にいられる。
(もっと傍にいたい……この感情は、なんなのだろう)
彼の吐息が首筋をかすめた時、全身が跳ねるほどの衝撃が走った。彼の肌が、自分の腕に触れるたび、胸の奥に、何かが火を噴く。
(これは……)
思い出す。
生前にあった"性欲"というもの。もう感じないと思っていた。だが、彼の顔が熱に赤く染まり、細い喉を震わせて声を出すたび、自分の内部に、黒い焔のような感情が芽吹いていく。
(可愛いな……)
ああ、いけない。
この感情は、統治者として持つべきではない。
けれど──彼が、こんなにも無防備に甘えてくるのなら。骨の指先で、彼の喉元を撫でる。びくり、と肩が震え、目元が潤む。
「……ザナック」
返事はない。だが、彼は逃げない。むしろ、甘えるように身を預けてきた。
(……これは、看病だ。うん、そう。看病……)
そう言い聞かせながら、耳朶に指を添えて、顎を軽くなぞって、喉の奥の震えを確かめて。すりすりと指の背で。
「は、ぅ……あ、……アインズさま、」
くすぐるように、そっと頬を撫でると震える。はく、と開く小さな口、覗く赤い舌。可愛い。
どうしようもなく、愛おしい。
ずっとこうしていたい。
「アインズ……様……っ」
彼が、震える手でこちらの手を取った。
(……?)
そして───
「……ど、どうぞ……っ」
そのまま、俺の手を、自身の胸元へと──沈ませた。
「俺で……よければ……その……慰めに…つ、使ってください…! 太ってて、柔らかいですし……っ」
骨の手が、ふにゅ、と沈む。柔らかくて、温かい。この世のものとは信じられないほど、心地いい。
「こえ、我慢……しますから……っ」
(────っ!!!)
バチン。頭の奥で、なにかが弾けた。
「……っ、ザナック……」
理性が、音を立てて軋んだ。たまらず、胸を一度、揉んだ。その柔らかさと、跳ね返るような弾力。
「ん、あ……!」
とザナックがびくっと跳ねた。
「……っ!」
我に返る。
手を止めた。
(駄目だ。駄目だ。何をしてる……!!)
「すまない、ザナック」
すぐに手を引き、ザナックの手を握り直す。
強く、けれど優しく。
「……君は今、病人だ。だから、俺が……ちゃんと、守らなければ」
「……っ、ア、アインズ様……?」
「……君が俺を信じてくれているのは分かっている。だが、夜伽のようなことを、君が口にするのは……」
「……っ、ちが……ちがう、ちがうんです……っ、でも、でも……っ!」
ザナックの目が潤む。頬を赤らめ、唇を噛んで、言葉にならない言葉を吐く。
「君は、もっと自分の心身を大事にしてくれ……。友人だろうと、主だろうと信用していようと……そんな簡単に身体を渡すことは危ない。説教をしたい訳じゃない、ただ、君を大事に思う者としての……お願いだ。」
再び彼を抱きしめた。
骨の腕で、ぎゅう、と。
そして、そっと額をあわせた。
「君が大切なんだ……」
こぼれた言葉は、もう、主としてのものとはかけ離れていた。