※この作品はR-18です。

ザナック蘇生if/アイザナ   作:アイザナ大使

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ザナック視点から。




愛という呪い
たいせつ


 

 

たいせつ、たいせつ、たいせつ……。

その一言が、何度も頭の中でリフレインしていた。

アインズ様が、俺のことを「たいせつ」だと。

臣下や補佐官としてでもない、ナザリックの駒としてでもない。"俺"という存在そのものを──たいせつ、だと。

(……うそみたいだ……)

胸の奥が、ふわふわする。まるで長い冬のあと、初めて陽だまりに触れたみたいに。

(幸せすぎて、変になりそうだ……)

くすぐったい。なんかこう……あったかくて、気恥ずかしくて、嬉しくて、たまらなくて……

(こんな感情、俺は知らない……)

アインズ様は今も、俺のそばにいる。

骨の手でそっと髪を撫でてくれて、たまに頬を触って、何も言わずに優しく見守ってくれていて───

 

────────

─────

 

『────君は、もっと自分の心身を大事にしてくれ……。友人だろうと、主だろうと信用していようと……そんな簡単に身体を渡すことは危ない。』

 

ちがうんです、俺は……

主だから逆らえなかったわけじゃなく、貴方だから………あんなふうに。……もう、だめだ。

(こんなに、優しくされたら……)

頭のどこかが、ぷつんと弾けた気がした。

理性とか羞恥心とか、そういうものが、ふわっと霧みたいに消えていく。気づいた時には───俺の体が、勝手に動いていた。

「……あの、アインズ様……」

「ん? どうした?」

眼窩の奥の赤い光が、やさしく揺れた。

俺を見つめてくれている。

(……だめだ、正気じゃいられない)

自分でもわかる。少し逸らせば止められるのに、そうできなかった。もう、この胸の内を抑えるなんて、無理だった。そっと身を起こして、アインズ様に近づいた。心臓が、爆発しそうなくらい跳ねてる。喉の奥が、ギュウッと締めつけられて、苦しい。けど、止まらない。今更止められない。アインズ様の顔が、近くなる。無表情の骸骨が、こんなにも美しく見えたのは、たぶん初めてだった。

「……これは、その、"友愛の証"です……っ」

とっさに口をついて出た、苦し紛れの言い訳。でも、言ってしまったその勢いのまま──俺はアインズ様の頬骨に、そっと唇を押し当てた。

ちゅ。と水っぽい音。

冷たい。硬い。けれど、心の奥が、じんわりと熱くなった。その瞬間、世界がぐるんとひっくり返ったような気がした。アインズ様は、ピシッと体を固まらせたまま、ゆっくりとした動作で頬に触れ、そして、口元に手を当てて……

「……はぁぁ……」

と、深いため息をついた。

(あ、……やった)

……やった。

やってしまった。

(俺、なにやってんだ!?)

(ため息吐かれた!? 終わった!!)

内心、顔面崩壊の勢いで動揺する。脳が茹で上がっていく。

「……君は、ほんと、かわいいな……」

──爆発。

その言葉に、ぶわあっと顔が熱くなった。

心臓が喉元までせり上がって、目の奥がジンジンと滲む。

は? かわ、かわいい……? 俺が!?

(何が……!? どうして!? なんでため息からそれなんだ!?)

自分でもよくわからなかった。喜んでいいのか、恥ずかしがるべきか、どこからどうツッコめばいいのか……

(やばいやばいやばい!!! 今の、何なんだ!? 俺、阿呆か?)

「友愛の証」って、なんだ!? 冷静に考えたらとんでもない言い訳だろ……! しかも頬骨!?頬!?どこにキスしてんだ俺!!

(うわ……アインズ様、なんて顔してた!? 引いてた!? だけど…かわいいって言って……?)

ぐるぐると脳内が回転し続ける。そして、胸の奥に、ズシンと重い感情が広がり始めた。

(いやいやいや……だめだろ。俺なんかが、そんな……)

(アインズ様には……アルベド様がいるのに。正妻じゃないって言ってはいたが…………

本当に…………?)

──きっと、"たいせつ"って言葉だって。

それは、"友人"としての話だ。

それ以上を望むなんて、おこがましいにも程がある。

(……っ)

視界が、じわりと滲む。

喉の奥がつまって、息が浅くなる。胸の中に、暗くて重たいものがじわじわと溜まっていく。

(俺、調子に乗った……)

(少し優しくされたからって、浮かれて、期待して、勘違いして……)

(気持ち悪い、最低だ……浅ましい……)

ぐるぐると思考が渦巻くたびに、体の奥が冷えていくような気がした。

(……所詮、俺なんて──"下等生物"なのに。

──愛される側の人間じゃない俺が。)

 

 

 

 

 

─────────『アインズ視点』

 

 

ふに……っ。

──数秒。世界から音が消えた。

(……今、何が起きた?)

やわらかい感触。まさか──いや、間違いない。

ザナックの唇が、俺の骨に、キスをした。

「友愛の証」などと無理な言い訳を添えていたが、問題はそこではない。……崩れた。理性、自制心、支配者としての威厳、すべてが一瞬で崩壊した。骨の粉になって、感情という名の炎に燃やされた。

(……ずるい。ずるい、ずるい、ずるい……)

俺がどれだけ抑えてきたと思っている!?

どれだけ触れたいと願って、でも触れないと決めて、"看病だ"と自分に言い聞かせてきたと思っている……!!

指一本、唇一つすら、欲しくて欲しくてたまらなかったのに───

こっちの気も知らないで、そんな無邪気に、そんな真っ直ぐな目で……っ!!

(……っ、俺が、どれだけ……)

こみ上げる激情に喉が焼ける感覚を覚えた。

怒りじゃない。苦しみでもない。

ただただ──愛しさが、止まらなかった。

「……君は、ほんと、かわいいな……」

口をついて出たその言葉は、もはや支配者のものではなかった。

────ただ、ひとりの男が、

自分を差し出してくれた存在に、心を奪われて、どうしようもなくなって、それでも壊してしまいたくなくて、精一杯に愛しさを込めて、絞り出した言葉だった。ザナックのその誰にも触れさせたくない体を、抱きしめたかった。この冷たい腕で、壊れないように、そっと包んでしまいたかった。けれど──今それをしてしまえば、もう。本当に、戻れなくなる気がした。

 

 

 

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