※この作品はR-18です。

ザナック蘇生if/アイザナ   作:アイザナ大使

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ザナック視点から。
自傷描写注意⚠



罰と甘やかし

 

(……浮かれてた)

ほんの少し優しくされたからって、「たいせつ」なんて言葉を信じて、嬉しくて、キスまでして、調子に乗って。

(……最低だ……っ)

俺なんかが。アインズ様のような至高のお方に、何を期待してた? あの人が笑いかけてくれたのは、気まぐれだ。……臣下が潰れないための、慈悲。優しさの皮を被った施し。

(なのに俺は……っ)

涙が出なかったのは、きっと涙を流す資格すらなかったから。

───────深夜。

ナザリックの浴場には、今、誰もいない。

ほんの少しだけでいい。

少しだけ、罰を与えれば、また"普通"に戻れる気がしていた。

(普通…? ふつうってなんだ…?……愛される側の人間のことか?)

アインズ様と、対等に……"友人"として、いや、それさえも俺にとっては……。

(浮かれた罰だ。身の程を忘れた罰だ)

俺は手首を出すと、ナイフを──静かに当てた。

「……、っ」

ぴしり、と赤い線が走る。……これでいい。

それから、気が済むまで幾度も肌にナイフを滑らせた。なぞると、指先は鮮やかな赤に染まる。こんなことをアインズ様に秘密でしているのが、悪いことな気がして……彼に申し訳なく思う。

(…………すみません、アインズ様……)

この罪深い考えも、いっそ切り落とせたらどれほど楽だろう。

───────

───

風呂から上がると、いつも通り、俺はアインズ様の寝室にいた。アインズ様は寝ない。けれど、俺は命じられている。

『眠るときは、私のそばで。……何かあればすぐ気づけるように』

俺が倒れた日からそれが、もう"義務"になっていた。最近寝付きが悪かったが……彼と寝ることで、だいぶマシになってきたと思う。腕の傷には包帯を巻いた。長袖の寝衣で隠して、いつも通りを装う。

(バレない。きっと、バレない──)

「……ザナック」

突然、その名を呼ばれた。

「はい……?」

振り返ると、アインズ様は静かに立っていた。

その手には、俺が体を拭くのに使ったタオルが。──滲む、赤。

「ザナック。何だ、これは……」

(……あ)

なんで、気をつけていたのに。気づかれた、と、思った瞬間、心臓が凍りつく。

──────『アインズ視点』

見た瞬間──息が止まった。

メイドの報告で、「ザナック様が怪我をしているかもしれない」と確認した。タオルについた、赤。

それを見た自分の思考も、世界の音も、ぜんぶ──静止した。だから、ベッドにぎこちなく腰をかける彼に声をかけた。

「……ザナック」

低い。まるで自分の声じゃなかった。

震えた声で呼ぶと、彼がびくりと肩を跳ねさせた。

「…………ごめ……んなさい……っ」

なにが? なんのことを?

そんな問いすらできなかった。

俺は、彼の腕を、そっと取った。

「……だめだ……隠さないでくれ」

「は、ぁ……っ……あ、ごめんなさ……」

半ば強引に袖をまくる。

彼の手首には、赤く、細く、けれど深い線が

いくつもいくつも、刻まれていた。今にも、痛みと苦しみと自己否定が、皮膚を突き破って溢れ出しそうで。

「ザナック……っ……」

理性が壊れそうだ。俺は、彼を、強く抱きしめた。

「……どうして……っ、どうしてこんな……」

震える彼の体が、痛いほど細くて、小さくて、儚くて、……世界のすべてと引き換えにしても惜しくないほど、愛しかった。

「ごめんなさい……俺……っ、俺なんかが、浮かれて、調子に乗って、アインズ様を……」

「違う。」

言葉を遮る。そして、もう一度、深く抱き込む。

(……分かった。なら、もう俺が……君をとろけるほど甘やかしてやる)

「ザナック」

彼の頬に、骸骨の歯を押し当て、キスを落とした。

「う、ひっ……!?」

怯えきって、小さく震えた声。

もう一度、頬に。

そして額に。

「んく、ぁ……あ……っ、アインズ……様……っ」

耳元で、彼が声を洩らす。

眉を下げて、潤んだ目をして、首を横に振って、必死に拒もうとする。

「だめですって……俺なんかに……そんな……っ」

震えた涙声で、抵抗しきれない、ふらふら宙にさまよう小さな手。

そんな彼の髪を撫でて、頭を包むように抱きしめる。

「いいや。君がいい」

「っ……でも……っ」

「君じゃなきゃ、だめなんだ」

そう囁いて、耳の下に、またひとつキスを落とす。

「は、え……」

もう彼は、びくびく震えながら、俺の胸に顔を押しつけてくるだけだった。

「……ザナック」

「……うっ……ぁ、……うぅ、何で、……」

すすり泣き、震える声が切なくて、でも、愛しくて。彼が二度と、こんな傷をつけなくてすむように。その代わりに、甘やかして、甘やかして、甘やかし尽くしてやる。

「今夜は、私が……君の心を癒す番だ」

 

─────────『ザナック視点』

アインズ様の手が、俺の頬に添えられる。

骨のはずなのに冷たすぎなくて、

でも優しすぎて。額に。頬に。

手の甲に、そっと触れるような口付け。

「……ザナック。かわいいな」

言われるたびに、心臓がどんどん苦しくなる。

ドクドクと耳の奥で鳴る心音が、アインズ様に聞こえてしまいそうだ。

(ああ……だめだ。とろけてしまいそうだ……)

「君のまっすぐなところも、照れながらも頑張るところも……本当に、愛らしい」また、キス。また、褒め言葉。目が合うたびに、名前を呼ばれるたびに、

全身がふわふわして、もう、自分の輪郭がどこにあるのか分からなくなる。

「手……見せて」

そう言われて、思わず手首を隠そうとした。

けれど、優しく取られて──

「痛かったな……すまなかった」

静かに口付けられる。

「ちょっ……あ、くすぐ……た……っ」

くすぐったい。だけど、気持ちいい。なぜか、安心してしまう。キスのあと、アインズ様がそっと小声で呟いた。

「……軽傷治癒(ライト・ヒーリング)」

手首が、フワリとした光に包まれ、痛みが消えていく。それだけなのに、どうしてだろう──涙が、ぽろぽろ、零れた。

「……うぅ……っ、やさしく、しないでください……っ」

俺なんかに。優しくされる資格なんて………ないはずなのに。─────そんな俺のシャツに、アインズ様の指先がかかった。

「……ザナック。ボタン、開けてもいいか?」

「……へ?」

プチ。

「え? えっ、え??」

プチ。プチ。

(え、なに? あれ? え? シャツ? いきなり、なんで? ボタン?)

プチ。ぷちぷちぷち。

(ま、ま、待て待て待て!!! これ貞操の危機!? いや、でもアインズ様になら……って、俺、キモっ!!!)

考えが追いつかないうちに、アインズ様が首筋に顔を寄せてきた。

「ん……っ、ふ……っ、ア、アインズ様……っ」

骨の歯が、そっと押し当てられる。噛むわけじゃない、優しく、愛撫するように。

(だ、だめだ……これ、だめなやつだ……っ。と、と、止めないと!?)

抵抗しなければと思うのに、体がまったく言うことをきかなかった。首筋から肩へ、次々にキスが落とされて、俺はもう何も言えなかった。ただ、抱きしめられ、触れられ、愛されるだけで、自分が崩れてしまうようだった。

(……アインズ様……俺、あなたが……)

──そしてそんな甘い夜が、明けた。

翌朝─────

鏡の前で、俺は寝癖と必死に格闘していた。

「うぐぐ……ふぐぬっ……」

髪の毛が絡まって、いつも以上に跳ねていた。

ブラシでがしがしと梳かした後、仕上げに手ぐしで整えていると──ふと、首筋がチラリと見えた。

「ん? ……あれ」

鏡に映る……その赤い跡は、なんだ?

「……あ、なんだこれ?」

首をひねってよく見る。肩、鎖骨、首筋──赤く、小さな痕。歯の表面を押し付けられたような、歯形のような……キスマークのような。

「な、な、な、なんだこれ!!?」

思わず声を上げて鏡の前で立ち尽くす。すると、廊下からナザリックのメイドさんの「えっ?」という声が。俺は咄嗟に口を塞いだ。

「……あの……昨晩……の、……アインズ様……が……」

ほわわーんと、頭の中に昨夜の記憶が蘇る。

ぷちぷちとシャツが開かれていく音。冷たい歯が首筋に当たる感触。何度も口づけられた、あの夜。

「っ、……う……うおおおおっ!?」

顔が真っ赤になって、目の端が熱くなる。

はふ、はふ。口が開いて、息が整わない。

(これ、マーキング……だよな……? いや、違うだろ!! でも、なにこれ…嬉しい……)

(……誰にも見られたくない。でも、消したくない……)

(ほんと気持ち悪いって……俺、顔やばくないか……っ)

なのに。指でそっとその痕をなぞる自分がいた。

(……アインズ様……)

頬を赤らめながら、そっとシャツの襟を引き上げて隠す。それでも、内側でずっと、胸の奥が、きゅうっと鳴っていた。鏡に映る、真剣に眉を上げて、顔を真っ赤にした目つきの悪い小太りな男の姿。それが可笑しくて。

(俺、凄いキモいな……でも……嬉しい……)

今日も、アインズ様に会う。

手を握られて、名前を呼ばれて──

きっと、また。

(……俺、また浮かれるな。浮かれるな……)

そう思いながら、ふう、と息を吐く。急いでシャツを整えて、いつもの"補佐官"の顔に戻る努力をした。でも、冷めやらない興奮が、それを邪魔する。

 

 

 

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