※この作品はR-18です。

ザナック蘇生if/アイザナ   作:アイザナ大使

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ザナック視点。
いっぱい食べて。




秘密の食事会

 

 

夜も更けた頃。音が、しない。この場所は、どれだけの魔力や意志に守られていても、不思議なほど静けさに包まれている。けれどその静けさのなかで、心臓だけが、やけにうるさい。自室に戻っても、気持ちは落ち着かない。胸の奥がずっと騒がしい。頭の中では、何度も繰り返される。アインズ様とのやり取り。目の前に立つその姿。あの大きな手。骸骨のはずなのに、温かかった。「好きだ」と言われた瞬間、跳ねた心臓が、まだ静まらない。なのに──俺はあの人を、押し倒すような真似をして。

(押し倒すとか、俺は何をしているんだ!?)

でもあの時は気持ちが先行して……! 顔を覆う。

ベッドに突っ伏す。枕を殴る。ひとり反省会が始まる。子供かよ、俺は。そんなふうに、ベッドの上でバタバタしていたその時だった。

コン、コン。静寂に、やけに響いた。

その音にビクリと跳ねる。時刻は深夜。この時間に、俺の部屋を訪れる者なんて……一人しか思い当たらない。この気配を、間違えるはずがない。

「ど、どうぞ……!」

声がひときわ高くなってしまった。

扉を開けると、やはり──

「ザナック。よかったら……少し、付き合ってくれないか?」

黒衣をまとった骸骨の王。アインズ・ウール・ゴウン様が、そこに立っていた。

「え、はいっ、もちろんです!!」

瞬間的に反射して答えていた。心臓が跳ねるどころか、もう爆発してた気がする。

「いや、まだ何も言ってないんだが…」

至極まっとうな指摘が飛んでくる。

いつものように冷静で穏やかな口調。けれど、その言葉の奥には──どこか、嬉しそうな響きが混ざっていた。

「あっ……すみません。」

耳まで赤くなっていた気がする。そのまま案内されたのは、ナザリック九階層にある小さな食事処だった。ナザリック内でも、穏やかさと親しみやすさを併せ持った空間。木造で、自然の風合いを模した内装に、どこか落ち着く雰囲気が漂っていた。中に入ると、既にテーブルには料理が整えられていた。温かそうなスープに、脂がてらてらと光る肉料理、香ばしいパン、熟した葡萄、そして美しく盛られたデザート(プリン)。まるで王宮で出される晩餐のようだ。

けれど、それ以上に感じたのは、"俺のためだけに"という気配だった。

「……あの、俺だけ、ですか?」

思わず問いかける。

「うん。私は……食べることはできないが、君の隣に座っていたくてね」

その言葉だけで、胸が締まる。

「……!」

声にならなかった。こんなにも、優しいことを言ってくれるなんて。俺なんかのために、こんな良い場所を。

「ほら、おいで」

ふわりと、背中に大きな手が添えられる。手を引かれるようにして椅子の前へ。まるで舞踏会の一場面のような仕草に、胸が高鳴った。

「気にせず、食べてくれ。君が美味しそうに食べてくれるなら、それでいいんだ。……私は、そういう時間が好きなんだ」

アインズ様の声は、いつもよりやわらかかった。仮に声色が変わっていなくても、俺には分かる。あの人の"心"が、そう語っていることを。

「で、では……いただきます……!」

スプーンを手に取り、スープをすくい口に運ぶ。その一口で、ほっと頬が緩んだ。滋味深く、舌の奥まで染みわたるような、優しい味。

「ふおぉ……。……おいしいです」

思わず小さく呻くように漏らすと、アインズ様の声がふっと近づいた。

「うん……それはよかった」

静かな空間に、食器が触れ合う音だけが響いた。この心地よい沈黙が、俺にとってどれほど贅沢なものか。少しして、俺は意を決して口を開く。

「……アインズ様」

「なんだ?」

「昼間は、すみませんでした。俺、調子に乗ってたかもしれません……」

恥ずかしさで下を向きながらも、ちゃんと伝えなきゃいけないと思った。だから、顔を上げ、彼と見詰め合う。

「いや、それは私の方こそ。……君があんな風に近づいてきてくれて、嬉しかったんだ。でも……制御できなかった自分に、焦ったんだ」

返ってきたその言葉に、息を呑んだ。──俺だけじゃなかった? あの瞬間の戸惑いや混乱を、あの人も同じように抱えてくれていた。そう思ったら、自然と肩の力が抜けた。

ふと、アインズ様がぽつりと呟く。

「君は……甘えるのが、下手だな」

ドキリとした。的を得ていた。背筋がぴんと伸びてしまったのは反射だった。

「なんでも我慢して、一人でやろうとする。

……でも、それじゃあ辛くなるだけだ」

叱っているわけではない。

その声は、まるで何かを知っているかのようで。自分自身を重ねるような、そんな響きすらあった。だから、俺は勇気を振り絞って言った。

「……じゃあ」

「練習……させてください。アインズ様の前でだけでも、ちゃんと甘えられるように……なりたいです」

言ってしまってから、息が止まった。でも、それでも後悔はなかった。アインズ様の表情は変わらない。けれど、確かに伝わってくるものがあった。骸骨の顔の奥にある、"喜び"の気配。

「もちろんだとも。……君が望むなら、いくらでも練習につきあおう」

その答えに、肩の力がふわりと抜けた。まるで、自分の小さな望みを、大切に抱きしめてもらったような感覚だった。

「───そういえば、ザナック……最近、デミウルゴスに気に入られてるよな」

ふと、アインズ様が何気ないような声で切り出した。けれどその目は、俺の反応を逃さないようにじっとこちらを見つめている。──どこか探るように、けれど優しく。

「ええ、ハハッ……」

俺は照れ隠しのように笑いながら、スプーンを置いた。苦笑を浮かべつつも、心の奥で「ああ、やっぱり見てくれてるんだ」と、少しだけ嬉しくなってしまう。

「なんだか俺のことを勘違いされていて、頻繁に話しかけていただいてます……」

あの最も悪魔らしい頭脳を持つデミウルゴス様からの評価は、正直言ってプレッシャーしかない。けれど、その距離感も、少しずつ慣れてきていた。

「ああ。君のことを"聡い者"だと評価していたよ」

アインズ様が静かに頷いた。その言い方は、誇らしげでさえあった。まるで自分の大事な部下が褒められたかのような。

「そんなんじゃないんですけどね……」

俺は頬をかきながら、うつむいた。あまりにも身に余る評価に、穴があったら入りたい気持ちになる。

「俺も、時々あいつに困らせられるよ……」

と、大きなため息。

「まぁ良い意味だが……。でも、見る目はあると思うよ……君を正しく評価してくれる。それが、俺は自分の事のように嬉しい。」

「ふふ、俺も……嫌という訳では……。……頭脳が明晰なのは、どっちかと言うと妹の方なんですがね」

言葉を添えるように笑ったが、その笑みにもわずかな陰が差す。ラナーという妹の存在は、俺の中で常に複雑な感情を呼び起こす。

「というより、精神が異常、だな。私が言えたことじゃないがな……あ、すまない。君の妹を馬鹿にしたつもりは無いのだが……」

すぐさま、アインズ様は目の赤い光を揺らして訂正した。まるで俺の心情を思いやってのことだった。ラナーについては特に気を遣う必要は無いのだが。たった一言でも、そうして気遣ってくれることが胸に沁みる。

「いえ、俺も"化け物"呼ばわりしてた時期がありましたし」

「そ、そうか……」

思い出す。あの冷たい瞳を、あの底知れなさを。けれど今は、当時とは少し違う視点で彼女を見れているだろうか。

「でも……ただ頭から否定するのは、馬鹿だったと思います」

口にしたのは、ようやく自分の中で整理がついた言葉だった。理解ではない……。ただ、覚悟を決めた。それは、己の生死がかかったあの日から始まっていた。

「そうだよな。うん、想い人がいるところとか、人間の少女らしいとも言える」

ぽつり、とアインズ様が呟いた。

ラナーの歪んだ恋情を、どこか哀れむように、でも否定はせずに。

「クライムのこと、ですか? 犬のようで愛らしいから首輪を着けてあげたいと、本人が言ってましたね……」

思い出し、妹の性癖に呆れた。思わず口をついて出た苦笑に、皮肉が混じる。支配。執着と依存。妹の性癖を知る者として、それを"愛"と呼ぶのはどうしても躊躇われる。人によりけりだが。

「ふむ……彼女はそういう趣味趣向なんだな……」

アインズ様が小さく首をかしげた。骨の顔は無表情なのに、どこか困惑してるのが伝わってくるのは不思議だった。

「フッ、そうですね。でも、いつか……ただの"好きな人"として紹介してくれる日があれば………何となく嬉しい気がします」

ふっと笑った。乾いた、けれどもう苦しみの混じらない笑みだった。

「俺も偉そうなこと言えないし、やっぱり許せないし苦手だ……」

言葉にしながら、胸の奥に渦巻いていたものが少しずつ薄らいでいくのを感じた。それでも、

「アイツが滅国の計画を考えたと告げられた時、本当に"悪魔"だとまで思いました」

それだけは、どうしても許せなかった。

家を、国を、家族を、すべてを飲み込んでいったあの日を、俺は忘れていない。

「……」

アインズ様が黙る。

その無言は、軽率な慰めではなく、しっかりと俺の痛みを受け止めてくれていることの証だった。

「だから、許してはないけれど……」

思わず声が少し上ずる。けれど、それでも続けた。

「あの日から、"先入観"は捨てようと決めました」

胸の奥にあった思いを、全て言葉にした。

今の俺を形作るひとつの決意。どんなに愚かでも、偽善でも、それが"俺の選択"だった。

他人にそうして欲しかった、過去の俺を救うためでもあった。

「でも、知っていたんです。自分を偽って隠して誤魔化して────それがどんなに辛くて、痛くて……寂しいかを。俺は正直……妹のことは何も知らない。だけど、それだけは、分かってるんです。」

そう言って、肩に力がこもって、自然と声が張っていた。

「ふふ……そうか。だから、君は……目がいいんだな」

ふいにアインズ様が笑みを含んだように言った。その声は、優しくて、苦しく切なそうで

どこか名残惜しそうで──誇らしげだった。

「目……?」

思わず問い返す。その言葉の真意を、どうしても知りたくて。

「……なんでもない」

視線を逸らしながら、アインズ様が呟く。

「なんでもなくは無いでしょう!」

思わず抗議するようにローブの端を握ってしまう。滑らかな布越しに、相手の気配が伝わってくる。近い距離にいることが、どうしようもなく嬉しくなってしまった。

「なんでもないよ」

再び言われて、俺はムッと頬を膨らませた。

この人は時々、ずるい。

「隠さないでください……っ」

小さく抗うように言った。お願いとわがままの中間みたいな声。

「ふふ、」

けれど、アインズ様はやはり、目を逸らしたまま微笑を崩さなかった。

──けれど、それでいい。きっと、いつかちゃんと教えてくれる。だから、今はこの人を信じようと思えた。そして。その後の食事は、ふたりで冗談を言い合いながら、やさしい空気の中で進んでいく。俺が「これ、アインズ様にも食べて欲しいです……あ、でも無理なんですよね」と言えば、アインズ様は少し肩をすくめて「心では味わっている」と返してくれる。それが本当かどうかなんて、もはやどうでもよかった。

その言葉をもらえたことが、何よりも嬉しかった。カチリ、と食器の音がまた響く。

部屋の空気は穏やかで、夜は深く、

──まだ、帰りたくない。俺は、この人の隣にいたい。この人の役に立ちたい。この人に、もっと甘えられるようになりたい。そんな思いが、あふれて止まらなかった。

 

 

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