※この作品はR-18です。

ザナック蘇生if/アイザナ   作:アイザナ大使

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クライム視点から。
ラナー様が可愛いのはもう知ってます




クライムと買い物

 

 

朝の空気が、やけに冷たく感じた。

ナザリックの居住階、アインズ・ウール・ゴウン陛下の私室のその隣。私は、ザナック様の部屋の前で背筋を伸ばして立っていた。

時刻は、六時ちょうど。

(これが、昨日の勝負の結果……)

ラナー様との"遊び"のつもりだったはずが、いつの間にか本気の外交論戦になり──

そして、敗者となった我が主は、私を一日好きに使って良い権利を、ザナック様に託した。

(……いったい、どんな命令をされるんだろうか)

少しだけ、不安と期待が入り混じる。

きちんと髪も整え、ラナー様に買っていただいた私服を身に纏って来た。扉の向こうから気配がして、思わず姿勢を正す。

「……入れ」

低く、けれどどこか眠そうな声が響いた。

「失礼します」

扉を開けると、思わず視線が奪われた。

白いシャツに、黒いベスト。

さらりと着こなしたその姿は、あまりに整っていて。

(……今朝はなんだか……きちんとしてる)

「よ、来たか。ちゃんと起きてるのか、えらいぞ」

「は、はい……」

(……子供扱いされた気がする。実際に何歳か年下だが…)

ザナック様は軽く髪を整えながら、

俺の前に立つと──

ひと言。

「買い物に行くぞ」

「はい?」

「街だよ、街。魔導国の外、中心市街地に」

「……あの、護衛で、ということですか?」

「そういうことだ。任務内容は、主に荷物持ちと、道案内と、あと俺が人に絡まれた時の盾な」

ビシッと眉間の間を指さされる。

「…………」

(それって、護衛……いや、雑用ですよね……?)

 

─── 魔導国・市街地

午前八時。審査を経て、私たちは外出の許可を取り、市街地の一角に降り立っていた。

魔導国の街は、どこか寒々しい美しさがある。

けれど、紺色のフードを目深に被るザナック様はその景色をまるで楽しむように、目を輝かせていた。そして。

「……おい、クライム」

「あ、はい」

「……見ろ」

指がさす先にあったのは──

魔導国公式、アインズ様ぬいぐるみ。

デフォルメされた骸骨の造形。黒いローブがふわふわした素材で、枕程のサイズ。

人間客の足はほとんど止まらない。

だが、その前に立ち尽くす男が一人いた。

「…………」

そう、ザナック様が──完全に釘付けになっていた。

「……その、気になるのでしょうか」

「……いや、別に……いや、その、……俺は特に、気になる訳じゃないが……いや、ちょっとだけ……」

言い訳が三段階で増えていく。

金色の髪を指先で弄り、視線だけがぬいぐるみから離れない。

(……完全に気になっている)

「……私が、買ってきましょうか」

言った瞬間、ザナック様は一瞬だけ目を瞬かせて──そして目を伏せ、

「……頼む」とぼそり。

私は無言で店に向かい、ぬいぐるみを

一体購入した。

黒い紙袋に入れて戻ると。

「……ありがとう」

と、彼は嬉しそうに紙袋を受け取った。

白いシャツの袖の先からのぞく指が、袋の取っ手を大事そうに握っていたのが印象的だった。

(ぬいぐるみ好きなんて……可愛いところもあるんだな。やはり、ラナー様と似ている)

ぬいぐるみを手に入れてから数十分後。

ザナック様が「本命」と呟いた先には、小さな宝飾店があった。

「ここに来たかったんだ。あまり人間用の店は残ってないが、ここの品は良いって聞いたな」

中に入ると、光の反射を抑えた落ち着いた店内。静かに流れる音楽。

ショーケースには数多の宝石────

「エメラルド……」

ザナック様が呟き、指をとめたのは、深い緑の輝きを持つ指輪だった。細身のリング。中央の宝石は小さくも存在感があり、

(……綺麗だ)

ザナック様は、しばらくそれを見つめ──

「……これ、包んでください」

「かしこまりました。サイズは?」

「……変化対応式で。着用者のサイズに合わせて調整されるやつを」

(それって……誰かに渡す、ってことだよな)

私は、つい聞いてしまった。

「あの……差し支えなければ、お相手は……?」

ザナック様は、ピクリと眉を動かしたが──

すぐに視線をそらして、ふてぶてしく言い放った。

「……観賞用だよ。飾って眺めるだけだ。……なにか問題でも?」

「……いえ、ありません」

けれど私は見た。彼が選んだ指輪ケースは、黒地に金の細工が施された、まるでナザリックの色を思わせるものだった。

(……観賞用、ですか。そう、ですか)

でも、彼の横顔は、

まるで少年のように満ち足りて見えた。

私はその表情を、そっと記憶に焼きつけた。

──こうして、

ザナック様と過ごす"一日使い倒される日"は、

ゆっくりと、けれど確実に、私の中に何かを残していった。

(……また呼ばれたり、するだろうか。)

そんなことを考えながら、

私は、彼の隣を歩き続けた。

 

 

 

 

─────────『ザナック視点』

 

 

(……クライムのやつ、遅いな)

商店街の一角、ちょっとした路地に入ったときだった。すぐそばの露店で、クライムが買い物の支払いをしている。風は涼しいが、日差しが強い。俺はその日陰で休んでいた。膝に抱えた紙袋の中には、アインズ様ぬいぐるみ。

(ついに、買ってしまった……部屋に置けるか、これ)

そんなことを考えていたら、

「やあ、そこのお嬢さん。ひとり?」

背後から声。俺は目を細めて振り返った。

獣人族の男。浅黒い肌、派手な刺青、装飾の多い服。にやけた顔。

「ひとりで買い物かい? 可愛いね。見たことない顔だけど、旅の人?」

「……は?」

恐怖というより、反射で声が低くなる。

男は一瞬固まったが、目を見開いたかと思うと、なぜかさらに食いついた。

「あぁ……、男だったか! はは、こりゃ一本取られたな。けどまぁ、アリだな……」

(……は? こっちはナシなんだが。)

獣人男は、値踏みするように俺をジロリと見た。なんか、むしろテンションが上がってないか?

「……俺は連れがいるんで。たまの休日をアンタとのデートに使ってる暇はない」

(ふむ、いや、ちょっと待てよ。俺、目つき悪いし、不機嫌面だし、太ってるし……どう見ても、アリな要素ゼロだろうが。いや、そういう趣味なのか……?)

思考がぐるぐる渦巻く。

「えー? 連れってなんだよ、恋人?」

「違う。」

「だったらよくねぇ?」

(話通じない。最悪だ)

俺は紙袋を握りしめたまま、

ふっと視線を逸らして──戻ってくるクライムを視認。

よし、来た!

「おい、盾! 出番だぞ!!」

「えっ──ぐっ」

腕を引っ張って、俺は、クライムの背後に回り込んだ。身長差で、俺の頭がクライムの肩の下あたりにしかないのが悔しい。

(死ぬ前に会った時よりデカくなってないか? なんだ成長期か?)

「ええと……状況を確認いたします」

すぐに前に出たクライムは、俺の前にぴたりと立った。そして、男を上から下に眺めると、急に声音を低く、威圧的に変えた。

「貴方。いま何をされていたのか、分かっておられますか」

「……へ?」

「この方は、魔導国筆頭特別外交補佐官殿であらせられる。不用意に近づいた行為は、場合によっては魔導国への敵対行動と見なされます」

獣人男が明らかにたじろぐ。が、食い下がるように言った。

「何言ってんだ? こんな小さいのがか?」

(小さいのがって言うな。クライムが並ぶと相対的にそう見えるだけだ。)

するとクライムが、ふっと息を吐いて、

俺の手をとった。

「……失礼します」

「は?」

何の前触れもなく、俺の右手をすっと持ち上げる。手袋を外すことなく、その甲に刺繍された金のナザリックの紋章を露わにして──獣人男の目の前に、突き出すように見せた。

「この紋章、見えませんか? 目が悪いなら、もっと近くまで寄りましょうか?」

(勝手なこと言うな)

「ひっ……!! し、失礼しましたあっっっっ!!」

獣人男は、泡を食ったように土下座に近い体勢で頭を下げ、露骨に汗をかきながら、ダッシュで逃げていった。その背中が角を曲がって見えなくなると、クライムはようやく手を離した。

路地から出ると、

「……ザナック様、お怪我はありませんか?」

「……特にないけどよ……」

ため息をひとつ。

「お前、ハッタリが上手いのな。」

「……ハッタリ、ですか? ザナック様がこの魔導国で特別な位置にいるのは事実でしょう。」

「特別、か……。そもそも、なんで俺なんだ……? あの獣人も趣味が悪いな……」

小さく呟いた。するとクライムは、あっさりと、

「ザナック様がお綺麗だからですよ」

 

「…………」

「……え、なに?」

「お綺麗だから、です」

「…………」

「はあぁぁぁ!?」

叫んだ。

人混みのなかで。なのにクライムは、嬉しそうにふっと笑っただけだった。

(なんなんだ……まさか俺をからかっているのか?)

 

 

 

 

─────────『クライム視点』

 

ナザリックに帰還したのは、午後二時を少し回った頃だった。

「ふー……さすがに疲れたな。少し休む。お前は……そこで座ってろ」

そう言ってザナック様は、

自室に併設された小さな簡易キッチンに向かった。……え? え?

(まさか、自分で用意されるんですか?? 私に命令していただければ……)

私が軽く戸惑っているうちに、

ザナック様は器用にエプロンを着け、鍋で何かを煮始めていた。

 

────────

「ホットミルクと、ナッツのクッキーな。」

「……ありがとうございます」

盆にのせられたそれは、少し歪なところもあったがそれも含めどれも温かく、甘い香りがした。口に運ぶと。

(……美味しい)

素朴だけれど、どこか懐かしい味だった。

ふと見ると、ザナック様も隣で頬をふくらませながら、クッキーをぼりぼりと食べていた。

(……やっぱり、悪い人ではないんだよな)

どれだけふてぶてしくても、言葉が粗くても、

今日一日を通して見えたのは、気遣いと素直さに満ちたひとりの青年だった。そんな穏やかな午後の時間。

「──あっ」

その音は突然だった。

ザナック様が手を滑らせ、器のひとつが床に落ちた。ガシャンと、割れる陶器の音。

「っ……ああ、くそっ」

しゃがみこんだ彼が、素手で破片を拾おうとするのが見えた。

「待ってください!!」

思わず、身体が動いた。

ザナック様の手が触れる寸前、

私はその手首を掴んでいた。

「……何してんだ、離せよ」

「いえ。危ないです。素手で触れたら、怪我をします」

「……命令、してないぞ。お前には」

「それでも、止めます」

ぴしり、と言い切った。そして、そのまま目を合わせる。

「……怪我をされたら、私が……心配します」

「いえ、私でなくとも………ラナー様も、"アインズ様も"心配します。もっとご自分を大事になさってください。」

一瞬。何かが、止まったような気がした。

ザナック様の目が、大きく開いた。耳まで真っ赤になったかと思えば、

「……めんどくさっ……」

と、呆れたような声を出してそっぽを向いた。

(でも……拒絶じゃなかった)

その"めんどくさっ"の中に、

ほんのわずかに照れが混ざっていた気がして。

私は少しだけ、嬉しくなった。

深夜。

ザナック様は、部屋に泊まることを許可してくださり、私は床で寝ることになった。

「ほら、そこに寝てろ。敷布は出してやった」

「……恐縮です」

寝床を用意していただけるとは思っていなかった。柔らかな毛布の上に腰を下ろすと、背後からパサリとシャツを脱ぎ捨てる音が聞こえた。

少しだけ、横を向く。

「……なっ」

目を疑った。

ザナック様が、羽織っていた。薄紫色の、ワンピース型のネグリジェ。肩から鎖骨までが無防備に露出していて、縁にはふわふわのフリル。裾や袖にも細かい装飾があり、胸元にはリボン。

(…………髪の色と合ってるのが余計に)

思わず、吹き出しそうになって、慌てて口元を押さえた。でも、よく見れば──

ボブまで伸ばした金色の髪。三白眼のようでいて、深い緑の瞳。

(──ラナー様とは違うけれど、王族としての心の美しさ)

小柄な体型、ふっくらとした頬、白い手足。

衣装の可愛らしさと、不機嫌そうな表情のギャップが妙に……合うような?

(……可愛いネグリジェだな。ラナー様も、ああいうのを着られたら、きっと。)

ザナック様がこちらに気付き、眉をひそめる。

「……なに、笑ってる?」

「いえ。……ただ」

言葉を選びながら、問いかけた。

「それは、ザナック様のご趣味では……ありませんよね?」

ザナック様は、少しだけ沈黙したあと──

小さく、ぼそりと呟いた。

「……アインズ様に、賜ったものだ」

「……」

「……似合うって、言われた」

目を伏せながらそう言うその顔は、どこか、恥ずかしさと、誇らしさとが混じっていて。

その表情がどこか愛らしい。

(この人は、やっぱりラナー様の兄上様だ。)

そっと目を細めた。今日が終わるのが惜しいと、初めて思った夜だった。

 

 

 

 

─────────『アインズ視点』

 

 

このところ、ザナックと顔を合わせる時間が減っていた。彼はもう、ナザリックでの生活に順応してきている。俺が特別に声をかけなくても、問題なく日々を過ごしていた。はずだった。

「……やはり、会いに行こう」

思い立ったのは、夜の静けさがナザリックを包む頃。いつものように転移を使うのではなく、そっと歩いて向かった。軽やかに、物音ひとつ立てずに──彼の部屋の扉の前に立つ。

ノックはしない。寝ているかもしれないと思ったからだ。代わりに、静かに、気配を押し殺して扉を開ける。その瞬間だった。暗がりに、ふたつの影。敷布に寝転ぶ……クライム。ベッドの上で微かに身じろぐザナック。

「…………」

一瞬、認識が追いつかなかった。

なぜ、クライムがここにいる?

いや、それ以前に──なぜ一緒に寝ているんだ? 布団と床という差はある。

だが、この空間は明らかに共有されているものだ。何かが、自分の中で爆ぜた。ふつふつ煮詰めたような感情が、怒涛のように溢れ出しそうになる。だが、すぐに感情抑制が働いた。

(ザナック……俺の、ザナック……)

ほんの数秒後。気配に気付いたのか、

ベッドの上のザナックがゆっくりと起き上がる。

「……ア、アインズ様……!?」

「……こんばんは、ザナック」

俺の声は、自分でも驚くほど低く、冷えていた。

「え、ええと、そのっ、これは……! 誤解です、決して怪しい関係では!!」

「……そうか?」

「はいっ!! 本当に!! クライムは今日、俺の使いを一日する約束で、ついでで……寝床もここに用意して、それだけで!!」

ザナックが焦りで早口になるのを見て、一瞬、口元に笑みが浮かびそうになる。だが、それを抑え込む。この張り裂けそうな、嫉妬と不安も全部崩れてしまうから。

「……そうか。なら、よい」

言いながら、俺はザナックの瞳を見つめた。

彼はその視線に射抜かれて、ぴくりと肩を跳ねさせる。

「ザナック。明日……話がある」

「っ……はいっ、はい……ッ」

焦燥と緊張が滲む顔。それでも、その姿が愛しくてたまらなかった。扉を閉める直前、俺はそっと呟く。

「……楽しみにしておくといい」

 

 

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