黄薔薇=ザナック
です
この世界での常識や魔法知識がおかしい所がありますが、違う世界線なのでね(言い訳)
それから三日が経った。プレアデスたちは、毎日ザナックへ会いに礼拝堂に足を運んでいた。
俺もまた、懲りずに毎日礼拝堂を訪れ、彼に贖罪のつもりでそっと新しい花を添える。
そして少しだけ……今日一日の出来事を語る。
その語りは一方的で、ザナックは眠っている。
だが……彼は俺のくだらない話を聞いてくれているような気がした。そう思うと心が軽くなった。
日々の、ナザリックの完璧な主としての演技も仕事も、こうすることで辛く無くなる。
──────薄暗い私室、ベッドに横になり、今日の反省会を頭の中で繰り返していた。
俺はアンデッドの体だ。睡眠も休息も必要ない。
だが、深夜にザナックのことを考え出して止まらなくなるのはさすがに自分自身でもそろそろやめたい。
せめて、思考だけでも眠らせたい。
こんなことをしているから、想像のザナックは今でも健在なんだな…。俺の頭の中のザナックが、申し訳なさそうに眉を寄せ下げて、ぎこちなく「ハハッ…」と笑う。
(…まただ。またザナックのことを考えている……早くこのループから抜け出さなくては…)
寝返りをうって、右側を向くと、木の板がギッと軋む音がした。
(これはもう……祟りか? 俺への皮肉なのか?)
俺は頭を抱えた。
口元に手を当てて、くすくすと笑う彼の面影が脳裏に焼き付いて離れない。
その後も俺の思考は止まることなく巡り、いつの間にか朝を迎えた。
────翌朝。
俺は、本格的に礼拝堂の改装を進め、今日中に終わらせる予定だ。
そうは言っても彼を蘇生させるにあたって、飾り付けを足したりするだけの話。もっとも、それが一番難しいんだけどな…。あまり派手だと引かれるか……? そもそも彼はこの状況を飲み込めるだろうか。祝いの雰囲気にするのも何か違う気がする。
かといってこのままでは……やはり、花か? そういえば、アウラとマーレが、色とりどりな春の花が咲き始めたと言っていたな。少し貰って来よう、ザナックに見せたいとも言っていたしな。
そして夕方、結局内装はこれ以上変えず、シンプルだが色とりどりの花を使って装飾させてもらうことにした。礼拝堂の中にカーテンをつけたり、古かった窓をやっと新しくできたり、結構時間がかかってしまった。早めに終わったら今日にでも"蘇生"をさせようと思っていたのに。
まぁ、丁度明日からデミウルゴスが出張から戻ってくる予定だ。ここに呼ぶ訳では無いが……皆がナザリックに揃ってからが良いだろう。
─────その夜、俺は眠れなかった。というか、この体には睡眠は……ってこんな独り言、前にもあった気がするような……。
だが、今度は自室ではなく、礼拝堂に来ている。
壁掛けのロウソクや、シャンデリアに明るくはっきりと照らされる。
それが余計に、彼の眠る姿を……悲しく映す。
(……あぁ、君は本当に眠っているんだな)
君の首にも、綺麗に縫合した後も、今だってずっと、少しも触れられないでいた。
触れたら、もう彼が"死んでいる"という事実が現実になってしまう気がしていた。君が死んだのは幻で、生きて俺の隣で笑っているのが現実だと思いたかった。俺はアンデッドの体になってから、人が死んで……悲しいとか、寂しい、とかそんな感情が薄れていって、今は完全に無くなってしまった。
彼に対しても、悲しい気持ちなんてこれっぽっちも存在しない。悲しくもない。寂しくもない。
けれど、この胸の奥のざらつきは……一体何なのだろう。君が、もしも起きてくれたら、君に触れたら……そのことを考えると少し、少しだけ息苦しくなる。
───君が……こんな身勝手な俺を憎んでくれていることを願って、礼拝堂を後にした。
翌日、朝早くから予定を詰めた執務をこなし、ザナックを蘇生させた"直後"のことを考える。
蘇生後はきっと腹は空いてるだろう。だが、豪華な食事は弱った胃には負担が大きい。俺は医療知識も栄養学も持ち合わせていないから料理担当のNPCに相談する必要があるな。それから、元々着ていた衣服も血で染まってひどく損傷していた。応急処置で洗浄はしたがもう着られるような代物ではない。
どうせなら清潔な服を着せて、整った姿で目を覚ましてほしい。シャワーも浴びたいだろうから、浴場の清掃はメイドに任せるとして──
他に必要なものは?
蘇生直後、生命力は魔法によって大きく消耗する。
さらに約二週間寝たきりだったのだから、筋力も衰えているはずだ。おそらく、自力で歩くのは難しいだろう。
……彼の体格に合わせた杖と、新しい服を用意しよう。
─────そして、午後十八時半を過ぎた頃。
俺は適当な布で目隠しをして、白く厚めな手袋をして両手を宙に迷わせていた。
そう、ザナックを着替えさせるのだ。
何故、礼拝堂に入る前に目隠しをしてしまったんだ。自分でツッコミながら、出入口の端に頭をぶつけた。
「……いて」
ここまでして目隠しをつける理由は言うまでもないが……。
彼の尊厳を守る為だ。
眠っている以上、拒否も抗議も出来ない。
せめてもの償いとして、目隠しと手袋で最大限の配慮をした。大丈夫だ、何度も練習した。最初は人形で。後半からはプレアデスの悪ノリでエクレアで練習をさせられたが…………彼女たちには本気で感謝している。あとエクレアも。
「ザナック、少し、触れるぞ」
ボロボロになった服を脱がせ、ナザリックらしい落ち着いた素材の衣装を着せた。見た目はシンプルだが、肌触りもいいし、俺も気に入ってる。服を整え、シワを伸ばし、紐を結び終えてから、目隠しを外す。まぁ、着替えと言っても前で紐を結ぶワンピースを羽織らせただけだ。…………下着や細かい部分は、起きてから本人の意思で整えてもらえばいい。
きっちり採寸できなかったせいか想定より服が少し──いや、かなり大きめだった。だが、妙に似合っているので良しとする。
そして俺はしばらくザナックの眠る姿を眺めたあと、静かに礼拝堂を後にした。
────私室で歴史書をなんとなくめくっていると、メイドが浴場の掃除の進捗と料理の仕込みの報告をしに来た。
「ありがとう」とメイドに礼を言うと、彼女は謙遜しつつもどこか嬉しそうに頭を下げて出て行った。
皆が、ザナックの為に動いている。そう実感した。
水死体は恋したい
とかここら辺のアイザナのイメソンとしておすすめです