※この作品はR-18です。

ザナック蘇生if/アイザナ   作:アイザナ大使

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アインズ視点。
デート回です




それをデートと言う

 

 

これは、視察だ。断じて。そう何度も心の中で唱えながら、俺は装いを整えた。黒のローブは避ける。今日は威圧ではなく安心を与える姿でいたかった。白を基調にした簡素な衣装。襟元に控えめな銀糸。布地は軽く、動きやすい。

支配者ではなく、ただ隣に立つ者として。鏡の前で整える必要もない骸骨の顔を眺めながら、俺は僅かに頷く。

「……これで、いいだろう」

そして、

待ち合わせ場所に現れた俺の大切な友人──

ザナックは、驚くほど……緊張していた。

「……っ、あ、アインズ様……おはようございます……っ」

背筋を伸ばしすぎて、むしろ固まっている。

だが視線だけは頑なにこちらを向かない。ついには舗装された石畳の模様を凝視しながら、ぽつりぽつりと返答をしてくる。

「……それは私じゃないぞ、ザナック」

思わず、そうツッコミを入れてしまった。

「っ……っし、失礼しました……!」

耳まで赤い。

「地面とばかり会話されては、少々寂しいのでな」

「……! は、はい……!」

顔を真っ赤にして、なおも視線は足元に貼りついたまま。胸の奥が静かに熱を帯びる。

今日のザナックは、黒いシャツに白いベスト。

肩にかけた淡い色のローブが金の髪を引き立て、深緑の瞳を宝石のように見せている。

整っている。だが、それ以上に。

(……俺のために、選んだのか)

その考えが浮かんだ瞬間、心が僅かに揺れた。

俺は主で、彼は臣下だ。本来ならば、この関係に余計な感情を混ぜるべきではない。だが。

彼を見つめていると──その理屈が、ひどく脆く感じられる。並んで歩き出す。すぐに気づく。ザナックが小さな歩幅で、必死に俺の速度に合わせていることに。

(……ああ)

衝動が胸を満たす。

気づけば、歩みを止めていた。

そして──手に触れる。

「っ……ア、アインズ様……?」

「……迷子になられては困るのでな。手を、繋いでも?」

問いながら、すでに答えは決まっていた。

温かい。ひやりとした骨の指の間に収まる、小さな掌。一瞬遅れて、ザナックがきゅ、と握り返す。拒まないどころか、逃がすまいとするように。

(……危険だな)

このままでは、どこまでも欲が深くなる。

(……だめだ……ああ、愛おしい)

並んで歩けば、目線は常に俺の腰より下にある。何かを説明すると、彼は上目遣いでちら、と見上げてきて──そのたびに俺の思考は軽く数秒間、停止する。こんなにも近くにいるのに。

こんなにも、ふたりきりで歩いているのに。

俺はまだ、「友人関係」だと定義する。

だが、それでも。

「……アインズ様」

「ん?」

「その……今日の、装いが……とても……素敵です。」

ついに、彼が顔を上げた。

照れながら、それでも真剣に真正面から。

その一言で、俺の自制心が限界を迎えるのを感じた。 このまま、不意に口づけてしまいたい。このまま、膝に抱えて撫で回したい。

でも──それができないのが、俺の弱さであり、強さでもある。代わりに、俺はこう言った。

「……ありがとう。ザナックも、とても似合っているよ」

再び逸らされる視線。赤い耳。

──好きだ。

その言葉だけが、胸の奥で形にならず沈んだ。

手は離さなかった。

視察が終わるまで、ずっと。

 

───────

 

「……アインズ様、今夜……お時間、いただけますか…?」

夕暮れの廊下。

その小さな囁きは、静かに火を灯した。

仕事ではないと、すぐに分かった。

彼の部屋に入った瞬間、空気が変わる。ほのかな香り。清潔な布と、微かな体温の気配。

(思い切り吸い込みたい…………いや、変態かよ……落ち着け)

アンデッドであるはずの精神が、妙に騒がしい。

「どうぞ……ここに」

促されたのはベッドの縁。

ザナックは白いネグリジェを纏っていた。

胸元が少し開いた柔らかな生地が輪郭を曖昧にし、昼とは違う無防備さを漂わせている。

そして。ためらいなく、俺の膝の上に座った。

そして、俺の胸に両手をついた。ふに、と沈む柔らかなお尻、太ももの感触。

(あぁ。)

(──据え膳……)

思考のなかで、変な語彙が飛んできた。

「……ザナック?」

軽い重み。

触れ合う体温。

思考が一瞬、止まる。

「今日は……俺からも、していいですか」

「……何を、だ?」

彼はわずかに躊躇い──それでも言った。

「……あなたがしてくれたみたいに。俺も、あなたに印を残したい」

何を言っているんだこの子は──などと考える前に。次の瞬間。首元に触れる、柔らかな感触。息が詰まる。唇をつけ、ちゅ、と吸ってくる。

「……っ、ザナック……」

骨には何も残らない。だが、それでも分かる。これは所有ではない。ただ、繋がりを確かめたいという、ひどく純粋な願いだ。だがその試みに、彼の温度に、想いに、俺の精神は確実に蝕まれていく。

(……参ったな)

無垢すぎる。彼を抱きしめる。それは衝動ではなく守るための腕だった。

「……ザナック」

「……はい?」

「ありがとう。とても嬉しかった」

声がわずかに低くなる。

「だが……君の優しさに甘えすぎるわけにはいかない」

きょとんとした瞳。邪気がない。ただ、俺を喜ばせたかっただけ。だからこそ踏み越えない。

額に、そっと口づける。それだけで、ザナックは花が開くように笑った。

(……本当に、敵わない)

「おやすみ、ザナック」

「おやすみなさい、アインズ様」

ベッドに寝かせ、布団をかける。

彼は満ち足りた表情で目を閉じた。

静かな寝息。その温もりの余韻だけが、俺の中に残る。

(……こんなにも満たされる日が来るとは)

知らなかった。孤独とは、慣れるものだと思っていた。だが違う。分け合える相手がいるだけで、世界はここまで変わるのか。扉を閉めながら、俺は初めて理解する。

もう戻れない。

ザナックのいない日々には。

 

 

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