両片思い美味しい
認めよう。
俺は────ザナックが好きだ。
大切な友人だなどと建前を並べながら、これまでどれだけ距離を許してきただろう。共に湯に浸かり、頬に触れ、手を取り、隣を歩いた。
だが──もう限界だ。あんなにも凛々しく、聡明で、誠実で。ふとした瞬間に見せる笑顔が、どうしようもなく柔らかい。好きにならない方が、無理だろう。
(……会いたい)
今、彼はクライムと外出しているらしい。
外出には同行者をつけるよう命じたのは、他ならぬ俺だ。安全のため。そう、ただそれだけの理由で。
……だったはずなのに。
胸の奥に、黒い感情がじわりと滲む。なぜ俺ではない。俺と出かければいいだろう。
いや、王としての務めがある。理解している。理解しているが。
それでも。クライムと並んで歩く姿を想像するだけで、胸の奥がざわつく。何を話した。どんな顔を見せた。笑ったのか。その思考を振り払うように、ペンを走らせる。俺は彼に優しくありたい。そう思っている。だが同時に──愛おしさが過ぎると、どうしようもなく意地悪をしたくなる。
……彼も悪いのだ。無防備に距離を許し、こちらを見上げ、柔らかな声で名を呼ぶ。あの真っ直ぐさは、時に残酷だ。友人に向けるには近すぎる。だが本人は、きっと気づいていない。
(……危ういな)
もし他の誰かに同じように心を許したなら。
そこで思考を止める。気づけば、手の中のペンが止まっていた。
──コンコン。
小さなノック。反射的に顔を上げる。
「入れ」
扉が開いた瞬間、視界が明るくなる。
「今、帰りました」
会いたかった人物が、そこにいた。
金の髪を揺らし、背筋を伸ばし、わずかに息を弾ませている。
「俺が……その、ご挨拶をしたくて。お忙しかったですか?」
「否。丁度……会いたいと思っていたところだ」
思ったよりも早く言葉が出た。ザナックは目を見開き、そして──照れたように笑う。それだけで、胸のざわめきが静まっていく。
「どこに行っていた?」
「服屋を少し。そのあと、クライムが選んだ店で昼食を。それと、皆に土産を」
嬉しそうに語る横顔。……クライムが選んだ店。胸の奥が、僅かに軋む。
「そうか。楽しかったか?」
声が少しだけ硬くなる。
ザナックが慌てたように首を振った。
「えっ………た、楽しかったです、ですけど……! クライムとは、その……何も無いですよ……!」
「俺、怖がられてるみたいですし、俺は……アインズ様と居る時がいちばんっ……一番楽しい、です……から……!」
顔を背けて、ぽつりぽつりと小さな声。
(嫌々言わせてるみたいで申し訳ない………!)
「あの! 俺………迷わないですよ。俺の帰るところは……アインズ様だと思ってますから…………」
と、いきなり俺の手を両手で包んできたザナック。小さな手が一生懸命に、ゴツい骨の手を握る。そしてふわりとした甘い香りと同時に、彼が距離を詰めてくる。
やばい。
俺に心臓があったなら、
今、彼にも聞こえるほど大きな音を立てていたかもしれない。
「アインズ様………アインズ様が良ければ………また、」
そう言って、彼はシャツの襟に手をかける。
「………そうだな。」
俺はなんて単純なんだ。
彼が自ら会いに来てくれただけで、彼の匂いを感じただけで、こんなにも満たされて。さっきまで沸き立っていた怒りが、スッと消え去っていく。
「どう、しますか? シャツは、その、脱いだほうが……?」
ザナックは顔を赤らめて、チラチラと俺に視線を送る。彼が、俺に触れられることを待っている、という現実が信じられない。むしろ、触って欲しくて期待しているようにも見えてくる……。それは流石に妄想が激しいが。
これは──俺の創り出した都合のいい夢なのかもしれない。彼の髪が陽の光に照らされて淡く輝く様子を眺める。
(綺麗な髪だ……)
「ザナック、動くなよ……」
「はい………っ」
ぷちぷち、ぷち……と、数個だけボタンを外した。白い肌が露わになり、ザナックは、「あ……」と小さく呟いてから、口をきゅっと引き結んだ。
(また、痕をつけようか。どうしようかな……)
俺はそのまま、ザナックの首筋に軽く歯を立てた。
「や、あっ……ぁ、……んん」
ザナックは脚をがくがく震わせて、俺に縋るようにくっついてくる。
「……!」
「あ、ごめ……なさ……っ、あぁ………あいんず、さま……だけ、ですっ……ずっと……あいんずさまがいいっ……あいんずさま、!」
俺だけ、だって。俺がいい、って。これ以上勘違いさせるようなことを言わないでくれよ。お願いだから。
俺も、君だけが好きだよ。
「あ、あっ……」
可愛い、可愛いよ。
もっと見せてくれ。"俺だけ"に。
興奮が抑えられず、ザナックの左耳に囁く。
「本当に俺だけ?」
「は、はいっ………俺の、大切なひとは貴方だけですっ………」
ザナックは必死に俺のローブを握りしめ、言った。
(そっかぁ……)
大切な人か。いい響きだ。
(もっと言ってほしい。けど……しつこいと嫌われるよな)
「俺もだ。……君が大切だよ」
また囁いて、目の前の赤く染まった耳朶を、口に含んだ。
「んひゃあっ!?」
ザナックは驚いて、一際大きく声を上げた。
ここは一応執務室だ。誰かにこんな声を聞かれたら誤解されかねないな……。
「……少し声を抑えようか」
すり……と彼の唇に指を這わし、開かせる。
(ふにふにしてる……)
その隙間からゆっくり人差し指を入れていく。
「ん、ふあっ……あいんうひゃあ?」
彼の口内は温かくて、指を動かしていると自然に唾液が絡みついてくる。
(口、ちっちゃいな……。まぁ、俺の指と比べれば当たり前か)
舌の表を軽く撫でていると、彼の肩がびくびくと震えた。中指を慎重に彼の口内へ侵入させる。それと同時に左の耳朶を甘噛みした。
「あ、ふ……。ん、ん……んんッ……。」
最初は戸惑っていたザナックだが、だんだんと俺の指に舌をくっつけてこようとするように。
「ザナック……」
そして、ぴちゃぴちゃと音を立てて、骨の指に舌を絡めている。
「は、あう……ん、ふあ……はふっ」
「どうだ……? ザナック。」
俺は、どうだ、とだけ質問して、
彼がどんな言葉を返してくれるのか、無い心臓を高鳴らせて待つ。
(嫌じゃないかな……?)
「はぁ、はーっ……きもち、い……れふ」
彼のその一言に、俺の頭蓋内で何かがスパークした。そうか、気持ちいいのか。耳がやっぱり弱いっぽいなぁ……。もっと噛んでやりたい。
そうだな……柔らかそうな胸も揉んでみたい。
きっと、指が沈み込んでぽよっとしてて。
今、突然揉んだらどんな反応するかな。引かれるか……。いや、ゴリ押せばいけるのでは?
いやいやいや。それは駄目だ。
俺は、ザナックが好きだ。だからこそ、しっかりしないと。大人として。彼の良き友人として。ザナックの口から、指を引き抜き、ふらついた体を支える。背中に手を添えるだけで、ぷに……と指が沈む。
「はーっ……はーっ……、あいんず、様?」
「よく頑張った。…………落ち着くまで、ここに居るといい」
ザナックは息を荒くして、脚を震わせている。
そんな彼を脇から持ち上げ、膝の上に抱き寄せるように乗せた。
「あいんず様………俺、頭ふわふわします……。腹が、変な感じして………」
「どんな………?」
俺は思わず聞き返して、彼のお腹に手を添えた。
「ふぉあッ? わ……分かんない、です……」
「大丈夫。治まるまで一緒にいてやるから」
「はい、っ……お願いします」
大腿骨へ、彼のおしりの肉を贅沢に感じる。
布越しでもわかるこの柔らかさ、低反発な感触。これは……反則、いや、罪だな。