ラナーちゃんとザナックの兄妹絡み美味い
突如俺の私室にやってきた妹。タイミング悪く、情けなく泣いていた所を発見されてしまったわけだが……。今、正座をして向き合って……ラナーに恋愛相談なんかをしている。
(何故…………こいつに)
「お兄様……もっとお話を聞かせていただけますか? そうしたら、お兄様の恋を応援……いえ、進展させることが出来るかもしれません」
神妙な面持ちで、ラナーは言い切った。
「そんなこと言ったって……何を話せばいいんだ?」
俺は肩を下げ、床に目を落とした。
「質問に答えていただければ。まず、おふたりは友人……なんですよね?」
「あ、あぁ……たぶん、そうだ」
「なら、好きな人が居るのかくらいお聞きになればいいんですよ」
ラナーが微笑んだ。
「なっ……そんなこと、し……失礼だろ」
「むう、友人関係ならこのくらい当たり前ですよ……お兄様、本当にアインズ様と友人なんですか?」
聞き捨てならないラナーからの言葉に、俺はバンッと床に手をついて身を乗り出した。
「ちゃんと友人だ……! 友人同士のスキンシップというやつも普段からしてるしな……!」
「なるほど、例えばどんなものを……?」
顎に指を添えて、ラナーは問う。
「頭を撫でて貰ったり、頬にキスしたり、手を繋いだり、それに同じベッドで寝たり……」
アインズ様にしていただいたスキンシップの数々を思い出す。首を傾げたラナーに、俺は胸を張って答えた。
「あと、ここに痕をつけてもらって……」
首の辺りを指さすと、ラナーは、一瞬、石像のように固まって目を見開き、頭を抱えて下を向いたと思えば今度は深呼吸をして……
「まぁ…………嫌われては無いと、断言できます。」
そう、ぽつりと言った。
「そ、そうか? 本当か? 嫌われては……ないのか………」
ほっと胸を撫で下ろすと、ラナーがクスリと笑った。
「な、なんだよ………何が可笑しい」
「いえ……その、お兄様が幸せになる未来の光景が……突然頭に浮かんできて。」
「それでなんで笑うんだよ。失礼なやつ…………」
ラナーは誤魔化すように咳払いした。
「とにかく、諦めの判断が早すぎです! 今からでも、アタックしてきてもいいんですよ」
「あ、アタックって……どうやって………友人関係すら理解してない俺に……」
友人とは言われてるけど、本当にそれを信じて俺が調子に乗ってしまっていいのだろうか。
「恋愛経験豊富な人は、失敗を得て経験を積むんです。怯えてばっかじゃ、誰かにとられちゃいますよ、アインズ様。」
ぷくっと頬を膨らませて可愛こぶった妹に、
バッサリと言われた。その言葉に胸を締められる。
「と、とられ………………それは、それはやだ……」
「お兄様。いつも、スキンシップはアインズ様からなんじゃないですか?」
ずずいっとラナーが顔を接近させてくる。
「は? それが……?」
「お兄様から、スキンシップをするんです。大丈夫、アインズ様がしてくれていたことを同じように返せばいいだけです。簡単でしょう?」
「お、俺から…………アインズ様に、」
「ではさっそく─────アインズ様の手をとって……日頃の感謝を伝えてみましょう。自然な流れにならなくても、言葉が詰まってもいいです、とにかく実行ですよ!!」
目を伏せたラナーが俺の背中に手を当てた。子供をあやす様に撫でられて若干不服だが、今はそれにすら元気づけられてしまう。
「あ、え、あぁ……!」
───ラナーに見送られ、
アインズ様の執務室へ、外交先でまとめた報告書を提出するついでに、作戦を実行することに。
ノックをして、
「アインズ様……ザナックです、帝国との評議会でまとめた報告書を提出しに参りました」
「あぁ。入るといい」
ゆったりした低い声が扉の向こうから聞こえて、この時点で心臓が爆発しそうだった。
部屋に入ると、アインズ様は眼鏡をかけていて……俺がおすすめした本を読んでくれていた。
「ザナック……おいで、ここに座って一緒に見ようか」
アインズ様は柔らかく微笑んだ。
本を閉じ、手招きをして。腰掛けているソファの空いた所をぽんぽんとたたく。
「あ………しつれいします。」
端っこに縮こまりながら座ると、ぬっと骨の手が出てきて。それが腰に回り、抱き寄せられる。
(あ、やばい……アインズ様、手……大きい。)
(アインズ様が近い、アインズ様の匂い、アインズ様が俺に触れてる………)
脳みそが、茹だりそうだ。
「どれ………」
少しズレた眼鏡の位置を直す、自然な仕草。
白い骨の指の微動。見惚れてしまう。
「おお、丁寧にまとめてあるな。
すごいな、君は……。うーん、俺はこんなふうに出来ないな…………ザナック、何かコツとかあるのか?」
紙をはらはらとめくる音だけが部屋に響く。
アインズ様の顔が、見れない。視線はあちこちに彷徨って、はぁはぁと息も乱れてくる。
「はへ、あぁ……はひ………」
「今度教えてくれるか?」
「よろこんで……」
もはや、彼が何を言ってるのかすら分からず、とりあえず承諾するしか選択肢はなかった。
「楽しみにしておく……」
アインズ様は嬉しそうにして、
俺の腰を撫でていて───
撫で……!?
「ん、ン!? ……は、っ」
甘くてぞくぞくとした何かが、身体の芯から込み上げる。
(腰は、弱いのに………これ、駄目、ほんとに駄目だ……変な声、出る)
急いで、口を塞いだ。
一気に体温が上がって、ドッドッドッ……と心臓の音が煩い。アインズ様は、書類を眺めながら「へぇー、はぁー」と声を漏らしている。
「ふ、綺麗な字だな……」
誰にも向けていないように、ぽつりと呟かれた言葉。なのに、細く赤いあの光が、俺を横目で一瞥した。
「……そんな、」
アインズ様に褒められた。
それだけのはずだけど、どうにも胸がふわふわ浮ついて。変にニヤけてきそうだ。また、心臓がおかしくなってる。鼓動が落ち着かない、こんなに近いと……彼に聞こえてしまいそうで。
でも、もし……聞こえてたなら、彼はどう思うんだろうか。こうしてくっついて、俺がドキドキしてるって知ったら、引かれる? まさか……喜んでくれる?
馬鹿みたいだ。だけど、都合のいい夢を見たい。妄想の世界に浸りそうになったところで、ここへ来た目的を思い出す。
(そ、そうだ、アインズ様にアタックして来いって……ラナーに背中を押されたんだった……)
「あの…! アインズ様! 個人的に、聞いていただきたいことが……!!!」
「ン……何だ? 改まって……」
「その、ですね……」
な、なんだっけ。
何をすればいいんだ?!──か、感謝だ! 感謝を伝えるんだ……! パッと勢いでアインズ様の手をとり、握りこんだ。包んだつもりなのに、逆にこちらが包まれているような包容感と大きさ。アインズ様の手をちゃんと触ったのは、もちろん初めてで、硬くてざらりとした質感に惚れ惚れする。
(冷たい、気持ちいい……もっと触っていたい……全部確かめたい……形を、覚えるまで……そんなことは叶わないが……)
「あ、……あの、えと……っ……
あー、その、ぁ、ええ…と、……………!」
「ん……?」
眼窩の赤い光がゆらりと揺れて、俺を捉えた瞬間、金縛りにあったように体が固まる。
アインズ様には、お世話になっている。だから、当たり前に、感謝を伝えるべきなのに、
声が、言葉が出ない。
そのくせ涙だけはじわじわと込み上げてくる。
目頭が熱くなる感覚が、気持ち悪い。
やめろ。泣くな。みっともない。
きっとアインズ様を、困らせる。
「───ありがとう、ございます……!」
ようやく絞り出した言葉。
だけど主語がどこかへ飛んでる。…致命的。
ぼろぼろ泣いて、唇をわなわな震わせながら感謝を伝えた。完全に頭のおかしい奴だ。
「あ、ちが、違いますっ……いつも、日頃感謝してっ……いや、蘇生していただいたことにも感謝していますし、すごくよくしてもらっていますし……いつもというよりずっとこれからもです!!」
……は? 何が? 何言ってんだ?
気持ち悪い。言語の体をなしていない。
小さい子供の方がまだまともに感謝を伝えられるぞ。いや犬でも出来る。犬以下か。ペットみたいにアインズ様の膝の上に乗ってるだけでまともな仕事してないくせに。やはり俺なんかが出しゃばるから。欲張ったから。
こんな情けない姿を晒すくらいなら、好かれないままで良かった。すぐ隣じゃなくていい、貴方と同じ場所にいるだけで良かったのに……。
「ザナック……」
「一生懸命、考えてくれてたんだな───」
むにゅっと。肉の余る頬を両手で挟まれた。
「ふぐぇっ……?」
「嬉しいよ…………俺も、君に感謝してる。」
そして、額に。骸骨の歯が、キス。頭を整理する間もなく、右頬にキスが降る。俺に傷を付けないように優しく触れた。だけど、キスの重みを感じる。そっと手をとられて、指先にも口付けられた。
「あ、や、ぁ………?」
(夢? 俺の妄想の、続き??)
ふ、と耳に吐息が触れて、
これが現実だと悟ると、ぼんっと爆発したように顔に熱が集まる。
「な、なっ……」
「もう一度生きてくれてありがとう……、俺についてきてくれて、俺の友人でいてくれて、ありがとう」
ひとつ、囁くたびにキス。
額、頬、鼻先、首筋、耳、手のひら。
ひんやりとした、くすぐったい、歯の感触。
「あ、ん………だめ、です………おれ、なんかに……もったいない、ですよ」
「何でだ……?」
「俺は……所詮人間ですから、外交補佐と言っても下っ端で…………こういう応酬は…各階層守護者様達に、とっておいた方が……。」
俺は、ぺらぺらと御託を並べ始めた。
「あ、アルベド様とか……きっとすごく喜ばれますよ……。俺なんかより、アルベド様の方が可愛らしいですし……アインズ様も俺なんて見ていて楽しくないでしょうから、だから、もっとお綺麗な人を……!」
「何故アルベドの話になる?」
そう言われた途端、顔がカッと熱くなった。
俺、まるで子供みたいに、嫉妬をアインズ様にぶちまけてる。
(冷静に、冷静になれよ……! 俺……!)
「コレは、俺が……頑張っている君にしたくてしてるんだ。だから、誰かに同じことをするのは違う。コレは君だけの特権だからな……」
左耳にそう囁かれて、耳の後ろにそっとキスされた。
「んっ、んぅ……! あ、やめッ、は、にゃぁ…」
アインズ様の囁きが頭の中に反響する。ぞわぞわした快感が腰を抜ける。何遍も、肌を撫でるようなキスが降り続く。
(顔が熱い……嬉しい…が、今すぐ逃げ出してしまいたい……)
ぽんぽん、と優しく頭をたたかれる。
「……ところでザナック。」
──不意に、アインズ様が口を開いた。
「手袋も、外交用のベストもそのままじゃないか」
その言葉に、体が凍りついた。
肩、腕を沿って進み、白い手袋をした俺の手を、大きな骨の手が自然に包んで覆った。
「あはは、その、余裕が……無くて……」
咄嗟の言い訳をするが、彼の眼窩の中の鋭い光が俺を見極めるように視線を追いかけた。
「……外交先で、何かあったのか?」
彼は指を絡めて、ほぼ確信したように低い声で囁いた。背筋がぞわりとして、声が裏返る。
「いっ、いえ……そういう訳ではなくてですね……」
また、ぐにっと頬を掴まれ、そっと振り向かされる。眼鏡のレンズ越し。鋭く光る赤色に、視線がかち合う。
「ぁ……」
彼は、醜くてちっぽけな自分とはまるで違う。
彫りが深い訳ではないが、シュッとした輪郭でいて、鋭い眼窩、そして……牙。だけどその視線はとろけるほど優しく。泣けてくるほど……美しい。
「部屋に来た時から目が腫れてた……ほら、こんなに赤く…………」
「なってないです……! き、気のせいですよ」
強く否定したが、目を逸らしてしまう。
「そうか?」
グイッと、端麗な骸骨の顔が近づいた。
鼻先同士がつきそうなくらい。
「誰かに何かされたのか……」
見透かされてしまう。
「いや、そんな……ことは…………」
耐えきれず俯いて、彼の視線を切った。
「泣いていたんだろ……?」
ん?と甘く喉がなるような音が耳に触れた。
ゴソゴソと骨の指が襟元を弄って、三つボタンが外される。
「いえ……あの、ちがい、ま………はひぅっ!」
じゃれるみたいにシャツを骸骨の鼻がかき分けて、がぶりと甘噛みされた。
「誰に泣かされた?」
後ろから訊かれて、耳朶をかぷかぷと数度食まれる。
「あんっ、ぁあ、ちがっ……だいじょぶ、です」
「俺は、───君の"大丈夫"は気付いての裏返しだと思っている」
優しい声音と共に、首筋に痕を残すように、歯が押し付けられた。
「ほ、ほんとに……だいじょうぶ、にゃので……はぐっ……!」
身体の奥から沸き立つぞくりとした何かがこわくて、がたがた震えて、指を咥えて噛もうとすると、骨の指が差し込まれる。
「ん、く………ふぁ、」
「君はやっぱり、そうやって隠す。嘘は吐かないって言ってたのに…………。なぁ、何処のどいつに泣かされた? 会って"話"がしたい。」
淡々としている、だけど少し怒気を含んだ声。
「い、言えませんよ……。お、俺の……大切な人なんですっ……だから、泣かされたとしても何をされても、いいんです」
半泣きで精一杯答えた。事実を言ったつもりだ。それに、心配性のアインズ様は、こう言ったら引き下がってくれると思った。
「……………………」
が。
──ふっ、とアインズ様が俺を抱き締める腕が緩んだと思えば、強く抱き寄せられ
さらに密着する。彼の肋骨が、背中に軽く食い込むのが分かった。アインズ様の匂いも自然と強くなる。インク、恐らく服に使われてるであろう素朴な石鹸、そして淡い……炭のような匂い。
「ぁ、の……ちかい……です。」
(こ、これは彼の骨の匂いか……? それとも、彼の魔力が…………??)
「そいつは───君を幸せにできるのか?」
「は、はい…………俺は幸せです、一緒に居るだけで幸せなんです……」
「君を泣かせるようなやつが、幸せに、ね……」
彼は納得しきれていない様子で、ふっと低く喉を鳴らした。その人は、貴方のことなんだけれども……絶対にそんなこと言えないし、泣いてた理由を聞かれても答えられない。何としてでも隠し通そうと俺は自然に口角を上げてみせた。
「……ですが…………その人は悪くないですよ。俺が勝手に………泣いてただけなので」
「やっぱり泣いてたんじゃないか。なぁ……どうしてもそいつじゃなきゃ駄目なのか。そいつに良いところはあるのか。君の幸せはそいつと居ることなのか?」
(しまった、失言だ)
アインズ様の声が突然平坦になった。
「そうです……! 俺は、ただ……隣に置いていただけるだけで……嬉しかった。少し触れられるだけで……顔を見るだけで…………」
アインズ様に蘇生していただいて、初めて触れられて抱き上げられた日の記憶が蘇る。顔が熱くなって、咄嗟に顔を片手で覆った。
「っ……なぁ、ザナック…………君は…………此処にずっと、居てくれるよな…………?」
涙声。俺はアインズ様を見上げた。眼鏡越しに、赤い光がゆるゆると揺れていたのが見えた。
(泣きそう……?)
「いや…………すまない、君をここに縛り付けておくのは……良くないよな…………忘れてくれ」
「いいえ…………俺の帰るところは、アインズ様……でしょう? 貴方のかけてくださった魔法……覚えていますよ」
ぱあっと彼の表情が明るくなった気がした。彼は骸骨で、筋肉がそもそもないので、本当に"気"なのだが。それでも……表情が何となく読み取れるって……すごいことなんじゃないかなと思ってしまう。
(……彼の気持ちが分かるのが俺だけだったならいいのに)
「あぁ……ザナック……っ」
こつん。優しく額同士がくっつく。俺はそれにドキッとしてしまい、一瞬だけ目を逸らす。でもすぐに彼に合わせた。赤い光が、細く揺れている。俺は、アインズ様が"寂しがる幼い子供"みたいに見詰めてくる目が…………好きだ。有り得ない事だが、まるで彼が俺に執着してるみたいで、優越感と独占欲が一気に満たされる。
(あぁ、かわいい……)
「アインズ様…………失礼します。」
俺は額を離して、彼の左手を両手で支え、手の甲に触れるだけの口付けを落とした。
「凄い……本当に王子様みたいだ……」
と彼は感嘆の声を漏らした。
「……? もう、王子ではありませんよ?」
俺が首を傾げる。クスリと笑って彼は機嫌を良くし、猫を扱うみたいに俺の頬を撫でた。
「なぁ……ザナック、俺が一番って………本当か?」
その手に擦り寄って、またその手に軽く口付けた。臆病で心配性で、この人は本当にかわいい。
「はい、ご安心ください。俺は何処にも行きませんよ……貴方が──ッんんん??」
彼の指が腹に這ったかと思えば、下からベストをバッと脱がされて、性急にボタンを外される。俺は止めればいいのかアインズ様に声をかければいいのか分からず、一気に全て開けられてしまった。
「は? へ? あ、あの、何故急に脱が……いや、そんなに強くしたら……シャツ、こわれ……」
無言の圧力をかけながら、彼は俺のシャツを肩から落とした。
「な、えっ……あ、ちょっ……えぇっ???」
俺が混乱してる間にも、アインズ様の手が止まることはなく俺はソファに横たえられ、
カタリ……という机に眼鏡を置いた音と共に彼は覆いかぶさってくる。
(準備してる……! 俺、何される!?)
滑らかで上質な布越しに、骸骨の重みと硬さを感じてしまう。
「あ、アインズさま? …………やっ、ひあっ!」
一瞬の痛み。
骸骨の歯が俺の胸を食んだ。
だけどじんわりと気持ちよくなってくる。
続けて、何度も確かめるように甘く噛まれる。
「嫌か?」
首を振ると、彼の歯の隙間からふっ、と息が漏れた。髪を骨の指で掬われる。ぐしゃぐしゃと頭を撫でられ、頬に親指が這ってそれが俺の唇を軽く押し上げた。
「…………君がくせになるまで、俺はやめない」
彼が俺の胸元でつぶやいた。それがくすぐったくて、身を捩ると手首を押さえつけられた。胸に彼の歯が一度押し当てられる。ふふ、とアインズ様の低い笑み。手首を押さえる力が強くなる。痕が残るかもしれない。体が熱い。密着した距離で、きっとこの重い鼓動は彼に聞こえてしまってるだろう。
「はぁ、アインズさま、なにを、はぁ、はっ……はーっ……はーッ」
俺の心臓よ、静まれ……ッ! というかなんで俺、押さえつけられて興奮してるんだっ!?
「………あ……い、んず……さま…………っ?! あッ、や、んっ……ふ、なん……で……っ」
ただ、噛まれる訳でもなく、歯が肌にちょんと触れただけ。それよりも、腹の贅肉を盛大に揉まれまくってる方が問題だ。
(服の上から揉んでいただいたことはあるけど、肌に直接、こんなふうに力強くされたら……。)
「覚えてくれるか。俺の、感触を……感覚を…………」
硬くて冷たい彼の指。俺の汗ばんだ腹とだんだんと体温が溶け合っていくような気がして、意識が遠のいていく。
「んう、やめ…………っ……」
「やめない。」
(なぜ、アインズ様……怒っているのか? それとも、……"癒し"が欲しいのか……?)
(別に、腹肉揉まれたって……俺はいいんだが)
「あいん、ず……さま…………揉むなら、むね、じゃなくて……いいんです、か?」
「……………………」
す、と突然アインズ様の手が止まり、黙り込んでしまわれた。
「あの…………?」
彼は無言のまま、ゆっくりと身を起こした。
「アインズ様っ……?」
俺も追いかけるように上体を起こし、彼の手に触れるとビクッと避けられた。
「報告書、ありがとう…………もういいぞ。
俺は…………冷静じゃない。危ないから、一旦落ち着かせてくれ」
「え…………」
(もう少し揉んでいてもよかったのに……そうしたら、多少脂肪が燃えたかもしれん……)
「はい、」と答えて、俺はシャツをとめて、ベストを畳み、立ち上がった。
そして、
「──いつもお疲れ様です……アインズ様。友人からの、贈り物です」
彼の頬骨にキスをした。ぷちゅっと、思いのほか変な音がなってしまい、顔に熱が集まってくる。
(やはり、下手くそだな、俺は……)
それでも懸命に微笑んで、アインズ様を見上げた。アインズ様は俺がそのまま出ていくと思っていたのか、目を丸く……いや、眼窩の中の光を小刻みに揺らしていた。
「あ、ざなっ…………は?」
「どうかされましたか?」
「どうも何も…………君は、その、さっき言ってた大切な人ってやつにも簡単にこんなことやっているのか……!? してたら、人タラシだぞ」
肩に手を置かれて激しく揺さぶられた。
「うおぉっ……アインズ様以外とキスなんてしたことありませんが……?」
「き、キスッ………………うん、そうか。」
すると、アインズ様はどこかそわそわした様子で少し顔を背けて口を手で覆っていた。
「俺には、貴方しかいませんよ」
俺が呟くと、彼はフワッとローブを翻して、
俺を抱き締めた。
「えっ……あ、アインズ様!? どうされたのですか……?」
「このまま帰すのが惜しくてな…………できれば、このまま今日一日抱き締めていたい。」
「ふふ……ですが、お仕事が優先です。同じところに住んでいるんですし、お仕事が終われば俺の部屋なんていつでも訪ねて来てください……」
そう、言いつつも、俺は彼の胸にぽすんと頭を預けていた。
「いいのか? 理由もなしに……」
「理由なんて、友人に会いたいからというだけで……十分でしょう?」
「そうなのか…………分かった。早く終わらせて、君を絶対抱き締めに行くからな」
彼はさらに抱く腕を強く締める。
「今、抱き締めてるのを解いてから言ってください……ふふ」
「あ、そうだな……すまん。」
彼の腕から解放されて、俺は礼をしてからドアノブに手をかける。
「ありがとうございました、失礼します……」
「あぁ…………」
「では、また後で……」
カチャリとドアノブを回す。開いた扉から一歩
出た。会釈をしようとすると、後ろから腕を掴まれ、強く扉が閉められる。
ドンッ……!
「ザナック………やっぱり、行かないでくれ」
寂しそうな声が聞こえて。
振り返ると、骸骨の表情から焦りを滲ませたアインズ様が居た。
「あ、あの……」
喋ろうとすると、ぐいと引っ張られて執務机の前まで連れて行かれる。
「ザナック……あぁ、すまない……ザナック…………我慢が出来ない。」
ぎゅう、と両手を握られて、動けない。
「本当にすまない……お願いだ、俺の膝の上に居てくれないか……………くっ、王命だ……だから、」
(なんて幸せな王命なんだろう……)
彼は取り乱した様子で俺の腕を掴んだまま。
俺は、空いた方で彼の手をとる。震えた大きな骸骨の手の甲に口付けた。先程よりも、長く。敬愛を込めて。
「はい。陛下の仰せのままに。」