※この作品はR-18です。

ザナック蘇生if/アイザナ   作:アイザナ大使

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ザナック視点。





諦め

 

 

「……ア、インズ……さま……?」

戸惑う間もなかった。目の前にいた主が、突然壁際まで歩み寄ってきたかと思えば次の瞬間には、俺は壁に押さえつけられていた。

腕が、背中にまわされるわけでもなく。

ただ、正面から、圧し掛かるように、骸骨の口が俺の唇に触れた。

「っ……!?」

それは、押しつけるだけのものではなかった。

ごりっ、と骨の歯が擦れるたびに、唇が、ざらついたものに擦られ、痺れたような熱が走る。

思わず、脚が震えた。 

(……夢じゃ……ない……)

何度も、唇が塞がれる。深く、長く、引く気配がない。まるで、息が止まるくらい、唇に意識が持っていかれる。身体が、少しずつ熱を帯びていくのを感じた。気づけば、腰が砕けそうになっていて、重心が定まらず、ふらりとアインズ様の腕に体を預けそうになる。

(嬉しい……嬉しい、はずなのに──)

アインズ様の眼窩の奥。そこに灯る、赤い光。

いつもより、暗い。揺れていない。迷いがない。どこか……諦めたように、ただ沈んでいた。

(…………)

そのことに気づいた瞬間、胸の奥に冷たい感覚が落ちてきた。最初はそれが何かわからなかった。ただ、心のどこかが「このままではいけない」と警鐘を鳴らしていた。キスは、やむことなく続く。優しさはなかった。愛撫でもなかった。乱暴に、ただ触れて、貪るように、

俺の唇を──いや、存在を、汚そうとするようなキス。

(……っ)

もしかして──俺を"汚したくて"してるのか?

そんな言葉が頭をよぎる。

俺に「嫌われたくて、突き放したくて」……

(……何で、アインズ様)

さっきまで感じていた幸福感は、どこかへ消えてしまった。手足の震えも、熱の波も、すべてが色褪せてゆく。残ったのは悲しみと、ほんの少しの、怒り。

(誤魔化してる……)

(俺を、騙してる……)

(そんなふうに、無理やり突き放して……自分だけで決めて……)

逃げるようにキスをして、何も言わずに満足しようとして、それで「もう終わった」と思うつもりなんだ。でも。

(……そんなの……ずるい)

俺がどれだけ、あなたの言葉が欲しかったか。

笑顔が欲しかったか。触れてくれる手が、優しければ優しいほど、救われていたか。

それを、貴方は、

(踏みにじってるんだ)

それでも、俺は逃げなかった。

逃げたら、本当に全部、終わってしまう気がして。ただ、重なる唇を受け入れながら、俺の中の喜びは、静かに、そして確実に色を失っていった。このキスは、愛じゃない。諦めの、偽りだ。この先。俺は、どうすればいいんだろう。

 

 

 

 

───────

 

 

息継ぎの間も無いほどのキスから、開放された後。

「…………」

扉が、静かに閉じた。

重い音を立てて、あの人が出ていったことを告げる。その瞬間

「……っ……」

腰から力が抜けた。膝が折れて、その場にへたりと座り込む。冷たい床の感触が、じかに太ももを伝う。

「…………う……」

声にもならない声が、喉から漏れた。

それでも誰もいないこの部屋に、そのかすれ声が響くのがやけに虚しくて、俺は唇を噛んだ。

(……あんな……)

骨の歯で、唇を何度も何度も貪られて優しくなんて、なかった。まるで、何かを壊すように。手放すためのようなキスだった。

なのに。

(……気持ちよかった、なんて……思ってる自分が……最低だ……最低な気分だ)

唇がまだ、じんじんする。

熱がそこだけ、残っていた。ほんの少しの快感。それが、最悪なことに、俺の中に確かに残っている。それが、悔しくて、情けなくて。そんな自分を、俺は許せなかった。

(……それでも、嬉しかったんだよ)

あの人が俺に触れてくれて。俺を見てくれて。欲しがってくれた気がして。ほんの一瞬でも、

願ってたことが叶ったようで、だから、身体が応えてしまった。でも、それだけだった。アインズ様は、何も言わなかった。何ひとつ、俺の気持ちに触れてはくれなかった。

「…………ぅ……っ」

手が、震える。床に着いた指先に、力が入らない。情けない。こんなにも、弱い自分が情けない。それでも、止められなかった。嗚咽が、じわりと込み上げてくる。

(……俺は……捨てられたんだろうか)

あの眼窩の奥の赤い光。諦めの色をしていた。

俺のためじゃなく、自分のために距離を置くようなあの人の背中。本当は、誰よりも優しい人だって知ってる。でも、俺はどうしても納得なんて、できなかった。

「っ……う、ぐ……っ……!」

涙がこぼれる。唇を押さえる。さっきまで重なっていた場所が、こんなにも熱いのに、

胸の中は、氷みたいに冷えていた。

「……アインズ様……」

願いのように名前を呼ぶ。

けれどその声は、闇に飲まれるだけだった。

アインズ様の背中はもう遠ざかってしまった。

(貴方が言ったんじゃないですか……諦めるようなことはさせない……って)

涙を拭う指先が、まだ震えている。

(離さないって……)

 

 

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