※この作品はR-18です。

ザナック蘇生if/アイザナ   作:アイザナ大使

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ザナックの支持者は0人ではなかったんじゃないか
ザナック殿下バンザイ!って言ってる人いたし
内心嬉しいザナック
オリモブキャラ注意



家出

 

 

目が覚めた時、枕が濡れていた。涙の痕が、まだ乾ききらない。冷たい布が頬に張りついていた。自分でも、呆れるほどだった。子供じゃあるまいし、泣いたところで何が変わるわけでもないのに。でも、どうしても、止められなかった。

身体の芯にまで染みついた感触。あの、温かくないキス。歯が唇に擦れたあの感触が、いつまでも焼き付いて離れない。嬉しくて。でも、悲しくて。苦しくて。そしてなにより。悔しかった。

(俺が……弱いからだ)

(俺が、余計なことを言って、余計な想いを抱いたからだ)

(俺が……ここにいたからだ)

アインズ様が、壊れたのは──俺のせいだ。

優しい言葉も、温かい笑顔も、今はもう何ひとつ、戻ってこない。

(全部、俺が……甘えてたからだ)

きっと、居なければ。俺が居なければ。アインズ様は、もっと冷静で、穏やかで、

ナザリックの守護者たちに囲まれて、

正しく、完璧な支配者として在り続けられた。

(……そうか)

俺は、アインズ様には邪魔者だったんだな。

そう思ったら、すっと身体が軽くなった気がした。ようやく、自分の居場所が分かったような気がした。だから。俺は、ナザリックを出る。

そう決めたのは、朝焼けが僅かに差し込む、自室の片隅だった。

 

──────

 

着替えは最小限。

シャツ一枚とズボン、歩きやすい靴。

そして、一応の防寒のために、紺色のローブを羽織った。武器も持たない。身分を証明するものも、すべて部屋に置いた。あの、手袋も。

"ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフ"としてではなく、ただのひとりの、名もない人間として出ていく。

(……気づかれてはいけない)

廊下を歩く足音にさえ神経を尖らせる。

夜のナザリックは静かだ。

けれど、警備は甘くない。誰に会っても終わりだ。引き止められれば、俺はまた迷ってしまう。

(会ってはいけない……誰にも)

だから、あらゆる通路の時間帯と見張りのルートを、数日かけて調べた。地図を頭に叩き込み、数秒単位の隙を狙って、階層を抜けるルートを構築した。まるで、脱獄だな。

そう思って、苦笑した。でも、これは"逃げ"じゃない。

「アインズ様のために消える」って決めた、俺なりのケジメだった。

"彼の視界から、自分を消せばいい"

たったそれだけのことが、どうしてこんなにも難しいのだろう。

(……まだ、名前を呼んでほしかった)

(もう一度、触れて)

(笑って、欲しかった……)

未練が、胸を焼く。

でも、それでも。行かなきゃいけない。

自分がいなくなれば、彼はまた、まっすぐ前を向いて生きていける。

(それでいいんだ)

(……俺が望んだ、"幸せ"って、きっと──)

彼が、苦しまない世界。

俺がいない世界。

 

──────

ナザリックの大門を、音もなく抜ける。

外はまだ夜の帳が降りたまま。

誰にも見つからずに外へ出られたことに、ほっとするよりも。やはりどこか、心がぽっかりと空いた。

(……ほんとうに、もう戻れないんだな)

振り返らないように、歩き出す。

ナザリックの影が、夜の闇に紛れて小さくなっていく。行くあてなんて、ない。彼に必要とされないなら。生きる目的も、もうない。ただ、魔導国のどこかに沈むように、ひっそりと消えてしまいたかった。それでも。アインズ様の記憶だけは、ずっとこの胸に残る。

触れて、笑ってくれて。名前を、呼んでくれて。それだけで、もう、十分だった。

──朝日が、昇っていた。

まるで祝福のように世界を染める柔らかな光が、俺の肩を、髪を、ローブの裾を、やさしく包んでいく。

(……朝か)

人気のない街外れ。小さな住宅地を抜けて、朝市へと続く石畳を、とぼとぼと歩く。昨夜から、ほとんど眠っていない。けれど、不思議と身体は軽かった。心が、空っぽだったからだろう。ふらふらと、気ままに歩く。

何も考えず、どこにも行かず、ただ、太陽の昇るほうへ。そんな時だった。

「……おや……?」

低く、掠れた声が、耳を打った。

「……おやおや……その面構え……まさか……」

(誰……だ)

振り向くと、そこには、見た事もない年配の男。頬に深い皺、くたびれた麻のチュニックに、干し草の匂い。

「貴方は──まさか……ザナック殿下じゃありませんか?」

「へっ!?」

心臓が変な音を立てた。

「いやしかし、似てる。いや、間違いない。この凛々しい眉……この、恰幅のいい感じ……そしてこの悲壮感漂うオーラ……! ザナック殿下ですよね?」

「ちょ、ちょっと待ってください。いや、俺はその……。ん? 悲壮感?」

「いやいや、王都にいた頃に一度お姿を拝見したことがあるんです。あの日の、王都防衛戦の、殿下の最後の演説──わし、泣いたんじゃから!」

「えっ、いや、あの……」

(そんなに印象残ってたか……?)

「ザナック様あ!」

遠くから聞こえた、突撃するような声。

ばたばたと駆け寄ってくるのは、明らかに元王国民と思しき、おばちゃんたち数名。

「やだあ〜! 本物!? 本物ぉ!? 本当にザナック様!? あの小太りで女の子みたいな髪の……!」

「ザナック様……! 私、昔……家を守っていただいて……!」

「もう! ちょっとアンタたち、何か持ってきて! ほらパン! 焼きたてのあるでしょ! あと、蜂蜜塗ったやつ!」

「あっ、ピクルス漬けたやつもあるわよ! 持ってきな! 王子様!」

(いや、もう王子様じゃないんだが)

「俺、ほんとに本人じゃない可能性もありますよ……?」

「違ってたら違ってたで! こんな湿気た顔見たらとりあえずパンあげたくなるわよ!」

「どういう判定基準ですか?」

気づけば、両手に焼きたてパンと謎のピクルス、さらに果物、布袋……。なんだこの、押し売りみたいな空間は……。

「……暖かい……」

ぼそりと漏らしたその声は、意図せず震えていた。

(なんなんだ。こんな……こんなことが……)

俺は、ただひとりで、何も持たずにここまで来た。名前も、立場も、過去も、すべて捨てて。

それでも、覚えていてくれる人がいる。

名前を、呼んでくれる人がいる。

優しくしてくれる。パンを……こんなにもたくさん……。たくさん、──過ぎたので持ちきれない分は断った。

「ザナック様、これ、お芋で作ったパイもあるのよ。あと……おまけで、うちの息子のジョエルが釣った魚の干物」

(息子誰だ?!)

重い。この優しさ、重い!それでも心が、あたたかい。なんだか、泣きそうだった。いや、ちょっと泣いてた。涙を悟られないように、パンを口に詰め込んだ。ふかふかしてて、ほどよく甘い。

「……うま……」

泣きながらパン食ってる小太りの男を囲んで、

周囲はなぜか喜び始めた。

「ザナック様、パンをお召し上がりになったぞ!」

「可愛くてお上品な食べ方!」

(いや何故!?)

訳が分からない。それでも。ひとつだけ、確かだった。生きてても良かった可能性が、あった

そんな気がした。それだけで……"不遜な第二王子"が救われた。空はもう、すっかり明るくなっていた。街のざわめきが戻ってきて、子供の声がして、犬が吠えて。そんなありふれた、朝。

ナザリックの静寂とは違う、

誰もが生きて、喋って、泣いて笑う、雑多で、やかましくて──でも、愛おしい朝。

パンを片手に、また歩き出す。

次に何をするかなんて、まだ分からない。

でも、少なくとも。

「……無価値ではなかったのかもな」

そう思えただけで、今日はきっと、いい日だ。

 

 

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