※この作品はR-18です。

ザナック蘇生if/アイザナ   作:アイザナ大使

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ザナック視点から。
※アインズ様がかっこ悪いです。土下座してます。




好きで好きでたまらない

 

 

夜が明けた。だけど、何も変わらなかった。

空はどこまでも暗く、雲は沈んだまま。

灰色の世界のまま、朝になっただけだった。

寒い。濡れた服が肌に張りついて、体温をじわじわ奪っていく。

(……いつ寝たっけ)

記憶が曖昧だ。夜の間ずっと、瞼の裏にはナザリックの天井が浮かんでいた。執務室。玉座の間。アインズ様の隣。あの場所に、自分が居た時間の重みだけが、ずっと胸の奥に残っている。

(ああ……)

足元の水たまりに、溶けかけた空が映っていた。その中で、自分の顔がぐしゃぐしゃだった。誰の声もしない。誰も自分を知らない。知られたくもない。ローブのフードは、途中で外した。もう、濡れていようがどうでもよかった。ぼたっ。肩に、冷たい雫が落ちた。

次の瞬間、ぼたぼたと音が増えていく。大粒の雨が容赦なく降ってきて、髪も、背中も、全部びしょ濡れになった。

(……あー……………これなら、低体温症で死ねるかもな)

苦笑する元気もなかった。何もない道を、ただ歩いた。行き先も、目的もない。歩いて、歩いて、そのうちどこかで、倒れて、それでいい、そう思ってた。本当にそれだけだった。途中、空き家の軒下で寝ようとして、追い払われた。声をかけられても、無視した。自分が何者かも言わなかった。人間って、内側が崩れると、ほんとにただのゴミみたいになるんだな。そんなことを、ひどく冷静に考えてた。

(……あの人に、……名前を呼ばれた時だけが……)

胸の奥が、ずっと痛い。呼吸をするたび、擦れて血が滲むみたいに、痛む。雨が体を叩く音が、どんどん激しくなっていった。壁に沿って歩いていると、ふと、路地の隅に空間が見えた。誰も通らない隙間。もう、限界だった。

(……ここで、終わるか……)

体を滑り込ませるようにして、そこに座り込む。濡れた背中が石壁に触れて、ひやりとする。けれど、それすら心地よかった。手足の感覚が、少しずつ遠くなる。視界の端に、小さな草が生えていた。昨日の雨で伸びたんだろう。

雨に強く打たれても、泥水を吸っても、しぶとく生きてる。

(……俺も……ああなれたら良かったな)

口の中で呟いて、うとうとと目を閉じた。

このまま、誰にも知られず、誰にも気づかれずに、永遠に………眠ってしまえたらいいのに。

そんなことを願いながら、俺はゆっくり、雨音の中へ、意識を沈めていった。

 

─────

 

誰かに起こされたように目が覚めた。

気配が、あった。ずっと、冷たい空気の中に沈んでいたはずの世界に、ふと、熱が差し込んだ気がして。ゆっくりと、目を開けた。

視界はぼやけていて、雨音が耳の奥で響いていた。それでも、何かがこちらへ向かってくるのが分かった。

ずしん、ずしん、と。濡れた石畳を、何か重たいものが歩いてくる音。それが、どこか懐かしくて。

(……まさかな………)

そう思った時、俺の前でその足音は止まった。

「──ザナック……」

その声が、自分の名前を呼んでいると理解した瞬間、胸の奥が、ぎゅう、と音を立てて縮こまった。

夢かと疑う間もなく、

目の前にしゃがみ込んだその人が──

雨水に濡れるのも構わず、泥だらけの地面に膝をついて、俺の目線に、そっと、ゆっくりと合わせてきた。骸骨の顔。でも、その眼窩の奥には、揺れる赤い光。あの、アインズ様だった。

「……アインズ……様……?」

唇が、震えていた。声になっただけでも、奇跡だった。アインズ様は、息を詰めるようにして、俺を見つめた。

「すまない……ザナック……っ」

深く、深く。頭を下げ、地面に擦り付けていた。水音を立てて、泥に触れるその膝。

服が濡れるのも気にせず、ただ俺のために。

「……な、なんで? 何で来たんです? おかしいな……俺が居ない方がいいのに……。……貴方に貰ったものは全て置いていきました……もう、俺に価値は無いですよ……?」

その言葉は、俺の中で何度も繰り返してきた、逃げ道だった。口にした瞬間、ひどく虚しかった。

「そんなことない、君自身に価値があるんだ」

「でも、俺……近づかない方が、いいですよね? 本当は話しかけたら、駄目ですよね……?

俺、貴方の邪魔をしているから……だから、死ぬことにしたんです………ふふ」

彼に罪悪感が残らないように微笑んだ。

だが──

「違うんだ、俺は嘘をついた……! 君に誓った約束を、破ったんだ……! お願いだっ……ほんとうに、おねがいだから……死なないで……! もう……おれの前から、いなくならないで………死なないでくれ、ザナック……!」

骸骨の彼は、必死で、泣きじゃくっていた。

「うそ…………?」

捨てられてない……? 邪魔じゃなかったのか?

俺の心の奥のモヤを晴らすように、アインズ様が、俺を抱きしめた。

「俺は──君がいないと、ダメなんだ……」

その声は、今まで聞いた中で一番……人間らしかった。

苦しさも、愛しさも、後悔も、全部詰まっていて、その温度に包まれた瞬間。俺の身体は、震えながら、アインズ様の胸に崩れた。

「……やめてくださ、……ずるい……そんなの……」

濡れた髪を撫でられながら、俺は嗚咽を堪えきれなかった。

 

 

 

 

─────────『アインズ視点』

 

 

(……温かい)

骸骨であるはずのこの身体とは無縁の体温が、

今、これでもかというくらいザナックの小さな体から伝わってくる。何度も、探して、

何度も、間に合わなかった後悔に怯えて、やっと見つけたこの小さな体を、離したくなかった。けれど、ザナックが小さくすすり泣き、震えながら、俺の胸に顔を埋めているのを見て、

思わず、跳ねるように後ろに退いた。

「あ……っ、すすす、すまない! と、突然抱きしめて……っ」

「ああ、な、泣かせるつもりはっ……ザナック……う、ほんとうにすまないっ……」

我ながら情けないほど、慌ててしまった。

「……ふふっ」

すると、ザナックが、顔を上げて──笑った。

「ふはっ……アインズ様……今の……すごく慌ててましたよね……」

「えっ、あ……うん、ごめん…………?」

「骸骨の……その……アインズ様が、あんな動揺するとは……ははっ……すごく、分かりやすかったですよ」

「骸骨でごめん…………動揺してごめん…………嘘ついたり、約束破ったり、やっぱりここに居てとか、わがままばっかでごめん…………」

「あは、ふふふ、アインズ様、もうそんなに謝らないでください……」

口元をぬぐいながら笑うザナックの顔は、雨に濡れて赤くなっていて、

それでも、今までで一番愛おしかった。

「かわいい」

つい、口をついて出たその言葉に、

ザナックの顔が、ぱちん、と止まった。

「……な、な……なにを、い、今ですか……?」

怪訝そうな顔。

「……かわいいよ、ザナック。ずっとそう思っていた。それに、俺は」

言葉を置いて、少しだけ、間をあける。ザナックの視線が俺を見つめている。恐れるように、でも期待するように。

「君が……好きだ。好きで、好きで、たまらない」

心のままに、言葉を紡いだ。

「君が大好きだ。いつも考えていた。どうすれば君が笑ってくれるか。どうすれば君を守れるのか。どうすれば、手放さずに済むのかって」

ザナックの瞳が、少しずつ潤んでいく。

そして、眉を下げた。顔を真っ赤に、耳まで熱そうに染める。目が泳いでいる。一呼吸した彼は胸を押さえ──だが、その瞳は真っ直ぐ俺を射抜く。

「……俺も、好きです」

「アインズ様のこと、……これまでもずっと、これからもずっと」

小さな声。けれど、その想いは、何より強く伝わってくる。

「……ザナック……」

俺は、彼の手を取った。

彼も、俺の手を握り返してくれる。

その小さな手の温もりに、今までより確かに、触れている気がして、俺たちは、しばらく何も言わず、手を繋いでいた。世界が、止まっていた。気づけば、雨も止んでいて、空の隙間から、光が差していた。

「……止んだな、雨。」

「……あ、ほんとうだ……」

そう答えたザナックが、ようやく肩の力を抜いて微笑む。俺はその笑顔を見ながら、ゆっくりと起き上がり膝を立てて、彼に右手を差し出した。

「ザナック……一緒に、"帰ろう"か」

ザナックは少しだけ驚いた顔をして

でもすぐに、俺の手を強く握り返した。

「……はい」

彼の手を引っ張ると、勢いで彼の体が俺の胸に飛び込んでくる。

「あ、す、すみません……」

「いや……大丈夫か? 骸骨で、硬いし……怪我は」

「ないです……」

ザナックは頬を赤くして慌てて離れた。

俺も同様。このくらいの距離感……前は当たり前だったはずなんだが……。何故か、変だ、意識してしまう。

「ザナック……ふらふらしてて危ないから、手を……」

「あ、はい……」

きゅっと、小さな手を握った。

落とさないように。雨上がりの道を、俺たちはふたりで歩き出す。

 

「うっ……ぶぇっくしっ!!」

突然、ザナックが肩をびくりと揺らして盛大にくしゃみをした。

「大丈夫か? ザナック。俺のローブに……って、俺も濡れてるんだったな……」

魔法で乾かすか、と快晴の空を見上げながら考えていると、ザナックがびしょ濡れのまま抱きついてきた。

「アインズさま……ふふ」

べちゃっとした感触、その下にある柔らかい…ザナックの体温。

(帰るまでこのままってのも、悪くないか)

 

 

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