ザナックは軽くないです
70はあるかな、そもそも低身長なのでどうなんだろう
あ、でも、身長は153cmです。非公式で私の考察ですが
アインズ様は200cm。うちのアイザナではそうなんです。
翌朝六時過ぎ頃、俺は礼拝堂の外にメイドを待機させ、ザナックを起こす準備を整えた。
目覚めた彼にかける言葉まで、何度も練習しておいた。彼が驚くのは仕方ない。ただ、敵意がないことだけは真っ先に伝えなければならない。そして、威圧しないよう、柔らかい声音で語りかけるつもりだった。目線を合わせられるように椅子を用意し、そして必要以上に深呼吸を繰り返す。封印を施していた蓋の上に手をかざし、静かに魔法で開けた。
変な時間に起こすのも可哀想で、妹のラナーにザナックが普段起きていた時刻を訊いて、それに合わせている。君が少しでも、人としての時間を取り戻せるように。そう願って。
そっと彼の体の上へ手を伸ばす。
…………だが、どうしても詠唱の言葉が口をついて出てこない。
今までだって、
それなのに、俺は何を恐れている?
……あれほど身勝手に願っていたのに、今さら諦められるはずがない。このままでは起床時刻を過ぎてしまう。俺は再び深く息を吸い込んだ。静まり返った朝の礼拝堂に、俺の呼吸音だけがやけに大きく響いている。震える手を彼の胸元へとかざし、意を決して詠唱した。
「───
───────
ふう、と息を吐き、そっと椅子に腰掛ける。彼が目覚めて自然に声をかけてくるまで待つとしよう。
五十秒経過。まぁ、いつも蘇生魔法の反応には時間がかかる。すぐに目を覚まされたらそれはそれで、吃驚するからな。鳥のさえずりが聞こえてくる中、そんな理屈を心の中で並べて自分を落ち着かせようとする。けれど、胸の奥ではすでに焦燥が広がっていた。
二分三十秒経過。きっと、あと少しで起きるだろう。だが、俺は骸骨の身であるはずなのに、まるで冷や汗をかいたような錯覚に襲われた。
三分経過。
目覚めない。何故?
そんなことは───いや、拒まれた…………?
だが、もしそうなら、彼の魂はどうなってしまうんだ? 彼とは、会えない?
焦りに駆られた俺は、ザナックの首筋に骨の指を当てた。どくん、どくん、と明確に命の鼓動を感じる。
「温かい……」
骨の指に、彼の体温がじんわりと伝わって、俺の全身に染みて広がっていくようだ。
(もしかして……)
「…ただ眠っているだけ……か?」
戦いの疲労が、まだ抜けていないのだろうか。
ようやく冷静さを取り戻した俺は、彼の規則正しい寝息に気づいた。
……寝ているだけ。彼は生きている。
「ん……」
小さく息を漏らして、彼が少し右に体を傾けた。
金色の髪がさらりと流れて棺の中にふわりと広がる。朝日に照らされたその髪は淡い色に輝いていた。
縦窓から射す陽が、ザナックの顔に細く落ち、それがまつ毛や前髪をキラキラと光らせる。
魔法に呼応して満開になった色とりどりの花も鮮やかに彼を引き立てていて、まるで、彼が生き直すことを世界が祝福しているようだった。
「………っ、」
同時に右手が動き、棺に沿って、窮屈そうに収まる。彼のその姿を見ると、不思議と笑みがこぼれた。
「フッ、ここでは体を痛めてしまいそうだな…」
ここで目を覚ますと思っていたが、まさか眠ったままとは。この狭さでは可哀想だ。勝手に触れるのは気が引ける。だが、このまま放っておくわけにもいかない───。
俺は、万全の準備が出来たと思っていたが、彼専用の部屋を用意するのを失念していた。
使っていない部屋もいくつかあるが、彼にふさわしい内装に整えたい。当面の間は俺の私室に滞在してもらうしかない。仕方ない。完全にこれは俺の不徳の致すところだ。うん、本当に仕方ない。
────私室に着くと、ほとんど使っていないベッドに、そっとザナックを横たえる。
(何とか起こさずに運べたな。しかし……思ったより軽かったな……俺の腕力がおかしいのか、それとも蘇生魔法の影響だろうか……)
(本当に…生きている、よな?)
彼の胸が上下する様子に、ほっとした。
本当なら、このまま傍で目覚めるまで見守っていたい。けれど、まだ残された執務がある。名残惜しさを押し隠しながら、穏やかな寝息を立てているザナックをもう一度見つめ、そっと扉を閉めた。そして廊下に控えていた数名のメイドに、彼が目覚めたらすぐ報告するよう指示を与える。
それから一時間以上経った。
俺は山のような書類を必死に処理しながら、今日とこれから数日間、彼と過ごす時間を捻出しようとしていた。
机の上には未決の文書がまだ積まれている。
その時、
メイドの落ち着いた声で、こう告げられた。
「──ザナック様がお目覚めになりました」
その瞬間、思考が途切れた。
「……!」
勢いよく立ち上がる。椅子がわずかに軋んだ音を立てた。手にしていたペンがコトリと机を転がり、乾きかけのインクが紙面にしぶきを描く。だが、気にも留めない。
俺は即座に転移の構えをとった。
「
言葉とともに空中に門が瞬時に展開される。書類もインクも、時間もすべて置き去りにして──俺は私室へと跳んだ。
────私室に転移すると、ザナックはまだ静かに横たわっていた。
「………しゃべれる……あ、あれ…」
ザナックは声がうまく出ないことに驚き、戸惑いながら涙目になっていた。死んだと思ったはずなのに、突然こんな暗い場所で目覚めるなんて恐ろしいに決まってる。
(よし、優しく声をかけよう)
「起きたか……。蘇生直後だ、安静にしていろ」
なるべく声色を柔らかくしてみたが、どうだろう。
「ま、まどうおうへいか…?」
混乱と呂律の回らなさの中でも丁寧な敬称を使おうとするその姿勢に心から感服する。
チラリと彼の顔色を伺うと、そこで初めて─────彼と目が合った。
青みがかった鮮やかな緑──まるで宝石のエメラルドのような瞳が、まっすぐにこちらを見つめていた。
(長い敬称は今の彼には大変だ。……それに俺は彼と"友人"になりたい。)
そうして俺は、見惚れていたことを誤魔化すように口を開いた。
「……私のことは、アインズと呼べ。」
彼は掠れた声で問いかける。
「あ、あいんずさま……わたしは、なぜ」
無理をして欲しくなくて、そっと彼の唇に、"静かに"という意味を込めて人差し指を当てた。
温かい……俺の骨の指には熱すぎるくらいだった。
(ザナック…まだ顔色が悪いな……)
唇から、ゆっくり指を這わせたまま、彼のやわらかな頬に触れる。まだ少し熱い。……熱を出しているのかもしれない。頬に指を当てたまま無意識にその感触を味わっていると、ザナックは戸惑ったように眉を寄せ、目を細めた。
「喋るな。」
ただ一言。安静に、と願いを込めて。
「……っ!」
声にならない驚きを見せつつ、懸命に頷く彼の様子がとても健気で────骸骨であるこの顔が、つい緩みそうになる。
「…いいな」
その姿にどうにも……庇護欲が湧いてしまい。かわいい、と言いそうになるのを堪えたが、…ふっ、と小さく笑ってしまった。彼の困惑した顔を観察しているとメイドから
「──お食事の用意が完了しました」
まだ食べれるかは分からないが、彼が温かい食事を味わっている姿を想像して、嬉しくなる。
「待っていろ。」
彼に一声かけてから、