オリモブキャラ注意
お嫁さん、はこれからずっと愛称になります。
人目も気にせず、賑わった商店街をアインズ様と密着して歩いていると、前方から五、六歳くらいの男の子が木の枝を振り回し、叫びながら走ってきた。──ドンッ。そして、アインズ様にぶつかる。次の瞬間、アインズ様の体幹が良すぎたのか、男の子が勢いよく後方に跳ね飛ばされた。
「──うわあぁっ…!!」
考えるより先に、体が動いた。
アインズ様の手を離して。男の子の頭と地面の間に手を滑らせた。ズザーっと思いっきり膝を擦った。久しぶりの運動で、心臓がやばいほど脈打っている。けれど、男の子は無事なようだ。目を見開いてこちらを凝視している。
「なぁ、大丈夫か? 少年……」
ぼーっとしてる男の子に声をかけてみる。
「す……。」
「す?」
「すげー! お兄さん騎士さまみたいだ!」
騎士、と聞くとどうしてもクライムの顔が浮かんでくるのでやめて欲しい。
────『…ザナック様、お砂糖を入れすぎでは……?』
うるさいクライム。
「は、はぁ……? 騎士じゃあないが」
「かっこいい!!」
男の子の手を引いて起こす。
「あのな……まずはぶつかった人に謝りなさい……」
「うぐっ……はあい。」
冷静に諭すと、その子はアインズ様を一目見て飛び上がった。
「うわあああぁっ……!? 魔導王さま…!? ご、ごめんなさい……!!」
(いやまあ、この人この国の王だし、骸骨だしな……普通はこの反応だよな)
男の子の怯え様に、少し可哀想なのでアインズ様に視線を送ると。
「良い。特に怒るようなこともない。今日はすぐに帰って伴侶とゆっくりしたいからな。君の方こそ、怪我はないか?」
アインズ様は"伴侶"と強調して俺を抱き寄せた。
(それ、今言う必要ありますか!?)
「はん、りょ?」
首を傾げた男の子にアインズ様は説明をする。
「うーむ、………彼は私の"お嫁さん"だ」
「────ぶべっ……!?」
思わず吹き出すと、アインズ様が俺の頭を撫でだす。
「あー。なるほどお。お嫁さんかあ」
「そうだ。すぐ赤くなって可愛いだろう?」
「や、やめてください! アインズ様……!」
(……これ以上惚気ないでくれ!! というか、なんなんだこの状況!!!)
子供の前で惚気ける旦那様に困りつつ、俺は抱き寄せられた腕を振りほどけないでいた。
─────────『アインズ視点』
「魔導王さまって思ってたより怖くないんだね! 僕のお父さんも同じこと言ってて、お母さんに怒られてたや……」
しみじみとした様子で、ザナックが助けた男の子は顎に手を当てている。
「それに、お嫁さんも優しくてかっこよくて綺麗な人だし」
「……ハハッ。そうだろう、そうだろう……! 俺にはもったいないくらいの子だ」
そうだ、ザナックは本当に可愛いんだ。
今だって、俺の隣で茹でダコみたいに赤くなって目を逸らしている。
「あの……そんなことより! 君もそろそろ家に帰らないとなんじゃないか?」
俺たちの会話を遮るようにザナックが突っ込んだ。
「まだ大丈夫だよ〜!」
「いや、家のお母さんが心配するんじゃ……」
ザナックが眉を下げて聞き返すと。
「アハハ、何言ってるのお兄さん、面白いこと言うね! お母さんならここに居るよ! ね、お母さ…」
そう言ってふっと、振り返った男の子が固まる。背後には誰も居ない。
「────ふわあぁぁぁん…!!! お、お母さんが迷子になったぁぁぁ!!!!」
迷子はお前だ。
ここは人が多い商店街。
(さて、ここでこの子の母親を探すのは苦労するぞ…。)
「お、お母さん……どこに行っちゃったの……ぐすっ…………まったく、ちゃんと手を繋いでてって言ったのに、」
だから、お前がまったくなんだよ。
「と、とにかく探そうか……よし、お母さんはどんな服を着てたか教えてくれるか?」
ザナックは自力で母親探しを手伝うようだ。
「私が探そう。君の名前を教えてくれるか?」
「ぅぅ……ぼ、ボンド……」
「あの、名前で、どうやって探すんですか?」
ザナックが不思議そうに聞いてくる。
「とりあえず、聴力強化と遠視の魔法で何とかしてみる。母親も今頃子供を探しているだろう」
「な、なる…ほど……?」
首を傾げて、いまいち分かってなさそうなザナック。可愛い。
詠唱開始から数分後。意外とあっさり母親は見つかった。男の子の名前を必死に呼びかけている姿を遠視で見つけた。移動中。ザナックが男の子を抱っこしていて、お腹を揉まれている。
「お兄さんお腹ぷにぷに。」
「真顔で揉むな! こら。」
(くそ……………そのお腹は俺の…俺だけの……)
そして、発見した母親に会うと開口一番。
「も、申し訳ございません……!!」
そう言って土下座しようとする母親を、男の子は止めた。
「魔導王さまは、優しい人だよ!」
「何言ってるの。人様にぶつかってしまったら、相手が優しかろうが誰だろうが謝るのが人としての礼儀でしょう! あなたね、商店街は人が沢山いるから走るなとあれほど…!!」
怒涛の如く子供を諭す、母親の鑑。
子供は泣いてるが。
「うう……お母さんが別人格になっちゃった…………」
そんな理由で泣くな。あと、お母さんは正気だ。
「あ、すみません!! あの、どこかお怪我は? お連れ様も、うちの子を守って下さり……」
(そこまで謝られたりするようなことはされてないんだよなあ。まぁ一応この国の王なのだからそれなりの対応は受け入れた方が……?)
「大丈夫だ。膝を擦りむいたようだが、私が治すのでな。」
(彼は、ザナックの良さを分かっていた。まぁ将来有望だ。)
「本当に申し訳ございません……。」
「あの、その子のおかげで、楽しい時間が過ごせました。こちらこそ、ありがとうございました。陛下も、許していただけるようですし……」
と言いかけたザナックを抱き寄せた。
そして、宣言する。
「この子はただの連れじゃない。私の補佐官で、友人で、妻だ。」
(これで少しでも親近感を持って、彼女の緊張が和らげばいいんだけど……。)
「はえっ!? あ、アインズ様っ!?」
と、ザナックは真っ赤になって腕の中で暴れる。
「……あ、なるほどぉ。それで、首筋にそんなに痕が……」
男の子の母親は、目を見開いてしみじみとした様子で顎に手を当てた。
「えっ!? 痕、って……あ、わあああ…!! アインズ様!!! わ、わかってて出かけようって言いましたね!?」
ザナックが振り返って、俺の胸骨をちっちゃな手でぽかぽかと叩いてくる。やばい気づかれた。
「いや……その、国民にかわいい君を見せつけたくて……」
目を逸らして言い訳をするが、ザナックの一生懸命な攻撃は止まらない。
「そ、それで、"伴侶"とか"お嫁さん"とか強調してたんですか!? この痕を俺が忘れてたの気づいてたのに、なのに鎖骨と肩が出るような服を着せて……教えてくれなかったんですよね!? 酷いですよ!!」
ザナックは眉間に皺を寄せて、目を鋭くしている。結構怒ってるみたいだ。そんな顔も可愛い。
「アインズ様! ちゃんと聞いてください!!」
いや、本当に可愛い。
「ふふ、仲がよろしいんですね、おふたりは……」
母親がくすりと笑うと
「お母さん自我を取り戻した……」
男の子が涙を拭いながらニコニコしている。そして母親にチョップを頭に入れられていた。
「本当にありがとうございました……。」
母親が微笑んで、頭を少し下げた。
(うん、過度な謝罪より、少しの感謝をされる方が気持ちいいよな。)
ザナックも、それを見てふんわりと笑っていた。ザナックと、初めての喧嘩?もしたし、今日は本当にいい日だ。
親子と別れた後、再びザナックの手を握り、別荘へと歩き出す。
「あの親子、凄く似てましたね。」
「あぁ、妙に明るいところとか。仕草とかな。」
「あの………アインズ様……俺……お嫁さん……なんですか?」
ぽっと頬を染めたザナックが、見上げてきた。
嫌だ、と言いたいわけじゃないのだろう。むしろ、肯定を期待したような顔。
「あぁ。まだ正式な契りを交わしてないだけで、俺は、……そう思っている」
そう答えると、ザナックはさらに顔を真っ赤にして、嬉しそうにはにかんだ。
「あ、アインズ様……別に、その、深い意味は無いんですが……。俺からもプレゼントを贈りたくて……」
彼はそう言って、ズボンのポケットから、黒地に金のラインが入った小さな箱を取り出した。
そして、自然な動作で箱から出した指輪を手のひらに乗せた。細身のリング。真ん中には、青が混じった深い緑の宝石。
「あの……アインズ様にアクセサリーを贈りたくて、指輪をいつもしてらっしゃるので、変化対応式で着用者のサイズに合うものです……どうぞ……!」
「……ありがとう、ザナック。」
それを受け取ると、左手の薬指にそっとはめた。少し屈んで、ザナックの頬に口付けた。
「っ……」
ザナックが驚いてぎゅっと目を瞑り、キスを待ってるような顔にしか見えなかったので、唇にも一瞬触れるだけのキスを落とした。
背中に添えた手。ザナックを横抱きする。
「ん、ッ…、アインズ様……?」
「ゲートを使う。早く帰って、ふたりでゆっくりしたい」
「は、はい……。」
別荘へ転移すると、俺は彼を抱いたままソファに深く座った。
「ザナック、しばらくこのままでいてくれるか……」
「……へ?」
困惑するザナックを抱き締めて、愛しさを噛み締めた。
「好きだ…………」
「え、はう…………はいっ!」