※この作品はR-18です。

ザナック蘇生if/アイザナ   作:アイザナ大使

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ザナック視点。
朝チュン。





苦味

 

 

(眩しい……)

薄く瞼を開く。窓から射した朝日の光の中で

埃が舞い、オーロラのような形を作りあげていた。

「朝……か…………」

体には布団がかけられていて、少し重たい。

アインズ様がやってくださったのかな? と思いつつ上半身を起こすと、その布団は肩から落ちることも無く、俺の体を包んでいる。

(いや……違うな……?)

「なんだ、これ……服……?」

俺が纏っていたのは、"布団"ではなく。随分とオーバーサイズな"ワイシャツ"だった。

「俺の、じゃないよなぁ……」

昨日俺は、アインズ様に………抱かれて。

それで、風呂にも入れてもらった。そこまでは覚えてる。だけど、風呂場で連続で二回もイかされたものだから、疲労と眠気でその後のことは記憶が曖昧だ。──確か、ベッドの上で……

ほぼ寝ていた状態の俺に、アインズ様が何か話しかけながら、服を着せてくれてた……気がする。

(でも……なんで、こんなデカいんだろ………)

頭が回らない。微睡みの中、懸命に昨夜の記憶を探りながら、眉間に指を添えた。うーん、と唸りながら何度も首を傾けて。

何を思い出したいのか、何を忘れたのか、俺は何がしたかったのか……

よく分からなくなってきたけれど、この朝の空気が……ただそれだけが気持ちよくて、また寝てしまおうかという考えが頭に過ぎる。

(それは良くない……)

だって俺は、早く起きて

この間まとめた王派閥の貴族についての資料が整理せずに……机に…あって。エリアスと会談する約束も……。って違う、違うな。これは違う記憶だ。俺は、今……ナザリックに、魔導国に所属している。それで、えーと……ここはどこだっけナザリックの離れにある別荘だ。そこに、アインズ様との"新婚前旅行" として来ていて。

「はっ。……………………アインズ様!」

(アインズ様はどこだろ?)

目を見開き、ゆっくりとベッドから降りた。

ギシィッと大きめな音。体の重さのせいか。足元が覚束無い。シャツの裾を引き摺り、朦朧とした頭でドアを開けた。ふらふらとリビングダイニングへ向かう。

「アインズさま……」

呼びかけながらぺたぺた歩いていると、ジュー……と焼けるような音が遠くから聞こえる。

少し開いた扉から覗くと、リビングの窓から陽の光が射していた。

「ザナック、起きたのか……?」

グレーのエプロンを着たアインズ様が、台所から振り返ってこちらを見た。

俺は壁に手をつきながら、リビングへ入る。

「おはようございます……アインズ様……」

シンク越しにアインズ様と見つめ合う。

「声がまだ掠れてるな……水を飲むといい」

アインズ様はそう言って、コップを持って来て、リビングの机に置く。そして、俺の背を支えながら椅子に座るよう誘導してくれた。

「わざわざありがとうございます……」

「……体調はどうだ?」

「今のところは、特に何も……」

俺はそれだけ答えて、水を一口飲んだ。後ろから、ふっと息を漏らすような笑みが聞こえた。

俺の全身をまじまじと見るような視線を感じる。

(もしかして心配してくれてるのか……?)

「──本当に可愛いな……ザナック」

肩と腰を大きな骨の手が包む。

ふわりと後ろから抱きしめられ、そっと骸骨の歯が頬に触れた。

「ん……、アインズ様……?」

全身を撫でくりまわされてる。頭を下りて頬、肩、胸、腰まで。

(いや、マッサージか……?)

「すごく可愛い」

そう、はっきりと囁かれて微睡みの中でも顔が熱くなるのを感じた。アインズ様からの視線が背中に注がれる。幸せ。暖かい。溺れてしまいそうだ。

「どこか、痛いところは? 飲み物は何が飲みたい?」

「え、えと……痛いところは無いです。それと飲み物は………コーヒーで」

「そうか…………俺も同じものにしようかな。」

アインズ様はそう言って、また俺の額にキスをしてから台所へ戻って行った。彼が背を向けると、思わず手を額に当ててしまった。頬が、目頭がじんわり熱くなる。

(こんなに幸せでいいんだろうか……)

「──ザナック、少し待っててくれ。今、サンドイッチを作ってるからな。」

台所から、そんな声が聞こえる。そう言えば何で俺は当たり前のように座って朝食を待ってたんだ。

「あ、ありがとうございますっ……! すみません、昨日も作っていただいたのに……!」

申し訳なくなり、立ち上がった。

「俺も、何か手伝っ──」

 

ドスン。

 

「…………はへ?」

だが、次の瞬間、

俺は床に座り込んでいた。

「──ザナック!?」

「アハハッ、すみません……なんか、脚が体を支えられなくて……太り過ぎですね」

「いや多分、絶対違うと思うぞ!?」

アインズ様は、直ぐにこちらに向かって来た。

「え……そう、ですかね?」

そばにあった机の足に手を伸ばし、掴んで、脚に力を入れた。立ち上がれない。

「俺の手を掴んで」

「あ、はい……」

俺がアインズ様の手を固く握ると、彼は俺の背中に手を回して起こしてくれた。

だが。

「──い゛、痛……いたたたたっ!?」

下半身、主に腰と脚の関節に激痛が走った。

「大丈夫かっ……ザナック……!」

「っすみません! すみません! これ、無理かもしれません……!! あの、少し倒れても!?」

「た、倒れ……っ!? え、あ……受け止める! というか、俺が抱くから力を抜いていいぞ!」

俺はもちろん混乱していたが、アインズ様もパニックになっていて。朝のリビングは一瞬、騒がしくなった。

「し、失礼しますっ………」

俺が彼の胸に倒れ込むと同時に、骸骨の手が背中と太ももに回って、横向きに抱き上げられた。

「す、すみません………」

「謝ることはない。……俺のせいだしな」

「……アインズ様のせい、ですか? そんなことありませんよ、俺が太ってるせいで……」

「違うんだ、ザナック。昨日、俺が無理な体勢をさせたせいで……」

昨日……?

その瞬間、昨夜の自分のあられも無い姿が頭に過ぎる。確かに、脚を開いたり、普段しない様な体勢をした。色々……そう、色々したな……。

「あ………落ち込まないでください。俺も、その、腰動かしてましたから……………っ」

アインズ様は項垂れる。

「俺のせいで……痛い思いを………」

「あ、アインズ様?」

「俺が……ザナックを傷つけた……」

「あの、大丈夫ですから……」

「そこまで考えが至らなかった俺の落ち度だ……」

俺は、アインズ様の頬にそっと指先を添えた。

「アインズ様。」

「……っ」

その眼窩の赤い光が細く揺れた。

「俺は……後悔してませんが、アインズ様は……後悔してますか? 俺に触れた記憶は嫌なものでしたか?」

「……そんな事は無い! だが、すまなかった」

「アインズ様……謝らないでください、その代わりと言ってはなんですが、今日は甘えさせてくれませんか……?」

「もちろんだ……! 朝食も作るし、洗濯も、食器も…………着替えも手伝う!」

アインズ様は涙声で何度も頷いた。

「あははっ……ありがとうございます」

(俺が運動不足だったせいもあると思うが…………たぶんこの人はそれでも自分が悪いと言うだろう……)

俺は、ソファにゆっくりと降ろされ、膝の上と体の横にクッションが置かれる。

「痛いか……?」

「いえ、こうしてると楽です」

「よし、腹が空いてるだろう? サンドイッチはもう出来てるから、食べてくれ」

アインズ様はそう言って背を向けて台所へ向かった。まだぼんやりとした意識の中、彼の背を眺めながら。

(愛されてるなぁ)

自覚する。もう本日何度目かの顔の火照りに焦って、急いでクッションに顔を埋めた。

「──ザナック、具材はベーコンとたまごとトマト……あとレタスだが……苦手なものはあるか?」

「いえ、ないです……ありがとうございます! 美味しそうですね……」

アインズ様は両手に皿を持って戻ってくる。

「味見はできないが……教えてもらったレシピ通り作ったから美味しい、はずだ。」

ことり、と机に置かれた皿には、たまごの黄色にトマトの赤、黄緑のレタスが色鮮やかに映えたサンドイッチが乗っていた。ベーコンは少し焦げていたけど…………うん、このくらいが香ばしくて美味しいからな。

「ほら、コーヒーも……熱いから気をつけて……な?」

コーヒーのカップからは、湯気が立ち上っている。

「はい、いただきます。」

ふーっと何度か冷ましてみる。

「ふーっ、ふーっ…………あ、つッ」

カップに触れると、コーヒーの温度で表面が熱くなっていた。

「うぅん……」

どうしようかと唸って首を傾げると、向かいに座ったアインズ様が眉間に指を当てた。

「どうされましたか、アインズ様? まだ、昨夜の疲れが?」

「いや……本当になんでもない……」

「そうですか……」

(また、無理してらっしゃるのか……)

余りが多いシャツの袖を使い、カップを安全に持って、コーヒーを一口含んだ。

「ん…………あち……」

(苦っ………………まぁ、これがよく目を覚ましてくれる。我慢だ我慢……)

ズズ、

カップを傾け過ぎて、ドバッと熱々のコーヒーが口に入ってくる。

「あちっっ…………ぐえ…………!」

念の為の確認に舌を出して指で触ってると、目の前のアインズ様がいつの間にか頭を抱えていた。

「あ、あの……本当に大丈夫なんですか?」

はぁ、とため息をついて、アインズ様が呟いた。

「大丈夫だ。」

「お、俺でよければ……アインズ様の疲れを癒しますよ!」

「大丈夫だ。もう五回ほど癒された。」

「え……五回!? まだ何もやってませんが!?」

「…………君は存在してるだけで可愛いということだ」

「……な、なるほど?」

(よく分からん……)

「それより、舌をやけどしたんだろ? 見せて」

「え? は、はい…………」

恐る恐る舌を見せると、骨の指がそれを捕まえて軽く引っ張った。

「もっと出して」

「ふぁい…………っ」

自分の精一杯で舌を伸ばした。

アインズ様に凝視されている。

何かコレ、めちゃくちゃ恥ずかしいのでは?

「……どこをやけどした?」

すりすりと舌先を擦られる。

「あう、そこ……れふ…………」

「…………そうか、分かった。

……軽傷治癒(ライト・ヒーリング)」

「───どうだ?」

「ん…………痛く、ないです」

「……それは良かった。……私は少し外で頭を冷やしてくる」

椅子から立ち上がり、アインズ様は突然そう言った。

「分かりました……? 俺、ここで読書してますから……行ってらっしゃいませ」

アインズ様は、「あぁ」とだけ返事して、転移で消えてしまった。一人残された俺は、サンドイッチを食べ始める。

レタスもシャキシャキしてるしトマトもみずみずしいし、たまごも甘くて、ベーコンはやけにザクザクしてて炭っぽいけど……これも、サンドイッチの味を深めている気がする。ソファの横。ブックシェルフに置いておいた本に手を伸ばす。

(頭を……冷やす、か…………?)

「ほっ、よっ……っと」

指先で掛けて本を引き寄せた。開いて、時折サンドイッチを口に入れながら、文章を目で追う。しばらくすると、窓の外からブツブツと何か聞こえてくる。見ると、アインズ様が頭を抱え、天を仰いで何か呪文のように呟いている。晴天の空と、色鮮やかな花々と、真っ黒なローブを羽織った骸骨。そのミスマッチさが、余計にその姿を可笑しく見せている。

「ふっ……ははっ……………可愛い」

なんだか苦しんでるようにも見えるが。

声をかけた方がいいのか。今度は深呼吸をしだした。呼吸、してないのに。まぁ……そんな気分の時もあるか。きっと疲れてるんだな。

よし、帰って来たら……癒してさしあげよう。

────数分後。

アインズ様は、玄関からとぼとぼとリビングまで歩いてきた。

「おかえりなさい……アインズ様……!」

「あぁ。」

片手を上げたアインズ様。どこか沈んだようなオーラを感じる。

「アインズ様……! 少し、いいですか? こちらへ」

手招きすると、アインズ様は小首を傾げる。

「どうした……?」

アインズ様はソファの側までくると、膝を着いて目線を合わせてくれた。少しだけ身を乗り出して──彼の歯にキスをした。

「貴方が居なかった少しの間……寂しかったですよ…………」

「な────にを……!?」

アインズ様は、口を押さえて後ろに身を引いた。

「キス、ですよ…………」

「そ、そうではなくてだな?! 何故こんなことを」

「アインズ様……挙動が可笑しかったので……何か独りで抱え込んでたり、我慢してたりしたんじゃないかって…………」

「だから、その…………癒したいんです……余計な、お節介ですかね?」

俺が苦笑すると、

「いや……すごく、良かったが…………吃驚したな……」

そう言いながら、両腕で俺を包んでくれる。

「アインズ様……我慢しないでくださいね。心配ですよ」

アインズ様の耳元でそう囁きながら、大きな左手をとって俺のお腹に押し付けた。

「────ッッ!?」

彼の歯に吸い付き、キスを落としていく。

「ザナック、ザナック……。ンッ、だめだ、これ以上は……ふ、はぁ……溢れそうに、なる……」

「何が……ですか……?」

「分から、ない…………だが、多分、気持ちが…………」

「溢れたら、何でだめなんですか?」

アインズ様の歯を吸うと、ちゅうっ……と音が鳴った。

「ウグッ…………とにかく、駄目だ。きっと……君に嫌なことをしてしまう」

「俺は、何をされても嫌じゃありませんよ……」

広いリビングにちゅっ、ちゅっ、といやらしい音が反響する。

「んっ……ザナック、そういうことを軽く言うのは、良くないぞ……?」

「この気持ちが"軽く"なんてないのは、アインズ様だって分かってますよね?」

「……っ。痛くて、怖い思いをしても、か?」

俺の腕を掴む骨の手に、グッと力が入る。

逆に俺は体の力を抜いて、わざと倒れ込んだ。

行き場を失った彼の手を掴み、胸へ沈めた。

「んっ、ふ………」

冷たくて、硬く太い指が俺の肉に食いこむ。

「………………」

アインズ様は一瞬黙ると、

……子供を諭すように真っ直ぐな声で言った。

「……こら、ザナック…………また、そんなことを。」

先程まで揺れていた赤い光が微動だにしない。俺の胸に置かれた手からは優しさだけが感じ取れた。

「では、お願いです…………触ってください……"旦那様"。……伴侶の我儘だと思って」

断られることを覚悟して言った。

(俺、こんなに駄々を捏ねたのいつぶりだろ。)

「まったく……可愛い我儘だ。だが、すまないな…………君の体調も心配だし、そろそろ洗濯をしないと」

毅然とした態度でそう答えられ、

「分かりました……」

折れるしかなかった。自分で自分を納得させた、つもりだが。どうしてもむくれてしまいそうになる。

「また、今夜も添い寝しよう」

彼は、そう約束してはくれるけれど

(そんなんじゃ足りない…………)

欲深い俺はそんなふうに思ってしまう。

アインズ様が去った後も、あの匂いが濃く漂っていた。

(寂しい……)

それは彼の残り香ではなく、俺が今朝からいつの間にか着ているオーバーサイズのワイシャツからだった。

「今更だがこれ、……アインズ様のワイシャツなんじゃないか…………?」

そう確信した瞬間、布をぎゅっとかき集めて鼻に押し付けた。すうっ……と肺に全部を取り込む。

「なるほど、やはり…………アインズ様の、匂い。」

なんでアインズ様はこれを俺に?

まさか、独占欲? マーキング?

所有欲……!?

そんなことをぐるぐる考え出すと、体が自然に火照ってくる。

「はぁ…………」

まるで、アインズ様にずっと包まれてるような感覚。

(体、熱い……っ、頭がぼんやりしてきた。……アインズ様に触られた時の事、思い出してしまう…………)

「アインズ様………っ、アインズ様……」

あ、やばい…………興奮してき────

ガチャッ……!

「どわあああああ!?」

ドアノブの音に反射で叫ぶ。

リビングの扉が突然開き、アインズ様がカゴを抱えて出てきた。

「───あ、ザナック。どうした? 変な声を上げて」

「あ、あ……アインズ様こそ」

ばくばくと暴れる心臓を抑えつけて、後ろに振り返る。

「あぁ。さっき、台所で使ったタオルも洗濯しようかと……」

「そ、そうですか……!」

声が裏返った。

「じゃあ、安静にしてるんだぞ?」

「は、ハイ……」

ワイシャツで隠れてたから、自慰しかけてたことはバレてない……はず。

 

 

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