ザナックが女装させられてます。
ロリィタです
洗濯物を干し終え、部屋に戻ると、
窓から見える空もすっかり明るくなり、どこかの木の上で鳥も鳴いていた。そして、ベッドの上には、シャツ一枚とドロワーズ姿で無防備に寝転がるザナック。
これだけで俺の一日は幸せになることが確定している。
「くぁ…………」
(綺麗な顔だな。)
前髪がめくれて、おでこが見えている。少しくらいはいいかな、と思い。そっとキスをした。
すると、グイッと引っ張られ、驚いてバランスを崩した。ザナックを潰してしまう前にベッドに両肘をつく。ギシッ……!
「あ、危なッ……い……」
ザナックに覆いかぶさってしまったが、怪我は無いようで安心した。
ザナックはむにゃむにゃ言いながら、俺の胸骨に猫みたいに頬を擦り付けている。
「んー…………」
(あ、甘えてる……ザナックが甘えてる!)
珍しいな、と思い彼の顔を覗き込んだ。
「ザナック……もうすぐ起きる時間だぞ?」
はた、とザナックの動きが止まる。
彼は寝ぼけ眼で俺を見上げて、ぽぽぽっ…!と徐々に顔を赤く染めていく。
「あ、アインズ様……っ、おはようございます………」
彼は目を泳がせているが、もしかして勘違いされてるかもしれない。どう考えても今の彼には、俺が寝込みを襲う変態骸骨にしか見えてないだろう。
「あの、俺……朝からは……その、でも……そんなに求められたら、」
ゆはり。
「いや、ザナック……誤解だ、たまたま転んでこうなったんだ……!」
苦しい言い訳過ぎる。
「そ、そうですか………。ですが……今日のでぇとの後なら………俺は、いいですよ」
ずっと思っていたんだが………。
昨日……俺が別荘を空けてザナックを放置してしまったことも、抱き潰してしまった後と言い、全くの誤解だが…寝込みを襲われたことと言い、ザナック…………懐が広過ぎではないか?
「あぁ、朝食は用意してある。着替えたら街に出ようか。」
「はい、」
ザナックは嬉しそうに笑って、俺の膝に乗る。首に腕を回し、ちゅっと骸骨の歯にキスをしてきた。
「ん………!」
口を開くと、小さな舌がほんの少しだけ絡みついてきて、俺も同じように舐め返すと、「ふふふ」とくすぐったそうな声が聞こえた。
「ふぁ……あいんずさま、…ん、……」
音を立てて舌を絡め、ザナックがびくっと反応したのを見て、俺はゆっくり口を離した。
「ザナック……」
「アハハッ、朝のキスです………」
そう言ってザナックは無邪気に笑った。
「俺には少し刺激的過ぎる……」
「キスくらいなら、いつでも歓迎ですよ」
「あぁ……全く、君はもう………愛おしいな」
俺はザナックの小さな手を握りつつ、ため息を吐いた。
───朝食後。
「ぁ、あ、あの………ほんとに、俺がコレを着るんですか……?」
髪をゆるく巻いたザナックは下着姿になっていた。そして、ブルーのロリィタドレスを見て小動物のように震え上がっていた。
「あぁ。外は少し寒いからドロワーズを重ねて……これを履いて」
パニエにおずおずと脚を入れるザナック。
「うう……」
「ふふ、見てくれこのカフス! こんなにちっちゃくて可愛くて、きっとザナックに似合うぞ」
ドレスは全て淡いブルー系で統一してある。ジャンパースカート、数層のフリルの合間に彼をイメージした黄色い薔薇が飾られたハーフボンネット。リボンを顎の下で結んであげると、ザナックが小さく呟いた。
「やはり、こういうのは似合いませんよ……俺」
金色の前髪の隙間から、うるうるしたエメラルドグリーンの瞳がチラッと見える。
(お人形さんが喋ってる??)
「え……?こんなにすごく可愛いのにか!?」
思わず声をあげると、
「ふぇ……? え、あ……そんなに、アインズ様が、そう言うなら……まぁ……」
フィッシュテールのスカートから覗く白い太もも。ガーター付きのサイハイソックスに包まれた脚がもじもじと嬉しそうに擦り合わされた。
(ザナック、ちょろかわいい)
街へ出ると、やはりザナックはまだソワソワしていた。
「こ、こんな目つきが悪くて太った男が女装して歩いてるなんて……アインズ様が笑われでもしたら……」
「そんなに心配することは無いよ」
「あ、アインズ様………」
「君は今、女の子しか見えない。ふっくらしてて小柄なのが余計に、そう見せてる。」
そう自信満々に言うと、ザナックはすん……と真顔になった。
「男として悲しいです。」
「君は世界一可愛いのに、どうしてそんなに自信が無いのか……」
「あの、アインズ様……あんまり大きな声でそんなことを言わないでくださいっ……。それに……アインズ様のお召し物だって、似合っていますよ?」
俺はザナックと色を合わせたかったが、彼と同じパステルカラーの青は流石におっさんにはキツイ。落ち着いた色が好きなので、今日は紺色にまとめた。茶色の長衣にベルトと、紺のローブ。地味だが、彼を引き立たせることが出来てるのでむしろ良い。それにしても本当に女の子にしか見えないな……ザナック。いつもの事だが隣にいるだけでいい匂いするし。目当ての宝石店に行くまで、俺たちは無言で隣を歩いていた。
「………」
「……………」
キスしたい。金色の髪とハーフボンネットから覗くふっくらした凛々しい横顔。昼が近づいた陽の光に照らされて、逆光になっていた。
彼からどうしても目が離せない。ちっちゃくてやわい桃色の唇。キスしたい。
「あ、あの……そんなに見られると、やはりどこか変ですか……?」
ザナックが足を止め、俺を見上げてぎこちなく笑った。
「いや、違うんだ……っ、ただ、キスしたいと思って。」
俺は咄嗟にザナックの肩を掴んだ。
「っ……今、ですか? でも……キスなら、いつでもって、言いましたからね……」
彼は目を見開いて驚き、俺の手を引いて道の端に寄り、「どうぞ」と目を瞑った。ちゅ。と小さく音がして、すぐに唇から離れた。
(ザナック、やわらかいな……)
「あの、俺からも……いいですか? て、手を繋いで……ほしい、んです…」
上目遣いでそんなふうにねだられて、俺は浄化されそうだった。
(か、かわっ、かわわわ………)
「もちろんだ。」
すぐに骸骨の手を差し出した。ザナックは、ふふん、と子供みたいににんまりとして小さな手を乗せ、握り込んで機嫌よく歩き出した。宝石店につくと、緑のエプロンを着けた茶髪の髭の男がニコニコで出迎えてくれた。
「おお、時間ピッタリですな」
ザナックが横で不思議そうに首を傾げた。
「予約してほんの少し店を閉めて貰ってるんだ」
「ええっ?! あ、あの、指輪買いに行こうって言ったの昨日ですよね??」
「いや……結構前から考えてたんだ。昨日はさも今思いついたかのように言っただけだ」
照れくさくて、頬をかいた。
「魔導王陛下、そちらのお方が奥様ですか?」
店主がザナック見て言った。
「奥様……」と小さく繰り返し、ザナックは、ぽぽぽっ…と赤くなっている。今、俺は…ザナック以外には人間の男に見えるように魔法を使用している。だから、店に入った時止められなかったので驚いた。名乗る前に呼ばれたものだから。もちろんこの男にも俺は人間に見えてるし初めて見せた姿で、この男はひと目で俺を魔導王だと見抜いたのだ。
「………あぁ」
「とても可愛いらしい方ですね」
(───コイツ、良い奴だ。)
「ふっ、そうだろう……この服も俺が見繕ってな、恥ずかしがってたのに結局着てくれて……」
「お二人はとても仲がよろしいのですね……うちのカミさんは怖いですからね、羨ましいです」
「「ははははっ」」
ヒゲの店主と笑いあっていると、後ろのザナックが"また、惚気けて…!"と言いたそうな、今にも噛み付いて来そうな子犬みたいな顔をしている。是非噛み付いてほしい。
「彼に合うサイズのものを、ルビー……いや、ガーネットをお願いしよう」
「えぇ、最上級の一品を仕上げさせていただきます」
店主が店の裏に消えて、ソファに座り待っていると、ザナックが口を開いた。
「あ、あの………もしかして、今オーダーメイドで作ってるんですか?」
「あぁ、俺は"センスが変"らしいからな……いちからプロにやって貰った方がいいだろ?」
「……なるほど、」
(彼にも否定されないあたり、本当に俺センス悪いんだろうな………たぶんこのドレスも選ぶのをほとんど服屋に任せたことバレてるだろうな)
────二時間以上は経った頃。
俺は小さな箱に包まれた指輪を受け取った。
「またお越しください」
十分に前払いしたが、店主に礼にと余分に無理矢理渡し、店を後にした。
くきゅるるる……。隣を歩くザナックのお腹が食べ物を求めている。
「うっ、すみません………でも本当に腹が減ってて」
「あぁ、何が食べたい?」
「に………………にく。」
ザナックは項垂れてげっそりした顔ではっきり言った。
「っ、ふふ、分かった。ステーキが美味い店に行こうか」
───適当な店に入る。ザナックはステーキが席に着くなり必死にリスみたいに頬張る。相変わらず食事の所作は綺麗だが、相当腹が空いてるらしい。俺はその姿を思う存分眺めた。
「満腹です……とても美味しかったですね! ふふ、ふふふ」
ザナックはふわりと心底幸せそうに微笑んだ。
リボンが風になびく。黄薔薇とフリルが装飾されたハーフボンネットとフリル、レース、フリルの順番で重ねられたフィッシュテールのドレスが相まって、まるで天使。いや、聖母のように見えた。お腹いっぱいの聖母かわいい。お肉でこんなに喜んでくれるなんてな。大丈夫かな、お肉でつられて誘拐されたりしないかなこの子。俺が守らねば、なんて思いながら、ザナックの隣を歩いていると。
「ねぇ、そこの小さいお嬢さん、」
通りがかりの男がザナックに気安く話しかけながら近づいてきた。俺が見えて無いのか? いや、地味な服を着てるから従者だとでも思われたか。舌打ちでもしてしまいそうな気持ちを抑えて、一瞬だけ催眠魔法を解いて、骸骨の姿に戻り、男を威圧した。
「ヒィィッ……!! あ、あはは、今日は良い天気ですねぇ……!」
フッと浮かんだ俺の骸骨の顔を見るなり男は顔を青くして、怯えた声を発し、よたよたと後退ってからそのまま走り去っていった。
「……は? なんだあいつ………」
ザナックは眉を顰めて怪訝な顔をしていた。
一瞬でもあんなものが彼の視界に映り、あまつさえ彼の記憶のほんの一部にも入り込むなんて。消してあげたいけど、勝手にそんなことする訳にもいかないし、彼は嫌がるかもしれない。
「ザナック、もう一度キスしていいか?」
「えっ……うぅ、いいですけどっ………外ですから、また、少しだけですよ」
ザナックはふんわりと色づいた頬に手を当てて恥じらっている。
「あぁ、分かってる……」
路地裏でザナックを壁に押し付け、指で口を開かせて口付けた。
「ふぁ、あう? んんっ……」
彼が戸惑っている隙に舌を入れ、逃げる小さな舌を捕まえ、軽く舌を絡ませた。
「ン、ぅ……だめ、ぅ……んむっ…あ……」
「………」
(ザナックは俺のもの。俺のもの俺の、俺の、)
「んん〜〜っ!」
ぽかぽかと胸を殴られて、ザナックを支えつつ離してあげた。
「な、なんっ……で、すこし、って、言った、のに…………」
涙声でザナックは訴える。泣いてはいるが、怒ってる訳ではなく、ただ困惑してるだけのようだ。
「すこしだけしか口付けてないだろ?」
「す、すこしって……舌、入れたじゃないですかっ……嘘はつかないでください!!」
ザナックは口を押さえて叫んだ。
「……ごめん。」
「いいですけど、外ではあんまり、深いキスは………だめです」
「……ハイ。」
反省。