ザナック視点。
リビングにはカスタードとりんごの甘酸っぱい香りとパイ生地の香ばしさが満ちていた。アップルパイを切り分けているとアインズ様が語り始める。
「ザナック、今日でこの別荘から離れることになる。だから、記念と言ったら大げさだが、ここでできることをしないか?」
まぁ、君とふたりになりたい時には戻るが……とアインズ様は付け加えた。
「ここで、できることとは?」
俺は、自分の皿にアップルパイを取り分けながら聞き返した。
「色々考えてみたんだが、聞いてくれるか?」
「えぇ」
─────────
アインズ様が提案したのは、周辺の森で果実を収穫しつつ自然を感じる。夕食を外で食べる。リビングで交合うというものだった。
「ちょっと最後のは何を仰られてるかよく分かりませんが、……森へは行ってみたいですね……」
「だって風呂と俺の部屋でしたんだしリビングでも……」
「リビングは寛ぐところですが?」
呆れた俺が即答するとアインズ様はしょんぼりと、ダメか……みたいな顔をした。彼は骸骨なので……憶測だが。
「この魔法もいつ解除されるか知らないし……」
アインズ様は骸骨の歯を開けて、ちらっと見えた舌を指さした。
「………まぁ、色々お疲れでしょうし、そういう機能が無くて今まで溜まっていたのも理解出来ますけど…………こ、こんな朝から、しかも直接……。夜に何気なく誘っていただければいいのに…」
顔が熱くなる。俺が呟くと、アインズ様は両手でわきわきと謎の動きをさせながら少しづつ迫って来る。
「……」
「今はしませんよっ!?」
アインズ様の動きが一瞬止まり、首を傾げた。
「そんなかわいい仕草しても駄目です!」
一時間後、俺とアインズ様は別荘近辺の森の中に来ていた。風が深い緑の葉を揺らしている。
「アインズ様、葡萄がなっていますよ」
ツタが絡み、ぷっくりと幾つもなった紫色の葡萄に手を伸ばした。俺は背伸びをして指をかけようとする。だが、後ろから籠を持ったアインズ様が来て、
「届きそうか?」
と心配された。
「も、問題ありません」
俺の背伸びしても届かない距離。
「ザナック」
ぽん、と頭に重み。撫でられた。
骸骨の手が伸び、葡萄をサッと取って俺に手渡す。
「あ………すみません、いや、ありがとうございます」
「籠を頼めるか?」
「はい……」
俺が籠を受け取ると、アインズ様は次々と葡萄を採っていく。ザナックこっち、と呼ばれれば側に寄り、籠を差し出す。
「なんだかワインが欲しくなるな………飲めないが」
たくさんの葡萄に囲まれ、アインズ様が呟いた。
「あの、今夜用意しますよ……夕食の後に、どうですか?」
「あぁ、それもいいな……」
「この収穫したものは菓子にしましょう」
葡萄も籠いっぱいにだいぶ採れた。
パン、クッキー、ケーキ。想像だけで腹が空いてくる。その時、びゅうっと風が吹き、紺のローブを揺らし波打たせた。
「う……っぶぇっ、くしゅッ……うあぁ」
ずずっと鼻をすすっていると、背後から抱き寄せられてアインズ様のローブの中に入れられた。温かい。
「……そろそろ、戻ろうか」
「はい、」
そっと骨の手の甲が頬を掠めた。
擦り寄ると、俺の息がかかったのがくすぐったかったのか仕返しをするように顎をくすぐられた。猫扱いされてる気がする。手首のあたりにキスをすると、頬を指で揉まれる。怒られたか。
「………はぁ」
アインズ様は呆れたのかため息を吐いて、さらに俺を強く抱き締めた。
「────
アインズ様の転移魔法で別荘へ戻ると、俺はすぐに昼食の準備をした。
「アインズ様、昼食はかぼちゃのスープとグラタンですよ」
スープを混ぜつつ、リビングで座って待ってくれているアインズ様に笑いかけた。
「甘くて優しい匂いがするな」
─────────
昼食をとって、食器も洗い終わった頃。俺は眠くなってソファに倒れて沈み込んだ。
「アインズさま………すみません、すこしだけ……」
「今日は出かけたからな。お疲れ様……ザナック……」
毛布をかけてくれようとしているアインズ様を最後に見て、俺は眠りについた。──目を覚ますと、辺りは真っ暗だった。何も無い、見えない。
「あ、れ………夜? アインズ様……」
(違うな……この感じは、アイツのところか?)
のそりと立ち上がり、見渡すと───
空間の隅?に真っ白でぶかぶかなシャツを着た奴が居た。それも蹲って団子みたいになって。
「おい……今回は何の用だ?」
「な、わっ……呼んでないわ!! お前が勝手に入って来たんだろっ!」
「というか………なんでそんなふうになってるんだ?」
「う、うるさいっ………こっちにはお前の記憶が濃く残ってるんだよッ………」
ヤツは震えたまま答えた。
「何を言ってるんだ……?」
「あ、アインズ様に……抱かれただろ………」
口元に手を当ててヤツは顔を赤くした。
乙女か!!
「だって………アインズ様に……アレが生えるとかそんなこと想定してなかったし……思ってたよりすごく太くて大きくて………」
だから乙女かよ、
恥ずかしいからやめてくれ。
「優しくて……あんなに気持ちいいこと…………知らなかった」
ヤツは脚を擦り合わせて、顔を両手で覆ってぶんぶんと頭を振った。
もじもじするな。
「お、お前も冷静なフリしてるんじゃないぞ!! こ、ここ……今夜また抱かれるかもしれないんだぞッ!? い、色々風呂で準備しないとっ………でもアインズ様もいるし、見られたら羞恥で死ぬ……」
「ふっ」
目を細め、俺は思わず笑みが漏れた。
俺ってこんなに気持ち悪いんだな……と
「気持ち悪いって……だから、同一人物だって言ってるだろ」
(考えてることも分かるのかよ……)
「当たり前だろ……」とヤツは地面にぺたんと伸びた。
「そんなこと言ってる割に、ソレ気に入ってるんだな」
奴が着ているオーバーサイズなシャツ。明らかにアインズ様のものだ。
「………悪いかよ」
「いや、気持ち悪いな」
俺がそう言うと、ヤツがぐぐっ……と眉間に皺を寄せ、俺に手のひらをかざしたかと思えば拳を握り、
強く頬を殴られた。目の前が少しづつ少しづつ、明るくなっていく。
──目を開けると。
目の前に、骸骨の顔。
アインズ様……? 近ッ!!
「〜〜〜っ!?」
驚いて顔を上げると、ゴツッと額をぶつけた。
「い、ッ……痛ッッ」
何回か瞬きをして、アインズ様を見ると、申し訳なさそうに手を彷徨わせていた。
「………すまん」
「ど、どうされました……? アインズ様……」
「いや、寝顔が可愛いから……見てただけだ」
「……あの、一緒に……座りますか?」
俺は起き上がり、隣をぽんぽんと叩いた。
「……じゃあ、」
アインズ様はソファにゆっくり腰を下ろして、俺をひょいと抱き上げて膝に乗せた。
「………!」
「君は温かいな……小さくて腕の中にすっぽり収まる。」
腹のあたりに腕が回って抱き締められた。
「アインズ様も、温かいですよ……」
「そうか? だとしても……魔力なんじゃないか?」
「魔力も貴方の一部です………アインズ様はあたたかい人ですよ」
「君もあったかい人だぞ」
骸骨の歯でキスをされた。返そうとすると、顎を引かれた。
「……なんで引くんです」
彼と向き合うように抱きついて、追いかけてキスをした。大きな手が髪を梳くように撫で始める。
「ん……」
「………このままもう一度寝るか…?」
「いえ、もう少ししたら夕食を作ります………」
強請るように、軽くキスをする。アインズ様は俺の口をこじ開けるように舌を入れて来た。
「ザナック……」
「ふぁ………ぅ、うんん……っ」
調子に乗ったせいか、ガッチリ腕の中に拘束される。
「ん、ぐ」
大きな舌がさらに入り込んで来て、歯列をなぞられ舌を吸われ……。食われるようなディープキスからは、俺が腰を抜かした頃に解放された。
今日は、彼に貰ったピンクのフリルエプロンを着ける。台所に立って今日の夕食のハンバーグを焼いていると、アインズ様はまだ俺を構い足りないのかいつの間にか左後ろに佇んでいた。
「アインズ様……? もう少しお待ちいただけますか?」
「綺麗だな」
「……? ええ、初めてですが綺麗な形に出来ました」
ハンバーグのことかと思い、手でさすと左手首を掴まれ、手の甲に口付けをされた。
「なっ、な、なんで急に……ッ」
「君が綺麗だ」
「い、意味が分からないです……」
突拍子もなさすぎる褒め言葉。
「いや、なんだろう……家庭って…家族ってこんな感じなんだな、と」
そんな事を言いながら、ちゅ、ちゅ…と手首や指に何度もキスが降る。
「あう……………言ってることは分かりますが、コレは、」
「君がくれたものに対する、お返しだ」
「くれ、たって……俺が、何を?」
「……言葉には出来ない、難しいな。だから、こうやってるのかもしれない」
そう言ってアインズ様は手のひらにも柔らかくキスをした。眼窩の赤い光に睨まれて、俺は胸をぎゅっと締め付けられた。
「いや、料理が進まないので!!」
十五分後。ハンバーグも完成し、食卓にふたり並ぶ。
「とにかく肉が美味しい………」
肉を頬張り、思わず目を細めた。じゅわりと脂が溢れ、香ばしい匂いが口に広がった。アインズ様も心なしか嬉しそうだ。
「牛肉しか使ってないからな……君の料理は盛り付けが美しいから見てるだけでも満たされるな」
「あ、ありがとうございます……まだ拙いですが………アインズ様に喜んでいただけるなら、これからも練習します……」
「……そうだ、ナザリックに戻ったら、料理長に教えて貰うのもいいかもな」
顎に手を当てて、アインズ様は考える素振りを見せた。
「い、いいんですか……? プロに教えていただけるのは楽しみです……!」