※この作品はR-18です。

魔法界事件簿   作:闇祓い局の男

2 / 3
『オーラー・オフィサーと闇の事件簿』に続く魔法界事件簿シリーズ第2部


オーラー・オフィサーと火刑の杖

 

 夕暮れ時、静かな田舎町にて4つの物体が高速で宙を移動していた。先頭のそれを追うように、あとの3つが光線で攻撃する。

 追われている白い仮面の男は箒に乗ったまま廃工場の扉に向かい、それを開けることなく中に姿現しして飛ばし続けた。追手のひとりが杖を振ると扉は鎖が弾けて勢いよく開く。廃工場の柱の間を逃げる白仮面は追手に距離を詰められると、左手の柱を一周回るようにドリフトしながら箒の先を持ち上げて減速する。白仮面は垂直に浮く箒の足かけに立ちながら、横を通り過ぎたひとりの追手の背後に拘束呪文をかけ、相手は柱と箒をロープで繋がれて派手に転んだ。白仮面は垂直の箒をそのまま真上に飛ばし、廃工場の天井に空いた隙間から空へ舞い上がり、2人の追手がそれに続いた。空中を蛇行する箒チェイスが繰り広げられる中で追手が光線を放ったとき、白仮面はまた箒の先を持ち上げ空気抵抗を腹に受けながら一気に減速し、攻撃を回避しながら追手の後ろに着き杖を向けた。

 

「コンフリンゴ(爆発せよ)」

 

 するとひとりが乗る箒の後部が炸裂して炎上し、彼は箒を離れて手足を広げながら地上へ落ちていった。白仮面は落下する方を追い、それを見た残りの追手が後をつける。落ちる男は地面に触れる前に一度静止し、地に足をつけると上から向かってくる白仮面に杖を向けた。

 

「アバダケダブラ!」

 

 放たれた緑の光線を白仮面は避け、その後の追手もギリギリのところで回避した。

 白仮面は地上の男の胸ぐらを掴むと箒を飛ばして引きずり回すが、追手の放つ呪文を受けて箒から落とされた。広い草原を転がるとその勢いを使って立ち、向かってくる追手に武装解除をかける。追手は杖を失うが、真っ直ぐ白仮面に突撃した。白仮面はそれをかわし、すると追手は男の周りを回りながらからナイフをチラつかせる。追手がまた突っ込んでくると、白仮面は箒の先を掴んで抑え、制御を崩して相手を振り落とす。その動きの延長で箒を大きく振り回すと、落とされた追手の頭に勢い良くヒットさせ、その軌道のまま箒を回転させて脚に挟み宙を舞った。

 

「ホメナム・レベリオ(人現れよ)」

 

 白仮面が唱えると、先程緑の光線を放った男が草原から見えない力に引っ張られて現れるが、彼が杖を振るとそれは解けた。追手から逃げ手に変わった彼は白仮面が落とした箒に乗って空を逃げる。白仮面はその箒か遅いことを知っていた。逃げる彼にすぐ追いつくと後ろの襟を掴んで箒から引きずり下ろし、廃工場まで引いて戻ると投げ飛ばす。彼は地面に転がるとすぐ立って煉瓦の壁に背中を張り付けた。

 

「し、しつこいぞ!!! 貴様になんの義理があってこんなことをする!!! 誰だ!!!」

 

 彼の主張に興味などなさそうに、白仮面は杖を向ける。

 

「最期の太陽を拝め」

 

 白仮面の言葉のあと、強烈な光が男を焼いた。

 

 

 

 

 

 黒煉瓦の部屋の冷たい床に、畳が10畳置かれていた。

 座禅を組む背の高いアジア系の男はゆっくり目を閉じると、ゆっくり息を吐く。その背後に、別の男が忍び寄る。茶髪をポニーテールにした彼はゆっくり杖を抜くとアジア系の男に向けた。

 

「タラントアレグラ(踊れ)」

 

 するとアジア系の男は目を開けてそれを回避し、後ろの男に接近しながら立つ。誘導するように左に動くと、相手が2撃目を放つと同時に右へ避けて距離を詰め、素手で杖を奪った。

 

「悪いなフェリックス、また勝った」

 

 とアジア系の男。

 

「悪いねカリム、僕は本気出してない。勝つ気なら無言呪文でやったよ」

 

 ポニーテールの男が返した。

 

「またまた」

 

 カリムはフェリックスに杖を返す。

 そのとき別の茶髪の男が部屋に入ってきた。

 

「どうしたアシュクロフト、事件か?」

 

 カリムが聞く。

 

「まだやってたのか、南部で殺人事件だ。現場はノーク製紙の工場で、レイエス&ノットの子会社が経営してる」

 

 アシュクロフトの返答を聞いたカリムはすぐに部屋の隅の机に向かい、杖の入ったショルダーホルスターをウエストコートの上に付けるとジャケットとコートを着る。フェリックスも杖を袖にしまうと2人はアシュクロフトに着いて部屋を出た。

 

「マグル式戦闘術ハマってるじゃん」

 

 廊下を歩きながらアシュクロフトが言う。

 

「絶対みんなやった方がいい」

 

 とカリム。

 

「デンブライトに格闘で負けたからか?」

 

「なんだ、俺なら勝てたとでも言いたげだなアシュクロフト」

 

 3人がエレベーターで移動して、フェリックスとアシュクロフトがアトリウムの暖炉に向かおうとしたとき、カリムは足を止めた。

 

「あれ車じゃないの?」

 

 カリムがふとそう言うと、アシュクロフトがため息をついて振り返りなにか言おうとしたが、フェリックスが先に口を開いた。

 

「姿現しできないの?」

 

「姿現しで行くつもりなのか? マグルのカメラに写ったらまた事故参事部に何時間も文句言われるんだぞ」

 

「田舎なら大丈夫でしょ」

 

「ロンドンから南部の田舎までの距離を移動できるのか? そもそも行ったこともない場所に姿現しはできないだろ」

 

「注意欠陥症くんは姿現しが怖いだけじゃないの?」

 

「素直に間違いを認められないのか?」

 

 そこにアシュクロフトが割って入る。

 

「お前らガキか? 使うのはポートキーだよ。現場の惨事部がビーコンを設置したからフェリックスの腕時計で移動できる。だろ?」

 

 アシュクロフトがフェリックスを見ると、彼は申し訳なさそうになにも着いてない腕を見せた。

 

「ごめん、まだ見つかってない」

 

「はぁ? お前はどうやって行くつもりだったんだ?」

 

「姿現しか、最寄りの煙突までフルーパウダー使うのかと」

 

「煙突はねぇよ。じゃあ車だ行くぞ」

 

 アシュクロフトがそう言うと、3人はエレベーターまで引き返した。

 

 

 

 古い工場は一見廃墟だったが、煉瓦造りの門をくぐると機械が動く音が聞こえた。そこではすでに魔法警察部隊の捜査官が魔法事故惨事部の人たちと共に現場検証をしていた。

 カリムはポケットから錠剤の入った小さな箱を出し、そのひとつを飲む。

 

「なにそれ?」

 

 アシュクロフトはカリムが飲む錠剤を見た。

 

「アシュクロフトも飲んどき。運が回ってくるよ」

 

 カリムはそう言ってひとつをアシュクロフトに渡す。

 

「わお、いかにもマグルの薬の箱だな」

 

「そんなに警戒しないでいいよ、僕も飲んでる元気薬みたいなもんよ」

 

 そう言われてアシュクロフトは錠剤を受け取ると、渋い顔をして横目でカリムを見た。

 死体の前で屈んでいた警察部隊の捜査官は、近づいてくるカリムとアシュクロフト、フェリックスの姿を見てわかりやすくため息をつくと、持っていた杖をジャケットの裏にしまって立ち上がった。

 

「おいおいまた闇祓いか……今回も闇の魔術が使われた形跡はないですよ、お引き取りください」

 

 捜査官が、カリムたちの前に立って言った。

 

「闇祓い局のイムと、こちらはアシュクロフト。そして彼は調査補佐のヘイズです」

 

 カリムがぱっとIDを見せると工場の外観を見渡す。

 

「話聞いてました?」

 

 捜査官がムッとした表情でカリムを睨んだとき、ヒスパニック系の細身な女性が杖をくるくる回しながら間に入ってきた。魔法事故惨事部のスキナーさんだ。

 

「私が呼んだのよ。この工場の親会社、彼らが捜査してるところみたいなの。あら? アシュクロフトさん闇祓いに転属になったのかしら?」

 

 アシュクロフトは聞こえなかったようで、彼女に見られてることに気づくと急いで口を開く。

 

「あ、どうもスキナーさん」

 

 アシュクロフトはそう言いながら現場の遺体を見る。スキナーさんはそれ以上聞かなかった。

 工場の煉瓦の壁にもたれかかるそれは明らかに焼死体だが、皮膚は溶けたようにただれていた。それを見ていた警察部隊の捜査官が咳払いをする。

 

「最近同様の焼死体が多く出ているので、連続殺人でしょうね。普通の焼け方ではないですが、悪霊の火のような闇の魔術ではない。そうでしょう?」

 

「さぁ。今日は詳しそうな奴を連れてきた」

 

 アシュクロフトがフェリックスを見ると、フェリックスは死体の前に屈んで杖をかざした。

 

「左腕に破れぬ誓いの跡がかろうじて残ってますね。見るからに、これは火ですらないです。この垂れ下がった皮膚は強い熱線が皮膚の水分を一瞬で蒸発させることで起きます」

 

 フェリックスはそう言いながら死体の垂れた皮膚を杖でつついた。

 

「なんにしろすぐわかる」

 

 とカリムは曲がった杖をキセルのように咥える。

 

「アパレ・ヴェスティジウム(足跡現れよ)」

 

 杖から吹いた金粉が舞うと、それらは地面で足跡になり、そこから犯人像が浮かび上がる。長いコートを着た男は仮面で顔を隠していた。

 

「死喰い人の仮面に似てるけど、白塗りされてる」

 

「この犯人の写真を撮ってもらえますか?」

 

 フェリックスが警察部隊のカメラを持つ捜査官に頼むと、彼は古いカメラを構えて閃光器を焚いた。

 

「ウィーズリー製の盾の手袋をつけてる」

 

 とアシュクロフト。

 再現された仮面の男は杖先から出る強烈な光で被害者を焼くと、地面に落ちていた箒を拾って歩きはじめ、途中で姿くらましをした。

 

「箒は旧型のクリーンスイープ。おそらく第5世代」

 

 カリムが言う。アシュクロフトはその全てをしっかり見ると、杖を自分のこめかみに当てて記憶を引っ張り出し小瓶に入れた。小瓶には『証拠』と書かれたシールが貼られていて、そこに万年筆で『ノーク製紙、現場』と書き加えた。

 そのとき大きなブレースの作業服を着た男性が3人の前に現れた。

 

「ここを管理してるミューレンだ、フィニアス・ミューレン。通報したのも俺」

 

 カリムは男性と目を合わせると手帳と羽根ペンを取り出し、ペンの先を咥えて手帳に当てる。するとペンが浮いて手帳の上で自分でに動き出し、カリムの発言通りに続けた。

 

「10月3日、ノーク製紙工場焼死体事件。依頼者はフィニアス・ミューレン氏」

 

 するとカリムはやっとミューレン氏に頭を下げた。

 

「僕は闇祓い局のイム、こっちはアシュクロフトです。ここの親会社はレイエス&ノットですね」

 

「そうだけど」

 

 彼らの会話を、羽根ペンは正確にメモ帳へ記す。

 

「今回の事件に関して心当たりのあることがございましたら是非……」

 

「さっきも警察部隊の人に言ったよ。出勤したらしもべ妖精たちが死体を囲ってたんだ、それしか知らない」

 

「ここは私法人の工場ですよね。ちょっとこちらによろしいですか」

 

 今度はアシュクロフトが質問しながら、工場の中に入る。カリムとミューレン氏も後に続いた。

 

「そうだよ。うちは羊皮紙作ってる会社だけど、この工場はおたくや日刊予言者新聞向けに植物由来の紙を製造してる」

 

 とミューレン氏。

 

「ここの従業員は人よりしもべ妖精が多いように見えますけど、『エルフ法』はご存知ですかね?」

 

 とアシュクロフト。

 

「なんて?」

 

「あんたも難聴ですかな? エルフ法ですよ。雇っていい屋敷しもべ妖精は人間の雇用者と比率が定められてます」

 

「あ、ああ。ここに見えてるしもべ妖精が多いだけだよ」

 

「それじゃ工場中を見て回ってもよろしいですか?」

 

「あ、いや……」

 

 ミューレン氏はあたふたしはじめ、それをアシュクロフトがため息をついて睨む。

 

「経営者が人件費削減に屋敷しもべ妖精ばかり雇うと魔法界が失業者で溢れるんです。それで税収が減ったら俺たちの給料にも響くので守っていただきたい」

 

「そ、それじゃホグワーツはどうなんだよ?」

 

「ホグワーツ? 公の機関は保安上の都合で信頼がおける屋敷しもべ妖精を雇うとか、そんな理由だった気がしますね。おたくは私法人だからこれに該当しない、違法だ」

 

 アシュクロフトはしもべ妖精だらけの工場に手を広げた。

 

「なるほど……」

 

「あんた責任者じゃないですね。責任者はどこ?」

 

 アシュクロフトの問いかけにミューレン氏は答えない。

 

「なんで隠すんですか?」

 

「い、いなんですよ。不在です」

 

 彼の下手くそな嘘にアシュクロフトはため息をつきながら杖を抜き、カリムに目で合図する。カリムは手帳と羽根ペンを回収すると、袖の杖を背中で抜いてこっそり沈黙呪文をミューレン氏にかけた。続けてアシュクロフトが杖を上に立てる。

 

「ミューレン殿、これは開心術使用許諾願いの手続きです。あなたには拒否権があります。今申告しない場合、承諾したものと見なします」

 

 それに対して彼は答えない。というより答えることができなかった。アシュクロフトはそのまま続ける。

 

「開示請求を受けた場合を除き、私は視たものをあなたの許可なく第三者に伝えることができません。開心術を受ける間あなたはその記憶を追体験します。開心を拒否しますか?」

 

 ミューレン氏はなにか言いたげに口を動かすが、声は出なかった。

 

「被術者の承諾を確認。レジリメンス」

 

 アシュクロフトが彼に杖を向けると、彼の目線が上の空を向いた。その状態はすぐに解け、アシュクロフトは杖を下ろしカリムを見る。カリムは杖を立てて口を開く。

 

「開心内容の開示を正式に要求します」

 

「開示請求を承認。責任者は事務室の奥に隠れてる」

 

「おっけい。ホメナム・レベリオ(人現れよ)」

 

 カリムが事務室のある方に杖を向けて詠唱する。

 

「いた。アクシオ(来い)」

 

 すると、壁の向こうからなにかがぶつかったり倒れたりする音が派手に響き、勝手に開いたドアから1人の中年男性が見えない力に引きずり出されて現れた。カリムは彼の襟を掴んで立たせ、胸に着いた真鍮の名札を見る。

 

「こんにちはカリダス・ティンバーレイクさん」

 

「ティンバーレイク?」

 

 アシュクロフトが驚いて彼の顔を覗く。彼は2人の闇祓いを見てため息をついた。

 

「ああ、兄の会社はあんたたちのせいで潰れた」

 

「マサイアス・ティンバーレイクの弟か。悪いがここの雇用者リストを見せてもらおう」

 

 脅すように杖を向けるアシュクロフトが言う。

 マサイアス・ティンバーレイクは去年アシュクロフトが魔法不適正使用取締局に務めていた頃カリムと逮捕した元デンブライト証券取締役の男だった。

 カリダスさんは諦めた表情で事務室を指さした。

 

「事務室にあります」

 

「案内しろ」

 

 アシュクロフトが言うと、カリダスさんは事務室の方へ戻った。それに続く2人の闇祓いは、事務室に入るとき入口の角から杖を拳銃のように構えてクリアリングし安全を確かめる。カリダスさんはその様子を見て鼻で笑い、自分のデスクから資料を出した。アシュクロフトはその資料を取るとパラパラめくって魔法使いとしもべ妖精の比率を確かめる。

 

「妖精の半数以上が非正規なのはクサいな」

 

「魔法省の転勤室より民間の方がサポートが厚いのでね。妖精のケアや交換までやってくれるんですよ」

 

 とカリダスさん。

 

「……でも……ちゃんと人間を正規の人数雇ってやがる」

 

「ならいいじゃん」

 

 とカリム。

 

「良くねぇ、月20ガリオン払う代わりに名前だけ在籍させる要員を持ってるだけだ。これで大人数の屋敷しもべ妖精を合法的に労働させられるし、名前だけの要員に払う人件費を含めてもまともに人間を働かせるより圧倒的に安く済んでる」

 

「なるほど……ウィゼンガモットに報告か。ところで、それならなんで隠れてたんですか?」

 

 カリムが杖を向けると、カリダスさんは目を合わせず首筋を掻いた。

 

「そりゃ、突然押し寄せられたら怖いでしょうよ」

 

「工場で死人が出たら法執行部が来るのは当たり前でしょう。今回の事件についてなにか知っているんですか? ぜひ教えてください」

 

 するとカリダスさんは黙って視線を落とす。

 

「あ、もしかして」

 突然カリムは死体の方に戻っていった。フェリックスが立ち上がって死体から離れる。

 

「ちょっとわかったかも。非正規妖精の入手経路が黒だから隠れてたんだね」

 

 カリムはそう言いながら死体に杖を向ける。

 

「破れぬ誓いが左腕についてる人は今まで1人しか見たことがない。レベリオ(現れよ)」

 

 すると足跡出現呪文のときにできた金の粉が再び現れ、死体に被さってそれと同じ形をつくる。それは逆再生して立ち上がり、焼け跡がみるみる元に戻って被害者の素顔を表した。やたら整った黒髪のスーツを着た男だ。アシュクロフトは彼を見るなり鼻にシワを寄せる。

 

「しもべ掘り野郎……」

 

 アシュクロフトがこの記憶も別の小瓶に入れるところを、ミューレンはじっと見ていた。

 

「妖精カルテルの男がここで殺されたのはただの偶然じゃないと思いますがね」

 

 カリムはそう言うと、カリダスさんの手に杖を向ける。

 

「ブラキアビンド(拘束)」

 

 カリダスさんの両手が見えないなにかに拘束された。それを見た警察部隊の捜査官が近づいてくる。

 

「なんの容疑です?」

 

 と捜査官。

 

「しもべ妖精の違法売買に関わった疑いです」

 

 カリムが答えた。

 

「それは闇祓い局の管轄ではなくうちの仕事です」

 

「ここの親会社が、うちがマークしてるところなもんでね」

 

 今度はアシュクロフトが答えた。

 

「なんでレイエス&ノット社を捜査してるんです?」

 

「デンブライト証券を吸収した会社だ」

 

 カリダスさんとその肩を押すカリム、アシュクロフト、フェリックスの4人は歩きはじめ、その後を警察部隊の捜査官も着いて行った。

 

「それが?」

 

 捜査官は懲りない。アシュクロフトは彼を睨んだ。

 

「昔連続殺人を行ったラトウィッジ・デンブライトと一緒に犯行に及んだ屋敷しもべ妖精のポブは、デンブライト証券の所有だった。つまりポブは会社の命令でラトウィッジに協力した。これはラトウィッジも認めた」

 

「ではまずはデンブライト証券を捜査するべきでしょう」

 

「デンブライト証券はラトウィッジ逮捕のあと国際魔法使い機密保持法違反でウィゼンガモットから解散命令が下された。親会社のレイエス&ノットはデンブライト証券の関連資料を全て破棄していて、令状を発行できるだけの証拠がない」

 

「そんなあからさまな証拠隠滅を図ってるなら強制捜査するだけの理由にならないんですか? 無理でも他に理由つけるのはおたく得意でしょうよ」

 

「一昔前ならできただろうが、時代は変わったんだ」

 

 車に着くと、カリムはカリダスさんを後部座席に乗せてその隣に座り、フェリックスは助手席に乗った。

 

「また俺かよ」

 

 アシュクロフトは運転席に乗ると、ドアを閉めてレバーを回し窓を開け、警察部隊の捜査官と目を合わせて手を振った。

 

「お疲れ様」

 

 帰り道はカリムとフェリックスが議論をはじめ、これがいつもの光景と知っているアシュクロフトはなにも聞こえない様子でハンドルを握り続けるが、カリダス氏は2人を睨みながらも話に少し興味を持っていた。

 

「開心術が人権侵害なのに真実薬が許される風潮はどういう理屈なんだろう?」

 

 とフェリックス。

 

「さぁあれじゃね、開心術は余計な情報も引き出せるからとか。真実薬は必要な情報しか引き出さない」

 

 カリムが答える。

 

「真実薬もやれば余計な情報を吐かせられるよね。ああ言いたいことはわかるよ、開心術はそのつもりがなくても副次的に他の記憶を見てしまいかねない。だから真実薬より嫌われるってことね」

 

「自分の口から言わされるより、黙ってる間に記憶を覗かれる方が気持ち悪いでしょ。そういうことなんじゃないの」

 

「なるほど。ところで……」

 

 フェリックスは突然後ろを振り向きカリダスさんを見ると、彼の首元を指す。

「同じ十字を見たことがある」

 

 カリムもそれを見た。十字のペンダントは銀製で、真ん中に花が付いた小さな噴水の彫刻が付いている。

 

「十字架というものです、マグルの宗教の象徴ですよ」

 

「一応回収しておきますね、これになにか能力があるかもしれないので」

 

 そう言ってカリムが杖を一振すると、カリダスさんの首からペンダントが外れてカリムの手に収まった。

 

 

 

 黒煉瓦の尋問室に、カリムとアシュクロフトがそれぞれかぼちゃジュースの入った紙コップを持って入ってきた。座って待っていたカリダス・ティンバーレイクは欲しそうに紙コップを見るが、2人はカリダスさんの向かいに座ると、同時にそれを飲み干して机に置いた。

 

「被害者の名はしもべ掘り野郎……じゃなかった失礼、ヘルマン・ヘンドラベルク。知ってるか?」

 

 アシュクロフトが単刀直入に聞いた。カリダスさんはアシュクロフトがくしゃくしゃにした紙コップを眺めながら口を開く。

 

「ええ、なんなら事件について知ってます。ヘルマンと一緒に犯人を箒で追いかけたので」

 

 それを聞いてカリムとアシュクロフトは一瞬目を合わせた。

 

「というと? ゆっくり話してくれると嬉しい耳が遠いもんで」

 

 とアシュクロフト。

 カリダスさんは頷くとゆっくり始めた。

 

「男は白い仮面を付けていました。死喰い人の仮面を白くしたみたいなやつです。最初は奴をラトウィッジ・デンブライトだと思いました。彼も全く同じ仮面を持っていて、それは最初に殺した死喰い人が持っていたものを奪って作ったらしいので」

 

「ほう、なんでそんなことを知ってるんですかい」

 

「……ラトウィッジとは古い仲で、彼が最初に死喰い人を殺したとき、とても動揺してました。僕は彼の相談を受けていたんです」

 

「そのときなぜ通報しなかったんですか」

 

「当然の報いだと思ったからですよ、魔法界に沈黙を裁く法はありませんからね。言っておきますが僕は彼の行為に一切関与してません」

 

 ここでカリダスさんが少し早口になり、耳の遠いアシュクロフトは理解するのに少し時間がかかった。

 

「なるほど。それで、なぜ白仮面の男がデンブライトでないと思ったんですか?」

 

「彼は今アズカバンにいます。そうですよね?」

 

 今度はゆっくり話してくれた。

 

「もちろん、奴はアズカバンで終身刑です。仮面の男を箒で追ったときの記憶を憂いの篩で見せてもらうことはできますか?」

 

 アシュクロフトの頼みにカリダスさんは一瞬戸惑ったが、杖を取り出すと自分のこめかみに当て、白い糸を頭から1本引っ張り出す。アシュクロフトはジャケットのポケットから小瓶を取ると、カリダスさんの記憶の糸をそこに入れて受け取った。

 

「ありがとうございます。ところで、しもべ掘……ヘンドラベルクとはどういった関係で?」

 

「息子の学友です。同じ部屋で向かいのベッドでした。それだけです」

 

 その答えにアシュクロフトは不満そうに彼を見たまま沈黙するが、やがて諦めた。

 

「なるほど。ご協力ありがとうございます」

 

 アシュクロフトが立ち上がると、カリムもそれに続いて尋問室を出た。

 

「どう思う?」

 

 とアシュクロフト。

 

「ヘンドラベルクとの関係についてなにか隠してる」

 

「そう思うよな」

 

「カリダスさんの十字架、同じものをラトウィッジ・デンブライトが付けてた。イヤホンのコードを使ったペンダントの飾りが全く同じものだった」

 

「ほんとに仲良しだったんだな」

 

「多分そういうことではないと思うんだ。マグルの宗教に詳しい?」

 

「宗教にはそこまでだけど、あれがキリスト教の象徴であることは知ってる」

 

「そう、それ魔女狩りをした宗教だよ。魔法史は寝てたけど教科書の絵はよく覚えてる。僕たちを世界から分断した根源だ」

 

 カリダスさんの記憶を片手にエレベーターに乗ると、2人は資料保管室に向かった。

 

 

 カリムが憂いの篩から顔を出すと、向かいでアシュクロフトがわざとらしくズボンのボタンを閉めていた。

 

「あぁすっきりした」

 

「なるほど、あんたがママにオムツ交換してもらう風景が見えたから不思議に思ってたんだ」

 

「はいはいそうですか」

 

 アシュクロフトは憂いの篩から杖でカリダスさんの記憶を引っ張り上げると小瓶に戻した。

 

「カリダスさん、箒から振り落とされた挙句その箒で頭殴られて気絶とはマヌケにも程があるぜ」

 

 とアシュクロフト。

 

「飛びはそこまで悪くなかったけどね」

 

 カリムが返した。

 

「特に白仮面の男はいいシーカーになれそうだよな」

 

「彼はどちらかというとチェイサー向きだね、機動力に優れてる」

 

「ああたしかに。箒の先を上げて急減速する技はクィディッチ大会でも見たことない、まるで戦闘機のコブラ機動だ。俺がおすすめした戦闘機の映画観た?」

 

「観たよ。怪しい人には箒に乗ってそのコブラやってもらうか」

 

「それはほぼ自白じゃねぇか」

 

 

 

 翌日、カリムは事務室に向かう前にしもべ妖精転勤室の窓口へ顔を出した。いつもの小柄な中年女性が日刊予言者新聞を読んでいるところに、カリムがガラス窓を叩いて作り笑顔を見せる。

 

「魔法法執行部のイムです。ブラックリストの登録解除に来ました。元しもべ妖精カルテルのヘルマン・ヘンドラベルクです」

 

「そのためにわざわざ来たんかい? 紙飛行機飛ばせばいいのに」

 

「折るのがめんどくさくて」

 

「折り紙は苦手かい?」

 

「手作業は好きなんですが、仕事になるとなんか……」

 

 そう言いながらカリムが開いたIDカードを、女性は目視で確認すると奥に消える。しばらくすると羊皮紙の挟まったバインダーを持って戻ってきた。

 

「ヘンドラベルク、ヘンドラベルク……ヘルマン、いた。解除理由は?」

 

「死亡です」

 

 カリムが死亡証明書を出すと、女性は広げてそれをまじまじと見る。

 

「それならわざわざ解除しに来なくてもいいでしょうよ、真面目だねえ。そういやさっきあんたの相棒が来たよ」

 

「相棒?」

 

「あの舌なしエルフについて聞いてきた」

 

「フェリックス? アシュクロフト?」

 

「アシュクロフトだよ」

 

「……そうですか。ありがとう」

 

 カリムはIDカードを取ってジャケットの胸ポケットに入れ、窓口を去ろうとした。そのとき、日刊予言者新聞の1面が目に入った。

 

『レイエス&ノットのトップ2名が解任』

 

 目を丸くしてその文を読むカリムは女性と目が合った。

 

「大丈夫かい?」

 

「ええ。失礼します」

 そう言ってカリムは魔法法執行部のフロアへ向かった。

 事務室に入ると、アシュクロフトがカリムのデスクにある手袋を見ていた。

 

「この盾の手袋は民生用だな、犯人が着けてたのと同じやつか。もう片方は?」

 

「押収品保管庫にあった。ウィーズリーの店で同じものを製造した時期の記録を見せてとらおうと思う。多分ちょっと昔のロットなんだ」

 

 カリムはアシュクロフトから手袋を取り上げるとコートのポケットに入れる。

 

「そうだカリム、保管庫といえばデンブライトのイヤホンコードでできたペンダントが消えてた。心当たりはある?」

 

「それなら呪い破りの女に返した。あれは元々彼女の所有物だった。それよりさ、アシュクロフトはなんでしもべ妖精転勤室でポブの所在を確認したの?」

 

「あぁ、デンブライトを脱獄させてないかと思ってね」

 

 アシュクロフトは自分の椅子に座ると、足を書類だらけのデスクに乗せた。

 

「それならアズカバンに問い合わせなよ。まさか、白仮面の男はデンブライトだと?」

 

「可能性はあるだろ」

 

「あいつにカルテルの男を殺す理由はない、死喰い人じゃないんだから」

 

 カリムは椅子に座って机にある使われてないタイプライターをどかすと、羽根ペンとメモ帳を出した。

 

「レイエス&ノットのトップが解任されたらしいね」

 

 ふとカリムが言うと、アシュクロフトは机から足を降ろす。

 

「なに!?」

「日刊予言者新聞読んでなかったっけ?」

「まだだよ、でも持ってきた」

 

 アシュクロフトはコートのポケットから新聞を取り出すと広げた。

 

「レイエス&ノットのトップ2名が解任……アラン・レイエスとウォロシアス・ノットは脱税の疑いで昨晩魔法警察部隊により逮捕された。臨時取締役として……マサイアス・ティンバーレイク!?」

 

「ほう、それは読んでない」

 

 カリムは立ち上がるとアシュクロフトの後ろに回り新聞を覗き込む。ティンバーレイク氏の写真が笑顔で頷いていた。

 

「こいつ黒だと思う?」

 

 カリムが聞くと、アシュクロフトは首だけ後ろに向けてカリムと目を合わせる。

 

「なんのさ。デンブライトに下僕虫を付けたかってことか?」

 

「ティンバーレイク兄弟はマグル生まれだ、可能性はある」

 

「んじゃこいつの身元調査をもっかいやるか。その前に予定してた今日の任務にかかるぞ」

 

 アシュクロフトは新聞をコートのポケットに戻し、カリムは自分のデスクに戻るとメモ帳を取って『ティンバーレイク 身元調査』を書き加えた。

 

「まず犯人の杖の分析ね」

 

 カリムはメモ帳から写真を取る。足跡出現呪文から再現させた犯人が持っている杖が写っていた。

 

「オリバンダーさんのところに持ってく前に、フェリックスにも見せたいな。なにか見解が出てきそう」

 

 とアシュクロフト。

 

「あれば現場でベラベラ喋ってたよ」

 

「俺たちは聴取であまり一緒にいなかったから、まだ聞いてないことがあってもおかしくないと思う」

 

「まあ、そうか。よしフェリックスの研究室へ行こう」

 

 2人は事務室を後にすると、エレベーターへ向かった。

 フェリックスは魔法法執行部の調査補佐のため、同じ階の検視室にいると思われがちだったが、2人は彼が地下9階に与えられた研究室によくこもることを知っていた。

 研究室の黒いドアを開けると、さっそく機械仕掛けの犬が2人を迎えた。驚いたアシュクロフトが杖を振ると犬は動きを止める。

 カリムは棚に掛けられた長い杖に目が引かれ、勝手にそれを手に取りまじまじと眺めた。牡羊の頭蓋骨が付いていて、先端は蹄になっていた。

 

「え、これもしかして、マッドアイ・ムーディのスタッフ?」

 

 すると丸いレンズのゴーグルをしたフェリックスが椅子の前足を浮かせて後ろのめりになりながら顔を出した。

 

「今気づいたの? あんま触らないで」

 

 フェリックスはそう言うと上体を戻して作業を再開した。

 カリムはスタッフを棚に戻すと、フェリックスが見えるところまで入る。他の部屋と同じ黒煉瓦の空間だが、機械仕掛けの装置やマグルの電子機器のようなもの、大きさがさまざまなガラス管とそれらを繋ぐチューブなどで溢れ、地面は書物や設計図で埋まっていた。

 

「あれ本物?」

 

 スタッフの方を指しながらカリムが聞く。

 

「多分ね」

 

「僕もああいうの欲しいんだよな。作れる?」

 

「僕は杖は作れないし、作れても企画が通らなきゃ予算降りないからカリムの自費になるよ」

 

「金ならもちろん出すつもりだったけど、フェリックス杖作れないんだ、意外。だからコレクションしてるのね」

 

 カリムは棚に無造作に積まれた大量の杖を指し、次にふと足元のファイルに視線を移した。魔法省の紫色のシンボルカラーをしたその資料を拾うと、そこには永久粘着呪文を分子レベルで行う方法が記されていて、これによって破壊不可能な物体を作ることができると書かれていた。

 

「ノクターン横丁で出回ってる粗末な脱法杖くらいならできるかもね」

 

 フェリックスは答えながら作業を続ける。カリムはその様子を覗き、彼が分解している機械仕掛けの銀の卵の横に置かれた、ガラスの器に入った青い羽に覆われた肉の塊を見て舌を出した。これはフェリックスがディリコールを遺伝子操作して作った逃亡者捕獲装着で、捕らえた者が逃げても元の場所に付き添い姿現しさせるというもの。カリムはこれがいくつかの法や省令を破っていると思っている。

 

「じゃあノーク製紙の焼死体事件の犯人が持ってた杖を見てわかることはあんまりない?」

 

 カリムが質問すると、フェリックスは作業をやめてゴーグルを外し、カリムの方を向いた。

 

「その件でここに来た感じね。焦げてることと、形がわかるのがせいぜいだね」

 

「そのくらい僕らも目ん玉着いてるからわかるよ。素材とかがわかると照合にかかる時間がとても短縮できて助かるんだけどさ」

 

「うーん、わからないね」

 

「あそう。やっぱり?」

 

 カリムはアシュクロフトに目配せした。そしてふと研究室の真ん中にあるシートを被った大きな何かを見る。

 

「……あれさ、マグル製品不正使用にあたるんじゃないか?」

 

 カリムは杖を抜くとひと振りし、シートが外れるとそこにはグレーのスポーツカーがあった。

 

「新しいマグルの車? これに予算が降りたの?」

 

 とカリム。

 

「研究室にはある程度自由に使える予算が別にあるんだよ」

 フェリックスはやれやれとシートが落ちた方に向かった。

 

「じゃあ僕の頼みは企画通さずそれで作ってよ」

 

「作ったものは全て理由をつけて報告しなきゃいけない」

 

 フェリックスはシートを拾うとまた被せようとしたが、今度はアシュクロフトが杖を振ってシートがフェリックスの手から吹き飛ばされた。

 

「かっけぇ、本物か?」

 

 アシュクロフトは車をまじまじと見つめる。

 

「そうだよ。最新のフォードGT、カーボンボディ。保護呪文標準装備で空も飛べる」

 

 吹き飛ばされたシートを拾ったフェリックスはそれを数ある作業台のひとつに置いた。

 

「まじで!? ボンドカーみたいだなかっけぇ〜! 飛ぶときタイヤのホイール下向いたりする?」

 

 興奮気味のアシュクロフトは車の下を覗き込む。

 

「……なんでタイヤのホイールが下向く必要があるの」

 

「ほんと誰も映画観ないんだな。絶対人生損してる」

 

「でも車体は空飛ぶ時に変形するよ」

 

 フェリックスの言ったことをアシュクロフトはすぐに聞き取れなかったようで、少し間が空いた。

 

「え、変形するの? どんなかんじ?」

 

 とアシュクロフトは顔を上げてフェリックスを見た。

 

「このスポーツカーは高速度下で車体に働く浮力を抑える設計になってるから、飛行に適してないんだ。だから流体力学に基づいて飛行に適した形へボディが展開するようになってるよ。ニンバス社に勤める友人と一緒に設計した」

 

「おおおお」

 

 と感心するアシュクロフト。

 そこでカリムが手を上げる。

 

「乗る人間に比べて空気抵抗が元から小さい箒を作ってる会社がほんとに流体力学を理解してるかは怪しいと思うけど、どうなの」

 

「これが飛ぶところを見る機会があれば思い知るだろうね」

 

「自信はあるのね。もうひとつ気になる点があるんだけど、これ電気で操作するモデルだよね。魔法と相性が悪いはず」

 

「もちろん電子制御は全部取り除いて魔法のみで駆動するようになってるよ。その辺の構造と飛行システムはウィ……詳しい人から教えてもらった」

 

「車が空なんか飛んだらマグルに見られるとまずくない?」

 

「他の省用車と一緒でマグル避けを完備してるから、基本的にあいつらは見ちゃいない。フォークでつつけばバレるだろうけどね」

 

「それならいいけど。面白いものを色々とありがとう、じゃあ仕事があるから失礼するよ」

 

 カリムはそう言うと、青い羽の塊をもう一度睨んで部屋を後にした。アシュクロフトもそれに続き、2人はエレベーターに乗ると駐車場へ向かった。

 

 

 

 2人がオリバンダーさんの家の前に着くと、アシュクロフトはその玄関を不思議そうに見ながら車を降りる。

 

「ここ? 違くない?」

 

 とアシュクロフト。

 

「闇祓い局を辞めてからオリバンダーさんはずっとこもってるらしい」

 

 カリムは車のドアを閉めると、持っていた鍵を手の中で回す。

 

「闇祓……誰の話してる?」

 

「アイデン・オリバンダーさん。去年まで僕の上司だった」

 

「はい? 誰?」

 

「彼はギャリック・オリバンダーさんの甥にあたるらしい」

 

「なんでギャリックさんのところに行かないのさ? 彼なら見ただけで誰の杖か当てる」

 

「ちょっと気まずくて。ほら、僕あそこで買った杖壊したし、今はグレゴロビッチ製を二股してるし」

 

「別にあの人は気にしないと思うぞ?」

 

「まあ、気楽な方がいいじゃん。そもそもオリバンダーの杖じゃないかもしれないし、そんな気がするんだ」

 

 そう言うとカリムはドアを叩いた。カーテン越しに廊下を歩く人影が見え、それはドアの前で立ち止まるとカーテンをめくって顔を出す。かつての上司とは別人のようにやつれ、髪と髭が伸びきっていた。彼はカリムとアシュクロフトを見ると少し足元を眺め、そしてドアを開けた。

 

「ヘイズくんは、いないのか」

 

 アイデンさんが顔を出して最初のひとこと目はこれだった。

 

「フェリックスは来てないです。なぜ?」

 

 とカリム。

 

「そうか……入って」

 

 アイデンさんはカリムの問いに答えず家の中へ2人を招いた。

 2人が家に上がってアシュクロフトがドアを閉めると、アイデンさんが向かったリビングに入る。閉まりかかったカーテンの隙間から入る光だけが殺風景な部屋を照らし、アイデンさんはソファに座る。

 

「それで、なんの用かなイムくん」

 アイデンさんは浮かびながらやってきた皿と牛乳瓶を手に取って机に置くと、そこにある『ピクシー・パフ』と書かれた箱に入ったシリアルを皿に流し込んだ。

 

「今起きたんですか?」

 

 とカリム。アイデンさんは一瞬手を止めた。

 

「悪いか」

 

 少し気まずくなったカリムが黙りこみ、代わりにアシュクロフトが口を開く。

 

「今捜査してる事件の犯人が持っていた杖について、知見をお借りできないかと思いお伺いしました」

 

 するとアイデンさんはアシュクロフトの顔をまっすぐ見た。

 

「あ、ああ思い出した、不適正使用取締局の君か。イムくんの監視役を頼んでた。あれイムくんはそれについては知ってるよね」

 

「はい自分が言いました。カリムは瞑想の効果もあってか最近は落ち着いてますよ。ちなみに、今自分は闇祓いです」

 

「転属したのか、そうか。それで、杖について私の知見がほしいと言ったけど、なんでギャリックおじさんに聞かないんだい?」

 

「僕が気まずいんです。オリバンダーさんの杖を昔壊したので」

 

 とカリム。アイデンさんはシリアルに牛乳を注いでからカリムの方を向いた。

 

「そういえばダメにしてたね。捜査に私情を持ち込むとは珍しいな?」

 

「杖を壊したときの記憶がないので、きっと治療の一環で消されたんですよね。つまり自分の杖に関する事柄からは距離を置いた方がいいのかと思ったんです。ギャリックさんは会う度その人の杖についてお話されるようなので」

 

「……そうかもな。今はなんの杖を使ってる?」

 

 アイデンさんが興味深そうにカリムの袖口を覗く。カリムは袖から短い曲がった杖を抜いて見せる。

 

「それはリンボクだね」

 

 アイデンさんが杖を見ながら言う。

 

「闇祓いに転属したばかりのころ、出所したばかりの元人攫いたちが聖マンゴ病院で破壊活動を行うところを鎮圧しましたよね。そのときに取った杖です」

 

 カリムはそう言いながら杖を眺めた。

 

「懐かしいそんな事件あったね。闘いに向いてる、いかにもそういう人が持っていたような杖だ」

 

「戦闘ではよく働きます」

 

 カリムがそれを袖口に戻すと、次に懐から焦げ茶色の長い杖を出してそれも見せた。

 

「それは、サンザシかな」

 

「これは……友人のものでした」

 

「なるほど。この杖の所有者は葛藤を抱えやすい傾向がある」

 

「そうだったかもしれないですね」

 

 カリムは杖を懐に戻すとメモ帳を取り出し、犯人の杖の再現が写った写真を机に置いた。

 

「これがその犯人の杖か」

 

 アイデンさんが写真を手に取りしばらく眺める。

 

「そうです」

 

「えっと、焦げてるな」

 

 アイデンさんはカリムと目を合わせた。

 

「焦げてるのは僕も見ればわかります、材質とかはわかりませんか?」

 

「おそらくローズの木だね、多分おじさんが作ったものではない。イムくんはこの焦げ方に心当たりはないのか?」

 

 それを聞いて、カリムは首を振った。

 

「焦げ方、ですか。その着眼点はなかったです。材質はローズで間違いないですか?」

 

「私は杖作りの道を捨てた人間だ。あまり当てにしすぎないでくれ」

 

 写真を返されると、カリムはそれをメモ帳に挟んだ。

 

「聖マンゴの破壊活動鎮圧、あれが4階で起きたのは覚えてるか」

 

 シリアルを口に運びながらアイデンさんが言うと、カリムはメモ帳から彼へと視線を向ける。

 

「はい」

 

「被害を受けたのがサイモス・ダーウェント癒師の病棟というのも?」

 

「ええ、彼とはそこで初めて知り合いました」

 

「それが偶然だと思うか?」

 

「……と言うと?」

 

「実のところ、私もよくわかっていない。でも明らかに繋がりがある。それがずっと引っかかってる」

 

 そのとき、アシュクロフトがカリムを小突いて耳打ちした。

 

「今思い出したんだが、この人が闇祓い局を辞めたのは妄想に取り憑かれたからだ。早いうちにここを出よう」

 

 そう言ったアシュクロフトとカリムはしばらく目を合わせ、そしてまたアイデンさんを見た。

 

「続けてください」

 

 カリムがそう言うとアシュクロフトはカリムに呆れた表情を向ける。

 

「去年イムくんが担当した連続殺人事件あるでしょ」

 

 とアイデンさんは話を再開した。

 

「デンブライトの死喰い人連続殺人事件ですか」

 

「そうその……デンブライト。彼はきっと私が彼の母親を殺したと思ってることだろう」

 

「なぜあなたが? 僕はデンブライトの両親が殺される場面を、憂いの篩で彼の記憶の中から見ました……え、あの研修生はあなただったんですか?」

 

 するとアイデンさんはカリムと目を合わせる。

 

「見たのか」

 

 とアイデンさん。

 

「あれは、あなたではなく白髪の男がやったんですよ」

 

 カリムが言う。

 

「私の放った死の呪文をヤックスリーが直前呪文で再発動させた、君が見たのはその光景だね」

 

 それに対してカリムが頷くと、アイデンさんは続ける。

 

「そうか。通常、直前呪文の効果は対象の杖に最後に使った呪文のエコーを再現させることだ。呪文そのものではないから、そこで死の呪文と同じ緑の光線が出たからといって、それにはなんの能力もない」

 

「ではデンブライトの母親は生きてると?」

 

「さよう。彼女はレイエス&ノットで働いてる」

 

「どこでその情報を?」

 

「省内の資料保管室だよ。君たちも同じ資料を見たはずだけど、彼女は再婚して苗字が変わったから気づかなかったんだろうね」

 

「でも、ラトウィッジ・デンブライトはアズカバンに投獄されてこの件は解決しました。なぜ今その話を?」

 

「まあ聞け。少し話が変わるが、陥落時代に魔法省はとある実験をしていた」

 

「闇の帝王が支配したあの時代ですね」

 

「そうだ。実験の内容は、潜在性服従術の研究。死喰い人による陥落後の魔法省はインペリオをベースに新しい服従の術をつくるという研究をおこなっていた。インペリオは呪文が解かれるリスクがあるが、この潜在性服従術は被術者の精神の深いところに思想を植え込む。術を解かれても極力服従時に近い状態を保ち、きっかけを与えることでまた完全な服従状態に戻すことができる。例のあの人がイギリスを完全統治したあと他国や国際魔法使い連盟と戦うことを想定して用意された戦略のひとつだった」

 

「そんな話、はじめて聞きます。これがラトウィッジの母とどう関係が?」

 

「あるとも。それだけでなく、この話はイムくんにとってもとても興味深いはずだよ。なにせ、研究は当時サイモス・ダーウェント癒師主導の元で進められたからね」

 

 サイモス・ダーウェント癒師は、かつて聖マンゴ魔法疾患障害病院で精神療法に勤め、カリムの主治癒だった男だ。彼の腕に闇の印があったことで、死喰い人連続殺人犯のラトウィッジ・デンブライトに殺害されるまでは。

 

「続けてください」

 

 カリムが言った。

 

「まず単刀直入に言うと、私はその被験者だった」

 

 アイデンさんの発言にアシュクロフトは警戒心を覚え、さりげなく両手を組むと袖の中の杖に触れる。するとそれを見たアイデンさんがおかしそうに笑みを浮かべた。

 

「私は戦前に実験を受けたがそのあとはなにもされていない。私が警戒してるのはむしろイムくん、君の方だよ。私は上に言われて君の容態の変化を随時ダーウェントに報告していた。私が調べたところ、実験は戦後も引き続きおこなわれた。君はその実験台だったという可能性も考えられる。治療という名目で記憶を消されながらね」

 

 まさか自分が疑われるとは思ってもいなかったカリムは驚き、どう返せばいいか少し考えてから口を開いた。

 

「えっと……なるほど。あなたが闇祓い局を辞めたのは、内部でそういう怪しい動きがあってなにも信じられなくなったから。ですか」

 

 それに対してアイデンさんが首を横に振る。

 

「辞めたのは内的な動機だよ。反マグル派のデモを鎮圧したときまね妖怪ボガートが出てきた事件を覚えてるね? あそこであいつが変身したヤックスリーは、私の服従モードを作動させるキーワードを言いやがった。それ以降私は今に至るまで全てが狂ってしまった!!!」

 

 アイデンさんは思いきり机を殴った。シリアルの牛乳がこぼれる。

 

「私は実験の失敗作だ。だから不幸中の幸い服従は中途半端である程度は抗えたが、一度そうなると完全に元に戻るためにはダーウェント癒師の手ほどきが必要だった。でも、彼は殺され、私は今の有様」

 

「そうでしたか……なんと言ったらいいか。でも、もし僕も実験台なら、あなたがボガートに服従のキーワードを言われたとき僕も反応したはずですよ」

 

 そのとき、アシュクロフトが手を上げた。

 

「話の途中にすみません、今の話を裏付ける証拠とかってあるんですか?」

 

 その質問に、アイデンさんは首を横に振る。

 

「私の記憶を提供してもいいけど、記憶なんていくらでも改ざんできるからウィゼンガモットは扱ってくれないだろうね」

 

「そのつもりはありません。ところで、デンブライトの母親とはどう関係が?」

 

 とカリム。

 

「ああ、それを言うのを忘れてた。調べたところこの研究に魔法省の財務管理部から資金が出ていたことも驚きだが、レイエス&ノット社も噛んでいたのはさすがにマーリンの髭だった。さっきも言ったがそこにはラトウィッジ・デンブライトの母親も勤めている。そして、ダーウェント癒師はレイエス&ノット社が送ったしもべ妖精と組んでるデンブライトに殺された」

 

「つまり、ダーウェントがデンブライトに殺されたのは、研究についての情報にアクセスできるレイエス&ノットに勤める、デンブライトの母親が仕組んだことだと?」

 

「そう睨んでいる。夫が殺されたのは、当時被験者だった私をテストするためだったからな。それを知った彼女は復讐を企てた。元人攫いらを雇って破壊活動に紛れて殺させる作戦は失敗したが、息子のラトウィッジを利用する方法で成功した」

 するとアイデンさんが突然泣き始めた。話はそこで終わり、アシュクロフトがアイデンさんに落ち着くよう促すと、2人は家を追い出された。2人はなんとも言えない気持ちになり、黙って車に乗るとしばらくそのまま動かなかった。

 

 

 

 マルフォイ氏の館の門に多くの魔法法執行部職員が集っていた。彼らを迎えたのは年老いた女性だった。

 ひとりの職員が、彼女にイシューバッジを見せる。

 

「マルフォイ夫人。魔法法執行部のウィリアムソンです。ご主人のタイムターナー不法所持発覚に伴い、ご邸宅の強制捜査に参りました。こちらがウィゼンガモットによって発行された正式な令状になります」

 

 ウィリアムソンが杖を振ると紙が浮いて女性の前に止まる。

 魔法法執行部の一行は彼女に案内されて館の敷地に入った。

 

「主人は応接間にいます。記者の取材中でして」

 

 彼女が言うと、ウィリアムソンは部下たちを見る。

 

「みんなかかって」

 

 すると職員たちは散らばり、そこら中に杖をかざしたり金の粉を吹いたりして捜査をはじめた。

 応接間のルシウス・マルフォイ氏は、庭を捜索する役人たちを窓から見下ろしながら、後ろの記者の対応をしていた。

 

「あなたに我々のなにがわかるのかね。私たちは生まれながらに、祖先が築き上げたものを継ぐ義務があるのだよ」

 

 とマルフォイ氏。

 

「ノブレス・オブリージュというやつですね」

 

 大きなソファの真ん中に座る記者が言った。

 

「その言葉は昔レストレンジの一族も使っていたが、私の知る限りマグルの思想だ」

 

「マグルの思想……てっきり、あなたは改心したのかと思ってました」

 

「"改心"──あたかも、代々伝わる思想を否定するように受け取れるな」

 

「申し訳ありません、これは私個人の意見というわけではないのですが、マルフォイさんが上流階級としてのポジションを失脚しかけた理由は主にあなたが反マグル派、すなわち死喰い人であったことが原因ともいわれてます」

 

 マルフォイ氏は見下すように笑いながら、ティーテーブルに立てかけた持ち手が蛇の形をしているステッキを取った。

 

「皆は我々の社会を理解されていない。エイブリー、ノット、ロジエール、レストレンジ、私の祖先が何世代に渡って築いた彼らとの交流は、死喰い人としても同様に続いた。あの活動は我が君への忠義だけが動機ではなく──いわば──上流階級の社交の場として働いていた……」

 

 マルフォイ氏はステッキを突きながら再び記者を見る。

 

「もし我が一族が、彼らの輪から外されたのだとしたら──それはむしろ──あの戦いで私が彼らに加勢しなかったことが原因だ。しかし、現状私はセオドールからタイムターナーを手にするくらいには、関係性が崩れていないと思わんかね」

 

 記者は視線をマルフォイ氏に向けたまま沈黙した。

 

「ある程度は、おわかりいただけたようだ。我々のような一族にとって、死喰い人であることはリスクが見合っていないと、みな口を揃えて言うようだが、君たち庶民がそう考えるのも無理はない」

 

「あの戦いのあとあなたが逮捕されなかったのはなぜですか? 賄賂や脅したなど噂は色々聞きますが。揚げ足取りみたいですみません、でも私はマルフォイさんの間違った汚名を正したいのです」

 

「彼らは資産家を逮捕することが、長い目で見たらデメリットであると理解していたに過ぎず、私は、なんのアプローチもしていない」

 

「なるほど……でも、今は強制捜査が入っているようです。時代は変わり、法の下のでは全ての人が平等になったと実感しませんか?」

 

 するとマルフォイ氏は、咳混じりに声を出して笑った。

 

「この茶番がかね……?」

 

 それに対して記者が口を開きかけたところで、突然アシュクロフトが部屋に入ってきた。

 

「茶番劇へようこそ。こちらはマグル製品不正使用取締法違反です」

 

 アシュクロフトが手にする古い散弾銃に見えるそれは、3本の銃身が3匹のヘビのようにくねくねと動いて辺りを警戒していた。

 マルフォイ氏は冷たい目でアシュクロフトを見上げる。

 

「挨拶もなしに、部屋へ押し入り、会話を盗み聞きするとは。ミスター……」

 

「失礼、マルフォイさん。私はアリウス・アシュクロフト、闇祓い局です」

 

「ミスター・アシュクロフト。ああそれは、マグルどもと取引してる会社の社長が、嫌がらせで送ってきたものだよ。なんといったかな、確か……」

 

 マルフォイ氏が思い出そうとしていると、アシュクロフトの隣にカリムが現れる。

 

「ティンバーレイクですね。元デンブライト証券取締役のマサイアス・ティンバーレイク。今はレイエス&ノットの取締役だと聞いてます」

 

 マルフォイ氏はカリムにも冷たい目線を向け、口元に薄ら笑みを浮かべる。

 

「法執行部には無作法な者が多いようだ。さすがは、ポッター氏の……」

 

「闇祓い局のイムです。以前死喰い人連続殺人事件を捜査していました」

 

「あぁ、犯人を北欧まで追った闇祓いとはあなただったか。そう、そのマグルの武器をよこしたのはミスター・ティンバーレイクだ。捨てようと考えるだけで、それは鉄の粒を吐き出してくるゆえに、処理に困っていたところだった」

 

「贈り物ということですね」

 

「嫌がらせだ。年々勢力を拡大させる親マグルの派閥は、私たちを目の敵にしているからな」

 

「そうでしょうね。では我々はティンバーレイク氏に会いに行きますので、ここで失礼します。ご協力ありがとうございました」

 

 アシュクロフトとカリムがその場を去ろうと背を向けたところで、マルフォイ氏は続けた。

 

「最近の魔法省は──マグルの血が混ざりすぎている」

 

 アシュクロフトがため息をついて振り返る前に、カリムがマルフォイ氏と向かい合った。

 

「最近は若い層を中心にマグルの文化が人気ですから。特に音楽なんかはマグルの影響を大いに受けています」

 

「なるほど。しかし、それだけでは明らかに、純血一族を避けている風潮に説明はつきまい」

 

 マルフォイ氏の目が細まる。

 

「あの戦争を経験したら民衆が純血を信用しなくなるのも無理はないですよ」

 

「はて、本当にそれだけだろうか」

 

 マルフォイ氏のその言葉にカリムは無言を返すと、振り返ってアシュクロフトと部屋を去った。

 カリムが車にキーをさしエンジンをかけると、アシュクロフトも車に乗り込んだ。

 

「マルフォイだってマグルの音楽くらい聴いてるとおもうぜ」

 

 アシュクロフトが言った。

 

「妖女シスターズってどっちの音楽だっけ」

 

 カリムは車を出す。

 

「魔法界だよ、ユールボールに来校しただろ?」

 

「2年生だったから参加してない」

 

「若いな。そういや妖女シスターズは画家と裁判して以来話を聞かないな。解散したのか?」

 

「あれは結局どっちが勝ったんだっけ?」

 

「さぁ、俺は魔法界のエンタメ事情には詳しくない」

 

 

 

 日が暮れる頃に雨が降り始めた。

 カリムはマンションの中に入ると傘を閉じてコートのポケットに入れ、階段を登ってドアの前に立つと杖を振った。鍵が開き家に入ると、灰色の長毛猫がやってきて絶妙に遠い場所からカリムを見つめた。

 

「魔法使わないで、回線が悪くなる」

 

 暖炉前のソファでゲームをしている弟が言った。カリムはドア枠に寄りかかって彼を見ながら片眉を上げる。

 

「いつまでここにいる気だ」

 

「実家はWiFi環境がゴミだもん」

 

 カリムはやれやれと首を振ると、そのまま廊下を歩いて自分の部屋に入った。

 部屋はベッドに机、タンスと本棚があり本や紙が散乱していた。ベッドの足元に置かれた金属製のブランケットボックスを開けると蓋の裏に貼られた日刊予言者新聞の切り抜きを見る。その中には死喰い人連続殺人事件の記事もあり、囚人番号板を持って陰気に映るラトウィッジ・デンブライトが長い前髪を揺らしながらこちらを睨んでいた。

 

「カリム!!! まだトランクは開けるな!!!」

 

 隣のリビングから弟の叫び声がした。カリムはコートのポケットからいくつかの道具を出すと、弟がトランクと呼んだブランケットボックスに入れて閉め、リビングがある方の壁を睨んだ。

 

「いい歳して、仕事しろ庭小人野郎!!!」

 

 カリムが怒鳴る。

 

「呼び出しがないんだよ休日くらい好きにしてもいいじゃん!!!」

 

 壁の向こうから弟の叫びが返ってきた。

 次の日を迎えるとカリムはブランケットボックスを全開にして杖を振り回しながらリビングに出た。ソファで寝ていた弟と猫はカリムの杖先から出る花火の音で目を覚ます。

 

「起きろ庭小人〜昨日のおつかいサボったな〜」

 

 カリムが冷蔵庫の中を見ながら言う。途端に冷蔵庫が稼働停止してライトが消えた。

 

「バカなの?」

 

 弟が眠い目をこすりながら言う。

 

「嘘だろ魔法対策はしてるはずなのに」

 

 カリムは急いで自分の部屋に戻り杖をブランケットボックスに放り投げるとしっかり閉じて、またリビングに戻った。冷蔵庫のコンセントを抜くとまた挿して再稼働させる。

 

「冷蔵庫の対策ってどうせヘイズさんの小細工でしょ」

 

 弟がソファの下を手探りで漁りながら言った。

 

「フェリックスは特殊装備も担当してるんだこんくらい朝飯前のはずだろ」

 

 冷蔵庫を叩くカリムを見て弟は鼻で笑った。

 カリムは冷蔵庫の中を見る。かぼちゃジュースのビンが逆さまに置かれ、中身は蓋に溜まった極小量だけが残っていた。そのとき暖炉に緑の炎が上がってアシュクロフトが現れ、同時に冷蔵庫はまた稼働停止し、カリムはアシュクロフトを睨んだあとに弟の方を向く。

 

「黙れ」

 

「なにも言ってない」

 

 弟がiPadを見ながら言った。

 

「朝から兄弟喧嘩か? 微笑ましいな」

 

 アシュクロフトが冷蔵庫を開けながら言う。カリムはそれを勢いよく閉じるとアシュクロフトのコートの襟を掴んで暖炉まで引っ張った。

 

「なにしに来た」

 

 カリムがアシュクロフトに聞く。

 

「フェリックスがここまで迎えに来るって言うから来た」

 

「迎え? 車か」

 

「って言ってた」

 

 アシュクロフトはそう言うと窓の外を見る。ちょうどスポーツカーのエンジン音がしたかと思うと、車高の低いグレーのフォードが停った。

 2人の闇祓いは外に出ると、シザーズドアを上げて車を降りるフェリックスと対面する。フェリックスは長い髪をいつも通りポニーテールにして、サングラスをかけていた。

 

「これ2人乗りだろ」

 

 アシュクロフトがフォードを指して言うが、フェリックスは人差し指を振る。

 

「僕をマグルだと思ってるようならこれを機に魔法使いだと思い出してくれよな」

 

 フェリックスがどうぞご覧あれと車内に両手を指すもので、カリムとアシュクロフトは恐る恐る中を見た。外から見ると存在しない後部座席がそこにあった。

 

「冷蔵庫はしばらく動かなそうだ」

 

 カリムが自分の家を振り返り、アシュクロフトが窓越しに冷蔵庫を見て笑った。

 

「保護呪文が標準装備だから、乗りたいときは杖を直接ボディに当ててね」

 

 フェリックスがドアを降ろすと、杖を車体に当てた。

 

「アペーリオ(開け)」

 

 するとドアがまた上がる。

 

「杖を離すと保護呪文の外の判定になって呪文や攻撃は弾かれる」

 

 彼はまたドアを降ろし、今度は何度か杖を振って車に光線を当てるが、全て跳ね返った。カリムとアシュクロフトは周囲にマグルがいないか警戒しながらフェリックスの杖を持つ腕を抑える。

 

「ちょっと調子に乗りすぎだ」

 

 アシュクロフトが言った。

 3人が車に乗るとき、カリムは後部座席に窮屈そうに座った。首を伸ばすことができず出ようと思ったら、アシュクロフトが倒れていた助手席の背もたれを急に起こして乗り込んだため、カリムは頭をぶつけてそのまま首が折れるかと思った。

 

「なんでこんな中途半端な拡大呪文にしたの?」

 

 カリムが苦情を言う。

 

「フェリックス、ポートキーの腕時計はまだないのか?」

 

 と遮るアシュクロフト。

 

「見つかんないね。一応扱いは省の所有物だからバレたら困るんだよなぁ」

 

 フェリックスもカリムを無視した。

 

「そうか。やっとポートキー局の承認が降りたのに残念だ」

 

「でもきっとこっちの方が気に入るよ」

 

 そう言うとフェリックスはアクセルを踏んでフォードを飛ばし、カリムがうめき声をあげた。

 走行中、アシュクロフトは快適そうに助手席を楽しんでいた。

 

「足跡出現呪文の信憑性はどこまであるのか、考えたことあるか?」

 

 アシュクロフトがふと投げかけてきた。

 

「精度は高い呪文だよ」

 

 窮屈そうなカリムが返した。

 

「精度はいいとしてよ、改ざん可能なのかとか気にならないか? 記憶は改ざんできるから証拠として扱うとき慎重になるだろ」

 

 アシュクロフトのそれを聞いて、運転中のフェリックスが口を開く。

 

「錯乱の呪文を駆使すれば、リアルタイムで改ざんした足跡出現呪文を使えるよ。やったことある」

 

「まさか現場でやってないだろうな」

 

「現場ではやらないよ。でも改ざんできるという認識は一般的に広まってないから、記憶よりは信憑性のある証拠として扱ってくると思う」

 

「そもそも足跡出現呪文自体一般にあまり知られてないしね」

 

 と窮屈そうなカリムが言った。

 

 

 

 田舎にある古い石レンガの家に着くと、カリムとアシュクロフトは玄関に向かった。

 

「ティンバーレイクさん、闇祓い局です」

 

 カリムがドアを叩くと、その勢いで入口がゆっくり開いた。2人は顔を合わせると杖を抜いて中に入る。

 

「ティンバーレイクさん! 闇祓い局のイムです!」

 

 2人はまた顔を合わせると、二手に分かれる。額が多く飾られた階段をアシュクロフトが登り、カリムは1階を見て回る。

 

「ホメナム・レベリオ(人現れよ)」

 

 カリムが唱えてもなにも起きなかった。人影も荒らされた様子もなく、フロアを一通り見たカリムは地下へのドアを見つけた。そこは鍵がかかっていた。

 

「アロホモラ(解錠)」

 

 ドアの鍵に呪文をかけるが、動かない。

 

「ティンバーレイクさん中にいますか! 闇祓い局です!」

 

 反応はない。

 カリムは今度は杖先を鍵穴に入れ、小さな爆発を起こすと鍵が外れた。ドアを開けると修復呪文で鍵を直し、暗い階段を降りる。

 

「ルーモス(光よ)」

 

 カリムの杖先に照らされた地下はよく掃除がされていて他のフロアと同じくらい綺麗だった。

 ある部屋の入口に、十字架が飾られていることに気づいた。このドアには鍵穴に鍵が挿さったまま放置されている。カリムはノブを掴むとゆっくり開けて中を見ると、古びた机や地面に大量の蝋燭が置かれ、壁には大量の十字架と数字や文字の殴り書きがされた不気味な部屋が現れた。高い位置にある狭い窓から差し込む光がカリムの顔に当たり、眩しい光を避けるように中に入ると部屋を見渡す。

 

『私の罪をお許しください』

 

『私は悪魔の力を宿す罪人』

 

『悪の力は悪の力で制す』

 

 カリムの頭には悪い予感ばかりが浮かんだ。これをすぐアシュクロフトに見せようと、カリムは部屋を出ると階段を登る。1階に戻ると、なんとマサイアス・ティンバーレイク氏が廊下の写真棚を見て立っていた。

 

「えーと、もしかして僕を驚かせるためにずっとそこにいました? お疲れ様です」

 

 カリムが言う。

 マサイアスは見ていた写真を置くと他の写真に手を伸ばした。

 

「魔法をかけてはいけない物品一覧に建造物は含まれていませんでしたよ、闇祓いさん」

 

 とマサイアス。

 

「当時もお伝えしましたが、あれはあくまでも判例に基づいた判断による逮捕です。今回はマルフォイさんに送られたマグル製品の件で来ました」

 

 カリムが答えた。

 ちょうどアシュクロフトが2階から降りてきてティンバーレイク氏を廊下で挟んだ。杖を抜こうとしたアシュクロフトにカリムはその必要はないと手を上げて合図すると、棚に近づいて写真を見る。

 

「ナメクジクラブに加入されてたんですねティンバーレイクさん」

 

 写真を手に取るカリムはそれをティンバーレイクさんに見せた。

 

「そうです、左上に写ってるのが僕と弟のカリダスですよ」

 

 彼の言ったところを見ると、お互いとても近い距離で立つ若いティンバーレイク兄弟がこちらに笑顔を見せていた。

 

「スラグホーン先生の隣に立っているのはハリー・ポッター氏のお母様ですね」

 

「よくお気づきで、彼女は弟と同じ1つ下の学年でした。ちなみにその後ろに立ってるのがジェイソンですよ。ジェイソン・デンブライト」

 

「ラトウィッジの父親?」

 

「彼も一緒に私たちの同盟を作ったのですよ。優秀なマグル生まれだけを集めたクラブのようなものです」

 

 マサイアスは7人の学生が並ぶ写真を見せてくる。そこに映るジャケット姿の制服を着た学生たちはみんな、首から十字架を下げていた。

 

「マグル生まれの同盟ですか、また変わったことを。一体なにをしてたんですか」

 

「今の私たちを見ればわかるでしょう。魔法の力にしか着眼点のない視野の狭い連中とは違う土俵でのし上がったのです。一度はリリーも勧誘したんですがね、彼女は見ている世界が違いました」

 

 マサイアスは写真を元に戻す。

 

「地下にあった不気味な部屋はなんですか」

 

 カリムが直球に聞いた。地下から上がってきたカリムを見ていたからか、マサイアスは動揺したりする様子は見せなかった。

 

「説明しても、理解できないでしょう」

 

「地下に、なにがあったんだ?」

 

 アシュクロフトが言うと、マサイアスは背後の彼を横目で見た。

 

「あなたたちには、まあ私もですが、悪魔の血が流れています。神はそれだけで罰したりはしませんが、この力を使うことは許されることではありません」

 

 その答えにアシュクロフトはとても不満そうに、そして頭のおかしい人を見る眼差しでマサイアスを睨んだ。そんな彼を見てマサイアスは再びカリムと向き合う。

 

「あなたも理解できませんか?」

 

「できないですね。魔法はあくまでも手段にすぎず、使うこと自体に罪があるなんて理屈は通じません」

 

 カリムは一般論で返した。

 

「マグル製品に魔法をかけることも同じでは? 元々は手段にすぎませんが、それによる不利益を防ぐために魔法省が罪と定めた。魔術の使用は、不利益を防ぐために神が定めた罪なのです」

 

「なにが神だマグルの戯言が……」

 

 アシュクロフトが途中まで言いかけたところでカリムが再び手を上げ、アシュクロフトは口を噤んだ。

 

「魔法を使うことによる不利益とは?」

 

 とカリム。

 

「根本的に、自然法則を超える力を人類が操ることは神への冒涜です。さらに、魔術はそれを使える人類に高慢さや怠惰といった、利己的な生き方を覚えさせました」

 

 マサイアスが答えた。

 

「それは生きるのが便利になったとも捉えられますが、ほんとうに悪いことなのですか?」

 

「ディベートをはじめるなカリム」

 

 アシュクロフトが口を挟んだが、2人は見向きもしない。

 

「あなたが知る魔法の中で、人を喜ばせるためものはいくつ浮かびますか?」

 

 そう問いかけてきたマサイアスに、カリムは敵を見る目を向けて黙っていた。しばらく目を合わせたマサイアスは続ける。

 

「私の次の言葉がわかったようですね」

 

「人に害を与えるための魔法がいくつ浮かぶか、ですね。仕事柄も相まって、たくさん浮かびます」

 

 カリムはこれが自分の主張にとって不都合とわかっていていたが、そう答えた。

 

「そうです。たしかに魔術は原理的には人を喜ばせることにも使えますが、その設計思想が兵器であることには変わりありません。その本質が変わらない限り、魔法使いは神々が危惧する結果をもたらし続けます。それは魔法戦争などの歴史からもわかることです」

 

「でも今は闇の帝王のような存在はいないです。それは、魔法を害的に使う人たちと、それを止める人たちでバランスが取れているからともいえます」

 

「バランス……とても真理のように聞こえる言葉ですが、そんな考え方は革命を妨げます。私が信じるのはサイクルです。たとえば、死喰い人の悪行によって純血主義者は自らネガティブキャンペーンを働いたも同然になり、今はその反動でマグル文化がブームです。私たちの使命は、このサイクルをここで止めること」

 

「サイクル、それはバランスの中で常に揺れている偏りのことです、結局はバランスなんですよ。でもあなたのいう革命とやらを進めるためにはサイクルに着目した方が良いというのも正しいかもしれませんね。それで、それをどうやって止めるんですか?」

 

「それは全てを明かす訳にはいきません。あなたたちに邪魔されたくはないので」

 

「なんで俺たちが邪魔するっていうんだ?」

 

 今度はアシュクロフトが聞いた。

 

「その中には、違法な手段が含まれていたからです。もちろんそういった仲間のミスは裁かれるべきですが、あなたたちは私たちを丸ごと悪と見なすでしょう」

 

「仲間のミスというと」

 

 とカリム。

 

「例えばラトウィッジ・デンブライトの連続殺人事件。彼にその思想があったことは彼が犯行を始めた頃から知っていました。アリソンはその手助けをしていたのです。もちろん私は反対しましたが……」

 

「ちょっと待ってください。アリソンて、アリソン・デンブライト? ラトウィッジの母親の」

 

「そうです。彼女がしもべ妖精に命令しました、息子の死喰い人殺しに協力しろと」

 

 それを聞いてカリムとアシュクロフトは目を合わせた。

 

「その話はアリソンさんから直接聞いたんですか?」

 

「はい。ちなみにあなたたちは彼女に会ってますよ。私の妻です」

 

 それを聞いてカリムはふと、散弾銃を構える女性を思い出した。

 

「奥さんが、え……? 奥さんはマグルでは?」

 

「いえ妻は立派な魔女です。あの戦争のあと私と結婚しました。ただ、妻は戦後の裁判中に起きた省内の戦いで心的外傷を負ってしまい、杖を手に持ったまま離すことができなくなりました。その治療の一貫で杖を持たない生活をしていたのですよ」

 

「それで、奥さんはいまどちらに?」

 

「妻は昨日魔法警察部隊に捕まりました。お2人とも知らないようで驚きました」

 

「あいつらめ……あんたの奥さんのせいで俺の耳が聞こえなくなった」

 

 アシュクロフトが自分の耳を指しながら言う。

 

「無理に銃を奪おうとしたのが悪いと思います」

 

 とマサイアス。

 

「もしかして、ラトウィッジは自分の母親が生きていることを知らない?」

 

 カリムが聞いた。

 

「はい。アリソンの意向です。死喰い人狩りを助長させることが目的でした。統計的に死喰い人の祖先は闇の魔法使いがほとんどで、ゲラート・グリンデルバルドの信奉者が多かったことからも、死喰い人の子孫も同じく闇の魔法使いとして今後反マグル派の犯罪者になる可能性が高いと予想されました」

 

「それで、社会的に弱い立場になった元死喰い人を今のうちに殺してしまおうと……」

 

「その通りです。彼女の考えでは、まだ魔法界の死喰い人に対する敵意が新鮮なうちにこれを行い、息子を英雄にしたかったようですが、思ったより時間がかかってしまいました。でもその効果はあったようですね、最近は闇の魔法使いが焼き殺される事件が多いようですので」

 

「できればそれについてもお話を伺いたいですね、現場がおたくの子会社の工場なもので。ちなみにこの焼殺事件の被害者は元死喰い人に限っていません」

 

「でもラトウィッジの犯行以降、殺人の件数が増えているのはそちらもわかっているでしょう。皆ラトウィッジに触発されたのです」

 

 そのときアシュクロフトが笑った。

 

「耳の遠い俺でも久々にここまで長い話をはっきりと聞くことができたよ。すっげぇな、ひと昔は純血主義の犯罪者が多かったけどよ、ついに親マグル派も過激化したか」

 

「妻は法を犯しましたが、私は犯罪者ではないです。ですので私の行動をあなたたちに邪魔されたくはないのです。私の行為は全て法が許す範囲の中に収まっています」

 

「マルフォイさんに送ったマグル製品を覗いてですがね」

 

 カリムが言った。

 突然、マサイアスがカリムの背後を見た。

 

「彼はお仲間ですか?」

 

 その場にいた3人がその方向を見た。裏庭へのガラス戸を覗く男の姿があり、彼はすぐに逃げる。最初はフェリックスだろうと思っていたが、パーカーのフードを被ったマグルファッションの男は明らかに彼とは違った。アシュクロフトは杖を構えるとマサイアスとカリムの横を通ってガラス戸から出た。

 

「止まれ闇祓い局だ!」

 

 アシュクロフトはそう叫ぶと男を追ったが、男は外から壁の中に入り込むとその中を移動し、マサイアスの横の壁から這い出てきた。カリムは彼に武装解除呪文をかけるが、保護呪文で弾かれてカリムの杖が飛ぶ。すると戻ってきたアシュクロフトが男に光線を撃ち、それもまた弾かれるが、カリムは袖から抜いたバックアップワンドで男の足元を溶かし足を動けないようにさせた。男はそのまま床の中へ入り込むと、壁の中を移動して逃亡を図ろうとする。

 

「ホメナム・レベリオ(人現れよ)!」

 

 カリムが唱えるが、効果はなかった。

 

「あいつ保護呪文が強すぎる」

 

 とアシュクロフト。

 

「良き市民でないのは確かだ」

 

 カリムはそう言って玄関から外を見る。自然豊かな景色は、フェリックスが残るフォードから流れる音楽以外とても静かなものだった。

 ふと何かを思い出したかのように、マサイアスは玄関から出てきてカリムを横切る。カリムとアシュクロフトは彼を追った。

 

「どこに行くんですか」

 

 カリムの質問に答えるより先にマサイアスは倉庫に入ると、中から粉の入った袋を持って出てきて、また玄関に向かい家に入った。カリムとアシュクロフトも着いていき、彼が袋を机に置いて杖で破いて中の粉を一掴みするところをただ見守る。彼はリビングの暖炉に屈んで入るとカリムとアシュクロフトを見た。

 

「弟のカリダスが危ない。さっきの男を捕まえてくださるならここに来てください」

 

 マサイアスは空いてる左手でジャケットのポケットから名刺のような紙を出すと、机に投げたあとに右手の粉を足元に撒く。暖炉に緑の炎が上がるが、そこに杖を向けていたカリムとアシュクロフトによって炎は沈められた。

 

「逃がすと思うか」

 

 アシュクロフトはそう言うとマサイアスの首後ろの襟を掴んで彼を暖炉から引きずり出す。マサイアスはそれを振りほどくと2人から少し離れた。

 

「弟に会わせてくれ! 」

 

「じゃあ一緒に行きます」

 

 カリムはそう言うとマサイアスをアシュクロフトに任せて玄関から外に出た。

 フォードに残っていたフェリックスは大音量で音楽をかけながら歌っていた。カリムが低い石垣の壁沿いにある木の門を開けてフォードに近づいてきても、フェリックスはサングラス越しに目を合わせながら歌い続ける。

 

「フェリックス! ちょっと展開が変わった!」

 

 カリムが言うとフェリックスは音量とサングラスを下げた。

 

「どした? ティンバーレイクはいたの?」

 

「ティンバーレイクどころか刺客がいた」

 

「え、誰? 捕まえた?」

 

「逃げられた。もしかしたらこれから捕まえられるかも。来て」

 

 カリムがまた家に戻ると、フェリックスも車を降りて着いてくる。

 リビングではロッキングチェアに座らされたマサイアスと彼に杖を向けるティンバーレイクの気まずい沈黙が流れていた。マサイアスはなるべく椅子が揺れないように踏ん張っている。

 

「みんなで刺客討伐会? 顔は見た?」

 

 フェリックスの一言でアシュクロフトがやっと話せると言わんばかりに口を開いた。

 

「見てない。あいつ保護呪文に長けすぎて死の呪文でも使わない限り倒せない」

 

「つまり保護呪文を使う前に倒せればいいんだね?」

 

 とフェリックス。

 

「無理だよ、判断が早すぎてすべて弾かれる」

 

「判断する隙も与えないよ」

 

 

 

 街の広告がビルのガラスに反射し、外から中の様子は見えなかったが、ひとつの窓が開いて暗い中から2人の人影がかろうじて動いていた。

 アシュクロフトはうつ伏せになると、地面から数十センチのところで浮いていたライフルを掴んで構えた。レバーを操作して薬室を開くと、隣に置いてあるウィーズリーのロゴが入った紫とオレンジ色の箱を開けて弾を取り出し、一発ずつ弾倉にこめる。

 

「資料保管室でティンバーレイク一族について調べた」

 

 隣で万眼鏡を覗いて遠くの様子を見るカリムが言った。

 

「なにか言った?」

 

 ライフルの薬室を閉鎖させながらアシュクロフトが返す。

 

「ティンバーレイク一族について調べた」

 

「ローズの杖の照合はしたのか?」

 

「僕はしてない」

 

「そっちが先だろ」

 

「フェリックスに任せてる」

 

「フェリ……どうせ忘れてるぞ。それで、ティンバーレイクがどうした?」

 

「あの兄弟はマグル生まれで母方の祖父がスクイブだった。同じく母方の叔父が聖職者で、一家とも信心深い。マサイアスの発言からもわかる通りその宗教は魔法を悪としていたため、マサイアスとカリダスはホグワーツから手紙を受け取る頃には両親から捨てられてた」

 

「よくマグルを恨むようにならなかったな」

 

「むしろ殺さなかった親に感謝してるんじゃないかな。あのふたりが今も十字架を下げてるということは、11歳までよく教育されたんだと思う。そんな思想のふたりがここまで影響力を持つようになったのは魔法界にとって良いことではない気がする」

 

「なるほど。どうりであんな立場をとるわけか」

 

「ところで、なんでマグルの武器なの」

 

「なに?」

 

「なんで、マグルの武器を使うの? 今さらだけど音でバレないか心配になってきた」

 

 カリムはアシュクロフトの構えるライフルを指す。

 

「フェリックスの提案だよ、長距離を正確に狙うなら杖より鉄砲がいいってさ。弾は音より速いからこの距離なら銃声が聞こえる頃に相手は失神してる。花火まみれになってな」

 

「フェリックスはどこから鉄砲を調達したんだ?」

 

「危険生物処理委員会の倉庫にあった古いエルンペント狩り用のものだとよ。本来呪いが皮膚を通らない生き物に使う」

 

「エルンなに?」

 

「集中しろカリム、来るぞ」

 

 そう言ってアシュクロフトはライフルのスコープを覗き、カリムも万眼鏡に目を戻すとツマミを回した。ホテルのロータリーの脇に停る、派手な紫色をした三階建てバスを降りたティンバーレイク兄弟が見え、青い服のポーターがスーツケースを受け取ろうとしたところを断っていた。カリムはポーターの辺りを見回してから彼を拡大して様子を見る。

 

「青服以外に人はいない」

 

 とカリム。アシュクロフトは黙ってポーターに照準を定めていた。

 

「青服は魔法使いか?」

 

「『ナイト・バス』が見えてるなら魔法使いだ」

 

「バスを認識してるかわからない」

 

 ティンバーレイク兄弟はロータリーでただ立って、2人でなにやら会話しながら辺りを見渡していた。その様子が10数分に渡って続いたが、ふと通りかかった民間人の女性が突然ティンバーレイク兄弟の後ろで倒れた。兄弟は杖を出して女性の安否確認をはじめるが、青い服のポーターが戻ってきたためすぐ杖をしまう。ポーターは女性の脈を取ったりしながら兄弟になにやら指示するが、兄弟はそれに反論しているようだった。ポーターは一生懸命手で電話をする仕草をし、兄弟は目を合わせてなにもわからないという素振りをしながら、辺りを伺いつつもホテルに入っていく。

 

「クソあいつら死角に入りやがった! 行くぞ!」

 

 アシュクロフトはライフルを巾着の中に弾の箱と一緒に入れ、カリムに渡すと姿くらましをした。カリムは大きさのわりにやたら重い巾着を両手で持って非常階段に向かい、そこから1階まで一気に飛び降りた。クッション呪文で安全に地に足を着くとそのまま走って建物を出て、待っていたフォードGTの助手席に乗る。

 

「フェリックスホテルに行って」

 

 カリムが指示するとフェリックスはすぐ車を出しホテルに向かった。

 フォードをロータリーに停めると2人はすぐに降り、フェリックスが車に杖を当てると車のロックがかかる。その様子を青服のポーターが見ていたため、カリムは彼に忘却呪文をかけた。

 ロビーに入ると、早歩きで辺りを散策していたアシュクロフトと遭遇する。

 

「見失った?」

 

 カリムが聞くが、アシュクロフトは気づかず背中を向けたまま杖を抜いた。フェリックスが杖でアシュクロフトを突くと、やっと振り向く。

 

「遅いぞ、ティンバーレイクを見失った」

 

「アシュクロフト耳が聴こえないの?」

 

 とフェリックス。

 

「いいや、大丈夫だ」

 

 アシュクロフトは歩き続け、あと2人もそれに続く。

 

「アパレ・ヴェスティジウム(足跡現れよ)」

 

 カリムが杖をこっそり吹くと金の粉が小さく舞い、カリダスさんの足跡が現れた。それを追うと、向かった先は男性用トイレの個室だった。

 

「冗談だろアシュクロフト」

 

 カリムが言うと、個室を叩く。

 

「ティンバーレイクさん、いますか?」

 

 するとドアが開き、杖を構えたカリダスさんが出てきた。

 

「マサイアスが消えた、刺客はここまで来てる」

 

 狼狽えるカリダスさんは周囲の壁を警戒する。

 

「マサイアスさんはどこで行方不明に?」

 

 カリムが聞く。

 

「フロアに入ってすぐだよ」

 

「とりあえずここを出ましょう」

 

 その場の4人はトイレを出ると、法執行部3人は袖の下の杖に触れ、周りを警戒しながらカリダスさんを移動させる。

 

「アシュクロフト、耳、必要なら力になるよ」

 

 この状況下でフェリックスに緊張感はあるものの、アシュクロフトの耳の方が気になるようだった。

 

「機械の耳でも作ってくれるってか?」

 

 アシュクロフトが鼻で笑いながら言った。

 

「まあ、そんなとこかな」

 

 それを聞いたアシュクロフトは考え、少し溜を作ると口を開く。

 

「それはダサい」

 

「ダサくないよ、耳の後ろに真鍮のプレートが植え付けられるだけ」

 

「え、ほんとにあるのか?」

 

「知り合いにマッドアイの目を作った技師がいるんだ。高性能だし安全、保証するよ」

 

「フェリックスお前が作るんじゃないのか」

 

「僕は機械を五感と接続させる術には長けてない」

 

 2人がやりとりするところを、カリムが足を止めて割って入る。

 

「仕事に集中して」

 

 そのとき、それは突然起きた。先を歩いたカリダスさんが叫んだかと思えば、彼は体が焼け崩れて塵となった。3人は杖を抜いて辺りを警戒し、フェリックスが塵の近くに杖先を伸ばす。

 

「レベリオ(現れよ)」

 

 すると、廊下を塞ぐように張られた保護呪文の壁が

姿を現した。

 

「任務失敗にも程がある、仕事に集中しろよ!」

 

 カリムは2人に怒るが、アシュクロフトは保護呪文を見たまま平然としていた。

 

「カリム、お前俺たちに感謝するべきだ。じゃなきゃお前が塵になってた」

 

 アシュクロフトが言う。

 カリムは黙って保護呪文を睨んだ。

 

「人を塵にする保護呪文てなんだ」

 

 保護呪文の前に立つアシュクロフトはそれをまじまじと見た。

 

「いくつか心当たりがあるよ。たとえば悪魔の護り……」

 フェリックスが可能性をひとつあげたが、カリムが首を振る。

 

「違う、これは見たことがある。ホグワーツの戦いで城を守った保護呪文と同じものだ」

 

 フェリックスは「そうそれ」と呟くと、杖を逆さまにして先を咥えた。

 

「アパレ・ヴェスティジウム(足跡現れよ)」

 

 フェリックスの杖の後端から金の粉が吹かれ、するとそこに保護呪文を作った男の再現が現れた。なんと青服のポーターだった。

 

「やられた」

 

 そのとき、宙を浮くマサイアスを杖で誘導する男が廊下の向こうに一瞬見えた。コートを着ていて青いジャケットは見えないが、青服のポーターで間違いなかった。

 カリムは杖で保護呪文を突くとそれは消失し、3人で青服の男を追ってホテルの外にへ出る。すると聞き覚えのあるエンジン音が鳴り、目の前をフォードGTが猛スピードで走って過ぎた。

 

「あいつ!!! アレスト・モメンタム(動きよ止まれ)!!!」

 

 フェリックスは盗まれたフォードに向けて呪文を唱えるが、車に搭載された保護呪文によって効果は弾かれた。それを見てアシュクロフトが嫌な顔をする。

 

「セキュリティシステムはないのか!? これだからマグルの映画を見とけっていつも言ってるんだ!!!」

 

 アシュクロフトがフェリックスを責める間、派手な紫色の三階建てバスに寄りかかって葉巻を吸う運転手の元にカリムが向かっていた。カリムは運転手にバッジを見せる。

 

「バスを借ります」

 

 それを聞いたフェリックスはカリムに近づきながら盗まれたフォードが消えた先を指す。

 

「いや無理だよ追いつきやしない、あれはスポーツ用の車がベースな上に流体力学に基づいた飛行設計と最新のドラゴンファイアを搭載してるんだ……」

 

 カリムは聞きもせず運転席に乗ると、フェリックスはアシュクロフトに引かれて後ろからバスに乗り込んだ。アシュクロフトは紫色の制服を着た車掌の女性にバッジを見せるとそのまま運転席の後ろまで進んで窓を叩く。

 

「カリムいいぞ」

 

 そう言ったアシュクロフトにフェリックスは信じられないという目を向ける。

 

「良くないよこんな無謀な、時間の無駄だよ! カリムを置いて姿現わしで追跡した方がまだ現実的だね、こんな空気抵抗を無視した設計の……」

 

 喋り続けるフェリックスを無視してカリムはエンジンをかけた。

 

「お言葉ですが、僕の経験上地上を走るマシンじゃこいつが最速だね」

 

 カリムはそう言うとシフトレバーを前に倒してアクセルを踏んだ。バスはバーンと音を立て砲弾のような初速で走り出し、フェリックスとアシュクロフトは後ろにあった真鍮製の寝台へ放り出された。

 青服の暗殺者はフォードのバックミラーから、高速で近づいてくる三階建てバスを見て眉を寄せる。歩道も問わず突っ込んでくるバスの荒ぶる運転は正気とは思えなかった。

 

「あいつらイカれてるな」

 

 追いつかれまいと暗殺者もアクセルをさらに踏むが、バスとの距離は少しずつ縮む一方だった。

 バスの客間にいる2人は寝台から立ち上がると、平然と立っていた車掌の女性と気まずそうに目を合わせる。アシュクロフトは杖を抜くと前方のガラスに張り付いた。

 

「カリム、近づいたら速度を向こうに合わせて。車の上に姿現しする」

 

「無茶でしょ! かなり正確にやらないと落ちたり、最悪フォードのエンジンに詰まったりして肉のスペーサーになりかねない」

 

 とフェリックス。

 フォードのマフラーは突然大量のレンガを排出し、マグルたちの車をボコボコにした。カリムたちが乗るバスもそれを受けてボディが凹み、ガラスに亀裂が入った。

 

「ちくしょうめ。同じ速度になったら止まってるのも同じだ、俺はやるぞ」

 

 アシュクロフトは前方のフォードを睨む。

 

「突然相手が空飛んだらどうする?」

 

 フェリックスも引かない。

 

「奴は飛ばし方知らないだろ」

 

 そのとき、前方のフォードのボディが展開し飛行態勢に入った。後方に存在感のあった2本のマフラーは巨大な噴射エンジンに変形する。

 

「……中に使い方説明書がある」

 

 フェリックスが呆然と言うと、アシュクロフトは髪を撫であげた。

 

「説明書って、羊皮紙10巻きはあったよなあいつ運転しながら一瞬で読んだのか!?」

 

「注意事項を飛ばせば飛行機能の説明は一目でわかるように書いてある」

 

 前方のフォードは2つの噴射エンジンからドラゴンファイアを吐き出すと浮き上がり、突き当たりのビルとビルの間に向けて車体を90°傾けた。人間が通るのがやっとな隙間にフォードは突っ込む。それでもカリムは速度を落とすことはなかった。

 

「頭に気をつけろ!」

 

 運転席のカリムは天井からリンク構造のレバーを引っ張り下ろし、するとバスはビルに衝突する寸前で隙間に入るサイズまで幅が縮まった。炎を吐きながら隙間を垂直に飛ぶフォードにバスは追いつき速度を合わせる。

 

「近づいたぞ!」

 

 カリムが合図するとアシュクロフトは空中で渦に消え、傾くフォードの真上に現れ車体に足を着くと、杖を逆手に持って頭上に振り上げた。

 

「レベルテ(戻れ)!」

 

 上げた杖を突き刺すように振り下ろすと、杖先は保護呪文を抜けてボディに触れた。その瞬間、飛行モードに展開した車体が元のスポーツカーの形に戻り、同時にビルの隙間から出たそのフォードは道に停まっていた車に墜落する。一緒に飛ばされたアシュクロフトは向かいの建物にぶつかる手前で減速呪文により静止し、そのままゆっくり地面に足を着いた。

 三階建てのバスはビルの隙間を抜けると、駐車中の車にぶつかる寸前でカリムがブレーキを踏みレバーを引いたことでぴたりと停まった。フェリックスは派手にガラス窓に頭を打った。

 

「魔法ってすごい……追いつくとはね……」

 

 フェリックスが起き上がり、バスのボディをぽんぽんと叩きながら言った。

 数人のマグルがスマホでこの光景を撮っていた。カリムとフェリックスは彼らに忘却呪文をかけると、辺りに杖を振ってマグル避け呪文を張る。これによりマグルは外から中の様子を感知できなくなった。

 衝突したフォードに近づきながら杖を構えるアシュクロフトは、中の男を確認する。暗殺者は杖を振ってエアバッグを破るとフロントガラス越しにアシュクロフトと目を合わせた。助手席のマサイアスは意識がない。

 空を飛んでいた車が突っ込んだ割に、何事もなかったかのように座っている暗殺者であったが、その身体に沿ってできていた保護呪文が消えるのをアシュクロフトは確認した。

 

「見たことねぇ保護呪文だな……杖を棄てて外に出ろ!」

 

 アシュクロフトが警告する。そこでフェリックスが合流し、杖をフォードの車体に突き立てた。

 

「アペーリオ(開け)」

 

 するとフォードのシザーズドアが開いて暗殺者の姿が晒された。彼は杖を持ったまま足を外に出し、ゆっくりと立ち上がる。カリムは反対側からマサイアスを呼び寄せて回収した。

 暗殺者は正面にアシュクロフト、左手にフェリックスが着いた状況を見て、下を向いて眼鏡を上げながら笑った。彼が突然杖を振ると、杖先から放たれる複数の白い閃光が保護呪文を作りながら広がり、フェリックスを吹き飛ばす。アシュクロフトが同時に攻撃するが、瞬時に現れた保護呪文ではじかれた。その隙に暗殺者は地下鉄に向かって走って逃げ出し、コートを裏返すと裏地として縫い付けられた透明マントが彼の姿を消そうとした。すると彼の行く手を塞ぐようにアシュクロフトが姿現しをし、透明な暗殺者とぶつかる。倒れていたフェリックスは上半身を起こすと、金属の卵を投げて、そこから出てきた青い羽に覆われる肉の捕獲装置が暗殺者に巻き付くよう仕向けた。しかし暗殺者は素手で保護呪文を作りそれを弾き飛ばした。アシュクロフトは暗殺者の背後から脇に腕を通し、立ち上がったフェリックスが暗殺者に杖を向けて近づく。暗殺者は後頭部をアシュクロフトの顔面に打つとその腕から逃れるが、慌てて動いたフェリックスに透明コートを捕まれその姿を現した。地下鉄への階段で暗殺者はフェリックスとコートを奪い合い、力ずくで勝ちコートを取り返すも、フェリックスの錯乱呪文でコートは透明化の効果を一時的に失う。さらにフェリックスは袖から暗殺者に向けてなにかを噴射し、そのまま脱力すると階段に崩れた。

 

「マサイアスさんを頼んだフェリックス!」

 

 カリムはそう言って地下鉄を降りるが、フェリックスに名前を呼ばれて足を止めた。

 

「これ持ってって! 奴に付着させた」

 

 そう言ってフェリックスはカリムに黒いゴーグルを2つ投げる。カリムはそれを受け取ると階段を降り、鼻血を出していたアシュクロフトは杖を自分の鼻に当てて治しながら後に続いた。

 

「透明コートが復活する前に捕まえるぞ」

 

 カリムがそう言った矢先、暗殺者が角を曲がったのが一瞬見えた。2人は走って彼を追うが、彼が改札口の向こうに行くと、足止めされたカリムたちに嫌味な笑顔を見せる。

 

「フェリックスはあいつになに着けたんだ?」

 

 アシュクロフトが言う。

 

「ラックスパート」

 

 カリムが答えると、アシュクロフトは正気を疑う目でカリムを見た。

 

「つまりなにも着けてないんだな?」

 

「いいからこれ持って」

 

 カリムはアシュクロフトにフェリックスから貰ったゴーグルをひとつ渡すと、こっそり杖を振る。

 

「アクシオ、オイスターカード」

 

 すると周囲の電子機器が一瞬荒れ、近くのマグル2人から青いカードが逃げ出してカリムの手に飛んできた。ひとつをアシュクロフトに渡すと、2人はマグル流に正規の手続きで改札を通り、暗殺者を追う。暗殺者は2人がまだ追ってくるのを見て急いで電車に乗り込み、2人もドアが閉まるギリギリで車内に飛び込んだ。

 アシュクロフトは路線図を見上げ、この線が向かうとある駅を見た。

 

『チャリング・クロス駅』

 

 カリムも同じ駅を見る。

 

「クラブに逃げ込むつもりだ」

 

 カリムが言うと、アシュクロフトは頷く。2人は同時に暗殺者が乗った車両の方を向くと、マグルたちの間をかき分けて進むが、ふたつ目の車両を越えようとしたときカリムが足を止めた。

 

「どうした」

 

 アシュクロフトはカリムが見る目の前の空間に目を凝らす。保護呪文が張られていた。

 

「厄介なプロテゴ使いだな」

 

 アシュクロフトはそう言って向こうでこちらを見ていた暗殺者を睨んだ。

 予想通り暗殺者はチャリング・クロス駅に着くと走って改札に向かった。2人もその後を駆け抜け、地上に出るとマグルたちの目を引かないように早歩きで追跡する。暗殺者は漏れ鍋に入ると同時に復活した透明コートを裏返して姿を消し、カリムたちは走って同じドアをくぐった。

 

「コロポータス(ドアよくっつけ)」

 

 アシュクロフトが入口を塞ぎ、カリムも杖を振って窓を全部閉鎖させる。アシュクロフトがバッジを掲げた。

 

「闇祓い局です! みなさんどうか動かないでください!」

 

 カリムはゴーグルを付けながらダイアゴン横丁へ繋がる煉瓦の壁へ向かったが、すでにそこは開いていた。

 

「壁が開いた! アシュクロフトは店内を捜索して!」

 

 そう言ってダイアゴン横丁へ出たカリムは杖を振って壁を閉じた。

 

 

 

 ノクターン横丁の夜はひと際気味の悪い空気が漂っていた。路地の角で震えながらコートにうずくまる女性は、まだ若いのに老婆のように萎れ、手に持つ小瓶の濁った金色の液体を飲もうとしていた。その手を突然掴んだカリムは、コートの襟についたMのピンバッジを光らせる。

 

「私の手からもぎ取れると思ってるのかい役人さん? 私は無敵だ!」

 

 女性はカリムの手を振りほどこうとしたが、同時に小瓶が飛んで石の地面に砕けた。

 

「ああああ!!! 私の幸運が!!!」

 

「依存物質を加えただけの低純度なフェリックス・フェリシスですよ、元々幸運なんて大して訪れません」

 

 カリムはそう言うと、一緒にいたアシュクロフトと歩いて彼女から離れていった。

 2人の闇祓いは物静かな街の中に響く重低音を奏でる音楽の方へ向かった。音はとある空き店舗の半地下から流れ、その階段を降りた入口の前で体の大きい太った男が椅子に座っている。彼は2人の闇祓いが降りてくるところをずっと睨んでいたが、カリムがコートに付けているピンバッジを見て懐に手を伸ばした。

 

「魔法省の人間がなんの用だ」

 

 と太った男。

 

「闇祓い局です」

 

 カリムが答えた。

 

「魔法法執行部の人間は入れない」

 

「ここはまだクラブの外だ、お前を逮捕してもいいんだぞ」

 

 今度はアシュクロフトが笑いながら言った。

 

「そこの階段からこっちはクラブ内という決まりだ」

 

「そうか、試すか? もしお前をクラブ内で捕まえたからと俺たちが何かしらの罰を受けるとして、逮捕自体は法的に正当だからお前が釈放される理由にはならないと思うな」

 

「……どうなっても知らないぞ。入るなら4ガリオン、そして杖を預かる。ルールだ」

 

 2人の闇祓いは顔を合わせると、それぞれ杖を1本ずつ抜いて男に向けた。

 

「タダにしてやる、でも杖を持ち込めるのはVIP会員のバッジを持ってる客だけでね」

 

 太った男は妥協するが、2人は頑固に魔法法執行部のイシューバッジを突きつけた。

 

「意味分かるか?」

 

 2人の圧に男は懐に伸ばした手を引っ込めて一歩下がる。

 

「いいだろう。騒ぎはなしだ」

 

「言っとくが俺たちは騒ぎを取り締まる方だ」

 

 アシュクロフトが言うと、その2人は半地下の騒がしい施設に入った。ドアを開けたその瞬間から胸にまで響くダウナー系のEDMに歓迎され(カリムにとっては早く出て行けと言われるように感じたが)、入るとさっそくしもべ妖精がコートを預かりますと前に出てきたが、2人はそれを端的に断った。

 中は外から見たより明らかに広く、ダンスフロアはさらに階段を降りたところにあり、大勢の魔法使いや魔女、妖精、ゴブリン、そして吸血鬼などがうごめく光の線の中で踊ったり騒いだりしていた。

 

「これは元々マグルの文化だ! ディスコ、だったかな!」

 

「ゴーグルを着けろアシュクロフト!」

 

「今流れてるのはWWNで最近流れてるアーティストで、マグルの音楽から影響を受けてる!」

 

「ゴーグルを着けろ!」

 

「いいねカリムも気に入ってきたかい! 実はここのオーナーとは知り合いでね! 学生時代にグリフィンドールの……」

 

 アシュクロフトが音楽に合わせて首を前後に揺らしながら話し続けるところ、カリムは彼のコートの襟を掴んで耳元に顔を寄せる。

 

「アシュクロフト! 遊びに来たんじゃないんだぞ! 暗殺者を探せ!」

 

 耳元で叫ばれたアシュクロフトは一瞬黙ってカリムと目を合わせるが、すぐに万遍の笑みを浮かべた。

 

「そんな緊張すんな! すぐに楽しくなるぜ!」

 

 アシュクロフトの能天気さと耳の遠さに呆れたカリムは彼を置いてゴーグルを装着した。それを見てやっと察したアシュクロフトは、ゴーグルを睨むと嫌々着けてカリムとは別の方向に進む。

 

「こんなもの……」

 

 ダンスホールに降りたアシュクロフトは、そこに死喰い人の仮面を着けた者や闇の印が入った左腕を挙げて踊る者もいることに気づく。

 

「知ってる顔が何人かいるな」

 

 アシュクロフトが呟いた。

 2人の闇祓いの様子を、白いローブを着た黒髪の男が大きなガラス越しに上から見下ろしていた。男は持っていた紅茶をテーブルに置くとガラスの隣のドアから外に出て金属パイプの足場に立ち、ローブの下に着ているジャケットの裏から杖を抜くと、DJに向かって光を当てて合図した。すると突然音楽が止み、施設内の客たちはざわついて辺りを見回し、やがて高い足場の上にいる白いローブの男を見た。

 

「なんで法執行部の人がいるの? 協定違反だよ」

 

 杖を喉に当てて拡声しながら喋る男は、VIP席を見回していたカリムを見る。

 

「ロイ! 俺だよ!」

 

 アシュクロフトがゴーグルを外して男に声をかけた。

 男は声の方を向く。

 

「アリウス久しぶり。不適正使用取締局がなんの用? 非番ではなさそうだけど」

 

「俺は今は闇祓いだ」

 

「なんで? ここは協定によって法の執行が許されていないよ」

 

「そのルールは一体誰が取り締まるんだい?」

 

 アシュクロフトはそう言いながらちょっと笑った。

 ロイと呼ばれた男は喉から杖を離すとドアを開けて中を見る。

 

「エディ、魔法法執行部のウィリアムソンさんを呼んで」

 

 すると、ガラスの向こうに青服の暗殺者の姿が見えた。彼はロイに返事をして暖炉に向かう。それを見たカリムは杖を構えてロイのところへ登るルートを探そうとしたが、4人の杖を持った魔法使いに囲まれた。

 

「どこに行くんだい?」

 

「どけ闇祓い局だ」

 

 カリムはそう言って彼らの間を抜けようとしたが、胸を掴まれて押し戻されたため、その相手の喉を潰した。あと3人が杖を向けてきたが、カリムはひとりの腕を掴むと内側に捻りながら相手の背後にまわり、残り2人が放った光線を彼に当てさせると同時に喉を潰された最初の魔法使いの膝を蹴って脱臼させる。彼らが地面に倒れる頃には、残り2人のうちひとりは杖をカリムに奪われ、その杖を持つ腕が首に回り体軸を崩される。最後のひとりはカリムが近づく前に保護呪文を張った。

 アシュクロフトはその間に簡易組立の螺旋階段を登っていた。

 

「エクスペリアームス(武器よ去れ)!」

 

 アシュクロフトが唱えるとロイの杖が吹き飛びダンスフロアに落ちた。

 

「悪いけど、この先を通すわけにはいかないアリウス」

 

「魔法省に楯突くつもりかロイ」

 

「俺には、不死鳥会員のお客はいかなる相手からも護るという契約があるんだ。クラブの中ではね」

 

「じゃあお前も逮捕する。23時20分、公務執行妨害だ」

 

 そのとき、ガラス部屋のドアから足場に出てきた男がアシュクロフトに杖を向けた。アシュクロフトは彼を見ると目を細める。

 

「ウィリアムソンさん」

 

「やあアシュクロフトくん」

 

 ウィリアムソンはロイの前に立つと、アシュクロフトの杖を持つ手をそっと下ろさせた。

 

「彼は犯罪者を匿っているんですよ?」

 

 アシュクロフトが言うとウィリアムソンは首を振る。

 

「それでも協定違反だ。ここでは誰も手を出すことができない」

 

 ウィリアムソンが吸血鬼たちに囲まれるカリムを見下ろした。カリムが振った杖で3人の吸血鬼の胴がへし折れ、そのうちひとりが柵から落ちて叫びながらダンスフロアに倒れた。

 

「インカーセラス(縛れ)、アセンディオ(上がれ)」

 

 カリムの詠唱で2人の吸血鬼はお互いの首を1本のロープで縛られ、そのロープが浮いて吊るし首になる。そのあとも自分を捕獲しようと動く魔法使いを縛り上げ、青い雷のムチを振り回す有様だった。

 

「彼はそのルールを破った。このあとどうなるかわかる?」

 

 ロイが言った。

 

「おい執行する立場はこっちにあるんだぞ」

 

 アシュクロフトがそう言うも、ウィリアムソンはまた首を振った。そしてロイを見る。

 

「今回は見逃してくれないか。あまり大事にするとお互いにとって不利益になる」

 

「お客様が負傷してるのにそうはいきません」

 

 とロイ。

 

「おいロイ調子に乗るな、こっちは仕事でやってるんだ」

 

 アシュクロフトも引かない。

 

「俺も仕事でやってるんだ」

 

「はぁ付き合ってられん」

 

 アシュクロフトはウィリアムソンを避けてロイに肩をぶつけながらガラスの部屋に入った。そこに暗殺者の姿はなく、暖炉の横のドアを抜けると廊下に出る。別のドアがちょうど閉まるのが聞こえ、アシュクロフトはそこまで歩くとドアを開けようとしたが、鍵がかかっていた。

 

「アロホモラ(解錠)」

 

 呪文をかけても開かないため、仕方なくドアを力強く叩く。

 

「開けろ! 闇祓い局だ!」

 

 すると先程のガラス部屋からウィリアムソンが出てきてアシュクロフトに杖を向けた。彼が無言で放った呪文をアシュクロフトは保護呪文で弾き、静かな呪文の撃ち合いが始まる。ウィリアムソンが距離を詰めながらアシュクロフトは後ずさり、地面を崩されたアシュクロフトは下の階に落とされた。ウィリアムソンが上から見下ろす。

 

「すまないアシュクロフトくん」

 

「なにが協定ですか、俺の忠誠はウィゼンガモットが定めた法にあります!」

 

 アシュクロフトが瓦礫の中から立ち上がった。

 

「わかってくれ、ここは我々にとっても有益な場なんだ」

 

「犯罪者にとっても有益みたいですね」

 

「確実に犯行が認められた場合はもちろん捕まえるが、それはクラブを出てからだ。ずっとここにいることは誰もできまい」

 

「ふざけてる、目の前にいる犯罪者を逮捕できないなんてそんなアホなルールがあるか!」

 

 アシュクロフトには見えていたが、ウィリアムソンは背後に忍び寄るフェリックスに気づいていなかった。突然青い羽に包まれた肉塊がウィリアムソンの足に絡まり、フェリックスは彼の手から杖を奪い取ると金属の卵を廊下の遠く先に投げる。すると肉塊はウィリアムソンを連れてそこまで姿現しをした。ウィリアムソンはフェリックスに近づこうとするが、何度も卵の場所まで引き戻され、その法則に気づいたウィリアムソンは卵を掴もうとしたが、そこから失神の呪文が手を伝い彼は意識を失った。

 

「遅いじゃないか!」

 

 アシュクロフトが下の階の廊下からフェリックスを見上げて言う。

 

「マグルの車に突っ込んだ空飛ぶスポーツカーとナイト・バスが一ヶ所にある理由を魔法事故リセット部隊の人に説明してたんだよ。君たち闇祓いがなんて呼ばれてるか知ってるかい? 現……」

 

「現場荒らしだろ? 散々言われてるよ畜生」

 

 アシュクロフトは瓦礫の上に立つと、フェリックスに上げるようにジェスチャーした。

 

「あぁはい、レパロ(直れ)」

 

 フェリックスが杖を振ると抜けた床がアシュクロフトごと持ち上がって修復された。

 

「ありがとう。よし突っ込むぞ」

 

 2人は杖をドアに向け、アシュクロフトは「エクスパルソ(爆破せよ)」を、フェリックスは「ボンバーダ(砕けよ)」を唱えて入口を派手に吹き飛ばした。

 

「闇祓い局だ! おとなしく投降しろ!」

 

 2人が同時に言いながら突撃すると、そこは田舎の綺麗なホテルのような内装の部屋だった。エディと呼ばれた暗殺者は椅子に座って半地下の窓から外を見ている。

 

「やあエディ。エディ・カーマイケルか? 学生時代に魔法薬を密売してた」

 

 アシュクロフトが問いかけると、エディは首を傾げる。

 

「誰ですかそれ」

 

 エディはティーテーブルに置かれた魔法史の教科書の上にある杖を持つと、ゆっくり立ち上がった。

 

「人違いか。インペディメンタ(妨害せよ)!」

 

 アシュクロフトの攻撃をエディは弾いて余裕の笑みを浮かべ、両腕を広げて次の攻撃を待つが、アシュクロフトは杖を下ろした。

 

「奴のグローブ、民生用の盾の手袋だ。焼死体事件の犯人が着けていたものと同じ」

 

 アシュクロフトがエディの手を指す。

 そのとき、アシュクロフトとフェリックスの背後のドアが外れた入り口からロイとウィリアムソンが入ってきた。

 

「エクスペリアームス(武器よ去れ)!」

 

 ウィリアムソンが2人に唱えるとフェリックスの杖が吹き飛び、アシュクロフトは交わして反撃した。

 

「ヴェンタス(強風)!」

 

 するとアシュクロフトの杖先からハリケーンのような強い風の渦が発生し、ロイとウィリアムソンを廊下に吹き飛ばす。そしてまた振り向きざまにエディの足元へ杖を振った。

 

「オパグノ(襲え)!」

 

 すると絨毯がティーテーブルや椅子をひっくり返してエディを覆う。人の形をした絨毯は途中で球体になり、内側から保護呪文が張られたことがわかった。

 

「エディそのままね」

 

 後ろからロイが言った。アシュクロフトとフェリックスが振り返る頃には、ロイは口元に立てた杖先を吹いて大きな炎を上げていた。炎は不死鳥の形になり2人を襲う。

 

「勘弁しろよ!」

 

 アシュクロフトが叫ぶ。

 フェリックスはバスルームに逃げ込むと、着いてきたアシュクロフトの腕を掴んで引っ張り、アシュクロフトのバックアップワンドをさりげなく拝借する。そのとき大きな火炎が角から吹き付けられ、とっさにアシュクロフトが保護呪文を作った。

 

「アグアメンティ(水よ)」

 

 フェリックスがアシュクロフトの杖を下に振ると水が大量に発生し、火炎の真下に地面を伝って沸騰しながらロイの元へと流れていく。

 

「悪霊の火はいかなる水でも消せねぇ!!!」

 

 アシュクロフトはそう言うが、フェリックスは構わず杖をひょいと上げた。すると地面の水が一気に浮いて火炎へ接触して、その瞬間大爆発が起き、フェリックスらは保護呪文ごと壁に押しつぶされた。

 辺りは静かになったが、大きな耳鳴りが止まなかった。フェリックスとアシュクロフトは保護呪文を消して瓦礫の中から出ると、壁が抜け天井と地面が消え去った部屋を見渡しロイのいる方を見下ろす。彼は下の階の部屋で倒れ、杖は派手に折れていた。絨毯に包まれたエディは瓦礫の下で動いていない。

 フェリックスが自分の頭の周りに杖を回すと、次にアシュクロフトの頭に突き付ける。すると、アシュクロフトの耳鳴りが消えた。

 

「何をした……?」

 

 アシュクロフトが辺りを見て言う。

 

「エピスキー(治癒呪文)だよ」

 

 とフェリックス。

 

「ちがう、この惨事」

 

「これ? 水蒸気爆発」

 

「水蒸気は燃えねぇぞ?」

 

「マグルの文化は好きなのに科学は疎いのね。水剋火みたいな古い自然科学は忘れた方がいいよ」

 

「お、おう……悪霊の火を第三者が消すのは無理だと思ってたぜ」

 

「少なくとも魔法で消す方法は僕も知らないね」

 

 2人は瓦礫を伝って下の階に降りると倒れるロイの方へ近づく。ロイには意識があるようで、注射器を取り出して針に着いたキャップを抜くと、自分の胸に突き立てて刺した。

 

「え、なにかしてるよ。インカーセラス(拘束)」

 

 フェリックスの呪文によってロープに縛られたロイだが、身体中の火傷がみるみる再生しはじめていた。

 

「面白い魔法薬を持ち歩いてるんだな」

 

 アシュクロフトはロイを見下ろしながらそう言うと、腕時計を見る。

 

「23時33分、闇の魔術による加害行為及び、公務執行妨害の容疑で逮捕する。フェリックスは杖返せ」

 

 フェリックスは突然自分が言われて一瞬戸惑うが、思い出したようにアシュクロフトにバックアップワンドを返した。

 アシュクロフトとフェリックスはロイとエディを拘束して浮かせながらダンスフロアに出た。

 縛られている人や気を失った人たちに囲まれて、カリムはフロアの真ん中にあるカクテルテーブルで紅茶を飲んでいる。同じテーブルに着く見知らぬゴブリンはファイアウィスキーを片手にアシュクロフトたちを見た。

 

「イムさんや、やっと来たぜ」

 

 とゴブリン。

 

「ああ、ちょうどトイレに行きたかったんだ。助かったよありがとうスノーク」

 

 カリムはそう言うと、紅茶を飲み干して先が折れた杖を持ち、テーブルから離れた。

 

「なにしてんだ? 応援に来いよ」

 

 アシュクロフトがキレ気味に言う。

 

「彼が、僕を助けてくれたんだ。じゃあなストロー!」

 

 折れた先が皮一枚で繋がる杖をふらふら振るカリムに、ゴブリンは背を向けたまま階段を登ってクラブの出口へ向かった。

 

「おいカリム! 錯乱の呪文だな」

 

 カリムの胸ぐらを掴むも目が合わないため、アシュクロフトは杖をカリムの頭に向ける。

 

「フィニート(呪文よ終われ)」

 

 すると、我に返ったカリムが周りの惨状を見回した。

 

「これ僕ひとりで?」

 

 カリムが足元に倒れる吸血鬼の足を蹴る。

 

「ゴブリンと一緒に戦ったぽいぞ」

 

「ゴブリン? 武器になにを使ったんだい? あ、フェリックスこれ直せる?」

 

 カリムが折れた杖を掲げた。

 

「いいよ。ついでに傘も貸してくれない? 改良案があるんだ」

 

 とフェリックス。

 カリムはOKと言うと折れた杖をコートのポケットに入れた。

 そのとき、クラブに魔法事故惨事部の職員たちがぞろぞろと入ってきた。ダンスフロアの有様を見て、スキナーさんが杖をくるくる回しながらこちらを睨むように見下ろす。

 

「また、あなたたちね」

 

「奥はもっとすごいですよ」

 

 と宙に拘束されるロイが言った。

 

 

 

 ガラスの向こうの尋問室に見えるロイはとても大人しかった。魔法省の暗い尋問室では、彼の白いジャケットがとても眩しい。

 

「このオーナーが使った魔法薬はなにかわかった?」

 

 アシュクロフトがフェリックスに聞く。

 

「ガラス管に付着してた液体を分析した。とても信じられないけど、不死鳥の涙だったよ」

 

 フェリックスが答えた。

 

「不死鳥の涙があんな量も?」

 

「そこらじゃまず買えない。値段もきっと相当だよ」

 

 そのときガラスの向こうでドアが開き、カリムが入ってきた。ロイはカリムと目が合うと頭を下げる。

 

「向こうにいる彼には真実薬を試したよ。名前はエディ・ジェプソン、殺人の前科あり」

 

 フェリックスが真実薬の入った小瓶を振りながら後ろの壁を指した。

 

「真実薬の許可が降りたのか?」

 

「降りたよ。奴に開心術を使おうにも、保護呪文が常に体の上を巡回しててできないと判断された」

 

 そう言ってフェリックスは小瓶をポケットに戻す。

 

「盾の手袋は取ったよな?」

 

「当たり前じやん。手袋や杖がなくても保護呪文を作れるみたいよ」

 

「手袋は見せかけか……真実薬はまだ効いてる?」

 

「もちろん。アシュクロフトが尋問できるように飲ませたんだよ」

 

「そうか、ありがとう。じゃ行ってくるか」

 アシュクロフトはそう言うとフェリックスから紫色のファイルを受け取り、監視室を出た。 

 カリムは両手を拘束されるロイの向かいに座ると、ファイルを開く。

 

「よかった久々にあなたは単籍者ですか」

 

「単籍者?」

 

 とロイ。

 

「二重籍じゃない人のことですよ。あなたみたいに魔法界にしか籍がない人は逮捕手続きが楽なんです。マグル界に籍がある人を捕まえると向こうでその口実を作らなきゃいけないんですが、それは魔法事故惨事部の管轄になります。手続きしに惨事部へ行くのが億劫で、彼らいっつも嫌な顔しやがるんですよ」

 

「そうなんだ。残念だね、逮捕手続きが楽な俺に限ってすぐ釈放されちゃうのは」

 

「ほう、随分と楽観的ですね」

 

 カリムが言ったそのとき、尋問室にウィリアムソンと魔法警察部隊員2人が入ってきた。

 

「釈放だ」

 

 ウィリアムソンの言葉にカリムは立ち上がる。

 

「法は協定より優遇されます」

 

 カリムが強気で言うが、ウィリアムソンは右手を肩まで上げた。その間に警察部隊員たちがロイの手に杖を向けて拘束呪文を解除する。

 

「すまないイムくん」

 

「こいつは法執行部の職員2人に対して悪霊の火を放ったんですよ!?」

 

「あれは警告で、実際に危害を加えるつもりはなかった」

 

 とロイが解放された手をさすりながら立ち上がる。

 

「法執行妨害です」

 

 カリムは引かないが、ウィリアムソンは右手をさらに少し上げる。

 

「彼は必要な存在だ。これ以上邪魔するようならイムくん、君を業務妨害で捕まえなければいけなくなる」

 

 それを聞いたカリムは、肩の力を抜いて一歩下がった。

 ロイはカリムに手を振ると尋問室を出ていき、その間ウィリアムソンは最後までカリムと目を合わせている。

 

「ご協力ありがとう」

 

 そう言ってウィリアムソンも尋問室を出ていった。

 隣の尋問室に入ったアシュクロフトは、暇そうに背もたれに寄りかかるエディと目を合わせた。

 

「やあエディ。真実薬はまだ効いてるか?」

 

 アシュクロフトはそう言うと紫色のファイルを机に投げる。

 

「とっても良く効いてますよ」

 

「それじゃ俺を見ろ。イカしてるだろ」

「うーん、まあ、いいんじゃないんですか? 多少は」

 

「薬切れたか?」

 

 アシュクロフトはエディと目を合わせたまま沈黙し、そして鼻で笑うと彼の向かいに座り、足を組んでファイルを開いた。

 

「エディ・ジェプソン38歳……カリムと同期か。98年にホグワーツの戦いで同級生の生徒を殺害した疑い」

 

「あれは……不可抗力でした」

 

「ここ最近の焼死体もお前の不可抗力か」

 

「いいえ? 僕が焼いたら跡形もなく灰になりますよ。目の前で見たでしょう」

 

「そっちは認めるのか。カリダス・ティンバーレイク殺害容疑」

 

「真実薬を飲まされてるので認めるしかないでしょう。ティンバーレイク兄弟は過激派で、魔女狩りを再開させようと企んでいました」

 

「だからといって私的な殺しが許されるわけではない。そもそもティンバーレイクが魔女狩りを再開しようとしているという話は本当なのか?」

 

「僕たちは親マグル過激派とここ数年密かに戦っていました。ティンバーレイクは過激派の頭です」

 

「僕たち?」

 

「ええ、僕たち。僕たちはこうやって隠れて生きるのにうんざりしています。現代のマグルには僕たちを認めるだけの多様性を受け入れる準備ができている上、僕たちの力はマグルの助けにもなる」

 

「統合主義思想だな、ノットミーか? それともグリンデルバルドの信奉者か? 思想がなんであれ、お前の行為が罪に問われることは変わらない」

 

「では司法取引といきませんか? 僕たちは彼ら過激派についてあなたたちより知識があります。もう少し詳しく言うと、ティンバーレイク率いるレイエス&ノット社についてとても有益な情報を持っています。魔法省で密かにおこなわれている……」

 

 そのときフェリックスが尋問室に入ってきた。彼はなんとエディに杖を向け、瞬時にアシュクロフトが止めに入り緑の光線が天井に当たった。

 

「どういうことだ!」

 

 アシュクロフトが叫ぶ。

 すると今度はカリムも部屋に入ってきて、アシュクロフトに制圧されるフェリックスを見て眉をひそめた。

 

「な、なにどういう状況?」

 

「こいつ、死の呪文を撃ちやがったぞしかも省内で!」

 

「誰を狙ってよ」

 

 そこでエディが手を上げる。

 

「僕です。さすがに死の呪文は防げませんから、助かりました」

 

「ちょ、こいつ外に出して!」

 

 カリムが部屋の外に言うと、魔法警察部隊の人たちが入ってきてエディを連れて出ていった。

 アシュクロフトに抑えられるフェリックスは、着けていた指輪を片手で取ると地面に叩きつける。するとそこから衝撃波が放たれ、部屋の中の全てのものが浮遊した。アシュクロフトも浮いたことで、自由になったフェリックスは杖を立てる。

 

「ネビュラス(霧よ)」

 

 これによって部屋中に霧が広がり一面真っ白になった。

 カリムはなにも見えないまま空中で杖を抜く。

 

「アセンディオ(上がれ)」

 

 すると部屋中の浮遊するものが全て天井に張り付き、カリムは天井に逆さになって立つと、また杖を振る。

 

「パーティス・テンポラス(道よ開け)」

 

 今度は霧が左右に開け、天井に貼り付くアシュクロフトと逆さに膝立ちするフェリックスが現れた。

 

「インカーセラス(拘束)!」

 

 カリムがまた唱えると呪文は逃げようとするフェリックス目掛けて飛んでいき、彼の首にロープが巻き付く。フェリックスはそれを気にすることなくドアへまっすぐ駆け出すが、アシュクロフトがドアに杖を向けていた。

 

「コロポータス(ドアよくっつけ)!」

 

 アシュクロフトはドアを閉鎖したが、フェリックスがそこに杖を向けてなにかしようとしたため、カリムがまた杖を振る。

 

「ディセンド(落ちろ)!」

 

 すると部屋の中で天井に張り付いていた全てのものが落下し、わかっていたカリムはなんとか足を着くが、アシュクロフトとフェリックスは地面に倒れた。

 

「アセンディオ(上がれ)」

 

 カリムがフェリックスに向けて再びこれを唱えると、彼の首のロープが上がって吊るし首になる。

 

「エクスペリアームス(武器よ去れ)」

 

 地面を這うアシュクロフトがフェリックスに武装解除をかけると、フェリックスのポケットや袖の中から道具が飛び出し、杖の他にネクタイやアームバンド、靴までもがその身から離れて地面に撒かれた。

 カリムは吊るし首のフェリックスを杖で誘導すると、椅子に落として座らせ、さらに杖を振ると首にあったロープが体を伝って手足を拘束した。

 

「どういうことだ!」

 

 カリムがフェリックスに怒鳴る。

 アシュクロフトはゆっくり立ち上がった。

 

「アシュクロフト、開心術の出番」

 

 とカリム。

 

「フェリックスは元無言者だぞ、閉心術の訓練を受けてる」

 

「知るか閉心術なんて崩してやる。アクシオ、チオペンタールナトリウム」

 

 カリムが唱えながら杖を振る。フェリックスはそれを聞いて天井を見上げながら、あぁと唸ってため息をついた。

 廊下を飛んできた注射器ケースがカリムの手の中に入ると、カリムは杖をしまってケースの中から注射器と小瓶を取り出す。アシュクロフトはフェリックスの左横にまわると腕を抑えて袖をめくったが、魔法の袖が勝手に元に戻って厄介だった。

 

「イモビラス(動くな)」

 

 カリムの呪文で袖は動きを止めた。フェリックスの左腕にカリムは注射を打ち、同時にアシュクロフトがフェリックスのポケットから真実薬を奪って彼の口に注いだ。

 

「飲め、飲むんだ!」

 

 アシュクロフトは無理やり注いだ真実薬の小瓶をマジックミラーの窓枠に置くと、フェリックスと向かい合い杖を自分の顔の前に立てる。

 

「フェリックス・ヘイズ殿、これは開心術使用許諾願いの手続きです。あなたには拒否権があり……」

 

 そのときカリムがアシュクロフトの杖を立てる手を掴んだ。

 

「なにしてる?」

 

「なにって、開心術の手続きを……」

 

 アシュクロフトは突然止められて驚いた様子だ。

 

「正規の手順なんか知るか? 無理っていうなら僕がやる」

 

「お前開心術できないだろ」

 

「だからこいつで強行する。許容量を超えるけどな」

 

 カリムは真実薬の小瓶を取って再度フェリックスの口に注ぎまくった。

 

「お前は、フェリックス・ヘイズか!」

 

 カリムが直接質問する。すると、フェリックスは抵抗しながらも口を開いた。

 

「……そうだ……」

 

 それを聞いてアシュクロフトと目を合わせると、カリムは続ける。

 

「お前は魔法省魔法法執行部の人間か」

 

「……ち、違う……」

 

「どこの人間だ!」

 

 今度はアシュクロフトが声を上げた。すると、フェリックスは口と鼻から真実薬を吹き出しながら強い抵抗を見せ始め、やがてまた口を開く。

 

「しん……神秘部……」

 

 その答えに、カリムとアシュクロフトは目を合わせたまま固まった。やがて2人はフェリックスに目をやる。

 

「神秘部……省内で一体なにを企んでる」

 

 とカリムが聞く。

 

「こ、これは……せ……潜在性服従術の、研究の一貫だよ……カリム、君は被験者だ……」

 

 そこでフェリックスは口から出たものをもう一度飲み込み、そしてカリムと目を合わせる。

 

「……"研修期間は、もうすぐ終わる"」

 

「なんの話をしてる」

 

 アシュクロフトが聞くが、フェリックスはカリムを見たまま続けた。

 

「……アシュクロフトを捕まえて」

 

 するとカリムは突然袖から杖を抜きアシュクロフトに向けた。その瞬間アシュクロフトの手から杖が吹き飛びカリムの手に収まる。

 

「ブラキアビンド(拘束)、レビコーパス(身体浮遊)」

 

 続けてカリムが唱えると、アシュクロフトは両手が動かせない状態で宙を浮いた。だがアシュクロフトもそんなにやわではない。

 

「エマンシパレ(解放)!」

 

 彼は杖なしの詠唱でカリムの術から解放されると、フェリックスをカリムの方へ椅子ごと蹴り倒し、それと同時にフェリックスを踏んずけてカリムに近づき杖を蹴り飛ばした。カリムはアシュクロフトから武装解除した杖を使おうとしたが、それもアシュクロフトに手で弾かれ落としてしまい、とっさにその手を掴むとアシュクロフトの体軸を奪って地面に倒した。そのときアシュクロフトは視界に入った杖を拾い、覆いかぶさってきたカリムの頭に突きつける。

 

「サージト(目覚めよ)」

 

 カリムは一瞬動きを止めるが、さらっとアシュクロフトの手の杖を掴むと、もぎ取って投げ捨てた。

 

「僕が催眠状態とでも思ったのかな。悪いけどこれは僕の意思だよ」

 

「そんはずはない、ついさっきまでカリムはこっちの側だった」

 

 アシュクロフトはカリムの顔面を蹴飛ばすと、地面を這って杖を拾い立ち上がる。カリムも鼻を抑えながら懐の杖を抜く。

 

「……あれも僕だし、これも僕だ」

 

「そんなことはありえない!」

 

 アシュクロフトは杖を振って光線を飛ばしカリムはそれを保護呪文でかわす。

 

「ありえない? 現に僕は今目覚めの呪文が効かなかった。今の僕が、どこまで僕なのか見分けられないんだろうね」

 

「それが服従の呪文なら見分けられるはずだ、被術者は心地よい催眠状態におちいり……」

 

「そんなものはないよ、この新たな服従術は僕の意思を残す。実は違うのかもしれないけど、僕はこれを僕の意思だと認識してる。それならこれは僕でしょ」

 

「ならボガートが合言葉を言ったときアイデンさんだけが反応してカリムが平然としていた説明がつかない、お前は一体……」

 

「いや僕も反応したよ。アイデンさんと違って僕は成功例だから、指示がないときは待機状態になり頭がぼうっとするんだよ」

 

 それを聞いてアシュクロフトは少し考える。

 

「……なるほど辻褄があった。だからあのとき駐車場に遅れたんだな。神秘部はなにを目的にしてる、あの少女に続いて闇の帝王でも復活させる気か?」

 

 アシュクロフトが杖を突きつけながら叫ぶ。椅子ごと倒れているフェリックスはそれを聞いて背中を向けたまま笑い、カリムも首を振った。

 

「アシュクロフト、なにを勘違いしてる? 僕は腐っても闇祓いだ。でも近年は世論もあって野放しにせざるをえない犯罪者が多くいる」

 

「そういうことか。やはり一連の焼死体もカリムがやったんだな。私的制裁に走るとはパニッシャーのつもりかカリム、俺たちはあくまでも法の遣いで秩序を乱すわけにはいなない」

 

 アシュクロフトとカリムは杖を向け合いながら部屋を回るように歩く。

 

「あれれ、前と主張が逆転したね」

 

「してない。司法が公平になると法の抜け道で悪徳を得る者が増えるから、省は臨機応変にルールを変えるべきだとは言った。でもルールを破るべきとは言ってない」

 

「なるほどね。確かに、そこは僕の勘違いだった。でも求める結果は同じでしょ。君のそれは理想論で現実的ではない、自分の力ではどうにもできない理論を展開するなんて浅はかな学生みたいだよ」

 

「そうかもな、俺の主張は建設的ではないかもしれん。でもお前のやり方がほんとに正しいならなぜ服従の呪文をかけられる必要があるんだ? 元々のカリムがそのやり方を否定したからじゃないのか?」

 

「それについても説明できる。昔ラトウィッジ・デンブライトが出廷する前に僕に言った、あなたは服従させられたんじゃなくて、解き放たれたんだ、と。彼の分析は当たってる」

 

「そうかい。まだ救いようがあると思ってたのに、これで希望も失せたよ!」

 

 アシュクロフトは杖を大きく回すと、尋問室の入口を塞ぐように保護呪文を張り、そして廊下へ駆け出した。閉じ込められたカリムは保護呪文に杖を突き立ててそこから穴を開けるが、すぐにアシュクロフトが警察部隊の人たちを連れて戻ってきた。

 

「彼らを逮捕して」

 

 アシュクロフトが言うも、警察部隊の人たちは戸惑っていた。

 保護呪文が完全に消え、カリムはアシュクロフトに杖を向ける。

 

「犯人は僕らではない、彼だ。過去に闇の魔法使いによって家族が襲われ、娘は気が狂い、妻とは離婚。その恨みで犯罪者たちに復讐を誓い闇祓いとなり、しもべ妖精カルテルの男を焼き殺した」

 

 カリムの主張にアシュクロフトが怒りを剥き出しにする。

 

「よくもそんなことを!!! お前が殺したんだろ!!!」

 

「アシュクロフトはカルテルの男を特に軽蔑してた。"しもべ掘り野郎" なんて呼んでたしね。彼が闇祓いへ転属し、隠密戦術の訓練を受けたあたりから、闇の魔法使いたちが焼殺される事件が発生しはじめた。僕が気づかないとでも思った?」

 

「お前さっき自白したばかりだろ!!! 焼き殺したのはお前だ!!!」

 

「アシュクロフト……正気とは思えない。エマンシパレ(解放)」

 

 カリムがフェリックスに杖を振ると、彼はロープを捨てて立ち上がり、杖の先をくわえた。

 

「アパレ・ヴェスティジウム(足跡現れよ)」

 

 フェリックスが金の粉を吹くと、それらは尋問室中に足跡を出現させる。そして、アシュクロフトの姿が現れた。金粉で再現されたアシュクロフトはエディに杖を向け、死の呪文を放とうとしてフェリックスに抑えられた。

 

「な、これは錯乱の呪文だ……これは改ざんされている!!!」

 

 アシュクロフトの声は虚しく、すぐに魔法警察部隊の人たちに取り押さえられた。

 

「4時12分、魔術による加害行為及び殺人未遂、さらに連続殺人の容疑で逮捕します。アシュクロフトさん」

 

 警察部隊の人に杖を没収されたアシュクロフトは、両手を呪文で固定されると身動きが取れないように宙を浮かされる。カリムとフェリックスを呪うような強い眼差しで睨みながら、彼は連行された。

 

 

 

 留置所のアシュクロフトはカリムを見ると鬼の形相を浮かべた。

 

「エディが事実を吐くぞ」

 

 アシュクロフトが言う。

 カリムは平然とした表情で檻を挟んで彼の前に立った。

 

「エディは君とグルということになってる。君は彼を捕まえたくなかったからクラブに逃がしたということにしたよ、最後のところで彼の逮捕に貢献したのはほとんどフェリックスだったし。つまりエディの発言は誰も信用しない」

 

「むしろエディはお前とグルなんじゃないのか? 同じ自警活動家じゃねぇかよ」

 

「彼は統合主義者だ、ノットミーかもね。僕はアシュクロフトと同じ分離主義だよ」

 

「俺と同じだなんてその口で言うなクソ鷹野郎、いつか目に物見せてやる」

 

「怖いからそういうこと言うのやめて。それより、どうやって僕を一連の焼死体と結びつけたの?」

 

「自分でわかってるだろ鷹野郎」

 

「ごめん本当にわからない。割と上手くやってるつもりだった」

 

「しもべ掘り野郎の焼死体の左腕に破れぬ誓いの跡があることをお前は覚えていたのに、フェリックスがそれを発見してもすぐに報告しなかった。変に勘が良すぎると思われて疑われたくなかったから黙っていたんだろ? その辺りからなにか隠してると思ってたんだ」

 

「それはきっかけで、確証ではないでしょ。犯人は姿くらましで逃げたけど、僕はできない。そりゃやれば見えてる場所くらいなら飛べるけど今回の犯人は跡形もなく消えた」

 

 カリムのその言葉を待ってましたとでも言うようにアシュクロフトは笑い、檻の間から手を出すとカリムのトラウザーズを掴んで裾を上げる。足首に隠れていた黒い腕時計が見えた。

 

「フェリックスの記憶装置付きポートキーは便利だよな」

 

 アシュクロフトは怒りを混ぜて笑う。

 

「……わお、マーリンの髭だ。でもこれが確証に繋がったわけではないでしょ」

 

「もちろん他にある。手口に覚えがあった。元妻が服従させられた長女に呪いをかけられた事件を当時担当したのはカリムだという話はしたよな」

 

「ああそれ、今でも思い出せない」

 

 カリムがそう言って自分の頭を指さしたとき、その右手をアシュクロフトが掴んだ。そして手の火傷を見る。

 

「当時容疑者と尋問室に入ったお前はコートとこの手を焼いて出てきた。尋問室に残された容疑者はこの一連の事件の死体と同じように身体が朽ちて死んだ。不思議にも容疑者は保護呪文で守られていたはずなのにだ。それだけでなく、その現場に入った職員も後から体調不良を訴えるようになった。みんな聖マンゴで療養したが、なんの呪いかは特定できず終いだった」

 

「できるはずがない。呪いじゃないんだから」

 

 カリムはアシュクロフトの手を振り払う。

 

「だろうな。ノーク製紙で俺に飲ませたマグルの薬について調べたとき、犯人がカリムだと確信した。薬の別名はヨウ化カリウム、甲状腺という部位に放射性物質が集まるのを低減させる。その必要があるとお前が思ったのは、放射線に晒されたしもべ掘り野郎の死体に俺たちが近づくとわかっていたから」

「わお……自己調べでそこまでわかるもんなの? やっぱり優秀だねアシュクロフト」

 

「ああ頑張ったさ。でもお前がなんの呪文を使ったのかがわからない」

 

「教えてあげる。太陽の光だよ」

 

「太陽の、光?」

 

「太陽の放つ光がどれだけ有害か、それは地上ではなかなかわからないよね。アシュクロフトの家族を手にかけた容疑者のことは記憶にないけど、保護呪文越しに攻撃できたのはきっと、どれだけ強力な保護呪文も光を通す特性があるから」

 

 それを聞いてアシュクロフトは下を向いて笑った。

 

「お前ら似てるよ、呪文の使い方が秀才だ。箒のコブラ機動も見事だったな。俺がすすめた映画から着想を得た技だったということか」

 

「ああ、そうそう」

 

「鷹野郎め……白仮面は証拠保管室にあったデンブライトのものを盗んで使ったんだな」

 

「証拠品保管室からは色々拝借したよ。コートや手袋など」

 

「証拠品保管室に証拠品があるとは誰も思わねぇもんな。しもべ掘り野郎を焼いたとき使ったローズの杖もか?」

 

「あれはフェリックスの杖コレクションから拝借した」

 

「なるほどフェリックスか……俺は残念だよ」

 

「僕も残念だ。本音のところ、君をアズカバンには入れたくない。でも、逃がす方法がない」

 

 カリムのこの言葉にアシュクロフトがすぐ反応しなかったのは、まだ疑っているからかもしれない。それでもアシュクロフトはカリムをまっすぐ見た。

 

「いやあるぞ」

 

「と言うと」

 

「デンブライトのイヤホンペンダント、あれを俺に渡せ」

 

「それでどう逃げると?」

 

「いいからよこせ。俺を不当に監禁したくなければな」

 

「……わかった。頼むから、僕らのすることに今後は関わらないでくれ。僕は君の正義を尊重するし、君も僕にそうしてほしい」

 

「尊重? これが尊重してるってか?」

 

 アシュクロフトが両腕を広げ檻を3度も見た。

 

「これはアシュクロフトが僕らを逮捕させようとしたから仕方なく取った判断だよ。世界には常にバランスを取ろうとする働きがある。このマグルみたいに堅い司法が野放しの犯罪者を生み出し、神秘部は僕たちを生み出した。必然だ」

 

 カリムはそう言いながら1歩ずつ下がる。

 

「行政部門でもないくせに不採算なクソ神秘部が、ついに法執行部の足まで引っ張りにきたか」

 

「足を引っ張る? むしろ司法に足を引っ張られてるところをカバーしてるんだよ。マグルの文化に詳しいでしょ? 彼らの世界は魔法界がこのまま進んだ未来を描いてると思うんだ」

 

「こんなこといつまでも続けられると思ってるのか?」

 

「こんなことをいつまでも続ける必要がある世界のままにはしないよ」

 

 最後にそう言い残したカリムは、アシュクロフトに背を向けて歩いていった。

 

 

 

 十字架が下がるイヤホンのコードを持つカリムは、法廷に入る直前のアシュクロフトに追いついた。彼と一緒にいた2人の魔法警察部隊員にカリムは代わるように伝えると、2人は眉をひそめながら暗い廊下を戻っていった。

 カリムはアシュクロフトのポケットにイヤホンのペンダントを滑り込ませる。

 

「幸運を祈る、アシュクロフト」

 

「ほざけ」

 

 アシュクロフトは最後にそう吐き捨てると、法廷のドアを開けた。

 ウィゼンガモットの代表が尋問官席からアシュクロフトを見下ろすと、ガベルを3回叩く。

 

「懲戒尋問、10月13日。被告、アリウス・アーレン・アシュクロフト。住所、バークシャー州……」

 

 尋問官が続ける中、アシュクロフトはポケットに手を入れ、イヤホンのコードで繋がれた十字架のペンダントを親指でさすった。その瞬間アシュクロフトの目の前に屋敷しもべ妖精が姿現しして来た。ポブだ。

 状況を察した法廷の魔法使いたちはとっさに杖を抜くが、それよりも早くポブはアシュクロフトを連れて姿くらましをした。

 

 

 しもべ妖精転勤室の中年女性はカリムの服装を見て片眉を上げた。

 

「親族かい?」

 

 と聞かれてカリムは自分の服を見て黒いネクタイを指す。

 

「あ、いえ、事件の被害者です」

 

「ほう、親しかったのかい」

 

「いえむしろ、あまり良く思われてませんでしたね。遺族も、近くにいた僕たちを無能呼ばわりです」

 

「そうかい、大変な仕事だねえ」

 

「慣れました」

 

 カリムはしもべ妖精のポブについて記された資料に目を落としていた。

 

「アシュクロフトがその舌なしエルフを雇いたいと言ったときにゃ私もなにを考えてるのか不思議だったさ。エルフもエルフだよ、下っ端闇祓いに従えるとはプライドとかないんかねえ」

 

 中年女性はそう言ってカリムの手から書類を奪い返す。

 

「なんでポブを雇いたいか説明してました?」

 

「いいや。でも今の私にはわかるよ、彼の追い詰められた表情は悪人のそれとは違った。そして、あんたを置いて消えた」

 

 女性はそう言って目を細める。カリムは彼女と目を合わせず、2人の間にある窓ガラスを眺めた。

 

「わりと最初から警戒してたのか……」

 

 

 

             

 

 

 男は目を覚ました。大きな波が壁に勢いよく打ちつけられる音が遠くから響く。薄暗い部屋を見渡すとゆっくり上半身を起こし、ふらふらと立ち上がると檻に手をかけた。

 

「看守!」

 

 男が叫ぶ。しばらくすると、黒いコートを着た男性がやってきた。彼は杖を檻に当てて音を鳴らす。

 

「どうしたデンブライト」

 

「慰者を呼んでほしい……頼む」

 

「また、闇祓いの夢を見るってやつか?」

 

「僕は、自分の記憶に浸りたいんだ! あいつの人生を見るのはもう、うんざりなんだよ……」

 

「悪夢じゃないだけいいだろ、ここは昔みんな悪夢しか見なかった」

 

 そう言ってコートの男性はその場を去った。

 牢の男はその場で座り込むと、檻にもたれかかる。

 

「イムさん、これはあなたの呪いなの……?」

 

 彼をこの監獄に送った闇祓いは病院に記憶を保管していた。男の好奇心はそれらを盗んで憂いの篩で見るに至った。まさかそれがこびり付いて、自分の夢にまで現れはじめるとは思ってもいなかった。

 その日の夜も、男は硬いベッドに横になると自分の過去に集中するが、気づいたらまた闇祓いの記憶にいた。

 

 

 

 カリムの右手はまだ火傷がなく綺麗で、黒い杖があった。

 リビングに立つカリムは血塗れのカーペットを見下ろし、杖を懐のホルスターに戻すとキッチンに向かった。

 

「アリウス・アシュクロフトさん。今回の事件を担当する魔法警察部隊のカリム・イムと申します」

 

 カリムがキッチンにいた男性に話しかける。男性は杖を手にしたまま怒りに震えていた。

 

「あいつを殺せないか……あいつを殺してくれ」

 

 男性が言う。

 

「犯人には然るべき罰が下されます」

 

「然るべき? 英国魔法界の生ぬるい罰のことか? あいつは娘を服従して妻に外道な呪いをかけさせた!!! 娘を使ったんだぞ!!!」

 

「それについて詳しくお聞きしたいです」

 

「あんな呪い見たことない、妻のお腹にいる娘が……まだ産まれてもないのに!!! お願いだ、俺に奴を殺させてくれ!!! 殺してやりたい!!!」

 

「アシュクロフトさん落ち着いてください。あなたには、まだ奥さんや娘さんがいるでしょう」

 

「じゃああんたが殺してくれるか!!! 奴はこのままでは吸魂鬼さえいない生ぬるいアズカバンに終身刑だ、英国魔法界にはその程度がせいぜいなんだ!!! そんなの、そんなの割に合わねぇ!!!」

 

「量刑に関してはウィゼンガモットが判断します」

 

「それが本当の正義だというならそうすればいい。お前がそう思うならな!」

 

 怒りに燃える男性の杖先はときどき花火を散らせた。

 

 

 

 魔法省の薄暗い尋問室には机が除かれ、椅子に拘束される容疑者は周りを球体の保護呪文に囲われていた。

 

「やぁカリム。久しぶり」

 

 容疑者はカリムを見上げた。

 

「……やぁライアン」

 

 2人は顔見知りのようだった。そのまま昔からの仲のようにしばらく話し込み、そしてカリムがふと本題に入る。

 

「アシュクロフトさんの娘に使わせたえげつない呪文はどこで覚えた」

 

「アボルタム? リックが発明した。胎児堕ろしの呪いだよ、これがまあ役に立つものでさ」

 

 容疑者の調子は友達と会話するときのそれのままだった。

 

「この期に及んで人道的にどうかなんて話はしない。ただただ気持ち悪い」

 

「ありがとう。俺はあれが好きなんだ、ぬるっと堕ちてくるのが見ててすっきりする。まるで肉でできた血まみれのクソさ。その瞬間までは健康だったからどの部位も綺麗な形で出てくるわけでな……」

 

 話し続けるライアンをカリムは冷ややかな目で見ていた。そしてさらっと懐から杖を抜くと彼に向ける。

 

「ルーモスソレム・マキシマ(太陽の光よ)」

 

 その瞬間カリムの杖先から強烈な光が放たれた。暗い部屋は外よりも明るく一面真っ白になり、保護呪文越しにライアンは光を浴びる。光がゆっくり消えていくと、カリムは伏せた顔を正面に戻して自分の杖を持つ右手を見た。杖は煙を吹きながら黒く焦げ、手は大火傷を負っている。そんなこと気にもしない様子でカリムはライアンを見ると、彼は全身の皮膚が溶けたようにただれてとても醜い姿となり、苦しそうに唸っていた。カリムは焼けた手をだらりと下ろすと、微動だにせず彼の様子を眺め続けた。

 

「僕のやるべきことがわかりました、アシュクロフトさん」

 




【人物紹介】

〈アリウス・アーレン・アシュクロフト Arius Arlen Ashcroft〉
魔法不適正使用取締局 → 闇祓い局
茶髪の男性
グリフィンドール寮出身

〈カリム・レダ・イム Karim Reda Yim〉
魔法警察部隊 → 闇祓い局
アジア系の男性
レイブンクロー寮出身

〈フェリックス・ヘイズ Felix Haies〉
神秘部 → 闇祓い局調査部
茶髪ポニーテールの男性
レイブンクロー寮出身

〈アイデン・オリバンダー(カリムの上司) Aiden Ollivander〉
闇祓い局 → 年金受給
カリムの主任闇祓いだったが、ある事件をきっかけに退職
ギャリック・オリバンダーの甥
レイブンクロー寮出身

〈スキナー Skinner〉
魔法事故惨事部
ヒスパニック系の女性で、よく杖をくるくる回している
グリフィンドール寮出身

〈ウィリアムソン Williamson(原作)〉
魔法法執行部

〈ラトウィッジ・ネイサン・デンブライト Lutwidge Nathan Denbright〉
細身で背が高く、やつれた顔に肩まで伸びた焦げ茶の髪
連続殺人の罪でアズカバンに投獄
レイブンクロー寮出身

〈ジェイソン・デンブライト Jason Denbright(映画)〉
ラトウィッジの父
デンブライト証券創立者
ヤックスリーにより殺害

〈アリソン・デンブライト Alison Dembright(映画)〉
ラトウィッジの母
アズカバンに投獄
デンブライト証券 → レイエス&ノット社

〈ポブ Pob〉
ラトウィッジに着いている屋敷しもべ妖精
デンブライト証券に仕えていた

〈マサイアス・ティンバーレイク Mathias Timberlake〉
デンブライト証券取締役 → レイエス&ノット取締役
背が高く髭を整えたマグル生まれの中年男性
グリフィンドール寮出身

〈カリダス・ティンバーレイク Calidus Timberlake〉
ノーク製紙南部工場管理人(レイエス&ノットの子会社)
マサイアスの弟
エディにより殺害される
スリザリン寮出身

〈フィニアス・ミューレン Phineas Mullen〉
ノーク製紙南部工場社員
アシュクロフトとカリムによって強制的に開心術を使われた

〈サイモス・ダーウェント Simos Derwent〉
聖マンゴ魔法疾患障害病院精神療法師
ラトウィッジにより殺害される
カリムの主治癒だった

〈ヘルマン・ヘンドラベルク(しもべ掘り野郎) Hermann Handleberg〉
しもべ妖精売買カルテル
焼殺される

〈ルシウス・マルフォイ Lucius Malfoy(原作)〉
ラトウィッジに襲われた元死喰い人
スリザリン寮出身

〈エディ・ジェプソン Eddie Jepson〉
統合主義派
カリダス・ティンバーレイク殺害容疑で逮捕される
保護呪文の使い手
ハッフルパフ寮出身

〈ロイ・ヴォクセン Roy Woxen〉
クラブのオーナー
グリフィンドール寮出身

〈ロイド・レダ(カリムの弟) Lloyd Reda〉
カリムの弟
スリザリン寮出身

〈アラン・レイエス Allan Reyes〉
レイエス&ノット社の代表

〈ウォロシアス・ノット Wolosseus Nott〉
レイエス&ノット社の代表

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。