貞操逆転開拓村の種付け司祭 作:ユリイカ
人類は歴史書が紡がれるはるか以前から、常に魔の脅威に晒されてきた。広大な世界のなかで、彼らが版図とするのは僅かな土地だけ。増大する人口を養うには、あまりにも足りない。そのためいくつもの開拓団が結成され、居住地を求めて旅立っていく。
ハロモ村も、そうして新たに作られた開拓村のひとつだった。
「あちらが星光教会です。聖堂と、司祭さまのお部屋を用意しています」
「なんて立派な……。ありがとうございます」
まだ村人それぞれの家もなく、ほとんどの者はフェルネの営む宿屋で雨露を凌いでいる。鍛冶屋や倉庫といった、村の運営に必須の施設が最優先で建てられるなか、質素な村内では浮いて見えるほど立派な、尖った屋根の教会があった。白い漆喰で塗られた美しい壁に、ガラスの窓が嵌め込まれ、中には立派な祭壇もある。祭壇の背後に燦然と輝く星は、星光教を象徴する存在だ。
村を簡単に案内したフェルネは、最後に教会へソラを導いた。星光教の司祭である彼のため、村人総出で用意された荘厳な建物である。
「司祭さまの到着を、我々は心待ちにしていました。頼るもののない、明日も分からぬ暮らしでは、心身は脆くなってしまいますから」
「安心してください。何か不安に思うこと、悩み事があれば、僕が聞かせていただきます。もし人目が憚られるようならあちらの懺悔室に。それも困難なら、意見箱も用意するつもりです」
大陸で広く信仰されている星光教は、星の導きのままに土地を拓けと開拓団を手厚く支援している。ソラがハロモ村に派遣されたのも、その一環だ。
常に命の危険が隣り合わせの暮らしでは、どれほど屈強な女でも挫けることがある。彼女たちの支えとなり、心身のケアをするのが司祭なのだ。
星に誓って秘密は守ると断言するソラに、フェルネも頼もしそうに頷いた。
「司祭さまが頼もしい方で安心ですわ。――このためにわざわざ開拓団に参加したんですから」
「そ、そう言っていただけると幸いです!」
顔を逸らし、後半を小さく呟くフェルネの言葉が聞き取れず、ソラは首を傾げながらも拳を握る。2メートルに迫りそうなむっちりとした巨体の彼女と比べれば、人間で男のソラは小さく頼りない。お世辞とはいえ、歓迎の意を示されると安堵があった。
聖典を抱きしめるようにして笑顔を浮かべるソラは、迫り出した爆乳越しにじっと見つめるフェルネの視線に気付かない。糸のような細目の奥にじわりと濡れたような光が宿っていることも。
ふくよかな狐獣人の女将はふさふさの尻尾をゆらりと動かし、扉の外へと足を向けた。
「それでは司祭さま、最後に私の宿を紹介――」
「おっほーーっ! 男じゃねえか!」
フェルネが聖堂の扉を押し開けた瞬間、陽光の注ぐ外から何かが飛び込んできた。
「ぎゃっ!?」
「ふへへっ。ほっぺたモチモチで可愛いなぁ。華奢な身体つきしやがって、なんだこの服。胸元がモロ見えじゃねえか。誘ってんのか?」
訳もわからず赤絨毯の敷かれた床に押し倒されたソラは、そのまま大きな手に揉みくちゃにされる。なんとか呼吸を整えて見えたのは、己に跨って組み伏せる褐色の巨乳美女だった。筋肉質な肉体を惜しげもなく晒す極小の鎧――ビキニアーマーが乳房に食い込み、豊満な肉体が克明に浮き上がっている。
燃えるような赤髪を一房に纏め、額から黒いツノが二本生えている。
「うへ、へへっ。お前、星光教の司祭なんだよな。こんなに若くて可愛い男が来るなんて、ツイてるなぁ。じゃ、挿入れるぜ――ごぎゃっ!」
「出会い頭に何をしているんです、ディーダ」
力で押し除けることができないソラの胸元を弄りながら腰を浮かせた鬼人族の女が、勢いよく横へ吹き飛ぶ。整然と並べられていたベンチが盛大な音と共に砕け散り、もうもうと土埃が舞い上がった。
目まぐるしい展開に理解が追いつかないソラに、拳を振り抜いたフェルネが手を差し伸べた。
「申し訳ありません、司祭さま。女ばかりの暮らしで、頭がおかしくなってしまった者もいるのです」
「は、はぁ……」
眉を下げたフェルネはソラを軽々と引き上げ、聖衣の汚れをはたき落とす。三角耳を倒して陳謝する彼女の言葉に、ソラは生返事を返すことしかできなかった。
「誰がバカだ、腹黒狐!」
「あら、生きてたのね」
「S級冒険者舐めんなよ!」
ガシャンと音を立ててベンチだったものを押し除けながら立ち上がった鬼人の女が目を吊り上げる。フェルネは涼しい顔で一瞥もくれないが、ソラははっと目を見開いた。
「ハロモ村のS級冒険者……! ディーダさんですか!」
「ん? なんだぁ、あたしのこと知ってんのか? いかにも、"赫刃"のディーダとはあたしのことさ」
腰に手を置き、ニィと獰猛に笑う。その姿を見て、ソラは目を輝かせる。
冒険者とは前人未到の魔境へと自ら飛び込み、魔獣を狩ることを生業とする者のこと。いくつかのランクによって実力を示される彼女たちのなかでも、S級は頂点に立つ存在だ。ハロモ村への赴任が決まったソラも事前の情報収集の中でそのことを知り、強い憧憬を抱いていた。
ディーダは真っ直ぐな尊敬の視線に気を良くして鼻の下を伸ばす。鬼人族は屈強な肉体と凄まじい膂力を誇る生まれながらの戦士であり、彼女の引き締まった肉体もその勇猛さを物語っていた。
「お出迎えにもいなかったくせに、調子がいいわね」
「狩りに出てたんだよ。知ってるくせによぉ」
ディーダとフェルネはあまり仲が良くないのか、むしろ勝手知ったる仲なのか、遠慮がない。唇を尖らせるフェルネに、ディーダは教会の外を親指で示した。外に出たソラたちの目に入ったのは、路傍に積み上げられた大猪の山だった。
「これ、全部ディーダさんが狩ったんですか!?」
「おうとも。念願の司祭様が来るって話だったからな。今夜は宴だぜ」
ソラの肩に腕を伸ばし、首に絡みつくようにして密着するディーダ。陽気な女戦士の汗ばんだ肌が押し付けられて、少年は顔を赤くする。
「んほほっ。童貞っぽい反応! 唆るねえ」
「じゃあディーダ。夜までに解体してちょうだいね」
「はぁっ!?」
ぺろりと唇を舐めるディーダの肩をがっちりと掴む手。澄ました顔のフェルネの言葉に、ディーダはつっかかる。
「私は司祭さまを宿に案内しないといけないの。S級冒険者なのに、獲物を捌くこともできないのかしら?」
「んな訳ないだろ!」
「じゃ、よろしく」
ソラの頭上で短い会話が繰り広げられる。二人の負けず劣らず立派に迫り出した胸が哀れな少年司祭を圧迫していた。
雑な煽りで乗せられたディーダは大猪の方へと向かい、フェルネは少年の手を引いて村で一番大きな建物である宿へと歩き出す。
「村人の寝床と食事の場、それと今後の来客に備えて、一番最初に建てたんです」
「なるほど。拠点は肝心ですもんね」
村の中心にある宿屋、ハロモの大鍋亭。看板に冠する通り、食堂も兼ねた広い一階の中央には巨大な鍋が据え付けられていた。すでに何かの料理が始まっており、室内には煮込まれた肉と香草の匂いが広がっている。
「私は普段、大抵はここにいます。暇な村人もここで休んでいることが多いですね」
開拓団の憩いの場であり、情報共有の拠点ともなる重要な施設だ。文字通りに開拓活動の中心になっている。今も鍋の周りで休んでいた女たちが、ソラを見て色めき立っていた。
「二階には村人たちが使う雑魚寝用の大部屋、三階が個室になっています」
更に裏には地竜を繋ぐ厩舎や井戸、洗い場、厠なども一通り揃っているという。フェルネの案内を受けたソラは、想像以上の充実ぶりに驚きを隠せないでいた。
「まだここに来て半年ほどですが、一通りのものは揃っていますよ」
彼の表情を読んだフェルネは、そう言って柔らかに微笑む。白い手が少年の肩に優しく触れ、胸元へと流れていく。
「フェルネさん?」
「この宿の一室は、司祭さまのために用意しました。――お気に召されるといいんですが♡」
雰囲気が変わる。しっとりと濡れた声が、少年の耳元をくすぐる。
動きを固くするソラの手を引いて、フェルネは階段を登り始めた。
「女ばかりの村で辟易しているのは、皆同じ。誰もが司祭さまの到着を心待ちにしていました」
踏み板に体重が乗り、ギシギシと軋む。
ハロモ村に男はいない。そもそも、人間族以外には男が生まれない。しかし興ったばかりの村が存続するために子孫は必須だ。星光教が司祭を送るのには、そういった理由もある。
他の種族の女たちとも交わり、子を成すことができる人間の男。彼は未来への希望そのもの。
心身共に疲弊する暮らしを送る開拓村の女たちを導く星の光。
「最初に司祭さまの種を頂けるのは、村長の特権。――長旅でお疲れのところ申し訳ありませんが、お願いしますね♡」
優しい言葉遣いながら、ソラに拒否権はない。
三階の一室の前で立ち止まったフェルネは、肉厚な唇をゆがめる。肉食獣の表情を浮かべた女は、少年の腕を掴んで暗い部屋へと引き込んだ。