※この作品はR-18です。

貞操逆転開拓村の種付け司祭   作:ユリイカ

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第4話「開拓村の用心棒」

 二人きりの世界に水を差され、フェルネはすっと目を細めながら立ち上がる。狼狽えるソラの頭をそっと撫でて微笑みを浮かべた直後、扉の方へと振り向いた時には冷徹な無表情に転じていた。

 簡単に服を着直してわずかに扉を開くフェルネを待ち構えていたのは、鬼人族の冒険者ディーダだ。

 

「うお、くっせ。ってそうじゃない。大変なんだ」

「獣臭くて申し訳ないわね。こっちは取り込み中なのだけど、冗談だったら許さないわよ」

「冗談でこんなとこまで駆けつけるかよ。森からデカい奴が近づいてきてる」

 

 ディーダの一言で、フェルネの雰囲気は一変する。真剣な表情で頷き、一度扉を閉めるとベッドの上でシーツ握りしめて座り込んでいる少年に優しく声をかけた。

 

「司祭さま、すこし面倒なことになったわ」

「魔物の襲撃ですか」

 

 ここは開拓村。一歩外に出れば、そこは前人未到の魔境だ。ハロモ村の正面に広がる黒々とした森にも、凶悪な魔獣が跳梁跋扈している。S級冒険者であるディーダは、それらの脅威から村を守るのが役目だ。しかし、一人で強大な魔獣に太刀打ちできるはずもない。特に魔獣の方が村に狙いを定めて迫って来ているのならば、村民総出で対処しなければならない。

 

「ぼ、僕も――」

「司祭さまはこの宿から出ないように。外は危険です」

 

 急いで聖衣を掴むソラに、ぴしゃりと言葉が叩きつけられる。

 フェルネは先ほどまでの艶めいた表情を消し、村の代表として冷然と彼を見下ろしていた。

 

「荒事は女たちに任せてください」

「……」

 

 まっすぐな言葉だからこそ、何も言い返すことができない。

 男とは弱く、儚いもの。魔法を扱うこともできず、力でも敵わない。女に守られなければ、生きることさえままならない。否定することのできない事実を突きつけられては引き下がるしかない。

 ソラは肩を落としながら頷いた。

 

「それでは、私も――」

 

 部屋から出ていこうとするフェルネの手を、咄嗟に掴む。

 首を傾げて振り返る狐獣人に、彼は目を潤ませながら強く言葉を届ける。

 

「無事を祈っています。どうか、気をつけて」

「っ! ――当然です。司祭さまとのイチャラブ種付けセックスを中断させた罪は重いですからね」

「あれ? えっと、気をつけてくださいね?」

「ええ、もちろん」

 

 本当にこちらの心配は伝わっているだろうか。

 不安が過ぎるソラの頬を撫でて、今度こそフェルネは部屋を出る。

 

「行きますよ、ディーダ。今夜の宴に料理を一品追加します」

「はっ! そりゃいいな」

 

 二人が階段を駆け下り、大釜亭の前にある広場へ出た時、すでにそこには武装した開拓村の女たちが集結していた。鍛冶屋も大工も薬師も、皆それぞれに武器を持ち、防具を身につけ、臨戦態勢だ。常に危険と隣り合わせの開拓村において、非戦闘員の女など存在しない。

 

「獲物は」

「おそらく、ブレイズハウンドの近縁種ね。ただ、かなり大きいわ」

 

 短い問いに、泥と落ち葉にまみれた女が答える。目の前に広がる森のなかに潜み、魔獣の動向を監視する斥候役のひとりだ。異常な動きをする魔獣が見つかれば、すぐに走って知らせに来る。

 実際に魔獣の姿を見た斥候の言葉に、フェルネは眉を寄せる。

 

「厄介ね。水魔法を使える者はできるかぎり魔力を温存しなさい。村が燃えたら取り返しが付かないわ」

 

 ブレイズハウンド。それは火炎を自在に操る魔獣である。獰猛で執念深く、群れを成す。厄介なのはその火炎。一度広がれば容易には消すこともできず、一晩で森を消し炭に変えることもある。

 

「どうせ燃やすなら、魔の森の方を燃やしてくれないもんかね」

 

 ディーダがつまらなそうにボヤく。

 魔力を帯びた火炎を吐くブレイズハウンドがなぜ魔の森を燃やせないのか。その理由は単純で、この土地の木々にも強い魔力が宿っているからだ。

 しかしながらハロモ村の建物のほとんどは木造だ。生木よりもよほどよく燃える。

 

「ここ数日は森も静かだったってのに。何も今日来なくてもな」

「あたしらの事情を考えてくれるほど、甘い奴らじゃねえってことだ」

 

 口々に恨み言を漏らしながらも、村人たちは武器を取り動き出す。

 村の中で迎えるはずもなく、森の中にはすでに防衛線となるバリケードが構築されていた。

 

『オォォォォォォォンッ!』

 

 森の中へ踏み入る彼女たちの耳に、くぐもった遠吠えが届く。

 魔獣は間違いなく、近づいてきている。

 木々を切り倒した広い空間に、杭を打ち込んで組み上げたバリケードがある。高所から弓を射掛ける櫓も備えられ、要塞と呼んでも差し支えないほど立派なものだ。まだハロモ村が興されてから半年程度だというのに、すでにバリケードには無数の補修と補強の跡が重なっている。

 

「来たぞ!」

 

 櫓から目を凝らす見張りが叫ぶ。

 幾重にも立ち連なる立派な魔樹がメキメキと音を立てて倒れ、力強く大地を揺らす重い足音がいくつも重なる。

 ディーダは己の得物――重厚な金属製の巨大な戦斧を手にしてバリケードの前に立つ。目尻を吊り上げて睨む彼女は、暗い森の奥で火焔が揺らぐのを見た。

 

『ガルゥ!』

『ガァァ!』

『アォオオンッ!』

 

 矢の如く飛び出してきた、赤黒い毛並みの野犬が吠える。牙の隙間から火焔を漏らしながら駆けてきたブレイズウルフの群れが、一斉にバリケードを襲う。

 

「射て! 一匹足りとも逃すな!」

「死ねええ!」

 

 櫓から矢が降り注ぎ、バリケードの隙間から槍が繰り出される。

 開拓村の女たちは皆、百戦錬磨の手練ればかり。獰猛な魔獣を相手にしながらも臆する事なく冷静に処理していく。

 

『ギャイン!』

『グルゥウウ!』

 

 群れる魔犬を分断し、一頭ずつ的確に潰していく。

 櫓の上に陣取り戦況を俯瞰するフェルネが的確に指示を飛ばし、足元の村民が忠実に遂行する。高度な連携と統率が、彼女たちの守りを鉄壁のものとしていた。

 

「フェルネ! 一旦攻撃を止めろ!」

「いったいどうしたの」

 

 だが、順調に見えた迎撃戦に、待ったをかける者がいた。おもむろに手を挙げリーダーに叫んだのは、ディーダである。

 バリケードの前には、積み上がったブレイズウルフの死体。生き残ったわずかな個体は、遠巻きにこちらを睨みつけている。

 

「奥から来るぞ、デカブツだ」

 

 鬼人のS級冒険者は、口角を上げる。

 

「群れのボスってところか。偉そうな面をしてるじゃねえか」

『ガァアアアア!』

 

 木々を薙ぎ倒し、広場へと躍り出た四足獣。ダラダラと涎を垂らしながら、赤黒い毛並みを逆立てている。爛々と輝く眼光には野生の狂気が宿り、飢えていた。

 さっきまで暴れていた他のブレイズウルフは。大きくとも成人女性の腰を少し超える程度の体高でしかない。だがそれは、ディーダを見下ろしていた。身長2メートルに迫る屈強な戦士を威圧せんとしていた。

 おそらくは、群れの頂点。魔獣として数十年近く齢を重ね、力と知恵をつけた老獪な個体だろう。その足元で、ブレイズウルフたちが勝利を確信したようにキャンキャンと吠えている。

 

「全員、バリケードの後ろから出てくるな。炎を広げないことだけに集中しろ!」

 

 ボスから目を逸らさず、ディーダは一喝する。S級冒険者としての経験と戦士としての実力が警鐘を鳴らしていた。これは他の個体とは違い、生半可な実力では迎え打つことができない。普段なら心強い村人たちの援護もむしろ危険だ。

 仲間を全員後ろに下げて、彼女は戦斧を構える。ここで倒さなければ、村が存亡の危機に晒される。

 

「行くぞ、犬っころ!」

 

 走り出す。

 戦斧が光の軌跡を残し、振り下ろされる。竜の黒骨を用いた戦斧は重く、鋭い。鬼人族の圧倒的な膂力でそれを繰り出せば、純粋な暴力が敵を完膚なきまでに叩き潰す。

 

『グルァッ!』

 

 両者の影が交差する。ブレイズウルフの武器は猛烈な火焔だけではない。鋭い爪も牙も、十分すぎるほどの脅威だ。ボスは短く吠えたかと思うと、黒々とした鋭爪をディーダに叩きつける。

 

「当たるかよ!」

 

 華麗な身のこなしで回避する。ディーダは、相手を見くびっていない。長く生きた魔獣は、驚くほど知恵が回る。油断すれば不意を突かれて命を落とす。

 ディーダは戦略を組み上げていく。意識レベルですらない、本能的な思考。それをトレースするように、戦斧が翻る。

 正面衝突の果てに、悲鳴を上げたのはブレイズウルフだった。

 

『ギャンッ!』

「はああああああっ!」

 

 仰け反るブレイズウルフにすかさず追撃。隙を生じぬ蓮撃で、着実にそれを追い詰めていく。鋭利な爪を根本から断ち切り、牙を叩き飛ばす。少しずつ、相手の武器を奪い、疲弊させていく。

 苦し紛れの反撃が、ディーダの頬を掠める。わずかな鉄の匂いを感じ取ったディーダは、瞳孔を開き切って怯むことなく動く。極限の興奮状態が痛みを忘れさせ、普段は眠る力を爆発させる。

 

「はっははぁっ!」

 

 無自覚に、戦士は笑声をあげていた。

 

「大人しく引っ込んどけ!」

 

 自分よりはるかに巨大な敵を相手取り、縦横無尽に動く戦士。翻弄し、傷を刻みつけていく。

 

「流石ね……」

 

 櫓の上で弓を握りしめながら見守る村人が、思わずこぼした。

 

「当たり前でしょう」

 

 それに対して、魔力を練り上げて臨戦態勢を取っていたフェルネが当然のように頷いた。

 

「S級冒険者の称号は伊達じゃないの」

 

 迫り来る火焔を避け、間隙を縫って容赦なく斧を振るう。常人離れした身のこなしで、魔獣相手に一歩も引かない。ディーダの熾烈な攻防は、着実に敵を追い詰めていた。

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