貞操逆転開拓村の種付け司祭 作:ユリイカ
「ああ、帰ってきた!」
村の門の方から騒がしい声が聞こえて、気を揉んでいたソラは思わず大釜亭から飛び出した。
「フェルネさん!」
「お待たせしました、司祭さま。無事に片付きましたよ」
狐耳の獣人は少年の姿を見て相好を崩す。緊張の糸が切れて、柔和な表情が戻ってきたようだった。
彼女の背後には煤けた顔の村人たちがぐったりとしながらも清々しい顔つきで続く。火傷や擦り傷といった軽傷者は散見されど、命に関わるような逼迫した状態の者はいない。それを確認して、ソラはようやくひとつ胸を撫で下ろした。
「そんなに心配しなくていいんだよ。あの程度の犬っころ、あたしにかかればあっという間さ」
「ディーダさん!」
真紅の戦斧が地面を叩き、鬼人族の用心棒がからりと笑う。ディーダは全身血塗れで、ソラは思わず飛び上がって叫んだ。
「大丈夫だよ。ほとんど返り血だ」
「そ、そうみたいですね……。いったい、どんな魔獣と戦ってたんですか」
ディーダが顔を拭うと、日に焼けた精悍な顔付きが現れる。心配するソラを見て口角をあげ、討ち倒した魔獣ブレイズウルフの強大さを朗々と語り始める。ソラは次々と明らかになる魔獣の姿にいちいち驚いて、ディーダはだんだんと鼻先を高くしていった
「しっかし、せっかく出てくるなら犬ころじゃなくて猪か鹿の方がよかったな。ブレイズウルフの肉は硬いし臭いしで食えたもんじゃねえ」
「あ、あはは……」
討ち取られたブレイズウルフは村人たちが総出で村まで持ち帰ってきた。地竜が苦しげに呻きながら牽いてきた荷車に、大きな魔狼が積み上げられている。それとは別に、荷車を一台占有している群れのボスに、ソラだけでなく村の守備のため残っていた者たちも驚きの声を隠せない。
食肉としては期待できないブレイズウルフだが、全く使えないわけではない。むしろこのハロモ村においては貴重な資源だ。骨や爪、毛皮、内臓、何より魔獣の力の根源たる魔石。余すことなく全てに使い道があり、外貨の獲得のための商品にもなる。
腐る前に、と村人たちが荷車に取り掛かり、オオカミを解体していく。功労者であるディーダは、その様子を眺めながら喉を鳴らして水を飲み干していた。
「さて、司祭さま……。少しトラブルもあったけど、それもつつがなく片付いたわ」
なぜかディーダの隣に座らされ、一緒にオオカミ解体の見物をしていたソラの後頭部に、むにゅりと柔らかな感触がのしかかってくる。慌てて振り向くソラの顔面が、むっちりとした肉に包まれた。
「ふふっ。司祭さまも中途半端なところで終わって生殺しでしょう。じゃあ続きを――」
「何言ってんだよ、フェルネ」
頬を朱に染めながらソラを連れ去ろうとする狐に、ディーダは口をへの字に曲げて割って入る。彼女はあからさまに不満顔になるフェルネを押し返しながら、ソラの肩に腕を回して胸を密着させる。
「フェルネは宴の準備があるだろ? こっちはあたしに任せときな」
「あわわ、ディーダさん!? その、む、胸が……ッ!」
むにゅり、と弾力のある柔らかい感触。フェルネのそれとは違い、布を隔てない生々しさ。ほとんど乳房の頭頂部しか隠せていない赤いビキニアーマーは、少年にとってはあまりに刺激的だった。
「くはっ。ソラもあたしとヤる気満々って感じだな。それに……こっちは身体が火照ってしかたないんだ」
「これだから色狂いの鬼は」
「年中発情期の獣ババアに言われたかねえよ。……それに、もう一回は射精してもらったんだろ? ああん?」
四つの乳房が少年の頭を前後から圧迫するなか、二人はお互いを睨み合う。フェルネを呼びに部屋を覗いた時、そこで何が行われていたか分からないはずもない。ディーダの強気な態度に、フェルネは舌打ちしそうになるのをぐっと堪えていた。
「すぐに宴は始まるわよ」
「分かってるって。とりあえず、期待の司祭サマのお導きがどんなもんか見てやるだけさ」
憮然とするフェルネに対し、ディーダは人相の悪い笑みを浮かべる。
一人の女としては、
ブレイズウルフのボスを討ち取ったのは間違いなくディーダで、そんな彼女に何も与えないというわけにはいかない。そしてこの場において、最も適切な"褒章"は彼しかない。
「じゃ、ちょっと行ってくるぜ」
「あわわぁっ!?」
ディーダは小柄なソラを小脇に抱え、意気揚々と歩き出す。
「いいなぁ、ディーダの奴。私も活躍すりゃよかった」
「はっ、アンタがボスに向かっても大火傷して泣き喚くだけでしょ」
「なんだと、このっ!」
村人たちも解体の手を止めて、大釜亭へと消えていく二人を羨ましげに見送る。
「ほら、作業に戻りなさい! 早くしないと日が暮れるわよ!」
フェルネが喝を入れ、彼女自身も動き出す。
ソラには悪いが、これも彼がこの村へやって来た理由のひとつなのだ。星光教の司祭は開拓村の共有財産として扱われる。彼は今から、勝利の熱に浮かされて本能を昂らせた女の慰めとなるのだ。
力も弱く、魔力を扱う才もない。その上で他種族の女を孕ませることのできる若い少年。黄金よりも貴重で、どんな食材よりも美味なる存在。彼が性欲をたぎらせた女たちだけの村にやってきて、無事で済むはずもない。
フェルネは晩餐の用意に取り掛かりながら、少しだけ彼に憐憫の情を抱いていた。