貞操逆転開拓村の種付け司祭 作:ユリイカ
ソラは夜明け前に目を覚まし、最初の祈祷を女神に捧げてから一日を始める。
ハロモ村の人々が用意してくれた教会は小さいながらも立派な作りで、ソラが寝食をこなすための小さな居住区も付随している。聖都の大聖堂で質素な暮らしを送っていた彼にとっては、十分すぎるほどに恵まれた住空間だ。
「ありがたいなぁ」
祭壇の掃除をして、香炉に火を入れる。広々とした礼拝堂の埃を払いながら、ソラはしみじみと呟く。
司祭とはいえ、星光教では修行を積んだ男子ならばさほど珍しい役職ではない。むしろ、お飾りのようなものだ。だが村の女性たちはそんなソラに期待を寄せ、尊敬の念を向けている。せめてそれに応えられるようにならなければ、と彼も襟元を正す。
香木の深い香りが礼拝堂の隅々にまで行き渡ったころ、後方の扉が開き朝日が差し込んでくる。
「おはようございます!」
「おはよう、ソラ君」
「さっそく精が出るねえ」
ゾロゾロと入ってきたのはハロモ村の村人たち。にこやかに若い司祭に一声かけながら入ってきて、整然と並んだ長椅子へと向かう。
しばらく待っていると長椅子は埋まり、壁際に立ち並ぶ者の姿も現れる。あっという間に礼拝堂の中は種族も年齢もさまざまな女たちでいっぱいになった。
「それでは、始めましょう。聖典を持っていない方はいますか?」
ソラは頃合いを見て壇上に上がる。祭壇に飾られた"星の光"を背後に、一段高いところから村人たちの様子を窺う。
星光教は大陸全土で広く信じられている。種族を問わず万人に受け入れられているのは、その教義が単純明快で受け取りやすいものだからだ。――星の女神ポラリスの導きに従い、生きよ。ただそれだけなのだ。
だが、その聖典には歴代の神巫たちが伝え残してきた女神の言葉の数々や、神学者たちによって解き明かされた奇跡について記録がされている。
赴任してきたばかりのソラではあるが、司祭としての務めはある。週に一度の安息日にはこうして朝の礼拝のため村人たちの前に立たねばならないのだ。
「"産まれよ、富めよ、地に満ちよ"とは有名な言葉です。これは女神ポラリスが枯れ果てた荒野でしかなかった世界に降り立ち、その足跡に僅かに芽生えた小さな命に向けて送った、最初の寵愛なのです」
聖典を開き、女神の言葉を引用しながら逸話を語る。庶民用に簡便に纏められた聖典を開いて熱心に読み込む者、文字が分からず耳を傾けることに集中する者、スタンスは様々だが、彼女たちも司祭の説教に神経を研ぎ澄ましていた。
開拓村の暮らしは決して楽なものではない。昼夜を問わず常に魔の森の危険はあり続け、畑となるような土地も乏しい。本来は用心棒として雇われているディーダも狩りに参加しなければ食い繋ぐことも難しいほどだ。
そんな過酷な環境で、彼女たちの支えとなるのが星光教の教えである。ソラが代弁するポラリスの言葉は、疲弊する彼女たちを肯定し、その心を癒す。森を拓く行いには意味があることを保証し、彼女たちを称えるのだ。
「――それでは、今日はこのあたりで。ありがとうございました」
ひとつの話が決着し、ソラはほころぶ。静寂に張り詰めていた場の空気が弛緩し、聴衆の吐息が聞こえ出した。
長椅子の間を小箱が巡り、小銭が投げ入れられていく。彼女たちの喜捨で、ソラも支えられている。とはいえ今はそれよりも、赴任後最初の説教がつつがなく終わったことに彼は安堵していた。
「よう。案外立派なもんじゃないか」
「ディーダさん。ありがとうございます」
ずっしりと重たくなった小箱を抱えるソラの元へ、赤髪の鬼人族がふらりとやってくる。壇上からは気付かなかったが、彼女もこっそりと様子を見にきていたようだった。
あまり星光教の説教には興味がなさそうに見えたディーダが訪れたことに若干の驚きを覚えつつも、それを表情に出すことはなくソラは歓迎する。
「こう見えてあたしも熱心な信者なのさ。よく分かったと思ったんだけどな?」
「あ、あはは……。昨日はすみませんでした」
産まれよ、富めよ、地に満ちよ。星光教を象徴するような女神ポラリスの言葉。昨日、ソラは初めての説教に先んじて、そちらの役目も果たしていた。大釜亭の3階にある部屋でディーダと激しく交わり、彼女の膣内にも精を吐き出した。
ディーダは意味ありげに剥き出しの引き締まった下腹部に手を当てて、ソラは思わず顔を赤くする。
「心配しなくても、あの程度じゃ孕まねえよ。自分のことを買い被りすぎなんじゃないか?」
「そ、そういうわけじゃ……」
子を孕むか否かは、すべて女の一存で決まる。それが常識だった。力でも魔法でも女に敵わない男が勝手に注ぐだけで子を成せるはずがないというのが、世界の認識だ。つまり、ディーダが本気でソラの子を望まなければ、その筋肉に包まれた腹に奇跡が宿ることもない。
まだまだお前に負けたわけじゃない、と上から見下ろす鬼のお姉さんに、ソラは耳まで赤くなる。実際、あの時のソラは初めて触れるディーダの身体に魅了され、ほとばしる熱のまま暴れていただけだ。星光教の司祭が我を忘れるなど、これほど情けないこともない。
「次こそはちゃんと、務めを果たしてみせます」
「ふんっ。精々頑張るんだな」
決意を新たにするソラを、ディーダは鼻で笑い飛ばす。
昨日のアレは、彼女のなかではすっかり済んだ事になっていた。強引に押し倒されて、いいようにされ、果ては完敗の降伏宣言のようものまで上げてしまったのも、全て本心ではない。司祭であるソラが来るまで村に男はおらず、魔の森で神経をすり減らす過酷な日々を送っていたのだ。その反動で少し我を忘れてしまっただけのこと。
つまり、自分はまだ負けたわけではない。
ディーダはそう結論付けることで自我を保っていた。
「お前、この後は時間あるか?」
「それはまあ、大丈夫ですが」
自尊心を保つことに成功したディーダは、腰に手を置いて話を展開する。
安息日とはその名の通り、基本的に労働をやめて心身の休養を取る日である。しかしよくよく見てみれば、ディーダは真紅のビキニアーマーに革のサンダル、背中には戦斧まで背負って物々しい。
「少し森を案内してやる。――泣きそうな顔するなよ。別に魔獣と戦えって言ってるわけじゃねえ」
ハロモ村のすぐ側に広がる黒々とした大森林。特定の名前があるわけでもなく、ただ魔の森と呼ばれている秘境だ。ディーダは毎日そこに足を運び、自生する植物や魔獣を狩り取り、村に持ち帰ってきていた。
「お前もある程度は森について知ってた方がいいだろ。もちろん、あたしが付いてるからな。危険なことはない」
「なるほど。それも確かに。ぜひ行かせてください!」
司祭としての務めもあるが、ソラもまたハロモ村の一員となったのだ。ただ男だからという理由だけで、教会に引き篭もるつもりはさらさら無い。彼はディーダの誘いに二つ返事で答え、早速奥の自室へと駆け込んでいく。
こんなこともあろうかと、聖都を発つ前にしっかりと用意を整えていたのだ。
「どうですか、ディーダさん?」
「うぉっ!? おま、ちょ――なんて格好してんだ!」
数分後、意気揚々と現れたソラを見て、ディーダは声を揺らした。