※この作品はR-18です。

約5割はAIによるアイマスクなヒロピンを   作:総武文芸部

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2話 氷の魔族との戦い

 大学での講義と課題を終え、清水優奈は夜の街を歩いていた。

 いくつか用事もあって、すっかり夜遅くなっていた。街灯の光が淡く伸び、すっかり温かくなった春なのに、夜の冷気は肌寒かった。

 

 ふと、空気が凍りつくような感覚が指先を伝う。

 強大な氷の魔力だ。ただならぬものが、この街の外れの廃工場から広がっている。

 

 優奈は立ち止まり、周囲を見回す。人通りはほとんどない。

 しかし直感的に、これは戦うべき相手だと理解した。もしあの場所にいる魔族が街で暴れ出せば、被害は相当のものとなるだろう。

 

「……参りますわ」

 

 優奈が水色のアイマスクを顔に当てると、それは黒い紐によって自動的に頭の後ろで結ばれて、目元を隠すように固定される。そして彼女の身体は魔力の奔流に包み込まれる。

 

 私服は光の粒子へとほどけ、光と水を纏うようなリボンが優奈の身体を包み込んでいく。 

 瞬間的に、白と水色を基調とした変身コスチュームへと変わった。白いグローブが腕を覆い、白いロングブーツが足元を固める。肩を大胆に露出したワンピース型の衣装は、動きを妨げないためのものだ。

 肌色のタイツが太ももの素肌を隠し、真っ白な上着であるボレロを羽織る。胸元にはラベンダーのリボンの上の青いブローチが輝く。紺色の髪は水色のリボンでサイドポニーに結ばれ、凛とした印象を添えていた。

 

 そうして変身を終え、魔法戦士アクエリアは廃工場へと足を向けた。鉄錆の匂いと、壊れた建材の陰に潜む静寂だ。

 

 だが、内部には確実に氷の魔力が渦巻いている。

 

 入口をくぐると、広大な工場内部は冷気に包まれ、足元の水滴が薄く凍って光っていた。

 そして、そこに立っていたのは、武人の風格を持つ魔族、すでに氷の双剣を握っている男の影だ。氷の魔力が周囲に張り巡らされ、空間そのものを凍結させる力を感じた。

 

「我が名は、バルティス、よき闘争を」

 

 相手はゆっくりと名乗った。双剣を構えながら、冷たい笑みを浮かべている。

 その一言で、廃工場内の空気はさらに凍りついたようだった。

 

 低く響く声に、アクエリアは構えを取りつつ答える。

 

「わたくしは、魔法戦士アクエリア。この街の平和を守る者ですわ」

 

 まずアクエリアは、いつも通り水属性魔法で牽制を試みた。小さな水の流れを生み出して、相手の動きを封じようとする。だが、流れた水は瞬く間に凍り、細い氷柱となって跳ね返ってきてしまう。

 

「なっ……!」

 

 焦りの色が、アクエリアの目に浮かぶ。水属性魔法の相性がとことん悪い。これでは防御手段が制限され、光属性魔法だけで戦わねばならない。

 

 バルティスが双剣を振るうたび、氷の力が足元に広がり、廃工場の床は滑りやすくなっていく。回避しながら、アクエリアは光属性魔法の閃光の刃で牽制しつつ、間合いを保つ。

 

 双剣を振るって防いでいるからには、有効打にはなるはずだ。

 

(……油断できませんわ。ここで倒れるわけには……!)

 

 彼女の心臓が速まる。戦闘経験が冷静さを支えているが、氷の双剣が空中を斬るたび、状況は緊迫していく。

 

 アクエリアは、必殺技を放つための隙を狙いながらも、強敵の前に徐々に追い詰められていっていた。

 光属性魔法で牽制しているが、氷の双剣はすり抜けるように接近し、何度も掠める。

 

 変身コスチュームの自動防御が発動し、衝撃や切り裂きを防げている。だが、その防御の度に、魔力は消費されていく。魔力残量が気になりながら、アクエリアは再び閃光を放った。

 

「……くっ…強すぎますわ!」

 

 氷の双剣はいくらでも造り出せるらしい。

 それが投げられたことによって、アクエリアは自動防御があるのに、それが貫通されるほど、かなりの衝撃を受けてしまった。

 

「きゃあ!?」

 

 完全に倒れ込むことはなかったが、痛みで思わず膝をついてしまう。肌色のタイツを身に着けているとはいえ、冷たい地面は彼女の体温を奪っていく。

 

【挿絵表示】

 

 アクエリアは白い息を吐きながら、体勢を整えようとする。

 

(やはり水属性魔法を使わないことには……勝ち目がありませんわ……!)

 

 床に散らばる瓦礫と凍った水面が滑りやすく、移動もままならなくなっている。水属性魔法は凍らされてしまい、牽制にすら使えないだろうが、だからこそ何かチャンスを掴むために必要だと考え直した。

 

 防御と回避だけで精一杯の状況が続く。

 

 バルティスは双剣を再び造り出し、無理な追撃はしてこなかった。距離を取ったまま、アクエリアの様子を見るように立つ。

 

 その余裕に、アクエリアは息を吐き、しかし悔しそうに呟いた。

 

「…手加減されてますわね」

 

 その言葉は小さく、だがはっきりと自分に言い聞かせるものだった。おそらくバルティスは、アクエリアの狙いに気づいている。これほどの危機的状況で、アクエリアの決して諦めない瞳が、きっとそれを伝えてしまっている。

 

 この相手には、やはり必殺技である『ホーリートルネード』が必要な強敵だ。

 せめてアクエリアの総魔力量の3割を使わなければ、必殺技『ホーリートルネード』は安定して放てない。勝つためには、あの大技を確実に当てるチャンスを探していくしかない。

 

 再びアクエリアは立ち上がって、構えて立ち向かう。

 

 氷の双剣が横一文字に振られ、またも自動防御が発動する。魔力を削られながらも、アクエリアはそのまま光の魔法で閃光の束を放った。

 

 バルティスは素早く氷の刃でそれを受け流す。

 それがわずかな隙だ。

 

「やっ!」

 

 わずかな隙をついて、光を纏ったキックを放った。

 

 しかし回避されてしまう。

 アクエリアのできるギリギリの行動であり、1度きりの博打であったが。

 

(手加減してくれているうちに…自動防御を囮にして……それでもダメですの……?)

 

 反撃を受ける前に、1度距離を取る。

 

 焦りと緊張の中、アクエリアは呼吸を整え、次の隙を探した。必殺技に必要な魔力を最低限温存しつつ、自分の体力の限界と魔力残量を計算する。

 

 廃工場の壁に反射する光と影。冷気で霧のように漂う空気。

 双剣の煌きが何度も迫り、アクエリアは防御の連続で徐々に追い込まれていく。

 

 しかし、バルティスは決して致命的な一撃は放たない。そんな手加減があるからこそ、アクエリアは戦闘を継続できている。焦りながらも、必死に立ち向かう。

 

 アクエリアは冷気に耐えながら、氷の双剣の攻撃を観察した。

 もう魔力残量は半分未満で、変身コスチュームの自動防御が発動するたびに、胸元のブローチから吸い取られる魔力が減っていっていた。

 

 アクエリアは立ち上がり、残り少ない魔力を振り絞り、光と水の魔法を連鎖させて前方に飛び出した。消費の少ない水属性魔法も牽制として攻めていく。

 

 氷の双剣をかいくぐり、跳躍、転回、閃光と連続攻撃を重ねた。廃工場の梁や瓦礫を利用し、バルティスの注意を分散させる。

 

 そして、ついに決定的なチャンスを見つける。

 バルティスが双剣を振り上げた瞬間、片手がわずかに遅れたのだ。

 

「いきますわ! ホーリートルネード!」

 

 胸元の水色のブローチに触れ、魔力を一気に解放する。

 光の奔流が両手から放たれ、バルティスの身体に直撃する。そんな光の竜巻によって、バルティスは一歩ずつ後退していく。

 

 だが彼は、氷の魔力を勢いよく放って、ホーリートルネードを打ち破ってみせた。

 

「ふむ、それがお前の全力か」

 

「そんな……」

 

 アクエリアの必殺技は直撃したものの、浄化や撃退には至らなかった。最低限の3割だけでは足りず、もっと大量の魔力を込める必要があったのだ。

 

 そして唖然としているうちに、バルティスの氷双剣による剣技が直撃してしまう。

 

「きゃああっ!?」

 

 とても強力な一撃だった。

 なんとか変身コスチュームの自動防御は発動していた。だが残り1割ほどだった魔力を、完全に失う結果となってしまった。

 

「うぅ……」

 

 その後ろ向きに弾かれるような衝撃と、魔力がほとんど尽きた体を支えきれず、背中を軽くぶつけた。もう魔力はほとんど残っておらず、冷気のせいで全身が震える。

 それでも魔法戦士アクエリアとして諦めず、なんとか身体をゆっくりと起こしたが。

 

「……まずい…ですわ……」

 

 変身コスチュームは、静かに光の泡のように消えていってしまう。

 そうして一瞬のうちに、私服のブラウスとスカートに戻っていた。長い紺色の髪を結んでいたリボンも消えてしまい、氷が付着する髪に結んでいた名残りがある。

 しかし髪が結ばれている感覚がなくなったことで、魔力切れで変身解除されたことをますます感じさせる。

 

【挿絵表示】

 

 幸い、まだ水色のアイマスクはそのまま身に着けていて、魔法戦士アクエリアだと認識されている。だから清水優奈の素顔はバレないはずだ。

 

「…くっ……」

 

 決して諦めない瞳で、バルティスの姿を見上げた。

 しかし冷気によって唇は震えてしまい、今は無力な女子大生の清水優奈でしかない。この私服には、変身コスチュームのように自動防御などはない。ますます周りの冷気が、体温を奪っていく。

 

 優奈の小さな身体の震えは、きっとそのせいだろう。

 

 冷や汗が頬を流れ、背中にも汗が流れていることを感じた。

 氷が溶けて水になっていくことによって、上品なブラウスは透けてきているようで、純白でレースの下着が見えてきてしまっている。だが優奈に恥じらう余裕はなく、恐怖に飲み込まれそうなほど、彼女は命の危機なのだ。

 

 敗北は初めてではない。

 拷問され、辱しめられ、女性として鳴かされたこともある。

 

 たとえ今までは逆転して、何度立ち上がってきたとしても、どうしても優奈は過去を思い出して、弱気な姿を見せてしまう。

 大学の友人たちを同じ目に合わせないためにも、誰にも決して相談できず、優奈は孤独に何年も戦い続けてきた。

 

「その…どうか……」

 

 そうだ、街の平和を守る魔法戦士アクエリアとして、ここで命を落とすわけにはいかない。そう優奈は、自分に言い聞かせた。

 プライドよりも、たとえ命乞いをしてでも、この場を乗り越えなければならない。

 

 しかしバルティスは、背を向けた。

 

「な、なぜ…とどめを…刺さないのです…?」

 

 優奈の声はかすれ、震えている。

 必死にバルティスを見上げた。

 

「人間界は魔素が薄い。だから修行のために来た」

 

 静かに告げられたその言葉だった。

 

「お前を殺す目的はない」

 

 魔族がわざわざ人間界に来るのは、悪しき目的があるが、目の前の魔族は今までの者たちとは違っていたらしい。とはいえ、この敗北の結果で見逃されるのは、ただ運がよかっただけだろう。

 

 もしも凶悪な魔族であったのなら、どんな屈辱を受けていたか。清水優奈は、敗北によって何度もそういう経験をしてきていた。

 変身解除後も痛めつけられたり、変身能力や光属性の魔力を解析されたり、思い出したくないほどに1人の女性として弄ばれたり。

 

 今までどんな魔族にも最終的には逆転して、今ここにいるが。

 目の前の魔族は、勝ち目が全く感じられないほどの強敵だった。

 

「そう…でしたのね……」

 

 優奈は呼吸を整えながら、震える手で二の腕を抱えて、ゆっくりと頷く。

 全力を尽くしたが勝てなかったこと、そんな悔しさだ。

 

 見逃してもらえることに、感謝するのは違うだろう。

 再び魔法戦士として立ち上がるために、優奈は宣言する。

 

「次は…負けませんわ……」

 

 恐怖を覆い隠すように、そんな決意を見せた。

 いまだ周囲には氷の破片が散乱し、冷気で身体が震えているが、それでもだ。

 

「……強くなっておけ」

 

 そう言って、バルティスは何事もなかったかのように、ゆっくりと背を向けて去っていく。彼の足取りには、容赦も執着もなかった。

 

 優奈は座り込んだまま、アイマスクに触れて強敵の背中を見送る。そんなアイマスクがあることが、アクエリアとしての最後の支えだった。

 

 寒さに耐えながらも、目の奥には消えない決意が光る。

 

(…次こそ、必ず……!)

 

 冷気に包まれた廃工場の闇の中、アクエリアは静かに立ち上がった。敗北の余韻の中で、もっと正義のヒロインとして強くなること、そして人々を害する魔族との戦いへの決意を胸に刻んでいた。

 

 

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