約5割はAIによるアイマスクなヒロピンを 作:総武文芸部
(前回のあらすじ)
大学付近に現れ、土属性魔法を得意とする魔族のテラニアとの戦いは、工事現場へと戦場が移って続いていた。アクエリアにとって不利な環境であるのに、しかも愛梨という女子大生を人質にされている。しかも変身コスチュームの自動防御による魔力消費を抑えるためとはいえ、今アクエリアはほぼ生身の耐久力によって、拷問を耐え抜いていた。
土属性魔法の自動攻撃による痛みが続いている。
このままでは魔力を温存したとしても、アクエリアの身体がもたないだろう。
しかし今この瞬間、敵は愛梨に視線が向けられている。彼女の魔力に興味があるのと、そしてアクエリアに対しては勝ちを確信していて、自動攻撃に任せきっている。
だからこそ勝機がある。
痛みをこらえて、アクエリアは短く息をつく。
「……参りますわ」
温存していた魔力ですら、もう4割未満しかない。アクエリアはその残り全てを解放してから、最後の賭けに出た。
水属性の魔法を用いて、地面を勢いよく蹴り上げる。水流が渦を巻き、土や砂を吹き飛ばしながら、地面から飛翔していく。そこから魔力の約3割を費やして、光属性魔法の必殺技を放つ。
「ホーリートルネード!」
手から放たれた光の奔流は、煌めきながら直線状に伸びていく。
「ちぃ!? まだこんな技があったとはね!?」
テラニアは慌ててアクエリアの姿を目で追いかけていた。咄嗟に作った土の防御では防ぎきれず、光属性魔法による直撃を受ける。それを受けた魔族にとっては凄まじい痛みを感じるだろう。
老魔術師の身体がよろめいて、光の竜巻による砂塵が舞う。
多くの魔族が、この必殺技で浄化し、消滅させてきたのだが。
「もしかして、倒してくれた!?」
「ハァ… ハァハァ……」
愛梨は喜んでいるが、アクエリアは魔力も体力も消耗していた。魔力は残り1割未満でなんとか変身を維持できているようなものだ。
アクエリアは片膝をつき、なんとか顔を上げる。
汗と埃が光に反射し、水色のコスチュームには土汚れが残っていた。
「まずいですわね……」
アクエリアの焦りが声に滲む。
必殺技は放ったものの、魔力を完全には込められなかった。今までのダメージが多すぎたのと、咄嗟の反撃だったせいだ。
いまだ愛梨の土の拘束が消えないこともだが、砂煙の中に魔力を持った存在がいることが、何よりも証拠だ。
アクエリアは立ち上がろうと足を動かしたが、もうフラフラで、頭がわずかにくらりと傾く。
そんな隙をテラニアは、もう見逃してはくれなかった。
「よくもやってくれたねぇ!」
「ぁぐ……」
鋭い土の拳が胸元に撃ち込まれ、鈍い声を出しながら、アクエリアは後ろに倒れ込んでしまう。もう自動防御に魔力を割く余裕もなく、すでに機能をオフにしていたたことで、身体は痛みに悲鳴を上げている。
テラニアは、そんな満身創痍の魔法戦士に近づいてくる。
アクエリアはまだ立ち上がろうとしていたが。
「これだから光属性は! 油断ならないのさ! これっぽちの魔力しか持たない人間のくせに!」
自らの足による蹴りで、アクエリアは再び倒れ込まされてしまう。
「きゃっ……がふっ…ぅ……」
仰向けの身体のあちこちを何度も蹴られ、紺色のサイドポニーを持ち上げて地面に何度も叩きつけられ、何度も鈍い声による悲鳴が響いた。
彼女の綺麗な綺麗な紺色の髪も、水色なコスチュームなども、どんどん土で汚れていく。
それでもだ。
「あきらめ…ませんわ……」
「まだ言うかい!? 念入りに、潰してやるさね!!」
奪った水色のリボンすら投げ捨てて、再びアクエリアへの拷問を始めた。サイドポニーはほどけてしまい、どんどん髪が乱れていく。グローブに包まれた腕で顔は守ろうとするが、それごと蹴られ、やがて腕にも力が入らなくなってしまう。
身体全体に土汚れがついていく。
拷問する側を興奮させてしまうような悲鳴を、何度も声に出してしまう。
「ぅ…せめて……あの子…は……」
しかしアクエリアの瞳はまだ諦めない。
その瞳は、まだ愛梨に向けられていた。せめて彼女だけでも救える方法を必死に模索していた。
「もう勝負ついたじゃん……やめてあげてよ……!」
愛梨は拷問を受けるアクエリアの姿を見て、涙を浮かべながら必死に叫ぶ。
しかしテラニアは満足せず、さらに残酷な言葉を重ねた。
「どれ、その苦痛に歪む表情でも、見せてもらおうかねぇ」
「それ…は……おやめください…ませ……」
水色のアイマスクを奪おうとするテラニアに、アクエリアは見るからに焦った。震える手を伸ばして目元を覆う。
どんな痛みも耐えようとしているアクエリアが、そのアイマスクを奪われることは最大の弱みらしい。
「どうか……」
「やめないね」
テラニアは土を魔法で操作して、アクエリアの両腕と両足を引っ張るように拘束した。
「くぅ……はずれな…い…」
なんとか身をよじって拘束を解こうとしているが、もう体力的に、普通の女子大生未満の身体能力しかない。そんなボロボロで抵抗する正義のヒロインの姿は、むしろ愉悦を感じさせるようなものであった。
「一体、どんな秘密があるのやら」
「い……いやぁぁぁ!!」
固定するために結ばれている黒い紐の一部が鋭い爪で切られてしまった。そして、するりと水色のアイマスクはつまみあげるように奪われてしまう。
「なんだい、こんなもので、戦ってきたのかい?」
「……それでも…わたくしの…かえしてくださいまし……」
水色のアイマスクは、アクエリアにとって、魔法戦士の誇りなのか、それとも素顔を隠すためなのか。
そんな変身アイテムは、ただの柔らかい布製で、大した装備でもない変身コスチュームの展開と、素顔の認識阻害程度、そして光属性魔法を扱う道具である。
テラニアに軽く観察されたあと、水色のアイマスクは放り投げられてしまい、愛梨の前の地面にふわりと落ちた。
いまだ胸元で輝きを失いかけているサファイアのブローチのほうが、持ち主の魔力を増幅させる機能だったり、魔力を消費した自動防御だったり、テラニアが研究すべきものである。
「あれが…アクエリアの…正体……?」
いまだ人質となっている愛梨がそう呟いた。そんな声は心配と恐怖で震えている。
あの常に凛としていた魔法戦士アクエリアが、今はどうしてか普通の女性に思えてしまう。
水色のマスクが失われたことで、認識阻害は消えた。
たとえ変身コスチュームが残っていたとしても、清水優奈としての顔が丸見えになっている。
テラニアは嘲笑いながら、優奈の顔をじっくり観察した。
「なんだ、綺麗な小娘の顔じゃないか?」
「……見ないで…くださいまし」
いざ両腕の土による拘束が外されると。
優奈は目元を片手で覆ってしまい、そんな雰囲気はとても弱弱しい。
「きゃっ……」
「かわいい声で鳴くものだねぇ。さっきまでの威勢はどうしたんだい?」
そしてテラニアは、アクエリアが着ているワンピースドレススカート部分の上に、とんがり靴を乗せる。
そこからゆっくりと体重をかけて、デリケートな部分を押さえつけていく。なんとかその足首を片手で握って、上げさせようとするが、今の状態の優奈は非力な女性すぎた。
「ぁ…ぅぅ……ぁん……」
すりすりと、とんがり靴を動かされれば、優奈はどうしても艶やかな声を出してしまう。
身体全体が打撲による痛みで悲鳴を上げているのに、女性としての弱みを軽くいじられるだけで、明らかな反応を見せてしまう。
「へぇ、実験体にする以外にも楽しみがあるねぇ、アクエリア?」
「うぅ……どうか……」
テラニアが察するように、敗北した優奈は何度か他の魔族による屈辱を受けてきた。清廉潔白なコスチュームから想像されるような世間のイメージとは違う。
今の泥まみれの女性としての姿のように、あの手この手で鳴かされた。
「ほぉれ、胸はどうだい?」
「…い…ぅ……おやめ…ください…ませぇ……」
たとえ普段どれだけ忘れようとしていても、身体が受けてきた様々な快感が呼び覚まされてしまいそうだった。本能的に太ももをすり合わせるように動かしてしまい、頬は赤くなっていってしまう。
しかしたとえ、こういうことをされようと、優奈は何度も立ち上がれてこれた。
「そんなに素顔がバレたくなかったのかねぇ。なんでだい、アクエリア?」
「それは…ぁぅ……ぅぅ……」
優奈に質問に答えさせるために、再び靴はスカート部分の奥に向かう。とんとんとリズムよく叩かれて、とある快感を身体は思い出してしまう。
そして、ぐっと強めに、デリケートな部分を靴で押さえつけられた。
「ぁぐっ……わたくしの友人たちを…戦いには……」
それが魔法戦士アクエリアの正体であり、清水優奈の最大の弱点だった。
自分が魔力があって変身できるのに、それでも過去に様々な苦しみを味わってきたからこそ、同じような苦しみを友人たちに経験してほしくない。自分の手が届かない場所で、こうして人質にされることだってあるだろう。
愛梨という年下の後輩もまた、捕まり研究されるだけでなく、今のような屈辱を受けるかもしれない。
「おやおや、泣いてしまっているのかい?」
「わたくしは…従いますから……どうか愛梨さんは…」
魔法戦士アクエリアとしてならば、何度でも立ち上がれるだろう。だが清水優奈は、周りを巻き込みながら戦っていくことには耐えられないのである。
だから何年も、友人にすらその正体を明かしてこなかった。
状況は絶望的だった。
そして愛梨は、立ち上がれないアクエリアを見れば見るほど、悲しい感情を抱く。
アクエリアの正義感は輝いていた。凛としている姿もカッコよかった。
でも水色のアイマスクで、その弱さを隠しながら戦ってきて、孤高のヒロインだと知った。もし水色のアイマスクを失えば、1人の女性としての感情を見せる。たとえ正義の味方だろうと、痛みは感じるし、屈辱を受ければ涙する。
「わたしのせいだ…」
それもこれも、人質となっている自分のせいだ。
自分1人なんかのために、みんなのヒロインが苦しんでいる。
愛梨はアクエリアを助けたい気持ちは確かだが、その勢いは恐怖で打ち消されてしまっている。どちらにせよテラニアは、アクエリアも愛梨も、逃がすつもりはないだろう。
愛梨は両足を土に絡め取られて、身動きできない。
だが必死に何かできることはないかと探していた。
「アクエリア、あんな声まで無理やり出さされてる…ひどいよ…」
アクエリアは、身体中に拷問を受けて、水色のアイマスクを取られ、素顔を晒され、しかも今は女性としてデリケートな部分を責められている。
とんがり靴を乗せられて、胸とか、ミニスカートの奥とか。
時に痛みを与え、時にイヤらしく触れる。
そしてアクエリアが片手で目元を隠している様子は、愛梨からはまるで泣いているように見えた。
アクエリアは、噂通り1人でこの街の平和を守っているらしい。だから助けは来ないと愛梨は思うし、アクエリアの奇跡的な復活も難しそうだ。
なぜなら、目の前の地面に落ちている水色のアイマスクは、アクエリアのところにはない。
たぶん変身アイテムのようなものなのだろうと、愛梨は思っていた。
そして、あの老魔術師が言っていたことを思い出せば、自分にもそれなりに光属性の魔力があるらしい。
「わたしも、あれさえあれば…」
せっかく近くに落ちているのに、腕は届かない。
だがあの変身アイテムを望む気持ちは本物だ。アクエリアだからじゃなくて、目の前の1人の女性を助けるために、愛梨は戦いたいと思った。
この街に起きている現実を実感して、戦う勇気が芽生えてきていた。
そんな時ズボンのポケットに、何かがひっそりと現れた感覚がした。
「これ……!」
恐る恐るそれを手に取って、引き出してみる。
それはアクエリアなものと似ていて、ピンク色のアイマスクである。柔らかい布製だが、とても大切なものだと思える。決して奪われ、放り投げられていいものではない。
愛梨の心臓が高鳴った。
「もしかしたら…!」
愛梨は勢いよくそれを顔に当てた。その瞬間、身体が魔力を解き放つかのように、拘束していた土が弾き飛ばされる。
そしてピンク色のアイマスクは、まさしく魔法のように黒い紐で頭の後ろで結ばれた。
「えーと、変身?」
愛梨はそう言ってみると、彼女の身体は魔力の奔流に包み込まれる。
私服は光の粒子へとほどけ、光と炎を纏うようなリボンが愛梨の身体を包み込んでいく。
瞬間的に、白とピンク色を基調とした変身コスチュームへと変わった。
白いグローブが腕を覆い、白いロングブーツが足元を固める。肩を大胆に露出したワンピースドレスは、動きを妨げないためのものだ。
肌色のタイツが太ももの素肌を隠し、真っ白な上着であるボレロを羽織る。胸元には淡い金色のリボンの上に、ルビーのようなブローチが輝く。明るい茶髪は、ピンク色のリボンでポニーテールに結ばれ、可愛らしい印象を添えていた。
「や、やった! わたしもアクエリアみたいに変身できた!」
愛梨にとって、ひらひらとしたワンピースドレスはちょっと恥ずかしさもあった。でもアクエリアとお揃いな感じで、嬉しさもあった。
「あの小娘も、変身しおった…!」
テラニアは、焦りの声を上げる。足元にいるアクエリアに夢中だったのと、人質だった一般人など眼中になかったせいだ。
「まさかこんなことが…起きるなんて思いも…いえ……心のどこかで…期待はしておりました」
アクエリアにとって、まるで自分の妹かのような変身コスチュームに思える。暖かい光に包み込まれて、優奈は感動で目を輝かせながら、しっかりとその姿を見つめた。
「この街の、2人目の魔法戦士ですわね」
「えと、じゃあ…魔法戦士ルミナで!」
ルミナはそう名乗ると、火属性魔法で、炎を手に纏った。
感覚的にだが、すでに魔法を使えていた。
「えいっ!」
テラニアに向かっていき、ルミナは強烈なパンチを放った。爆炎が弾けたかのようで、テラニアは吹き飛ばされる。
「ちぃ! さっきの、ダメージが!!」
テラニアは、明らかに動きが鈍かった。アクエリアの必殺技も決して無駄ではなかったようだ。
「すごいパワーを感じる! 身体が軽い!」
「お見事ですわ」
自らの力に、ルミナは思わず喜びの声を上げた。
もう決して無力な女子大生ではなかった。
そしてルミナは、アクエリアの水色のアイマスクを拾い上げてから、再び彼女のところに戻ってくる。
「ごめん。わたしのせいで、痛かったよね、アクエリア?」
「いいえ。助かりましたわ、ルミナ」
身体を起こした優奈はゆっくりと頷き、自分の水色のアイマスクを受け取った。こうして戦いで助けてもらう機会なんて初めてのことだった。
アクエリアは水色アイマスクを再び身に着けて、素顔の認識阻害が戻る。光属性魔法も使用可能ではあるが、もう魔力は1割未満どころか、雀の涙だ。
「……今はあの魔族を…くっ…」
「その、無理しないで?」
アクエリアは、ルミナの手を借りながらフラフラと立ち上がったが、体力的にも魔力量的にも、いつ変身解除してしまってもおかしくないほどだ。
「…申し訳ございませんが。あとはお願いしますわ、ルミナ」
「ん! 任せてよ、アクエリア!」
でも今は魔法戦士ルミナが隣にいてくれる。そんな安心感に、アクエリアの頬は緩んでいる。
身体を起こしたテラニアは怒り狂い、土属性魔法を仕掛けてきた。
「新米魔法使いなどに負けるわけないわぁ!」
しかし、テラニアもだいぶ限界のようだ。
もうそれほど脅威には感じられず、土の勢いもそれほど強くない。
それに、ルミナにあまり自覚はないが、彼女は天才肌である。
「見よう見まね! ホーリートルネード!」
手のひらを向けて叫び、光属性の竜巻を発生させ、土の勢いとテラニアごと飲み込む。それはアクエリアも使う必殺技だが、たった一度見ただけで使ってみせた。
「ば、バカなぁーー!!」
浄化の光が辺りを照らし、女魔族テラニアが浄化によって消滅していく。
そうして戦場は静かになった。周囲に残るのは、2人の魔法戦士だけ。
アクエリアとルミナは、お互いの顔と、そしてよく似ている変身コスチュームを見合う。たとえお互いアイマスクをしていようと、認識阻害されず、はっきりとお互いの顔が見えているらしい。
「はじめまして、ですわね。わたくしは魔法戦士アクエリアであり」
アクエリアは水色のアイマスクを外して、優しい笑みを浮かべた。
「清水優奈と申しますわ」
「わたしは光月愛梨だよ。それで今日から、魔法戦士ルミナ、かな?」
愛梨もピンク色のアイマスクを外して、優奈とお互いにほほえんだ。
「いわゆる2人目というのは、大変喜ばしいことですが……人々の平和を守る義務はありませんからね」
優奈は穏やかにそう言った。
もし本当は一緒に戦ってもらえるなら、心強い存在である。しかし、今まで戦いとは無縁だった女子を戦いの日々に引き込んでしまうのだ。どれだけ正義感があろうと、優奈は決して強制できない。
愛梨は、きょとんとして、やがて笑った。
「まあお手伝いくらいするよ。私のせいで、たくさん痛い思いさせちゃったし」
優奈を安心させるように、愛梨は力強く頷いた。
こうして2人の新たな協力関係が、これから夜を迎える街に静かに芽生えた。
「だからよろしくね、優奈先輩?」
「はい、これからよろしくお願いいたしますわ、愛梨さん」
秘密を共有する友人としても、その距離は一気に縮まっていた。