約5割はAIによるアイマスクなヒロピンを 作:総武文芸部
(前回のあらすじ)
魔法戦士アクエリアとルミナは、街のデパートで炎魔族ローズと対峙していた。
その建物内に展開された強力な「炎の領域」に閉じ込められている。領域内は常に灼熱に晒され、特にアクエリアは立っているだけでも体力が削られていく過酷な状況だ。
ローズは炎の鞭、領域から放つ火炎弾を自在に操り、距離を保ったまま2人を消耗させる戦法を取る。アクエリアは防御と支援を重視しつつ、経験に裏打ちされた動きで、自分とルミナを守りながら反撃の糸口を探る。
ルミナもまた、直感的な攻撃で応戦するが、ローズの鞭による遠隔攻撃と領域支配により、次第に追い詰められていった。
アクエリアは、燃え盛る空間の中で一歩、静かに前へ出る。焦げた跡がコスチュームにあちこちに残り、布地の一部は熱で変色している。しかも炎の領域で呼吸をするたび、体力が、確実に消耗していっていた。
「……ルミナ」
それは相棒にだけ聞かせる小声だったが、はっきりと届く。こんなピンチの状況だろうと、彼女は誰に対してもお嬢様然とした敬語を崩さない。
「わたくしが、チャンスを作りますわ。ホーリートルネードの準備を」
ルミナは一瞬、息を呑んだ。
炎の揺らめきの向こうで、ローズが余裕の笑みを浮かべている。その攻撃をたった1人で引き受けるつもりなのだと、言葉にされずとも伝わってきた。
「できれば、一撃で倒すことといたしましょう」
「……うん」
本来は、炎魔法に耐性がある自分がやらなければならないことだ。
だけどルミナは頷いて、片手を胸元のルビーのブローチに乗せた。体内を巡る光の魔力を、慎重に集束させていく。必殺技を更に高威力にするための準備は、集中力と時間を要する。
アクエリアは、炎の鞭が唸りを上げる直前に床を蹴った。光魔法を纏った足先が、熱気を裂くように突き出される。真正面からの突進ではない。
間合いを詰め、避け、蹴り込む。その一連の動きに、実戦を潜り抜けてきた者の重みがあった。
「ほう?」
回避しながらローズは、わずかに眉を動かした。
動きながら反撃として鞭が振るわれるが、アクエリアはそれを見切り、半歩外へと滑り込む。
光を帯びた回し蹴りが、ローズの肩口をかすめ、魔力の衝撃が伝わる。
「ちっ、さすがあの姉に勝っただけはある。伊達じゃないねぇ」
「お褒めにあずかり……光栄ですわよ!」
息は荒い。それでも声の調子だけは崩れない。炎の領域の中で、彼女は1人で前線に立ち続けていた。そんなカッコいい姿を、ルミナは目を輝かせて見つめている。
「……すごい」
ルミナは感嘆が思わず漏れる。自分は今、必殺技の準備で動けない。だがアクエリアは単身で、あのローズを押し返している。その背中が頼もしく、そして遠く見えた。
やがて光属性の魔力の集束が臨界に達する。ルミナの周囲では静かに渦を巻き始めた。
それを背中越しに確認したアクエリアは、更に踏み込んで、光を込めたキックを叩き込んだ。
ローズの体勢が、わずかに崩れる。
「今ですわ!」
アクエリアの声に応じ、ルミナはチャージした魔力を解放しする
「当ててみせる! ホーリートルネード!」
総魔力の3割以上を注ぎ込んだだけはある大きさだった。光の竜巻が向かっていき、まるで闇を斬り裂いていくように、空気を震わせ、炎すら押し流すかのような威力だ。
だが。
「……甘いねぇ」
ローズは、笑いながら、バックステップをする。
彼女は炎の領域の外へと身を退き、光の竜巻は、なお燃え盛る炎の壁に正面からぶつかる。領域そのものが盾となり、光は炎魔族に届かない。
「そんな…! ごめん、アクエリア……」
「いいえ、わたくしの……読み違いでしたわ…」
ルミナが謝るが、アクエリアは朦朧としてきた意識で頭を抑えて謝罪する。
「あんなに長く溜め込んでたら気づくに決まってる。まったく派手な光で、厄介で……アタシたちにとって致命傷だからね」
炎の領域の勢いは更に弱まった。
しかし肝心のローズ自身は無傷だ。
「最初から、光属性魔法だけを警戒してるわけさ」
アクエリアは、肩で息をしながら立っていた。魔力はもう4割未満だ。自分も、ルミナも、まだホーリートルネードを1回ずつは使えるだろう。
でも汗が頬を伝い、膝に微かな震えが走る。いまだ炎の領域は健在で、空間の各所から、火炎弾が次々と生み出されてくる。
しかもローズは高みの見物とも言うべきか、炎の領域の内部に戻ってこない。
「くっ……!」
今は回避に専念するしかなかった。アクエリアは体力的に、ルミナは経験不足ゆえに、回避ことで精一杯だった。時折り直撃して、変身コスチュームによる自動防御が発動し、魔力は消耗してしまう。
「どうしよ……きゃっ」
「ぁぐ……自動防御を…オフにしてはなりません…」
先日の土の魔女の時は、アクエリアも捕獲する目的で手加減されていたため、魔力を温存して反撃のチャンスを狙った。しかし今回の戦いの目的は復讐であり、明らかに2人の命を狙ってきている。たった1発の火炎弾ですら、普通の女子大生の耐久力では致命傷になるだろう。
「閉じ込めて削る。これは戦いなのに、まるでダンスショーを見ている気分だねぇ」
そんなローズの余裕の声が聞こえてきた。その間も火炎弾は魔法戦士たちに襲い掛かっている。
ルミナは何も思いつかず、アクエリアの顔を見てしまう。
アクエリアは唇を噛んで、そして決断する。
「……この炎の領域を、なんとかするしかありませんわね。勝手で申し訳ございません、ルミナ」
「え、ちょっ、何するつもり!?」
そしてアクエリアは水の魔力をサファイアのブローチに集めて、瞬時に解放した。温存していた魔力3割を注ぎ込んだ、水属性の大技だ。
「アクアトルネード!」
巨大な水の竜巻が、炎の領域へと叩き込まれる。相反する属性が激突し、熱い蒸気が周囲を包み込んだ。その結果として、炎の壁は崩れ去った。
あちこちに残り火はあり、まだ建物自体は燃えているが、舌打ちをしているローズの姿が見えている。これで彼女自身との戦闘が可能にだろうが、その代償は大きかった。
アクエリアは、その場に片膝をつく。もう魔力は1割未満であり、変身維持が限界だった。
「はぁ…はぁ…あとは…お願いできるでしょうか……」
アクエリアは少し顔を上げて、託すような視線をルミナに向ける。
ルミナは考えるより先に、彼女のところに駆け寄ろうとする。周りの炎の領域が消えたとしても、アクエリアは全身汗まみれで息切れしていて、そんな状態なのに戦い続けていたらしい。
「まずは、あんたからだ、アクエリア!」
ローズはあえて叫びながら飛び込んできて、炎の鞭を振るう。
「くっ…わたくしは、ここまでですか……」
「先輩!」
ルミナが身を投げ出すように、アクエリアの前に出た。炎耐性はある。それでも、鞭の連続攻撃は苛烈で、コスチュームの自動防御が発動し、魔力を消耗していく。
「わたくしのことは、いいですから!」
「だって……先輩を守りたいから、戦ってるもん!」
それがルミナの本心であった。アクエリアは、そんな相棒の思いを理解しきれていなかった選択に視線を落とす。ルミナは、街の平和よりもアクエリアのことを優先してくれるのだ。
ルミナはグローブに包まれた腕で耐えようとするが、執拗に身体のあちこちを狙われて防ぐことができない。
「これだから人間って、面倒な生き物だねぇ」
「ぐっ……なんの…つもり……」
「ルミナから…離れて……きゃあ!?」
ローズは、ルミナの首を掴んで、アクエリアの身体をヒールで蹴った。そしてルミナの残っている魔力を一気に吸い上げていく。
ルミナはグローブに包まれた両手で、ローズの腕を握りこんで止めさせようとするが、うっとりと、恍惚な表情を浮かべてしまう。
「家族? 友達? 隣人?」
ローズの嘲る声だった。
「そんな関係を大事にするやつから、命を落とすのさ」
ルミナとアクエリアの関係を嘲笑する。アクエリアが倒して浄化させた姉の話など、最初に語っていた復讐譚すら、演技だったのだと悟らせるようだった。
「ルミナを解放するのです! ローズ!」
必死に叫ぶアクエリアは、最後の力を振り絞って立ち向かう。光魔法を纏ったキックを、ローズに放とうとする。
だがローズは、ルミナの身体を盾に使う。そしてアクエリアの動きが鈍った隙に、わざと身体を放り投げる。
「きゃっ……!」
「ぅ……大丈夫ですか…ルミナ…」
ルミナの身体をアクエリアは受け止めるが、勢いを抑えきれず、2人で倒れ込んでしまう。まだ熱を保っている床に素肌が触れてしまい、アクエリアが表情が歪む。
「やれやれ、せっかくのチャンスを捨てて、子飼いのことかい」
ここまで長い戦いがあったのように思えるが、実はローズは無傷だった。ルミナから2度にわたって魔力も吸収したため、万全の状態まで回復している。その気になれば、炎の領域も再展開できるだろうが、もうその必要もないほどだ。
「これで厄介な光属性魔法の使い手は、2人とも終わりだねぇ」
炎の鞭で地面を叩いて、無様に這いつくばっている魔法戦士たちを見下ろす。
「この街は、多少魔素がマシでさ。だから……支配するには、ちょうどいい」
復讐なんて、真っ赤な嘘だった。
狡猾で、どこまでも私利私欲のためだった。
「あなたなどに…この街の平和は……」
「わたしも…イヤ……」
アクエリアは疲弊しきった状態で、ルミナは恐怖に身体が強張って、ローズを見上げることしかできない。すでに2人も魔力は通常時の1割未満であり、光属性魔法の必殺技による大逆転すら狙えない。
それでも2人は、身を寄せ合うように、支え合って、フラフラと立ち上がろうとする。
「うっとおしいねぇ」
「ぁぐっ……かはっ……」
「くぅ……アクエリアには…もうやめてよ…」
だが炎の鞭によって、2人を別々の場所へ引き裂かれるように、身体を再び地面に転がっていってしまう。ルミナも、アクエリアも、わざと変身状態で生かされているだけであり、ローズに今の立場をわからされるかのようだった。
「どうだい? アタシの小間使いにでもなれば、生かしてやろうか?」
続けて、残酷な条件が告げられる。
「ただし片割れは一生、人質で魔力タンク扱いだけどね。どこまでも反抗しそうなアクエリアか、それとも火の魔力がある子飼いか」
ローズは、まるでそんな選択権すらくれないようだった。
ルミナは自分が身代わりになればと一瞬考え、アクエリアは自分が犠牲になればと一瞬考えていた。
でも首を振って、ふらつきながらも立って、再び2人で並び立とうとする。
「やれやれ、まだ立場がわかってないようだね」
そう言って、ローズは、2人の胸元へと手を伸ばした。
「…おやめ…ください…まし……」
「えっ…ちょっと……やめて…」
宝石のようなブローチを奪おうとしているかのようだった。それをアクエリアは右腕で、ルミナは左腕で、止めさせようとする。
「面倒だねぇ。取れないのかい、これ?」
「ぁ…がっ……」
「ひぅ……」
空中に浮かべられた火炎弾によって、アクエリアとルミナは大なり小なり苦痛の表情を浮かべた。
やがてブローチは、ぱき、ぱきと、音を立てて、粉々に握り潰されてしまった。
サファイアの輝きも、ルビーの輝きも、もうそこには残されていなかった。
「くっ……これでは自動防御すら…」
「うそ……そうなの……?」
「人間には、もったいない魔道具だったねぇ」
これで魔力増幅や自動防御の機能が失われたことを、2人は肌で理解する。しかも白いボレロの上着が自動的に消え、これで変身前の女子大生に近い耐久力になってしまった。
「気分はどうだい、アクエリア?」
「ぁぁああ……!!!」
アクエリアは、片方ずつ肩布をおろされた。更に両肩の素肌に爪を突き立てられ、苦痛の叫び声を出してしまう。それでもアクエリアは歯を食いしばって耐えようとする。
だがこれで自動防御の魔法を失ったことを、ローズに理解されてしまった。これでどれだけ痛めつけようが、気絶するまで変身解除されることはない。
「やめてよ! わたしが、なんでもするから!」
「ダメ…ですわ……」
ルミナは震えて、アクエリアは首を振って、それにより2人揃ってまだ諦めようとしない。
そんな姿を見てローズは、アクエリアの心を折ることが必要だと思った。遠くに残っている炎の領域によって、邪魔者は誰も来れないだろう。まだまだ余興を愉しむ時間はある。
ルミナの悲鳴を間近で聞かせ、アクエリアを痛めつけ、2人揃って女王の奴隷として服従させるべく。
「さあ、命乞いでもしな! 小娘ども!」
わざと炎の勢いを最小限に弱めて、あえて手加減して、ただただ痛めつけるための鞭が振るわれる。
輝きを失っているワンピースドレスは、どんどん布地がほつれていく。素肌に当たれば、その部分が一瞬だけ赤く腫れる。どこまでも手加減されていて、ポニーテールやサイドポニーを揺らしながら、ルミナやアクエリアは無理やり踊らされるかのようだった。
「ぅぅ…先輩には…やめてぇ……」
「…っ…くっ……耐えて…みせますわ…」
2人の魔法戦士は、限界まで追い詰められていた。